国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

イラクとアフガンでの戦争:戦争の目的は何か?

2010年05月26日 | 中近東地域

(地図は外務省作成。タジキスタンにはソ連時代からロシア軍1個師団が駐留。ウズベキスタンではハナバードから米軍が撤退した後も、南部のテルメス空港をNATO諸国軍が兵站基地として使用。キルギスではマナス基地を米軍が、近接したカント基地をロシア空軍が使用しているが、いずれも大兵力ではない。現在西欧からロシア、カザフスタン、トルクメニスタン或いはウズベキスタンを鉄道或いは空路で通過してアフガニスタンに兵器以外の軍事物資を搬入する体制を整備中)
http://www.tkfd.or.jp/eurasia/turk/report.php?id=124







●介入の文化 2010/05/20 german-foreign-policy.com

オルデンブルグ大学社会科学学部の研究グループは、途上国での西洋諸国による軍事介入の戦略を発展させてきた。研究者達によれば、国際的に認知されてきた国家主権の原則はとうの昔に「埋葬」されており、それ故にその侵害も正当と見なしうるようになっている。例えばアフガニスタンにおける西洋諸国による軍事介入は、彼らに言わせると大規模な「社会改革事業」である。介入を成功させるためには、占領軍は一方では「文化的要素に対する敏感さ」を一定のレベルで示す必要がある。そして、もう一方では、断固として「軍事力を独占的に行使」せねばならない。たとえ、途上国の民間人に犠牲者が出ようともである。現状では、ドイツはかつての植民地保有国が保有している知識が不足しており、追いつかねばならない。研究グループは研究の「標的となる社会」を「アフガニスタン、コソボ、そしてリベリア」としている。<以下省略>
http://www.german-foreign-policy.com/en/fulltext/56345?PHPSESSID=hj4drepalk25g3hgfrk3h8hvp7








●ニアル・ファーガソンの大英帝国論 2007-06-30 - HODGE’S PARROT

『論座』(2007年5月号)をパラパラとめくっていたら、イケメンの英国紳士の写真があった。歴史学者ニアル・ファーガソン(Niall Ferguson、1964年生まれ)のものだ。地味なイメージのある歴史学らしからぬ煽り文句も気を引く──なんでも「欧米でいま最も売れている歴史家」で、『タイム』誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたのだという。ざっと読んでみた。”「特異な帝国」アメリカとその後”というインタビュー記事だ。

ファーガソン氏曰く、アメリカは大英帝国と比べるとダメだという。つまり大英帝国のほうがよほど「統治」に長けていた。大英帝国は単なる搾取的な権力ではなかった、と。

・私は大英帝国のバランスシートを問うているのだ。バランスシートには資産も債務もある。負の債務を隠すつもりはない。確かに奴隷貿易は18世紀の英国に広く見られた。母国から連れてこられ、命を落とすことも少なくなかった人々の苦悩をおろそかに思うことはない。英国のインド支配では、個人所得の持続的な成長や飢餓問題の除去に失敗したことを無視するつもりはない。だが、19世紀のインドで英国による統治以上に望ましい統治形態があっただろうか。ムガール帝国が再興していたら、もっと素晴らしい統治であっただろうか。英国のインド統治がなかったら誰が統治者として現れていたのだろうか。インドの国民議会派は、実際は英国公務員たちによってつくられたし、ガンジーは英国で教育を受けた。奴隷貿易に手を染めたのは英国だが、19世紀、奴隷貿易廃止に最初に立ち上がったのも英国の海軍だった。英国がもたらした利益は、そのために費やしたコストよりもわずかながら上回っていると思う。歴史には「よいこと」と「よくないこと」が同時に存在する。要はバランスシートだ。英国の帝国主義者の悪漢どもに立ち向かう、正義のナショナリスト。私はそれを「ハリウッド版の歴史」と呼んでいるが、歴史の真実ではない。なるほど大英帝国の統治は完全とはいいがたいが、法の支配や、個人の財産保護、腐敗のない行政府といった英国的な理念は、その後の世界の普遍的な価値の基礎を形づくった。
「特異な帝国」アメリカとその後 (朝日新聞『論座』2007年5月号、聞き手=木村伊量) p.64-65
http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20070630




●英歴史学者が「米の覇権は歴史の一コマ的現象、そろそろ終焉」と指摘―中国紙 2010-05-25 レコードチャイナ

2010年5月22日、英国の著名な歴史学者エリック・ホブズボーム(Eric John Ernest Hobsbawm)氏が中国紙・環球時報の取材に答えて、「米国覇権は一時的な歴史的現象にすぎない」との見方を示した。

1917年にエジプトのユダヤ人家庭に生まれたホブズボーム氏の研究分野は近代史。第二次世界大戦勃発前に英国に定住するまではオーストリア、ドイツなどを家族と共に転々としたが、英ケンブリッジ大学に入学後歴史学を専攻、30歳でロンドン大学で教鞭をとり始め、同時に研究生活に入った。元英国共産党員としても知られている。

同氏は、米国の世界覇権現象について、歴史に登場したすべての帝国と同じように、一時的な歴史的現象にすぎないと考える。米国覇権の終焉の兆候はすでに表われているが、米国人の大部分が米国覇権の維持にもはや興味を示さず、自分たちの生活に直接影響を及ぼす事柄以外には関心がなくなったことがそれだと同氏は言う。

同氏はまた、21世紀の世界はバルカン化現象が予想され、世界戦争が勃発する可能性もあるとの見解を示した。21世紀の戦争は異なる国家間の摩擦などが主因となって発生するのではなく、国家あるいは政権の不安定化が民族独立運動を招き、内戦が関係諸国を巻き込んでいく構図になるという。

同氏はさらに、中国の台頭についても言及、「初期の大英帝国と類似点がある」と指摘しつつ、中国の目標はかつての米国のように強大な経済力の土台の上に政治的・軍事的覇権を打ち立てることであってはならないと警告した。(翻訳・編集/津野尾)
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=42366







●「中国抑止」か「中国覇権の受け入れ」か、周辺諸国に求められる態度決定―米誌 2010-05-10 レコードチャイナ

2010年5月3日、米誌「Deplomacy」は、中国の台頭によってアジア地域における米中間の競争が激化し、周辺諸国は中国に対する態度決定を迫られると指摘した。環球時報が7日付で伝えた。

記事は、力をつけた中国が同地域における地域覇権を求める可能性は高く、米国がそれを阻止しようとする構図になると指摘するが、中国の地域覇権達成の道は、かつての米国と比べてはるかに難しいという見方を示した。当時の西半球には米国以外に大国はなく、米国の勢力拡張を阻止するパワーも存在しなかった。しかし現在の中国周辺には日本などある程度の実力をもった強国がいくつか存在する。

さらに、中国の地域覇権実現は、それら周辺諸国が中国を抑止することを選ぶか、或いは中国に依存することを選ぶかにかかっていると同記事は指摘。「周辺諸国が抑止力になるという希望はある」と踏み込んで論じ、日本の潜在的国力と軍事力、またベトナムや10数億の人口と核兵器を有するインドなどに期待できるとの見方を示した。

だが中国も負けてはいない。穏やかな物腰で周辺諸国に対し、経済・貿易・文化などの領域における関係強化を進めており、現在のところこの戦略が効を奏している。記事は、「中国外交が粗暴なら、米政府はアジアの同盟国との強い絆を維持することが可能だが、中国が経済など『ソフト・パワー』を駆使するなら、アジア諸国が中国覇権も悪くないと考えるようになるかもしれない」と論じている。今、冷戦時以上に米国の手腕が問われているといえそうだ。(翻訳・編集/津野尾)
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=41991






【私のコメント】
2001年9月11日の米国同時多発テロ事件に引き続くアフガニスタンとイラクでの戦争は開始されてから数年が経過しているにも関わらず、解決の目処は立っていない。この戦争の目的は何だろうか?それを示す重要な論文がgerman-foreign-policy.comに5月20日付けで掲載されている。この記事では、ウェストファリア条約的な「国家主権の不可侵」の時代は終わっており、「人道主義」の明目で途上国に軍事介入することが許されるとしている。そして、西洋諸国でも国家形成時には常に長い時間と多くの犠牲者が必要であったことを指摘して、軍事介入による民間人の死者を正当化している。これはネオコン的な「民主化のための軍事介入」を正当化する主張であり、2003年にニアル・ファーガソンが著した「Empire: How Britain Made the Modern World」の流れを汲むものである。同様の研究がイラク開戦に批判的であったドイツから上がってきたことが注目される。今後、日本でもかつての朝鮮・台湾・満州・ミクロネシアにおける植民地経営や中国・東南アジアでの軍政を公式に正当化し、その教訓に学び、そして必要に応じてこれらの地域に軍事介入すべきであるという声が上がってくるであろう。

無論、西洋諸国によるこのような軍事介入は西洋諸国の国益が目的であり、人道主義というのはそれを正当化するための題目に過ぎない。イラク開戦では公式に反対に廻った独仏露も含めて、西洋諸国全体の合意を経て911とそれに引き続く一連の戦争が計画され、実行されたのだと思われる。小泉政権の樹立は、イラク開戦を実行するために行われたのだと私は想像している。20世紀が第一次世界大戦から冷戦までと定義するならば、21世紀は第一次大戦前の19世紀を繰り返すような時代になるのだと思われる。

911前の時点で見ても、残虐な独裁政治が行われている国は数多く存在した。その中からイラクとアフガニスタンが選ばれた理由を考えてみよう。イラクは豊富な油田を有すると思われるがその多くが未探査であり、サウジアラビアの油田が枯渇し始めている事を考えると、近未来の原油供給源として非常に重要である。ここを米国が占領することは米国の石油ドル体制の維持に繋がる。また、米国社会は石油の大量消費を前提として都市が形成されており、それを維持したいという意図もあると思われる。アフガニスタンには特に資源はないが、アフガニスタンに兵力を展開するための経由地となる中央アジア諸国とパキスタン、インド洋が重要である。中央アジアはカスピ海東岸を中心に大油田・大ガス田が存在しており、従来はロシアの影響下にあったが、最近は中国もパイプライン敷設等による進出を企ててきた。この地域にNATO軍が基地を置くことで、中国の西進は不可能になった。また、パキスタンは中国の重要な同盟国であり、中国からパキスタンを経てインド洋に至るパイプライン計画が存在する。パキスタンで米軍が活動し、パキスタン国内が不穏化することで、このようなパイプラインを建設することは困難になったと思われる。インド洋からペルシャ湾に至る海域で米軍が活動することも、この海域に軍事力を及ぼしたい中国には大きな不利益であろう。アフガニスタンを戦場に選んだのは、主に中国に対する行動であったと考えられ、その裏には中国を仮想敵国とするロシアや日本の意志も反映されていると思われる。米国としても、サミュエル・ハンティントンが危惧した「儒教・イスラム連合」、つまり中央アジアやペルシャ湾岸の石油・天然ガスと中国の膨大で勤勉な労働力が結合することを回避したかったのだと思われる。また、今後の派兵先としては、天然資源が豊富で未開発のアジア・アフリカ諸国(コンゴ民主共和国やチベットなど)が考えられる。

中国はNATO軍の中央アジア展開に「西洋諸国に包囲された」と感じていることだろう。日露を含めた西洋諸国が勢揃いしたアフガン派兵は、イギリス・アメリカ・ロシア・フランス・ドイツ・オーストリア・イタリアと日本の列強8カ国が派兵した1900年の北清事変の悪夢を連想させたことは間違いない。それ以後、中国は米国を刺激しないことを最大限に重視する一方で、西方への陸進をはばまれたためか、海への進出を重視する方針をとっている。中国の経済は発展を続けており、それによって中国人は現在の北京政府を支持している。中国人の生活水準は急速に向上しているが、一度贅沢に慣れた国民は貧乏な生活には戻りたがらないものであり、中国人の生活向上はそれ自体が大きな危険を孕んでいる。恐らく近未来に、世界恐慌、あるいは小氷期到来による世界的食糧不足、あるいはその両方が起こり、中国人の生活水準や食料水準が劇的に低下することになると思われる。それは確実に内乱や独立運動を引き起こし、チベットやウイグルの治安安定を明目に西洋諸国が派兵を行う事態になると思われる。また、中国の内乱は、中国に展開する膨大な数の工場群が破壊され、膨大な数の工場労働者が死亡することを意味し、それによって世界恐慌は収束に向かうと思われる。恐慌の時代では工場の集積は戦争を引き起こす誘因であり、そのような認識の元に先進諸国は中国などへの工場の移転を促進してきたのだと思われる。

朝鮮半島については、韓国が希望している「独裁国家北朝鮮を打倒し半島を統一する」というシナリオもありうると思われるが、それは日本の支配階層の意志次第であろう。内戦によって韓国に展開する膨大な数の工場群が破壊され工場労働者たちが死亡する様なシナリオは、世界恐慌解決のためには有効と思われる。いずれにせよ、日本の国益にとって最も理想的な朝鮮半島の未来を考え、それに至る為のシナリオを準備し、計画を実行することが必要とされている。個人的意見であるが、21世紀の日本の国益のためには、半島分断の継続ではなく、大日本帝国時代の朝鮮の様な国家でもなく、李氏朝鮮の様な海禁・鎖国政策を採る統一国家が望ましいと思う。それは、北朝鮮による半島統一によって成就可能であり、日本は「独裁的で非民主的」な北朝鮮の体制を崩壊させるべきではないと私は考えている。




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6 コメント

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つまり (rs)
2010-08-31 17:22:20
対ロシア南下防衛ラインの形成のため?
返信する
Unknown (Unknown)
2010-06-05 07:47:58
>その中からイラクとアフガニスタンが選ばれた理由を考えてみよう。~~近未来の原油供給源として非常に重要である。


とある著名海外投資家さん曰く、地球上どこの油田も採掘可能なのはあと数十年なのですが、イラク・クウェートのあの地域だけは100年~200年ということらしいです。
返信する
ことばあそび (不思議)
2010-05-30 01:40:11
日本の支配階層



北朝鮮一派

に置き換えたら。
返信する
陰謀日和ですね (読書貧乏)
2010-05-29 11:33:45
王子様
ユーロも崩壊しようとしていますよ。

ユーロはもともと脆弱で防御機能のない通貨です。
もしかしたら、これも欧州奥の院の意思かもしれませんね。

というより、ユーロ圏の騒乱に乗ろうとしている勢力があるはず。

ポーランドの大統領も、ここいら辺の関わりで
国内外の共同謀議で殺されたのだと思いますよ。
返信する
Unknown (ウェンペ)
2010-05-27 19:52:00
PrinceofWales氏の東アジア情勢に関する考察は正には2ちゃんねるオカルト板の中国分裂、半島真空パックの話題に合致してますね。

もしや・・・・・・・・・
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更新お疲れ様です (akira)
2010-05-26 22:15:43
御陰様で脳味噌のシワが1本増えたような気がしますw
承認はしなくていいのに ><
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