だが、成果は乏しい。研究の注目度の高さを表す被引用件数の多い論文数が90年代初めまで米英に次ぐ3位だった日本は、2019年公表の最新調査(15~17年の平均)では9位まで落ち込んでいる。単位人口当たりの博士号取得者数も主要国では唯一、日本だけが減る傾向にある。

 なぜ、過去四半世紀の科学技術振興策は生きなかったのか。少なくない研究者が「学問の自由が損なわれた」と感じるほど、国主導の色合いが強まったことが背景にある。

 国は億円単位で研究を支援する制度を立ち上げるなどしてきたが、テーマの多くを「一部の官僚や有識者が決めている」(大学関係者)。しかも、その時々の世界の流行に合わせるケースが少なくない。最近ならAI(人工知能)や量子コンピューターなどがそうだ。米国では民間企業が主導するテーマにも日本は国が関与を強めようとする。

 関わり方も不透明だ。内閣官房の幹部が昨年、京都大学の山中伸弥教授が進めるiPS細胞研究に絡む予算の削減を言い出したのはその象徴だろう。国はその後、支援の継続を決めたが、一部の官僚が予算の増減を決めようとした事実は覆い隠せない。

 1月召集の通常国会では科学技術基本法が改正され、イノベーションの創出に向けた基盤づくりが加速する見通しだ。だが、これまでのようなトップダウン式では成功は望めない。現場の独創性を尊重しながら、オープンな場で適切に研究内容を評価し、予算を配分するやり方を徹底する必要がある。

 昨年11月11日に開かれた、安倍晋三首相が議長を務める総合科学技術・イノベーション会議。ノーベル化学賞の受賞を翌月に控えた旭化成の吉野彰氏は「リチウムイオン電池は福井謙一先生や白川英樹先生の成果に基づいている」と、自らの業績が過去のノーベル化学賞受賞者の延長線上にあると強調、基礎研究の重要性を訴えた。

 資源が乏しい日本では科学技術の発展が不可欠だ。だからこそ、研究者の自由な発想をもっと信じたい。カネに飽かして世界中の英知を集めて自由に研究させる中国に負けないためにも。