国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

「知的制海権」「製造業の空洞化」と日本の未来像

2007年01月01日 | 日本国内
無形化世界の力学と戦略(上・下)  長沼真一郎 著  通商産業研究社 1997年

・製造業などの経済力は陸軍力に、マスコミは空軍力に、研究機関の影響力は海軍力に類似した性格を持つ。

・海軍力の運用にはアカデミズムや思想の世界での覇権、すなわち知的制海権が重要である。知的制海権は国際法の運用を決定する力に繋がる。

・第一次世界大戦ではドイツは無制限潜水艦戦を実行すべきかどうかで国論が分裂し、無制限潜水艦戦の実行が遅れた。米国はドイツの無制限潜水艦戦を激しく非難した。しかし、第二次世界大戦では米国は躊躇なく日本に対して無制限潜水艦戦を実行した。これは、米国が国際法の運用を決定する力を保有していた為である。

・戦後の日本経済を陸軍に喩えると、戦車である大企業の意志決定は鈍重だが、それを支える歩兵である中小企業が大企業と知識を共有し、戦車を支援する多数の歩兵が同じ速度で戦場を移動することができた。欧米の企業は大企業の意志決定は迅速だが、それを支える中小企業の数が少なく大企業との知識共有もなく、歩兵の支援なしに戦車が突進して攻撃を受けた。

・近い将来に軍事力から経済力へと人材の投入の優先順位を欧米が変化させること、中国やインドなどの巨大人口国家が優秀な人材を多数経済力構築に投入することで、現在の日本の唯一の優位性である経済力が失われる可能性が高い。

・日本は経済力優位の喪失後の生き残りのために、理系技術者を動員して知的制海権を確保することが必要である。




無形化世界の力学と戦略を考える



国際戦略コラムno.2554. 日本の役割2 2006.12.23


世界が苦難に直面する時日本が出て行って、世界の問題を解決するという役割が日本にはあるし、その準備を日本は気がつかずにしている。ヒトラー予言でも東方とラストパタリオンが組んで世界の苦難に対応すると言っているし、「日月神示」でも同じようなことを言っている。この予言が当たりそうであると、この頃のネット上の意見を見ていると感じる。第2次世界大戦はドイツ+日本が世界覇権を狙った戦争であったが、今後は世界を助けるために日本が再度、ドイツと共に出て行くことになる。そうヒトラーは見ている。日本文化とドイツ文化が工場を世界に広めている。さあ、どうなりますか??





国際戦略コラムno.2550. 日本の役割とは 2006.12.17


日本の戦略とは、に答えようとしたが、日本には役割しかない。
                     Fより

日本の戦略とは何かという質問があるが、日本国民がどうなりたいかがないために、日本は政治的な意味で世界戦略がなく、米国依存外交に終始している。それで日本経済は成長でき十分満足していた。

しかし、日本企業は欧米企業と競争して成長する段階に入り、世界展開し始めている。成長の段階で貿易摩擦が起きて、日本企業は世界に工場を建てて、日本製品を世界に輸出することから、世界で作り、世界に売ることを目指すようになっている。

最初に東南アジアに工場を建てた松下電器は、東南アジアの人たちに時間を守ることから教えたという。その国の教育カリキュラムを識字率向上、時間を守るなど工場勤務できる教育に変えている。

そして、製品の高度化に従い、TQCを導入したり、幹部には松下イズムを教えたり、その国の文化に松下イズムという日本文化を教えている。この松下方式をその後、ホンダもトヨタ、スズキなどが世界に展開して、日本文化を伝道している。

企業が日本文化を伝道するという新しい方法が日本文化を世界に広めることになっている。欧米企業はマニュアル化して、そのマニュアルで世界展開したが、品質の確保ができずに日本製に負けた。

そして、バブル崩壊後、マツダを支援したフォードは幹部をマツダに送ったが、その幹部が日本対人手法を米フォードに持ち帰っている。日本文化が企業と共に在るのはもう1つ、海外に展開した企業に派遣される日本人を対象にした日本食の店ができて、そこで欧米人、世界の人たちが味を知ることになる。特に、寿司などの生魚を食べるとか豆腐、天ぷらなどは、米国の中都市にはどこにでもある風景になっている。しかし、その経営は中国人や韓国人、米人などで、本当の日本食の味になっていないが、流行っている。マンガなどの文化も同様に世界に広まっている。

このような日本文化の世界展開はなぜ起こるかというと、日本企業の優れた品質の製品が、日本文化でしかできないことによっている。日本文化の特徴は、人に対する対応であると見ている。欧米文化、企業には形式知を重要視して、暗黙知を認めないし、その伝承方法がない。短期に人が移動するために、暗黙知を企業で蓄積ができない。

海外に進出した日本企業が現地企業に指導して、合弁工場を建てて、しかし途中で撤退すると、その後その工場の仕組みはそのままで、いつしか時代遅れになっているという。日本のような徒弟制度やTQCの仕組みが無いために、工場の生産技術が発展しない。

しかし、日本企業は徒弟制度でこの暗黙知を伝承しようとする。このため、長く勤めてもらう仕組みができている。それが、悪名高い年功序列の給与体系であったりするが、基本的に仕事を通じて、いろいろな暗黙知を上下関係で伝える仕組みになっている。これが製造業に重要なために、日本企業が世界から今、厚い視線を持って迎えられる理由である。

欧米が植民地主義であった時代、まず、キリスト教の宣教師をその地域に入れて、その地域の人たちを宣教し、その後、軍隊が植民地にした時代があった。これとは違い、日本は無目的で企業が日本文化の宣教をしている。この無目的性が日本のいい所である。日本文化が世界に広まり、日本に期待が集まる。日本の役割は、世界に日本文化である日本企業イズムを教育していることで、パックス・ジャポニカを無意識で行っていることである。



国際戦略コラムno.2531. 日本経済の構造変化と政治について 2006.11.26


日本経済の構造変化が起きている。その過程でいろいろな問題を起き、かつ政治を変革することになる。この考察。    Fより

日本経済を主導している企業の構造が変化してきている。この構造変化が、契約社員・パートなどを生み出し、かつその構造がないと日本企業は中国などの企業に負けることになっている。世界市場の変化が起きている。製造業は世界的に拡散しているためにその付加価値が低くなっている。一方、資源が偏在して、かつ少ないために付加価値が増している。このため、資源が高騰して、工業製品が下落することになる。この変化で日本のように資源が少なく加工貿易で生きてきた豊かな国は、大きな試練に突き当たる。

中国の企業を見ていると、日本の製造業より元気がいい。中東やアフリカなど発展途上国向けの商品は飛ぶように売れている。しかし、日本製に比べて30%程度安くても、中国企業は大きな利益を得ている。この秘密が労働コストが日本の10分の1以下であることであり、そのために利益が出るし、労働率が高いアセンブリや繊維、靴製造などが優位になる。

日本の経済は世界と直結している。このため、中国との関係や米国との関係が、直ぐに日本企業の業績に反映されるし、日本の食卓の材料に影響を受けることになる。中国との競争や今後、タイ・ベトナムとの競争もあり、安い非正規社員を多くしないと企業は競争できない。この非正規社員が多くなることで、国内での購買力は大きく落ちることになる。正社員でも年功序列の給与体系ではなくて、成績が悪いと給与は上昇しない。薄給のままで年だけが上がることになる。貧富の差が激しくなって、多くの庶民は子供も生めない状態である。子供を生んでも教育費が嵩み、高等教育を受けさせることが出来にくくなっている。国立大学も独立法人になって、授業料は大幅に値上げさせている。機会の平等を確保できない社会になってきている。日本人の平均的な知能劣化に結びつく可能性が出てきている。

しかし、ハッキリしているのが日本は食べる物には困らないし、今の生活で欲しい物は何もないというように最低限の必要な物は揃っている。人口減少になると親の家財道具を貰う貧乏家族が増え、国内需要が大きく後退して、日本市場だけでは企業は利益を得られなくなる。1960年代、70年代のような国内消費で高度成長をした時代が2度と来ないことは確かである。

このため、企業としては、益々世界に出て企業活動をする必要が出てくる。企業は積極的に世界に投資している。それも中国やロシアなどの資源国家や中進国家で、経済成長の大きな国に投資をしている。この投資が高収益の基盤である。企業は政治的なリスクが高い国家への投資が一番利益が出て、欧米などの政治的な低リスク国への投資では利益が出ない状態である。

高学歴でない一般庶民は日本国内にいるしかなくて、スーパーや工場や保守などの国内企業の低賃金でかつ非正規社員に甘んじるしかない。そして、一般庶民は不満が高じるが、その不満をぶつける先がなく、中国や韓国など近隣諸国へ不満をぶつけるナショナリズムに陥ることになる。しかし日本企業は投資をしている世界、特に中国、タイ、ベトナムなどの低賃金労働や市場としての欧米、ロシア、中国などの先進中進国家といい関係を保つ必要があり、この意味で一般庶民感情と日本経済を推進する企業の利害や感情が相反してくることになる。

ここに、次の日本の政党の思想ポジショニングが存在するように感じる。国内優先か、世界優先か、ローカル対グローバルの対立点が存在する。世界と向き合う企業は世界的な問題とも向き合う必要が出てくる。この解決には現実主義で望むのか、理想主義で望むのかの2つが出てくる。

日本の政治は、日本の国民感情と企業利益がぶつかり、米国の政治状況と似た状態になると見ているが、どうなりますか??




太田述正コラム#1534(2006.11.28) <あるスタンフォードMBAと日本の産業の将来>


1 始めに

 約30年前のある夜、スタンフォードに留学していた私のマンションタイプの寮を、技術系の日本人の友人に連れられて、一人の日本人の青年が訪れてきました。服部純市と名乗ったその青年は、友人の話では、セイコー・グループの創業家の御曹司なのだというのです。服部氏は、スタンフォード・ビジネススクールに留学することを考えているので、先輩諸氏からアドバイスをいただきたいと思って訪米した、と語りました。その時、私は、ビジネススクールなんてハクをつけるだけで実際には物の役に立たないよ、あなたはハクなどつける必要がないのだから、MBAを取得する必要はないでしょう、と言ったような記憶があります。これは、ビジネススクール同期の日本人の大方の意見でもあったのですが、後から考えたら、浅はかな間違いでした。2年間のビジネススクール教育こそ、私の今日のクリティカルな物の見方を決定的に形作ったことを、10年くらい前から自覚するようになったからです。そんなアドバイスにもめげず、服部氏は、ビジネススクールに留学した、と後で聞きました。その服部氏が、11月16日付でセイコーインスツル(SII)代表取締役会長兼社長代行の職を解任されたことを昨日、あるコラムを読んで知りました。

2 服部氏の主張

 このコラムによれば、セイコーグループの中核企業であり、大手電子部品メーカーでもある企業のトップとしては、服部氏はいささか過激な主張を唱えていたというのです。その主張とは次のようなものでした。

 日本経済不振の真の原因はバブル崩壊ではなく、日本を牽引していた製造業の不調だ。 例えば、日本の時計産業はクオーツ技術により世界一の座を占めたが、生き残ったスイスの時計メーカーが、高級機械式時計を中心に世界のリーダーに返り咲いている。これは、クオーツにシフトした結果、日本の時計メーカーは機械式時計を作る技術を失ってしまったためだ。日本はブランド戦略でも負けたが、技術でも負けたのだ。 そもそも、クオーツ技術だって開発したのはスイスの方が先だ。日本メーカーは部品から完成品まで手がける垂直統合型を取っており、一気にクオーツへ切り替え、量産に踏み切ることができた、というだけのことだ。これからは、価格・機能・品質「以外」の新しい付加価値・・「匠(たくみ)」・・が重要であり、日本企業はそのためのテクノロジーを追求する必要がある。日本は、新しい「匠」のテクノロジーを開発して高付加価値製品を考案する。そのノウハウを発展途上国に提供し、完成品を作ってもらう。日本はノウハウのロイヤルティーを得てもいいし、途上国へ投資し、そこからリターンを得てもいい。日本のものづくりは空洞化してもかまわない。

3 服部氏の主張の評価

 これは恐ろしい主張です。服部氏の主張をより一般的な形で言い換えると次のようになります。

 工業製品には2種類のタイプがある。一つは、摺り合わせ型(インテグラル型)であり、自動車や精密機械のように、部品を相互に細かく調整して、隙間無く組み上げていくことによって全体としてうまく機能するタイプだ。(自動車の90%以上の部品は,その企業グループでしか通用しない特殊設計部品。)もう一つのタイプは,モジュール型(組み合わせ型)であり、デスクトップパソコンや自転車のように、一般の汎用部品の寄せ集めでもそれらを組み立てればまともに機能するタイプだ。日本は昔から伝統的な熟練技術者が多かったことと、日本型経済体制の下、水平的な情報共有度・・企業内組織間の情報共有度や組み立てメーカーと部品メーカー間の情報共有度・・が高かったことから、摺り合わせ型に強かった。

 しかし、デジタル技術の進展、半導体技術の飛躍的進展によって、ここのところ、急速にモジュール型の製品が摺り合わせ型の製品に取って代わりつつある。しかも、日本の熟練技術者の宝庫であり、日本の産業基盤であった中小企業は衰退しつつあり、日本型経済体制もまた、グローバライゼーションのかけ声の下で崩壊しつつある。


そもそも、安い人件費を求めて中小企業が中共等に流出している上、人材難・中共製品の流入などによる中小企業の経営環境悪化・少子化・骨の折れる仕事を避け公務員やサラリーマンを選ぶ風潮等により、中小企業は後継不足にあえいでいる。20年前は子供が中小企業の家業を継ぐ割合は79%だったが、今ではこの割合が41%にまで落ち込み、このためもあって、2004年度の日本の中小企業経営者の平均年齢は57.33歳。1982年は52.08歳と、中小企業経営者の高齢化が急速に進んでいる。


 だから、摺り合わせ型製品における日本の強みは減衰しつつある。ではモジュール型製品ではどうか。モジュール型製品においては、各モジュール分野で世界的にみて圧倒的な競争力を持つ企業に付加価値の大半が流れてしまうという現象が起こっている。しかし、パソコンにおいて、半導体や基本ソフトなど、コアになるモジュールはインテルやマイクロソフトのような米国企業の独占状態であることからも分かるように、日本企業はコア・モジュールの研究開発能力において、米国企業に比べて劣っている。しかもモジュール型製品の生産(組み立て)基地としては、人件費が低い中共等に日本は逆立ちをしてもかなわない。


 よって、日本企業は、機能・品質に係る研究開発や、価格に係る生産、以外の何かを追求する以外に生き残る手段はない。その何かを私は「匠」と名付けた。

4 感想

 もともと求道者的であった服部氏は、ビジネススクールに留学して、一層その洞察力や予見力に磨きがかかったのでしょうね。彼が学者になったのならそれでよかったのです。問題は、彼が生まれつき日本の企業を経営をする立場に置かれていたことです。その企業が、どれだけ努力しても確実に衰退していく将来が見えていた彼に、そう言われ、だから「匠」・・私に言わせれば、青い鳥以外の何物でもない・・を追求するほかない、と言われた部下や大株主等がどんなに当惑し、反発したかは想像に難くありません。それが、服部氏の解任につながったのでしょう。
 しかし、服部氏の主張を日本の製造企業論ととらえた時、その99%は間違っていません。青い鳥はいないのですから、われわれは、日本の企業の技術開発力を高め、かつ日本を生産基地として再生させる方法を必死になって求めなければならないのです。それができなければ、日本の産業の空洞化は、とどまるところなく進行していくことでしょう。




【私のコメント】
「無形化世界の力学と戦略」は10年前に書かれた本であるが、その内容の斬新さには驚くばかりである。また、この本の出版後に起きた国際情勢激変の分析にもこの本は非常に有用である。

空軍力になぞらえたマスコミの力の分析について、この本では、空軍の爆撃では都市攻撃と工場攻撃はほぼ同等の攻撃力を持つが、マスコミの力は報道対象領域では非常に強いが対象以外の領域の大衆はマスコミにシニカルで飽きやすく急速に陳腐化するという決定的な違いがあり、それを踏まえた上でマスコミの空軍力による経済力=陸軍への支援を行っていく必要があるとしている。

最近の日本の韓国ブームはおそらく捏造されたものであると思われるが、海外旅行に興味を持つ人にマスコミが訴えかける結果韓国に旅行する日本人が増加した一方、韓国芸能人のブームは大量に報道されることで急速に陳腐化し、一般大衆に韓国芸能人=陳腐なものという負のイメージを植え付けるのに成功したと思われる。海外旅行に興味を持つ人は多いが、韓国芸能人に興味を持つ人は少ないことがこのような格差を生んだのだろう。韓国側から見ると日本からの旅行者が増加し、日本のマスコミで韓国芸能人情報が溢れているにも関わらず、日本人は芸能情報を通じて韓国への負の印象を強めているのだ。一般大衆の飽きやすさを逆手に取った実に巧妙な作戦である。

政治や外交に関心を持つ人々に対しても、一部の大手新聞で自虐史観報道を大量に流しつつ、他の大手新聞やブログ、2chなどでそれに反する情報を流すことで、国民世論を反韓国に誘導することに成功している。韓国から見ると、マスコミでは依然として多くの自虐史観報道が行われているにも関らず、日本人は自虐史観から離れ韓国への好感度を低下させるという訳の分からない状態と見なされているのではないだろうか?

ところで、太田述正氏は近未来の日本の製造業について、悲観的な見方をしている。機能・品質に係る研究開発や、価格に係る生産、以外の何かである「匠」を追求するか、日本の企業の技術開発力を高め、かつ日本を生産基地として再生させる方法を必死になって求めなければ、日本の産業の空洞化は、とどまるところなく進行していくとしている。

国際戦略コラムのF氏も、日本企業が世界に日本文化を広めることで日本は繁栄可能だが、そのような企業に関係を持たない一般庶民は低賃金労働に苦しみ、国内優先と世界優先の間で対立が起きると予測している。これは、トヨタなどの日本の一流企業がロスチャイルドやロックフェラーの様な国際金融資本に変身するという悪夢をも想像させるものだ。

これに関して、「無形化世界の力学と戦略」の長沼真一郎氏は、欧米・インド・中国などの巨大人口を持つ地域が一丸となって製造業分野に参入して日本を圧倒し、日本の製造業での優位性という唯一の強みが失われるという悪夢の様な事態を予測している。そして、その様な事態で日本が生き延びる為には、陸軍的な経済力一辺倒の現在の体制から脱して海軍的な知的制海権を掴むしかないと断言する。また、大陸から適度に離れ、ユーラシア大陸のいずれの文明にも属さない日本は海軍的な国家を目指すのに適していると主張する。

実に刺激的で大胆な提言だが、20世紀のアングロサクソン・ユダヤ連合の様に「知的制海権」を掴むには、世界に覇権国と認められ、世界の国々に希望のもてる未来像を常に提案しそれを実現していく必要があると思われる。そして、日本の規模でそれが可能かどうかというのが一つの難題であると思う。知的制海権を掴むとしても、独仏・ロシア・北米と共同という形態がせいぜいであろう。ただ、部分的にでも知的制海権を取れるならばそれは非常に好ましいことだが。また、知的制海権だけは保有していても、それを支える経済力が失われた状態では日本の国家としての生き残りは困難なように思われる。金融力は維持しているが製造業を殆ど失った最近の英国と同じ様な苦境に置かれるのが目に見えている。結論としては、日本は単独で世界覇権を取ることは不可能であり、製造業での優位性を失いつつもある程度維持しつつ知的制海権で部分的に世界覇権をとることを目指すしかないだろう。この路線は、20世紀後半のフランスが手本になると思われる。フランスが得意とする高級ブランドも、機能・品質や価格での優位性は乏しく、それ以外の何かである「匠」を既に実現していると思われる。

イラク攻撃の正当性を巡る国連での米英vs独仏露の対決は、国際法の運用を決定する能力を巡る知的制海権の世界での対立でもあった。独仏連合は米英の主張に正義がないことを公の場で批判し、米国は正義がなくとも卓越した軍事力で自己の主張を貫き通すことができることを示した。「国際法の運用を決定する力」が正当性と国力(敵国を軍事的・経済的に破滅させる力)の二つから成るとすれば、現在は独仏連合と米国がそれを分け合っている状態であると思われる。世界を納得させる正義もなく、かといって自己の主張を貫き通す国力も持たず、飼い犬のように米国に従順に従うしかない英国は従来米国と共に共有してきた「国際法の運用を決定する力」を決定的に失いつつあり、イラク攻撃の真の敗者なのだと思われる。今後の日本は、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教のいずれも国内にほとんど信者がいない、世界でほぼ唯一の多神教の大国という特徴を生かして、上記三宗教間の対立(特にイスラエル問題)の仲介者として活躍することで世界に「正義」を主張し、それを通して「国際法の運用を決定する能力」を他の列強と共有するのが一番良いと思われる。インド・中国・タイも多神教国家だが、少数民族としてイスラム教徒を国内に抱えており、一神教間抗争の仲介役は不可能である。
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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-01-01 14:33:59
>その様な事態で日本が生き延びる為には、陸軍的な経済力一辺倒の現在の体制から脱して海軍的な知的制海権を掴むしかないと断言する。

多分、今は集中の為に方向性を限定すべき時ではなく、どのような方向性が在るか、それを知る努力が必要な時でしょう。

産業によって、答えが異なるらしい。

自動車業界は、日本の自動車企業が米自動車企業に多数買収されたが、モジュール型のアメリカ企業がこけ、擦り合わせ型のトヨタが残っているという逆転現象が起きた。

他方、モジュール型で有名なパソコンには日米間にそのような逆転現象は見られないが、そこからスマイルカーブなど、モジュール型の産業においてどのような技術開発に注力すべきか、参考になる話が生まれている。

何が擦り合わせ型とモジュール型の産業の違いを生む要因なのか。それも知りたい。

知的制海権と言うよりは、文化基盤制海権と言う方が妥当かもしれないが、Appleがソニーを破った流れも見逃せない。iTuneの面白い所は邦楽だけでは無く、種々の文化圏に属する音楽を同じように扱う基盤だと言う所にある。ただし、寄生虫的でもある。日本国としては、妥当な対抗を見出す必要があるでしょう。

私個人が知らないだけですが、フランスやイタリアの「ブランド物」の方法論と利不利も知りたいところ。

消費者から見れば、あるいは業界人から見れば等の視点の違いはあるでしょうが、これらで上手く行っている所には「匠」「巧み」が在るように見えるでしょう。

日本国の経済産業政策としては、100%は無理でも大方の日本人が良く生きられ、なおかつ国家の安全が保てるように、日本国にはどのような産業があり、国内に如何に配置されるのが望ましいかを問う事になるでしょう。

エネルギーに鉱物等の必要資源確保の問題、人口動態と労働人口の問題、時として個々の企業の利益には反する安全保障上の問題、曖昧ではありますが国民の豊かさの問題、これまで無視してきた家庭のあるべき姿との整合性、全て加味した上でという遠大な作業ですが。

それでも、理想的な解があるかは別問題ですが。そこまでしないと、
>世界でほぼ唯一の多神教の大国という特徴を生かして、
というのは、難しいでしょう。ある程度は自己を相対化できていないと、相手を知ることも難しく、まともな交渉や議論は困難でしょう。自分が何をしているか、わからないといけない。最終的には、相手の文化文明圏の方に自ら答えを出して貰う必要も、時にはあるでしょうし。
返信する
Unknown さんへ (princeofwales941)
2007-01-02 17:45:07
>知的制海権と言うよりは、文化基盤制海権と言う方が妥当かもしれないが、Appleがソニーを破った流れも見逃せない。iTuneの面白い所は邦楽だけでは無く、種々の文化圏に属する音楽を同じように扱う基盤だと言う所にある。ただし、寄生虫的でもある。日本国としては、妥当な対抗を見出す必要があるでしょう。


iTune, iPodをアップル社が発売できたのは、著作権問題という知的制海権に属する分野で覇権を持つ米国の企業だったからだと思います。

新しい分野の商品を開発すると、それによって打撃を受ける業種からの反発が世界的規模で起こります。そして、その対立の解決策を決定するのは知的制海権の覇権を持つ国なのです。「知的制海権」には、何が合法で何が違法かを決定する力があります。マイクロソフトやインテルが日本企業などに違法と思われる圧力をかけて自社製品を採用させてきたのも、この「知的制海権」の力があると思われます。

日本としては、最近の米国のように自国商品を押し売りするためではなく、画期的新商品を開発・発売するためにこそ、「知的制海権」の覇権を部分的でよいから手に入れる必要があると思います。そして、そのためにはドイツに対するフランスのような安全保障上の利害を共有する信頼できるパートナーが必要です。

1.米国分裂後の西海岸国家+オーストラリア(太平洋アングロサクソン勢力)

2.ロシア

3.台湾+上海+香港・広州

上記三つの地域のいずれか、あるいは複数と組んでいく以外に方法はないように思います。
返信する
princeofwales941さんへ ()
2007-01-02 23:46:18
お返事ありがとうございます。
名前を入力しておらず失礼いたしました。

>新しい分野の商品を開発すると、それによって打撃を受ける業種からの反発が世界的規模で起こります。そして、その対立の解決策を決定するのは知的制海権の覇権を持つ国なのです。

知的制海権は、法に絡む問題での力だけに決定的なのですね。

>上記三つの地域のいずれか、あるいは複数と組んでいく以外に方法はないように思います。

おっしゃる通りと思います。

私が経営関係の話に興味あるもので、私の投稿内容はそちらに偏ってしまっていて、その点は申し訳ないのですが、ご容赦をお願いいたします。

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9980774274
念頭にあったのは、こういう民間企業のイノベーションについての話と国家戦略の整合性です。

ご指摘の三地域のいずれか、または複数と組むと一口に言っても、具体的には国家・地方自治体レベルで組んだり、個々の民間企業同士が組むというような形になると思われます。しかも、地域毎・産業毎に異なる組み方でしょう。

では、何について、誰と、どういう組み方をすれば知的制海権を部分的にでも取れるか?この具体的な段階では、国家戦略と個々の企業の経営戦略、この両輪が必要不可欠と考えています。

地域をまたいで、
JISとANSIのような規格的な所を摺り合わせたりするのか?何らかの目的を持った業界団体を作るのか?それに合わせて法制度等を作るのか?ブルーレイ対HDDVDで見られた企業団体レベルでの合従連衡で他地域勢力に負けない為にはどういう場作りが必要か?以前から言われるデファクトスタンダード作りで主導権を持つ一員になるには?質・規模の力で他地域に押される場合はどう対応するか?

具体的な知的制海権の取り方は、多様にあると思いますが、自分の手札とその重要性は知っておかねばなりません。

政府の人間は産業を、産業の人間は国家安全保障を、相互に知り合わねば上手く行かないでしょう。そんな思いから、投稿いたしました。
返信する
秀逸の論文 (masafi)
2007-01-07 02:42:35
良い内容の論文が掲載されていました。
戦術と戦略面の解説に感心しました。
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/edajima/post_161.html掲載日(7日前編、14日中篇、21日後編予定) 今回は、平成十九年新春を記念して、「日本のインド洋戦略」を、その歴史的経緯、蹉跌を見ていくことで、検討してみたい。  日本人は、海というと、日本海や東シナ海、太平洋を思い浮かべる。たしかに、近世以前の日本人にとって、海とはこれらを指していた。しかし、近世以降、具体的には、大航海時代を経て、地球が「グローバルな一つの経済圏」として認識されてくるようになると、より重要な意味を持つのは、インド洋になった
返信する

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