国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

南米で考えたこと

2010年10月14日 | 中南米・カナダ
【私のコメント】
先日南米を訪問したので、その時に感じたことをここに書き留めておきたい。私はこれまでに観光を含めるとブラジル・アルゼンチン・チリ・ペルーの四カ国を訪問したことがある。ペルーは大多数が先住民で白人は少数派であった。ブラジルは白人・先住民・黒人がかなり混血している印象だった。チリとアルゼンチンはほとんどが白人で、純粋な先住民は見かけず、先住民との混血らしき人々が少数存在するだけだった。このように南米四カ国の人種構成は様々であるが、高収入の職に就いている人、高い料金を必要とする施設(高級ホテルやクルーズ船など)の利用者は例外なく白人ばかりであった。ブラジルを筆頭に南米諸国は経済発展しているが、その内部には人種間の経済格差という深刻な問題が存在することが感じられた。このような人種間の格差はアメリカ合衆国でもある程度存在する。白人や東アジア系の移民は優秀であり、黒人や先住民系は優秀でない。この格差が果たして遺伝的なものなのか、それとも家庭環境などの後天的なものなのか、あるいはその複合なのか。いずれにしろ、北米を含めて米州の未来は決して明るいものではないように感じられた。少なくとも、日本のようにほとんどの国民が中流階級である国家を建設することは不可能であると思われた。

しかし、ペルーのインカ文明を筆頭として、アメリカでは先住民の文化を尊重する傾向が見られる。ペルーの最大の魅力はインカ文明の遺産であると言っても過言ではないだろう。底辺階層に属する先住民が国家の魅力を一手に引き受けるという現状は矛盾しており、非常に興味深く感じられた。

南米でも20世紀前半まではキリスト教宣教師による先住民のキリスト教化及び教育が広範に行われていたようである。つまり、先住民固有の文化は破壊され続けていたのだ。それが現在のように尊重されるようになったのは、1970年頃が境ではないかと思われる。1970年頃には西側世界で学生運動や大衆運動が非常に盛んになった。第二次大戦後に生まれた膨大なベビーブーマー達が20歳前後に達したことがその最大の要因であったと思われる。しかし、それだけで先住民に対する価値観のコペルニクス的転換を説明することは出来ないだろう。この価値観転換の最大の要因は、欧米諸国の経済発展がほぼ終了して低成長時代に移行し始め、資本主義システムがもはや明るい未来を欧米諸国に約束するものではないという認識が広まったためではないかと思われる。一言で言えば、資本主義システムが限界に達したのである。そして、資本主義の後に来るべき新たなポストモダンの世界システムが見あたらなかったことが決定的であったと思われる。米英は1980年以後金融業を国家の中心に据えることでポストモダンに明るい未来があるかのように振る舞ってきたが、今やその化けの皮が剥がれてしまった。かといって、従来型の製造業は発展途上国の安い賃金に歯が立たず、先進国から途上国に工場と雇用が流出し続けている。先進国の未来は真っ暗である様にすら思われる。このような現状が、ポストモダンの新しいシステムを求める世界的潮流を作り出し、それ故にこれまで軽視されていた先住民の文化や伝統に注目が集まっているのではないかと思われる(芸術の分野でこの傾向は非常に強い)。

しかし、先住民の生活は先進国の国民が数世紀又は十数世紀前に経験したものと大差ない。従って、先住民の文化にいくら注目しても新たな知見は得られないと思われる。結局、先進国は衰退という暗い未来を受け入れる他はないのではないかと感じた。50年後には、先進国と途上国の経済的格差は大幅に縮小していることだろう。








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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ナナ)
2010-10-14 23:25:31
ブラジルで混血が進んでいるのは、優生学の影響だと思います。ブラジルの優生学は、白人が他の人種と積極的に交配することで、優秀な形質を広めるというものでした。
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Unknown (kob)
2010-10-15 03:06:37
先進国と途上国という概念が以前ほどあまり意味を持たなくなってきてますよね。
経済的格差は縮小してきていますし今後も縮小する一方でしょうね。
将来的には経済格差はなくなり近代世界の輝きも失せていくでしょう。

そうなれば支那人やインド人やイスラム教徒が存在感を増すと思われます。
彼らは単純に数が多いですしネットワークを形成するのが上手な気がします。
今後経済格差はなくなり近代世界の没落が避けられないのであれば、
すでに世界のマジョリティは支那人やインド人やイスラム教徒の方であり、
日本人や欧米人はすでにマイノリティーに転落していると考えたほうがいい。
「近代」は「非近代」により世界の片隅に追いやられようとしている。

支那人、インド人、イスラム教徒。将来的にはこのうちのどれかひとつの勢力と
日本人は同盟関係を結ぶ必要が出てくるのではないか。どうでしょうか?

日本人に今すぐにできることは「非近代」を民度が低いとなどと見下すのはやめることと、
近代的常識に囚われない自由な発想でしょうか。
ただし近代的常識を頭に詰め込んできた学校優等生には頭をからっぽにしてもらう必要アリ。
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Unknown (mofumofu)
2010-10-15 13:11:26
数年前、ニュージーランド(以下NZ)に数ヶ月滞在していたことがあります。
NZ社会の主流は白人(イギリス系)であり、先住民マオリは少数派です。

気づいたことのひとつとしてかの国がそのアイデンティティをマオリの文化に
求めていることでした。例えば国歌には英語版とマオリ語版があります。また
国章に描かれた2人の人物はヨーロッパ人とマオリです。これは民族の共存と
融和を目指す態度と受け取れました。また、観光ガイドの冊子を見てもマオリ
やシルバーファーンのアイコンが散見されました。他には、ラグビーで有名な
NZですがそのナショナルチーム「オールブラックス」は試合前にマオリの戦
闘の踊りを観客に披露します。もはやヨーロッパの延長ではなく、むしろオセ
アニア国家としての文化的立場の確立を目指しているように思われました。

かつてはヨーロッパ的なものに精神的、文化的に依存していたのでしょうがそ
の比重をオセアニア的なものに移しつつあるようにおもえます。そして私には
その姿が後ろ向きの姿として映ることはありませんでした。

(シルバーファーン:シダ科。ニュージーランドの代表的な植物)
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ナルホド (ヤマダツヨシ)
2010-10-15 18:29:34
 50年と言わずもっと早く縮小してる可能性もあるかも知れませんね。
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mofumofuさんへ (princeofwales1941)
2010-10-16 09:58:49
私はニュージーランドには行ったことがないので事情がよく分かりませんが、医師・弁護士・大学教授などの知的階層に占めるマオリ族の割合はどの程度なのでしょうか?もしそれが低ければ、結局は被支配階層という結論になってしまうと思います。また、浮浪者や平日の昼間に町をうろついている青壮年(つまり失業者)に占めるマオリ族の割合はどの様なものでしょうか?このあたりの事情を教えていただけると幸いです。

先住民と移住民の力関係は地域によって様々です。ニュージーランドの隣のオーストラリアでは先住民のアボリジニは間違いなく最底辺階層であり、生活保護に頼って暮らしています。私は観光でアボリジニ文化説明の現地ツアーに参加しましたが、アボリジニは英語を話せず、同行した欧米系オーストラリア人ガイド(彼はアボリジニの言葉も話せる)がアボリジニと会話しながらそれを英語に通訳して私たち観光客に話してくれました。英語すら話せないアボリジニの存在は私には衝撃的でした。オーストラリアがニュージーランドのように先住民を国家のアイデンテティにするのは困難なように感じました。

先住民と移住民の力関係について私が注目しているもう一つの地域は、満州・内モンゴル・新彊ウイグル自治区・青海省・チベット自治区などの中国の少数民族居住地域です。満州族という唯一の例外を除くといずれの地域も漢族が優位になっています。内モンゴル自治区では、モンゴル語=劣った言語、中国語=先進的な言語という認識が広まっており、モンゴル語選択で大学を卒業しても就職先がないそうです。内モンゴル自治区のモンゴル人は日本に留学すると、モンゴル文化が中国文化と対等の地位にあるものとして研究されていることに驚き、モンゴル文化の研究に熱中する者が多いという話です。これは、モンゴル国出身の日本への留学生が主に理工系の学問を学ぶのと対照的であるという話を最近読みました。チベット・ウイグルでも恐らく事情は似たようなものでしょう。漢民族と少数民族の力関係が今後どう変化していくのか、非常に興味深いところです。
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悪化する日中関係 (Unknown)
2010-10-17 10:10:20
中国様の言いなり → 左翼

日中戦争へ → プロレタリア型右翼
http://www.nagaitosiya.com/a/right_wing.html

台湾や欧米と連携を模索 → 保守派(典型例が旧華族や旧士族の連山)

さて、誰が正しいのかな?

【沖縄決戦】李登輝総統に会いに台湾へ行こう!【その6】 - 流水成道blog
http://jyoudou.net/blog/2010/10/post-286.html
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となると日本も (竜吉)
2010-11-06 12:18:13
結局主流欧米(系)には勝てないとなると日本の将来も、明るくないですね。
日本にしたところで、欧米の言語が通じない13000万人のアボリジニの住むガラパゴスに過ぎないので。
日本はなまじ世界に伍していこうとするよりもむしろ徹底的に内向きになって、再び鎖国してしまうぐらいが正しい行き方かもしれません。
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