国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

多極化する近未来世界での日本の軍事同盟戦略について

2007年01月09日 | 日本国内
冷戦時代の米ソ二極体制から、冷戦後の米国一極体制を経て、今世界は多極化へと向かいつつある。独仏連合を中心とする欧州、米国を中心とする北米、ブラジルを中心とする南米、ロシア、日本、イスラム圏、インド、中国、アセアンなどが極を形成するだろう。その中で、内政が安定し人口過剰問題のない先進地域である北米・欧州・ロシア・日本が連合を組んで世界覇権を握ることになると思われる。イスラム圏・インド・中国は人口過剰や地域内の経済格差の大きさ故に安定しないからだ。従って、冷戦時代の安保理常任理事国五カ国の役割は、先進8カ国首脳サミット(G8)のメンバーに移行することになると思われる。日本にとって安全保障上の脅威は巨大な人口を持つ超大国中国である。中国をいかに安定させ、しかも日本にとって脅威のない状態に維持するかが日本にとって最も重要であろう。

1.北米(+オーストラリア・ニュージーランド)

アメリカは世界覇権喪失後に民主党優位の海岸地域と共和党優位の内陸地域に分裂する可能性があるが、その分裂がいつまで継続するかは不明である。地理的にもまとまりが良いし、英語という共通語も存在する以上、一度分裂しても再統合に向かう可能性がある。日本としては、アジアとの交流の深い米国西海岸地域、あるいはオーストラリアやニュージーランドなどの太平洋アングロサクソン勢力との友好関係を維持することは必須だが、カリフォルニアやオーストラリアが日本からあまりに遠いことを考えると、日本が中国との対立等で安全保障上危機に陥った時に彼らが援助してくれるかどうかは疑問である。むしろ、日中の対立を煽って漁夫の利を得ることを目指す可能性、あるいは米中同盟で日本を挟み撃ちにして日本を滅ぼそうとする可能性もある。従って、北米(特に西海岸)やオーストラリア・ニュージーランドとは友好関係を維持することは必要だが、それは日本の安全保障上の命綱にはなりえないのではないだろうか?この点で私は日米同盟至上主義者に不安を感じるのである。

2.欧州

欧州は多極主義者であり、日本にとって友好関係を維持することは非常に重要である。内政も民主主義で安定しており、内部の不安定要因も比較的少ない。ただ、欧州は日本から余りに遠く離れており、日本が中国と対立したとき日本を支援してくれる保証はない。また、現在の欧州は東アジアまで軍隊を送り込む力もない。

3.中国(特に台湾・上海・香港~広州)

日本の安全保障のためには台湾を日本の影響圏内に留めることは絶対に必要である。統一中国が台湾を征服することは日本の安全保障上の危機に繋がる。また、揚子江の河口という重要な位置に存在する上海を大陸から切り離された親日的地域として維持することも非常に有用であると思われる。

大英帝国はライン川の河口に位置するオランダを友好国として維持することで、ライン川の水運に影響力を及ぼすことができた。年間を通じて可航である揚子江の水運の重要性を考えると、上海をオランダ的存在として維持できればそのメリットは大きい。上海付近の都市国家+揚子江流域以南国家+黄河流域以北国家というように中国を分裂させるのも一案であろう。日本が江沢民政権下で上海近辺に集中的に投資して発展させたのはこのような将来展望に基づいたものだったのかもしれない。ただ、ナポレオンやヒトラーにオランダが占領され独仏全土を含む欧州西部が一時的に統一国家になった歴史を考えると、上海が大陸に統一される可能性は常に存在する。広州・香港についても同様のことが言える。そもそも、中国の歴史は統一して暫くたつと分裂し、分裂して暫くたつと統一することの繰り返しである。台湾も大陸と同じ言語を使っている以上、中国に統一される危険は常に存在すると考えねばならない。従って、台湾や上海は日本が安全保障上維持すべき存在ではあるが、日中対決時に信頼できる味方にはなり得ない。

4.インド、イスラム圏、東南アジア、南アメリカ

いずれも日本との間に大きな対立のない地域であり、友好関係を維持することは可能であるが、日中対決時に日本を支援してくれる保証はない。日本はこれらの地域とはかなり離れているし、唯一近接している東南アジアは日中対決時に中国の優勢が明らかならば勝ち馬に乗る可能性もある。

5.ロシア

ロシアは将来EUに加盟する可能性があるが、極東地域までEUに加盟するかどうかは微妙である。極東地域までEUに加盟すると、4000Kmの中国との陸上国境がそのままEUの境界になり、そこを超えて十数億の中国人が難民として欧州になだれ込む危険があるからだ。ドイツ人やフランス人は、ロシア極東や東シベリアが中国に侵略された時に常にロシアを支援するだろうか?ロシアは内心あてにしていないだろう。西欧や中欧の人々が安全保障上関心があるのはせいぜいエニセイ川あたりまでだろう。ロシア極東は鉱物資源の宝庫であるシベリアをロシアが領土として維持するために必要不可欠な地域であるが、その防衛の最大の脅威は中国であり、ここに日本とロシアの死活的な同盟関係が存在する。日本が中国に支配されることをロシアは容認できないし、ロシア極東やシベリアが中国に支配されることを日本は容認できないからだ。日中対決時に日本を確実に支援してくれる国は現状および近未来ではロシア以外にはありえないのである。また、ロシアは巨大な核戦力や十分な陸軍力を持ち、日本の海軍力や非核戦力と相補う関係にある。この様に考えると、近未来の日本にとってロシアとの軍事同盟こそもっとも重要である。欧州や北米との軍事同盟よりもロシアとの軍事同盟のほうが優先されるべきだと考える。ロシアは中国の脅威を封じ込めるための台湾独立にも賛成するであろう。台湾が統一されていない限り、中国がロシア極東を侵略する可能性は低いからだ。

6.無形化世界の力学と戦略(長沼真一郎著 通商産業出版社 1997年)から見る日本の同盟戦略

この本で長沼真一郎氏は、欧州諸国・イスラム諸国・日本を勢力均衡型、米国(米軍を除く)・中国・かつてのローマ帝国を世界統合型と分類している。世界統合型国家は人種や民族、宗教を問わずその文明の教養と作法を身につければ異邦人でも米国人・中国人・ローマ市民と見なされる。安定した帝国を建設するには、民族共同体意識から脱却してそれを抽象概念まで昇華させ、他民族にも帝国に平等に参加させる余地を作ることが必要不可欠なのだ。一方、欧州諸国・イスラム諸国・日本は民族共同体的意識から脱却していない。中国は地理的に障害物が少なく統一されやすいことから安定した勢力均衡状態を経験することがなかったのに対し、欧州ではアルプス・ピレネーなどの山脈やバルト海・北海などの海洋が障害物となって中世以降安定した勢力均衡状態が長期間継続した。そして、中国文明は秦の始皇帝の統一前の戦国時代に頂点を迎えており、その後は統一国家の余りの巨大さと単一かつ強大な皇帝権力の存在が各種の共同体を破壊して退廃させ、短期的欲望のみに支配され家族以外の者は信用しないという徹底的な利己主義・個人主義の中国人の性格を作りだし、結果的に中国文明を巨大な退廃の複合体にしたとしている。

彼の中国文明退廃に関する分析は非常に説得力がある。また、かつてのソ連もロシア民族共同体意識から脱却して共産主義思想という抽象概念に依存した世界統合型国家であったと言えるだろう。米国=世界統合型という主張は、徹底的な利己主義に支配されたユダヤ商人などの国際金融資本が勢力均衡型の近世欧州で異端とされて米国に逃れたことがその原因であり、米国が国際金融資本的国家であることを反映しているのだと思われる。ただ、彼のイスラム諸国=勢力均衡型国家論はやや疑問が残る。広い砂漠から成るアラブ世界は障害物の少なさから統合型に移行しやすいと思われるし、オスマントルコの様な民族共同体・宗教共同体を越えた安定した帝国も最近まで存在していたからだ。

いずれにせよ、日本・欧州・現在のロシアが勢力均衡型国家であることは確実であり、この三者がスクラムを組んで多極型世界を維持し、国際金融資本が目指す「米国経済界+中国の連合による世界統合」を阻止することが重要であると言えるだろう。そして、国際金融資本の米国支配が連邦中央準備制度という中央銀行の保有とドル世界基軸通貨体制の維持に依存していることを考えると、国際金融資本が中国の中央銀行を支配して米国の中央銀行と統合し、ドル+元の統一通貨が形成されることが最も恐るべき事態ではないかと想像される。具体的には、香港ドルが1983年からの米ドルとの固定相場制を維持したまま中国元と統合され、香港ドルの発券銀行である香港上海銀行、スタンダード・チャータード銀行が中国銀行と合併して中国全体の中央銀行になるステップが考えられる。もしドルと元が統合されれば、それは世界人口の25%と世界経済の25%を独占する巨大通貨となり、確実に世界基軸通貨の地位を独占する訳で、その世界基軸通貨発行銀行を保有する国際金融資本は永遠の世界支配者となることだろう。現在の元は変動相場制だが米ドル=香港ドルとの間の値動きは非常に小さく、事実上固定相場制に近い状態にある。これは、欧州の通貨統合前のドイツマルクとフランス・ベネルクス・オーストリア等周辺国通貨の関係と類似している。米国+香港と中国の間の貿易は巨大な金額に達しており、米国の巨大な経常赤字も中国の巨大な経常黒字でかなりの程度補填可能である。米中両国の経済は既に通貨を含めて半ば統合されていると見て良い。この統合がドルと元の通貨統合により完成する前に、ブッシュ政権の目指す米国の世界覇権崩壊でドルが暴落しドルと元の為替相場固定が崩壊するかどうか、米国の中央銀行が国際金融資本の私有状態から脱却して国有化されるかどうかが最も注目されるポイントであると想像する。





【結論】
日本は多極化する近未来の国際情勢の中で可能な限りすべての極との友好関係を維持するべきである。ただ、日本にとって最大の脅威になりうる中国を脅威にならない状態に維持するためには、ロシアとの軍事同盟以外の選択肢はありえない。日本・ロシア・欧州の三極(場合によっては北米を含めて四極)からなる軍事同盟を結成し、中国方面は日本とロシアが、イスラム方面はロシアと欧州が共同で対処するという状態が最も理想的ではないだろうか?また、国際金融資本が中国の中央銀行を手に入れて米国の中央銀行と統合し、米ドル+中国元を統一した究極の世界基軸通貨を発行することが欧州・ロシア・日本の最も恐れるべき事態ではないかと想像する。
コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 在韓米軍、韓国人と集団結婚... | トップ | 「アジア・欧州・米州」を中... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いくつかの視点 (面白い発想だが)
2007-01-10 00:18:07
いつも面白い記事ありがとうございます。

先日、戦後のドイツからプロテスタントの地域がなくなったことへの分析がありましたが、これが米英主導つまり国際金融資本主導で行われたとすると、独仏連合が本当に国際金融資本と対立しているかは、微妙なところです。

19世紀のプロイセン主導によるドイツ建国がフランスの牽制にあったことは明らかで、第2次世界大戦後のドイツがこれと逆の方向で再建されたとすると、フランスと国際金融資本との間になんらかの関係改善の動きがあったのではないでしょうか。2007年のフランス大統領選挙でこの深海の海流がみえるかもしれません。

これは長らく対立関係(国際金融資本の覇権国はスペインから後はすべてプロテスタント主導の国)にあった国際金融資本とカトリック教会が20世紀に入って手を結んだといわれていることも、これを後押ししています。

先代のローマ教皇はポーランド出身で、東西冷戦の終結に尽力しました。現在の教皇はドイツ人であり、これは何かを暗示しているかもしれません。

次に中国についての分析ですが、
国際金融資本が中国への移転を画策しているとありましたが、これには賛成ですが、現時点では無理です。理由が2つあります。

現時点で中国は国際金融資本の宿敵ロシアと国境を1万キロ以上接していて、地政学的に不安定であること。
次に現在、共産主義国であり、金融資本にとってもっとも大事な資本の自由がありません。

これは現在の共産党主導の国とは別に華南地域に資本主義国を作ればいいわけです。お気づきかと思いますが、これはJJ予知夢そのものです。
このために日米安保から日本を切り離し、中共を望む形に変更するために、まず日本の改造から取りかかったとみるべきでしょう。日中を対立させこの圧力で中国の変化を誘うという図式になると思います。先日のキッシンジャーの2007年予測でも日本の核武装について言及がありました。

本文中で分析しているように、この結果として日中のありようは多彩です。

本当に独仏が国際金融資本と対立しているのかの見極めが必要です。
もはやイスラエルが破滅するのは避けられそうにないですが、ユダヤ人がどのように中東から追放されるのか、そしてどこへ行くのかということとも関連していそうです。
このことは次の時代の国際金融資本とイスラム世界との関係も規定することになると思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2007-01-13 18:49:30
長沼伸一郎・北野佐藤優の地政学派(別名、親露派)
http://pathfind.motion.ne.jp/topics-ppt3rd/index.html

定期的な勉強会を開いているようです。
参加されて見ては?

リアリストな英国国際金融派の反江田島閥を
形成しています。親中派としては田中宇派が
有名ですし株式日記は親仏ですからまるで幕
末化現象です。英米仏露に国論が別れました。
返信する
Unknownさんへ (princeofwales1941)
2007-01-13 22:45:32
>英米仏露に国論が別れました。

私は決して国論が別れているとは思いません。

御紹介いただいた論者の多くは日本の国家中枢と何らかの繋がりがあり、それ故に現在進行形の国際金融資本vs反国際金融資本の大戦争に関わる日本の国家戦略について真実を書くことが出来ないのだと思います。真実を書くことは、敵に手の内を見せる事になるからです。

例えば、江田島孔明氏は国際金融資本の立場から見た現状を分析しているだけであり、それが日本にとって有益であると考えている訳ではないと思います。国際関係論に関する他の有名ブログ・メルマガも、日本の国家戦略の核心に触れる部分ではわざと嘘を書いたり、質問されると話題を変えようとしたりする傾向があるように思います。ただ、核心に直接触れない部分の主張から現在の日本の国家戦略の核心をある程度類推することは可能であり、その「類推」が出来る人だけに真実を理解して貰えればよいという考えなのではないかと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2007-01-14 01:43:48
>御紹介いただいた論者の多くは日本の国家中枢と何らかの繋がりがあり

そういえば北朝鮮のテポドン発射を6月、
核実験を10月と正確に予想したのは江田
島氏だけでしたね。国家中枢に江田島氏が
いるとすれば長沼氏や佐藤優氏は反体制派
ということになるのでしょうか?

http://money4.2ch.net/test/read.cgi/seiji/1167541731/l50
ラジオで「予言されていたテポドン、核実験、北朝鮮難民」のサイトを
紹介していたので見てきました。この内容って江田島孔明氏の事かな?

ttp://my.shadow-city.jp/?eid=277528#comments
テポドン騒動と核実験騒ぎは予言されていた!
かつて海外情報のブログという伝説のサイトがあって、そこは閉鎖されてし
まったんだが、そこが閉鎖される直前、6月と10月に何かが起こると予言
していた。閉鎖直前の3月頃、「6月と10月を待て。海外において、流れを
変える動きがある」としきりに書かれていたのを、おいらは確認し 中略
あのサイトは何となくアジテーションぶりが好きだったんで記憶に残ってい
るんだが、10月が終わってハタと気がついた。6月がテポドン騒動、そし
て10月が核実験。まさに、予言通りになっている。となると、テポドンも
核実験も、実は、アメリカのユダヤ資本に身を売った日本の政治を叩き直す
ために誰か日本人が仕組んだ芝居だという事になる。たしかに、流れは変わった。
返信する
横レスですが (面白い発想だが)
2007-01-16 00:39:13
江田島孔明氏に関して、19世紀までの歴史分析は面白いですが、20世紀以降、特にロシアが絡むことになるとバイアスがかかっているように見えます。今回の号は司馬さんの歴史観が国際金融資本の視点で書かれていることがよくわかってしまいました。

ジャパンハンドラーズも歴史的な分析はするどいのですが、今起こりつつあることにずれているときがあります。
しかし、管理人氏が言うように、主宰者が国家中枢と関わりがあり、わざとポイントをずらしているのかもしれません。

北朝鮮の核問題は中朝関係や日朝関係を表面だけとらえると予想ができないはずです。

管理人氏や江田島氏が指摘しているように、北朝鮮建国にはかつての日本陸軍の関係者が関与しているかもしれないということが大きなポイントのような気がします。血脈的や人脈的に推定するとそれは現在の安倍首相にもつながっているはずですが。
返信する
有事「地下鉄に避難」 身近な“要塞”消防庁構想 (ロックアップ)
2008-02-17 20:25:50
有事「地下鉄に避難」 身近な“要塞”消防庁構想
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080217-00000068-san-pol

日本は地下施設の開発の熱の入れようは世界一だそうで、地下街とか地下鉄はいざと言う時の地下核シェルターに利用するつもりと疑っていたがとうとう出てきた。

以前テレビで、東京は都市開発の失敗による都市洪水を解決するために地下にプールを作り一端そこに雨水を溜めて河川の水位が下がった後に排水するシステムがあるがそこには乾パン、飲料水、懐中電灯などが備蓄してあると言ってた。

カモフラージュしないといけない理由があったのだろうか…。
そしてこの意思発表自体も重要な情報であると言える。
返信する

コメントを投稿