1939年、中国東北部(満州)に生まれる。東京医科歯科大学医学部を卒業し、東京大学大学院医学系研究科博士課程を修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授、人間総合科学大学教授を経て、現在は東京医科歯科大学名誉教授。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学。日本寄生虫学会小泉賞、講談社出版文化賞・科学出版賞、日本文化振興会・社会文化功労賞および国際文化栄誉賞など受賞。おもな著書に『体がよみがえる「長寿食」』(三笠書房《知的生きかた文庫》)のほか、『腸内革命』(海竜社)、『50歳からは炭水化物をやめなさい』『アレルギーの9割は腸で治る!』(以上、大和書房)など多数がある。
「医は食にあり」。病気を防ぐ「医」は毎日の食事の中にあるのです。“腸健康法”の第一人者である藤田紘一郎東京医科歯科大学名誉教授の最新著書『図解 体がよみがえる「長寿食」』から、目からウロコの食事術をご紹介します。「噛む」ことは記憶力アップにつながり、認知症の改善にも役立つと言われます。なかでも「スルメ」がおすすめ、その理由とは?
食事の際は、1口30回、1秒1回の速度で噛む
加齢とともに記憶力に危うさを感じる人は多いものです。「脳トレ」などに取り組む人も少なくないと思いますが、私たちは毎日の食事でも脳トレを実践できます。その方法とは、「よく噛む」。これだけで、記憶力の回復が可能となってきます。
大事なのは毎日の食事の際、一口一口を大事に思い、ゆっくりよく噛むことです。1口30回、1秒1回の速度で噛むのが理想です。
また、間食や酒の肴には、噛みごたえのあるものを選ぶとよいでしょう。私はスルメをおすすめしています。スルメはよく噛まなければ食べられませんし、噛めば噛むほど味が出て、おいしく感じます。食品添加物や糖質など、体に負担を与えるものも入っていません。しかも、アルギニンやタウリン、ベタインなど強壮効果のある栄養素がたっぷりと含まれます。「食の冒険家」としても有名な東京農業大学名誉教授の小泉武夫先生と仲良くさせてもらっているのですが、江戸時代の本にはスルメが「する女(交合する女という意味)」と書かれていると小泉先生に教えてもらいました。そのくらい、スルメは性欲アップのかたまりのような食品なのです。
なぜ、噛むことが認知症の改善に役立つのでしょうか。
よく噛んで食べていると、口や顎からの刺激が大脳に伝わります。すると、記憶力をつかさどる海馬や、情動を支配する扁桃体という大脳の一部を刺激し、活性化するのです。これは科学的にも明らかにされていることです。
よく噛むという行為は、認知症の予防や回復、記憶力の維持に役立ちます。今日から「噛む脳トレ」を始めましょう。
「ガム」は記憶力にはよいが、危険も指摘される
よく噛むことが大事なのならば、ガムを四六時中噛んでいるというのは、どうなのでしょうか。
脳生理学が専門の神奈川歯科大学の小野塚実教授は、ガムを噛みながら作業をすると、作業効率が高まることや、高齢者の認知症予防に効果があることを明らかにしています。
小野塚教授の研究によれば、ガムを噛むことで中・高齢者の記憶獲得指数が上昇していました。そのとき、活性化した脳の領域は、前頭前野と海馬でした。
前頭前野は、思考計画の立案や学習行為など、最も知的で論理的な機能を持つ領域です。海馬は「記憶の司令塔」と呼ばれている部分です。記憶をファイルする場所であると同時に、空間の認知能力をつかさどる場所でもあります。この研究によって、記憶の獲得力が弱まりがちな高齢者ほど、海馬の刺激による能力の上昇が明らかに表れることもわかりました。
噛むことの重要性は、老化にともなう記憶障害のみならず、認知症の進行防止や予防にまで可能性が広がることが示されたのです。
噛まずに「おいしい!」と感じるものには要注意
脳をダメにする食品もあります。それは、「噛まずともおいしい」と感じさせる食べ物です。今、噛まずに食べても幸福な刺激が脳に直行する食べ物が増えています。その最たるものの一つがスナック菓子やファストフードでしょう。
本来、食べ物とは咀嚼することによって「おいしい」「幸せ」と感じるようになるものです。少しずつ噛みながら食べている間に血糖値がゆっくりと上がり、脳にエネルギーが送り届けられるからです。
ところが、スナック菓子やファストフードは噛む必要がほとんどありません。それでも「おいしい」と感じるのは、口に入れた瞬間に「うまみ」を感じさせるよう計算されているからです。この誤った「おいしい」を演出しているのが、「うまみ調味料」という化学物質です。うまみ調味料は、噛まなくても強烈な幸福感を脳に感じさせます。こんなものを乱用した食品でお腹を満たしていると、「噛むことで脳が活性化する」という機能を働かせられなくなり、脳が衰えてしまうのです。
こんなにも自然の摂理に逆らう食品を、なぜ、現代人は好み、求めるのでしょうか。その一因は、現代がストレス社会にあるからです。ストレス社会に生きていると、無意識にも脳がどんどん疲れていきます。脳はその疲弊感を回避したくて、「よく噛む」という苦労をせずとも、強烈な幸福感を一瞬で獲得させてくれる即効性の高いスナック菓子やファストフードに癒しを求めてしまうのでしょう。
しかし、スナック菓子やファストフードを食べたところで、心や脳が芯から癒えることはありません。1万年前にはなかったものが腸に入ってくると、活性酸素が大量に発生してしまい、腸が荒れてしまうからです。セロトニンやドーパミンなどの「幸せ物質」の原料は腸でつくられ、脳に送られる話はしました。スナック菓子やファストフードは脳を一時的に満足させますが、腸をひどく荒らすため、結局のところ、脳が「本当の幸福感」をつくり出す力を弱めてしまうだけなのです
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