世界中で使われているQRコードは、自動車部品会社、デンソウが開発したことはよく知られている。東洋経済が、其の歴史解説していたが、それを見直してみたら色々、知らなかったことがあった。
以下、東洋経済からの引用::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
正方形に白と黒の模様が碁盤の目のように配置された「QRコード」を知らない人はいないだろう。自動認識技術の一つで、スマホで読みこんでサイトにアクセスできるのも、空港手続きが簡単になり保安検査場を通過できるのも、QRコードのおかげだ。製造、物流、小売り、医療、サービスといった幅広い産業・業界で使われており、今も世界に広がっている。
開発したのは自動車部品国内最大手のデンソーで、現在、2001年設立のデンソーウェーブが展開している。なぜ、この技術を開発し、市場を開拓し、世界に広げることができたのか。その軌跡を活写したのが『QRコードの奇跡』だ。オープンイノベーション化は苦手といわれることの多い日本企業だが、これほど格好の成功事例はない。本稿では、その「奇跡」のエッセンスをお届けする。
セブン-イレブンの成長とともに技術を蓄積
QRコードは、デンソーのバーコード開発の話を抜きにしては語れない。同社は1975年に独自のNDコードを開発していた。これは、トヨタの生産方式「かんばん」を導入することによる、生産現場や事務作業の負荷軽減を図る狙いから生まれたものだった。
『QRコードの奇跡』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)
バーコードと並んで重要なのが、読み取り機であるバーコードリーダーだ。両者の開発を進めた同社は電子版「バーコードかんばん」を完成させ、事業の礎を築くことになる。
保守・修理の会社を作り、外販ビジネスにも取り組むことになったころ、時代も味方になった。事業を担当する1人だった岡本敦稔はアメリカに出張する機会があり、スーパーマーケットに立ち寄った。そこでチューインガムのパッケージにバーコードが印字され、レジ精算で使われているのを見て、自動車業界以外の「新市場」を確信したという。
日本でも小売企業がバーコードリーダーを買ってくれるようになるという、岡本の読みは当たった。ただし、その主役はスーパーではなく、急成長中のコンビニエンスストアだった。
最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、最先端のPOSレジを導入したものの、バーコードの読み取りに苦労していたという。初代POSレジではペンリーダー型のスキャナーを採用していたが、読み取り精度に難があったのだ。
デンソーは、レジメーカーのTEC(現・東芝テック)と共同で、独自開発したCCDセンサーを組み込んだバーコードスキャナーをPOSレジ用に採用することを提案、採用される。どのメーカーのリーダーも読めなかったようなバーコードも、デンソーのリーダーは読むことができた。当時のシェアは100%になったという。
その後、セブン-イレブンからの要望を受けて検品用スキャナーも開発。デンソーは、コンビニでの事業を通じて、自動車業界だけでは遭遇できない多様な読み取り場面を経験し、読み取り技術の幅を広げ、技術を蓄積していった。
一方、製造業の現場では「バーコードかんばん」での管理に限界が見え始めていた。横方向の1次元だけに情報を持つバーコードではなく、横と縦の2次元に情報を持つ2次元バーコードに社会のニーズがあるのは明らかだった。
既存の2次元コードは、主に3つが先行していた。大容量の情報格納が得意なPDF 417、小サイズ印刷に強いデータマトリクス、高速読み取りに強いマキシコード。結論からいうと、デンソーのQRコードは3つの長所を取り入れたものである。
通勤電車でヒントをつかんだQRコードの父
なかでも同社は高速読み取りを重視したが、それを可能にする読みやすい新コードを開発することは簡単ではなかった。そんなときに、QRコードの父といわれる原昌宏は、通勤電車から見た景色から大きなヒントを得る。
「あるビルの上層部に特徴的なデザインがあって、そのビルだけがはっきり見えたような気がしたんです。そこから、定位置に特徴的な模様を付けて目印にすれば、素早く認識できる。その目印を3つの隅におけば、上下左右の方向性も認識できると考えました」
QRコードのカギとなる、切り出しシンボル(ファインダーパターン)の着想を得た瞬間だった。
気の遠くなるような作業を経て、白セルと黒セルの幅の比率が1:1:3:1:1で構成される切り出しシンボルを完成。これを3つの隅に配したことで、安定した読み取りが可能となった。数字で約7000文字、漢字やカナもOK、誤り訂正機能がありデータ復元も可能というQRコードが誕生したのは1994年8月だった。
1:1:3:1:1の黄金比 (出所:デンソーウェーブ、『QRコードの奇跡』89頁)
新聞発表の1週間前に慌ててネーミング会議を開き、2案から多数決で決まったのがQRコード。QRとはクイック・レスポンスの略である。
その後デンソーは、国内のみならず、海外での地位を獲得することを目指す。自動車業界での標準化を推進し、それを軸にしながら日本からアメリカ、その他の「国際」標準化へと進めていった。とりわけ重要だったのが北米での活動だったという。
日本自動認識工業会で標準化が成立したのは1996年末、国際自動認識工業会における標準化が成立したのは1997年10月。そして2000年6月、ISO/IEC18004として発行された。日本企業が開発した技術が国際標準として認められた、数少ない事例である。
モノづくりの精神でつながったラグビー型組織
QRコードは、2002年に日本テレコムとシャープが携帯電話でQRコードを読むサービスを開始したことが、普及の後押しとなった。ANAが搭乗券に採用したのが2006年。2019年には都営地下鉄浅草線で駅ホームドアの仕組みに活用されるなど、利用シーンは広がっている。
バーコードとバーコードリーダーは、コンビニ業界ではレジでの入力作業を効率化しただけではなく、データマーケティングへの活用につながった。そして、1次元のバーコードの限界から生まれた2次元のQRコードは、オープンソース化によって、多くの企業や人々に広がった。
携帯電話のカメラによるQRコード読み取りは、その後スマートフォンにも引き継がれ、中国でのQRコードによるモバイル決済へとつながっていく。
QRコードの功労者はたくさんいる。それぞれの段階で、個性豊かな技術者が課題を解決しようとして、仕事にのめり込んでいった結果、実現したものだ。技術者だけではない。標準化への粘り強い取り組みと、それを支援する体制があったから現在がある。
それぞれの任務を果たした社員は、互いに連携を図りながら次のステップへとつないでいった。モノづくりの精神でつながった集団によるラグビープレー的な組織力が、QRコードを世界的地位へと押し上げたのだろう。
「かんばん」の電子化を推進し、NDコードやQRコード、読み取り機のリーダーを開発したのは、IT企業ではなく自動車部品の製造現場だったことは特筆すべきことだ。「革新の神は局所に宿る」というが、デンソーグループの取り組みはそれを証明している。
だからこそ、奇跡は起きたのだ。
以下、東洋経済からの引用::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
正方形に白と黒の模様が碁盤の目のように配置された「QRコード」を知らない人はいないだろう。自動認識技術の一つで、スマホで読みこんでサイトにアクセスできるのも、空港手続きが簡単になり保安検査場を通過できるのも、QRコードのおかげだ。製造、物流、小売り、医療、サービスといった幅広い産業・業界で使われており、今も世界に広がっている。
開発したのは自動車部品国内最大手のデンソーで、現在、2001年設立のデンソーウェーブが展開している。なぜ、この技術を開発し、市場を開拓し、世界に広げることができたのか。その軌跡を活写したのが『QRコードの奇跡』だ。オープンイノベーション化は苦手といわれることの多い日本企業だが、これほど格好の成功事例はない。本稿では、その「奇跡」のエッセンスをお届けする。
セブン-イレブンの成長とともに技術を蓄積
QRコードは、デンソーのバーコード開発の話を抜きにしては語れない。同社は1975年に独自のNDコードを開発していた。これは、トヨタの生産方式「かんばん」を導入することによる、生産現場や事務作業の負荷軽減を図る狙いから生まれたものだった。
『QRコードの奇跡』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)
バーコードと並んで重要なのが、読み取り機であるバーコードリーダーだ。両者の開発を進めた同社は電子版「バーコードかんばん」を完成させ、事業の礎を築くことになる。
保守・修理の会社を作り、外販ビジネスにも取り組むことになったころ、時代も味方になった。事業を担当する1人だった岡本敦稔はアメリカに出張する機会があり、スーパーマーケットに立ち寄った。そこでチューインガムのパッケージにバーコードが印字され、レジ精算で使われているのを見て、自動車業界以外の「新市場」を確信したという。
日本でも小売企業がバーコードリーダーを買ってくれるようになるという、岡本の読みは当たった。ただし、その主役はスーパーではなく、急成長中のコンビニエンスストアだった。
最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、最先端のPOSレジを導入したものの、バーコードの読み取りに苦労していたという。初代POSレジではペンリーダー型のスキャナーを採用していたが、読み取り精度に難があったのだ。
デンソーは、レジメーカーのTEC(現・東芝テック)と共同で、独自開発したCCDセンサーを組み込んだバーコードスキャナーをPOSレジ用に採用することを提案、採用される。どのメーカーのリーダーも読めなかったようなバーコードも、デンソーのリーダーは読むことができた。当時のシェアは100%になったという。
その後、セブン-イレブンからの要望を受けて検品用スキャナーも開発。デンソーは、コンビニでの事業を通じて、自動車業界だけでは遭遇できない多様な読み取り場面を経験し、読み取り技術の幅を広げ、技術を蓄積していった。
一方、製造業の現場では「バーコードかんばん」での管理に限界が見え始めていた。横方向の1次元だけに情報を持つバーコードではなく、横と縦の2次元に情報を持つ2次元バーコードに社会のニーズがあるのは明らかだった。
既存の2次元コードは、主に3つが先行していた。大容量の情報格納が得意なPDF 417、小サイズ印刷に強いデータマトリクス、高速読み取りに強いマキシコード。結論からいうと、デンソーのQRコードは3つの長所を取り入れたものである。
通勤電車でヒントをつかんだQRコードの父
なかでも同社は高速読み取りを重視したが、それを可能にする読みやすい新コードを開発することは簡単ではなかった。そんなときに、QRコードの父といわれる原昌宏は、通勤電車から見た景色から大きなヒントを得る。
「あるビルの上層部に特徴的なデザインがあって、そのビルだけがはっきり見えたような気がしたんです。そこから、定位置に特徴的な模様を付けて目印にすれば、素早く認識できる。その目印を3つの隅におけば、上下左右の方向性も認識できると考えました」
QRコードのカギとなる、切り出しシンボル(ファインダーパターン)の着想を得た瞬間だった。
気の遠くなるような作業を経て、白セルと黒セルの幅の比率が1:1:3:1:1で構成される切り出しシンボルを完成。これを3つの隅に配したことで、安定した読み取りが可能となった。数字で約7000文字、漢字やカナもOK、誤り訂正機能がありデータ復元も可能というQRコードが誕生したのは1994年8月だった。
1:1:3:1:1の黄金比 (出所:デンソーウェーブ、『QRコードの奇跡』89頁)
新聞発表の1週間前に慌ててネーミング会議を開き、2案から多数決で決まったのがQRコード。QRとはクイック・レスポンスの略である。
その後デンソーは、国内のみならず、海外での地位を獲得することを目指す。自動車業界での標準化を推進し、それを軸にしながら日本からアメリカ、その他の「国際」標準化へと進めていった。とりわけ重要だったのが北米での活動だったという。
日本自動認識工業会で標準化が成立したのは1996年末、国際自動認識工業会における標準化が成立したのは1997年10月。そして2000年6月、ISO/IEC18004として発行された。日本企業が開発した技術が国際標準として認められた、数少ない事例である。
モノづくりの精神でつながったラグビー型組織
QRコードは、2002年に日本テレコムとシャープが携帯電話でQRコードを読むサービスを開始したことが、普及の後押しとなった。ANAが搭乗券に採用したのが2006年。2019年には都営地下鉄浅草線で駅ホームドアの仕組みに活用されるなど、利用シーンは広がっている。
バーコードとバーコードリーダーは、コンビニ業界ではレジでの入力作業を効率化しただけではなく、データマーケティングへの活用につながった。そして、1次元のバーコードの限界から生まれた2次元のQRコードは、オープンソース化によって、多くの企業や人々に広がった。
携帯電話のカメラによるQRコード読み取りは、その後スマートフォンにも引き継がれ、中国でのQRコードによるモバイル決済へとつながっていく。
QRコードの功労者はたくさんいる。それぞれの段階で、個性豊かな技術者が課題を解決しようとして、仕事にのめり込んでいった結果、実現したものだ。技術者だけではない。標準化への粘り強い取り組みと、それを支援する体制があったから現在がある。
それぞれの任務を果たした社員は、互いに連携を図りながら次のステップへとつないでいった。モノづくりの精神でつながった集団によるラグビープレー的な組織力が、QRコードを世界的地位へと押し上げたのだろう。
「かんばん」の電子化を推進し、NDコードやQRコード、読み取り機のリーダーを開発したのは、IT企業ではなく自動車部品の製造現場だったことは特筆すべきことだ。「革新の神は局所に宿る」というが、デンソーグループの取り組みはそれを証明している。
だからこそ、奇跡は起きたのだ。
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