発見された鉱物資源は、リチウムや鉄、金、ニオブ、水銀、コバルトなどで、米国防総省によると、これまで考えられていた以上の規模だったという。同省関係者は、1兆ドルという金額も控えめな見積もりだとしている。
調査は、米政府によるアフガニスタンの発展産業構築に向けた支援活動の一環として行われていたもので、米政府はアフガニスタン政府と協力して「世界クラス」の鉱山会社の招致を目指していた。
■「リチウムのサウジアラビア」となる可能性も
2014年頃の米紙ニューヨーク・タイムズによると、国防総省は報告書の中で、アフガニスタンはリチウムの埋蔵量が豊富で、「リチウムのサウジアラビア」になる可能性があると指摘しているという。また、米当局者によると、アフガニスタンの鉄と銅の埋蔵量は、同国が産出国世界一になるのに十分なほどだとしている。
アフガニスタンは、30年におよぶ紛争が続いている上、旧支配勢力タリバン率いるイスラム武装勢力が台頭している現状から、鉱物資源開発はほとんど行われいない。
アフガニスタンの鉱物資源開発については、中国とインドが権益獲得を目指しており、大規模銅山開発ではすでに中国企業が契約を獲得している。鉄鉱石の権益については、年内に契約企業が決定する予定となっている。
2006年にはアフガニスタン上空から磁気調査、重力調査、ハイパースペクトル調査が実施された。
2ヶ月間で国土の70%を調査した結果、磁気調査からは10kmに渡る鉄反応と、
重力調査から豊富な石油や天然ガスらしき反応が検出された。
またハイパースペクトル調査でも各鉱物に
特有のスペクトルが検知されている。
これまでに発見された鉱物は、
銅 6000万トン、鉄 22億トン、レアアース 140万トン
(ランタン、セリウム、ネオジムなど)のほか、
膨大な量のアルミニウム、金、銀、亜鉛、水銀、リチウムである。
これらの総額をアメリカ国防省は約90兆円、
アフガニスタン政府では約300兆円と見積もっており、
既に同政府は中国の国営企業、
中国治金科グループと銅の発掘権に関する
30年間3000億円規模の契約を締結している。
こうした豊富な鉱物資源は最低でも世界24指には
入ると考えられており、
貧困に喘ぐアフガニスタンにとって希望の光となるかもしれない。
しかし、治安の極度の悪化により思うように資源調査を
進めることができないうえ、
発掘に必要となる各種インフラも乏しい。
さらに発掘を実施した後の
利権を巡る国家間の争い、アメリカ、中国、ロシア等、
さらにアフガニスタン国内の汚職や環境汚染の問題など
課題は山積みであり、迅速かつ適切な対応が求められている。
また、ニューズウィークで、筑波大学の遠藤明湯教授が投稿されている記事にも以下のようにある。
図表1 アフガンに眠る地下資源の主要なデータ
コンデンセートとは、天然ガスの採収の際に地表で凝縮分離する軽質液状炭化水素のことで、天然ガスコンデンセートとも呼ばれる(常温常圧で液体)。
まだ探査が進んいないのか、ニッケル、リチウム、ベリリウム、パラジウム…などのレアメタルの埋蔵量に関しては書かれてないが、中国にとっては魅力的なものばかりだ。中国は世界的なレアメタルの生産地ではあるものの、最近では米中覇権における戦略的物質の一つとして益々需要が高まっている。
報告書には地下資源の分布図も掲載されている。
中国語で書かれているので、それを日本語に置き換えたものを以下に示す。
図表2:アフガニスタンに眠る地下資源の分布図
図表2で「新しく入札した」と書かれているが、この「新しく」は、上記分布図が作成された時のことで、この分布図がどの時点のものかは報告書には書いていない。おそらく10年ほど前にアメリカが調査した結果を参照しているのではないかと推測される。
中国企業に関しては「中国石油」や「中冶集団」などの名前が見られるが、これらは中国独自の情報として記入したものと思う。ここでは銅鉱山に関してご紹介する。
◆アフガン最大級の銅鉱山を早くから中国が押さえていた
実は銅鉱に関しては、2008年に中国冶金科工集団(中冶集団)と江西銅業集団が新たなコンソーシアム(共同事業体)を形成したとき、アフガニスタン政府はこのコンソーシアムがアフガニスタンの経済発展を後押ししてほしいと大きな期待を寄せていた。
そのためアフガン最大の銅山であるメス・アイナク銅鉱山(Mes Aynak)(世界で2番目に大きい未開発の銅鉱床)に関して、アフガニスタン政府は中国に「2008年から、30年間の採掘権」を与えているが、紛争が多く開発はなかなか進まなかった。
2016年6月2日になると、中冶集団は中国五鉱集団に併合された(鉱は中国語では石偏)。
これは、2015年12月8日に国務院の国有資産監督管理委員会が世界に並び立つ企業を創設するための戦略的再編を行った線上にあるが、事実、五鉱集団はフォーチュン500社に選ばれている。五鉱集団は探査から高度な処理まで、サプライチェーンのすべての部分に精通した巨大企業となり、2016年にはアフガニスタン政府との契約が更新された。契約ではアフガニスタン政府への手厚い保険料やロイヤリティの支払いが約束されているだけでなく、現地で緊急に必要とされている鉄道や発電所などのインフラの建設も約束されていた。
前述の中国商務部を中心とした「報告書」にあるアフガン地下資源分布と開発現状のマップには、「五鉱集団」ではなく、「中冶集団」の企業名があることから、このマップは少なくとも2016年以前の情報に基づいていることが分かる。
もっとも、これも長引く紛争で実行に移されることはなかったのだが、「2016年半ば」に転機が訪れた。
◆「2016年」からタリバンと中国が取引開始
実は2016年にタリバンにとって衝撃的な事件が起きた。
2016年5月21日にタリバンの最高指導者だったアクタル・マンスール師が米軍によって殺害されたのだ。殺害を命じたのはオバマ元大統領。これによりタリバンを和平交渉の席に就かせようとしていた機運は遠のき、タリバン代表がその2ヵ月後の7月18日から22日まで北京を訪れ、中国に救いを求めている。
「外国の軍隊により占領されている屈辱」を訴え、「国際会議で取り上げてほしい」と中国に要望した。
中国がタリバン側に立って国際社会で主張してくれる代わりに、ある種の「交換条件」として「China gets an all-clear from the Taliban to mine for copper in Afghanistan(タリバンの許可を得て、中国がアフガニスタンで銅を採掘する)」
という事態にまで発展しているが、2016年における中国側からの公式発表は何一つない。
ということは、これらは秘密裏に進行していたことになり、このときタリバンは「中国に30億ドルの鉱山プロジェクト再開の許可を与えた」と言っているが、アフガニスタン政府は、「過激派グループがほらを吹いているだけだ」とせせら笑っていた。このときメス・アイナク銅山がある地域は、タリバンが支配していたようだ。
◆運搬手段は「一帯一路」のインフラ投資につながる
問題は地下資源を採掘しても、それを如何なる交通手段で運搬するかということである。
パキスタンやアフガニスタン一帯は山だらけなので、パキスタンとは「パキスタン回廊」とまで呼ばれるまでに至るほど、「一帯一路」によってインフラが整備され物流に困難をきたすことはなくなったが、アフガニスタンには紛争が絶えないためにインフラ投資をするまでに至ってない。
2008年にメス・アイナク銅山の採掘権を30年間獲得した時に、中国冶金集団公司がアフガニスタンで南北貫通鉄道を作る話を具体化しようとしていた。
たとえば2010年9月にはAgreement signed for north-south corridor(南北回廊に関する協定を締結)が成され、アフガニスタン政府のワヒドゥラ・シャハラニ鉱山大臣と中国冶金集団は、カブールとウズベキスタン、パキスタンを結ぶ鉄道の詳細調査を行う契約を締結している。
また、2011年10月にはConstruction on Kabul-Torkham Railway to Start Soon, Ministry of Mines Says(カブール~トーカム間の鉄道建設が間もなく開始されると鉱山省が発表)といったニュースもあったが、それらは全て、2016年の「タリバンと習近平政権」の水面下の話し合いまで待たなければならなかった。
その「水面下の話し合い」が表面化したのが、8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>で書いた今年7月28日の天津におけるタリバン代表と王毅外相の会談である。
ことのき中国が突如タリバンに接近したと思ったら大間違いだ。
地下資源開発、特に銅の採掘において、中国は長い年月をかけて用意周到に時期が来るのを待っていただけなのである。
◆駐アフガンの中国大使館が撤収しようとしなかった事実
その証拠に、タリバンの快進撃が始まった8月半ば、アメリカ大使館を始めとして多くのNATO側諸国の大使館が慌ただしくアフガニスタンから撤収しようとしていたのに対して、中国大使館とロシア大使館は微動だにしようとしなかった。
タリバンによって守られることを確信していたからだ。
この事実に注目している人は少ないが、これこそが「タリバンの背後に中国あり」を如実に示す、何よりの証左なのである。
◆2016年にもう一つの「交換条件」か?
2016年におけるタリバン訪中に始まり、その年に行われたインフラに関する商談に至るまで、中国はタリバンとの接触に関して一切公表しないのだから、ここからは「推測」となる。
中国の動向をじっくり見ていると、2016年あたりから中国における「テロ活動」が急激に減少していることに気が付く。
もちろんこの年は習近平が陳全国を新疆ウイグル自治区の書記に就任させて、ウイグル族の活動を徹底して監視するシステムを構築した年ではある。それが功を奏したこともあるだろうし、また顔認証や監視システムが導入されて2016年あたりを境にして「セキュリティ」が強化されたこともあるだろう。
しかし、2014年まで、あんなに盛んだったイスラム過激派グループによるテロ活動が一気に消滅したことの裏には、どうしても「2016年におけるタリバンとの接触」があるのではないかと思われてならないのである。
すなわち「タリバンを支援するので、その代わりにタリバンは東トルキスタン・イスラム運動の応援を絶対にしてはならない」という「交換条件」を中国はタリバンに要求したのではないかと思うのだ。だからこそ、8月18日のコラム<タリバン政権のテロ復活抑止に関する米中攻防――中露が「テロを許さない」と威嚇する皮肉>を書く必要に迫られた。
なお、2016年以降、中国はタリバンを前面に出した「和平協議」に注力していく。そこにトランプが乗ったという側面が、どうしても否定できないのである。
長くなりすぎた。これに関しては、また別途、考察を試みたい。