植物の繊維から、作り出す、セルロース・ナノ・ファイバー(CNF)が、 いままで、夢の素材と思われていた炭素繊維にとって替わられると簡いていたが、どっこい、炭素繊維は炭素繊維で、固有の用途がるようだ。日経が、炭素繊維の電子分野での応用を報じていた。
炭素原子が筒状につながった「カーボンナノチューブ」を、電子分野の素子として応用する研究に再び関心が高まってきた。微細化により性能を高めてきたシリコン製の半導体に限界が見え始め、その代替に使おうというねらいだ。主に米中の大学やベンチャー企業がけん引し、発見国である日本の存在感は低下している。
直径1ナノ(ナノは10億分の1)メートルほどのカーボンナノチューブは、飯島澄男名城大学終身教授がNECに在籍していた1991年に発見した。軽くて強い特色や導電性などに面白い機能が見つかり、球状につながった「フラーレン」とシート状になった「グラフェン」とあわせ、2000年ごろに世界で盛り上がったナノテクノロジー分野を代表する素材となった。
炭素のつながり方によって電気をよく通す金属型とシリコンと同じ性質を備えた半導体型の2種類がある。電子素子として応用を目指す研究が一時期活発になったが、金属型と半導体型をうまく作り分けられない課題を解決できず、大きな進展がみられない時期が続いていた。
最近、半導体型だけをうまく利用する方法が登場し、打開する動きが出てきた。富士通の半導体子会社、富士通セミコンダクターが16年に共同研究に合意した米国のベンチャー、ナンテロ(マサチューセッツ州)が一例だ。
ナンテロはカーボンナノチューブを精製する独自の技術を持ち、半導体型を広く使われているDRAMや電源を切っても情報が残る「不揮発型」などの記憶素子に応用する技術にめどをつけた。
不揮発型では容量2メガ(メガは100万)~16メガビット級の試作品を20年をめどに作る計画だ。現在主流のフラッシュメモリーと競合するが、消費電力が4分の1以下と少ない利点を生かし、様々な情報端末機器に搭載できるという。
富士通セミコンダクターの斎藤仁統括部長代理は「あらゆるものがネットにつながるIoT時代にかなう記憶素子になる」と期待を寄せる。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)は8月、CPU(中央演算処理装置)の中核部分になる回路を、約1万4千個以上のカーボンナノチューブを集積して開発した。簡単なプログラムも動かした。不純物である金属型が混じっていても、動作時の異常な信号を検知し、その部分を使わない手法を取り入れるなどの工夫を凝らした。
炭素素材に詳しい名古屋大学の伊丹健一郎教授は「理論的にできるというアイデアを実現できると示した画期的な成果だ」と評価する。将来、目的とするカーボンナノチューブを望み通りに合成できるようになれば「さらに発展が期待できる」と付け加える。
中国でも北京大学や清華大学などがカーボンナノチューブを使う演算素子を開発中だ。米国との貿易摩擦を受け国産技術の確立が求められ、研究の追い風になっている。
日本のカーボンナノチューブの応用は、リチウムイオン電池の電極材料などに有望と見込まれ、材料分野で活発だ。電子分野の応用研究は国内の半導体メーカーの衰退にあわせ低調だ。産業技術総合研究所の湯村守雄名誉リサーチャーは「大学でよい研究をしても実用化する企業がなく、国の支援も乏しい。強い技術を磨いて海外勢に負けないようにしなければいけない」と解説する。
ダイヤモンドやグラファイトなど炭素でできた材料は数多く、広く工業利用されてきた。ナノカーボンはさらに多くの機能を備え、樹脂などと混合して使う複合材料や、高速で低消費電力な電子素子などへの応用が期待されている。