国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

緊迫する中東情勢の将来は、サウジとイランの勢力均衡による平和か?

2006年12月21日 | 中近東地域
●安保理にイスラエルの「核保有」で行動要求=イラン国連大使(時事通信) - goo ニュース 2006年12月20日(水)11:58
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/meast/061220012043.rk97mqj6.html


●湾岸のアラブ諸国と核技術共有の用意=イラン大統領(時事通信) - goo ニュース 2006年12月17日(日)08:16
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/europe/061216190648.0hqgxfjg.html


●大戦争になる中東(3)  2006年12月20日  田中 宇
http://tanakanews.com/g1219mideast.htm


●世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略VOL132  江田島孔明
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/edajima/vol132.html



●国際戦略コラムno.2544.「イラン研究グループ」の提言と影響
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/181209.htm




【私のコメント】
イラン・イラク・イスラエルを巡る中東情勢が緊迫している様だ。田中宇、江田島孔明、国際戦略コラムのF氏などの著名人が上記のような興味深い解説を行っているのでお読み頂きたい。私はここで、英国やイスラエルを中心とする国際金融資本勢力とブッシュ政権や独仏露を中心とする反国際金融勢力の対決が現在起きており後者が勝利しつつあるという仮定の元に今後の中東情勢を占ってみたい。

シーア派・ペルシャ語のイランはスンニ派中心・アラビア語のアラブ諸国とは異なる文明圏に属すると考えてよいだろう。ただ、ペルシャ湾岸のアラブ産油国の油田地帯はシーア派住民が多く、これらの国々の不安定要因となっている。イラクはアラビア語が公用語だが住民の2/3がシーア派で1/3がスンニ派であり、ペルシャ文明とアラブ文明の中間的な地域という見方ができる。東アジアで言えば日本文明と中華文明の中間的地域である朝鮮半島・台湾、西欧で言えばドイツとフランスの中間的地域であるアルザス・ロレーヌ、あるいはゲルマン民族とラテン民族の中間的地域であるベルギー、東欧で言えばローマ教会・欧州文明と東方教会・ロシア文明の中間的地域であるウクライナ~ポーランド~バルト三国や旧ユーゴスラビアに相当する。この様な重要な地域をどの勢力が支配するかは、地域全体の安全保障に直結する大問題である。

国際金融資本は生存のために戦争の継続を必要としており、戦争あるいは戦争に至らない軍事的対立という形態でこれらの地域の緊張を煽り続けてきた。また、国際金融資本の世界支配の柱である石油ドル体制は、革命国家イランのアラブ産油国に対する脅威と、その脅威からアラブ国家を守るための米軍の駐留を基礎としている。米国が国際金融資本の支配から脱出するためにも、米国が過大な軍事支出から解放されて第一次大戦以前の軍事小国に回帰するためにも、ブッシュ政権は中近東から軍隊を引き揚げて平和が維持される体制を作り出そうとしていると思われる。そして、国際金融資本はそれに抵抗し、戦争と緊張が継続する状態を維持しようとしているのだろう。

では、米軍なき中東の平和のためにはイラン・イラク・サウジ等のアラブ産油国はどの様な状態が望ましいのだろうか?イラクがイランに支配されることをサウジは容認できないし、逆にイラクがサウジに支配されることをイランは容認できないだろう。風土も宗教も言語も異なるイランとサウジが国家を統合することが現状ではまず不可能と思われる以上、サウジとイランの勢力均衡による平和が最終ゴールとなる。イラクはサウジとイランの両方が影響力を行使する地域になると思われる。


1.イラクをシーア派国家とスンニ派国家に二分割、あるいはクルド民族国家も含めて三分割した上で、サウジとイランが衛星国化するシナリオ。ドイツの衛星国であるスロベニア・クロアチアとロシアの衛星国であるセルビアに事実上分割されたユーゴスラビアと同じパターン。クルド人地域はボスニア・ヘルツェゴビナのムスリム人地区やアルバニア人の住むコソボ的存在か?明瞭な境界線が引かれ、その両側で大規模な住民移動が起きる必要がある。短期的には大きな混乱が予想されるが、その後は安定した平和が期待できる。

2.イラクをシーア派・スンニ派共存国家として維持し、サウジとイランが緩衝国として扱うシナリオ。ゲルマン系とラテン系の共存する連邦制国家であるベルギーに近い存在になる。ただ、イラク内部でシーア派とスンニ派の政治的影響力が大きく異なることから、人口では少数のスンニ派が中央政府を支配するというサダム政権当時と同様の状況になる可能性が高く、新生イラク国家は安定しないだろう。安定を得るためには、イラク統治を巡ってサウジとイランが協力するだけでなく、欧州連合の中東版が形成されてイランとサウジの二大国が国家主権の一部をそこに譲渡することが必要不可欠と思われる。

3.イラク内部での混乱と内戦の継続を容認した上で、サウジとイランが協力してイラクを封じ込めるシナリオ。朝鮮半島の混乱を封じ込めるために日本と中国という異なる文明に属する二大国が協力しつつある東アジア情勢と似ている。ただ、日本・中国・朝鮮半島国家が地理的にも民族的にも明瞭に区別されるのと比較して、スンニ派イラク人とサウジ、シーア派イラク人とイランは関係が近いと想像され、イラク内部の緊張が容易にサウジ・イラン両国間の軍事対決に繋がりかねない危険がある。


上記の3つのシナリオの内で長期的な平和が最も期待できるのはシナリオ1、その次がシナリオ2だろう。「湾岸のアラブ諸国と核技術共有の用意がある」とのイラン大統領の発言は、シナリオ2の欧州連合中東版の前兆の様にも思われる。欧州連合が戦略的に非常に重要な石炭・鉄鋼産業の共同体から出発したように、アラブ諸国とイランが戦略的に非常に重要な原子力エネルギー開発・核兵器開発で協力し信頼関係を築くことは中東和平に非常に有益である。シナリオ3は、一発の銃声が第一次世界大戦を引き起こした二十世紀初頭のバルカン半島情勢に似た危険な不安定さを秘めており、ブッシュ政権は回避したいと考えているだろう。

ブッシュ政権のイラク占領後、イラクではシーア派とスンニ派の間のテロ事件が多発して宗派間の緊張が高まっている。また、従来は政治力の弱かったシーア派が選挙を通して政権に大きな力を及ぼすようになった。このことは、イラクが独立した複数の国家に分裂するシナリオ1,あるいは複数の自治州からなる連邦国家となるシナリオ2の準備段階と考えられる。イラクを統治する米軍は、このような意図の元に故意にシーア派とスンニ派の間の緊張を煽っているのかもしれない。核問題が表面化したイスラエルがどの様にここに絡んでくるのかは不明だが、もしイスラエルが関与するとしても主役ではなく脇役になるのではないかと想像する。一見激しく対立している様に見える米国とイランの関係、あるいはイラク攻撃を巡り対立しているようにも見える米国とサウジの関係は実は良好であり、米国・イラン・サウジの三カ国が中東政策の主導権を握っている様に思われる。


悲惨な民族浄化作戦を招いたユーゴスラビア紛争の再現になりかねないシナリオ1を私が推奨することについては反対の御意見も多いだろう。しかし、短期的な混乱は、長期的平和を得るための已むを得ないコストであると私は考える。対立する複数の民族が居住する民主国家では、選挙での政党間の対立軸が民族間対立に収攣されやすくなり、外交・軍事戦略や福祉水準決定といった選挙で国民の意思を問うべき最も重要な問題がないがしろにされる。その結果、民族間対立の悪化を避けるために民主政治を導入することが困難になってしまうのだ。地域間対立の酷いベルギーが国家統合の象徴としての君主制を必要としている理由もここにあるのだろう。このような観点から考えるとき、第二次大戦時の欧州で東方移民したドイツ人が経験した余りに悲惨な運命は、多民族混住地域であった東欧を国民国家に再統合するという意味合いがあったのかもしれない。だからといって、あまりに多くの人命が失われたことを正当化することはできないのだが。
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2 コメント

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興味深いネタ来ましたよ。 (ヌー速住人)
2006-12-21 01:46:42
報告事項では、京都舞鶴市内の神社において、宮司を強迫の上、代表役員変更登記が
行われた事件が発生したことから、神社本庁が刑事告発したことの説明があった。
府神社庁の調査によれば、被告発人は「同神社の土地を買い取ったので、神社を潰す」
などと言って宮司を強迫。被告発人らが総代会を開き、韓国人三人を新役人に選任している。
脱税を目的とした神社乗っ取りと見られ、十一月二十二日には、同神社の社務所・石鳥居が
撤去されたことが確認されている。

http://www23.atwiki.jp/yaoyorozu800/

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両陛下ご訪問 (Momoyo)
2006-12-21 09:36:54
天皇皇后両陛下が、バルト三国にご訪問されるそうですね。初めてのご訪問だとか。
ご高齢なのに、最近、イロイロな国へのご訪問が増えておられるようですし。
何か関係があるのかしら?と思いつつ、よしなしごとを考えています。
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