●NO.653 イスラエル国民の本音 投稿者: 佐々木良昭 : 2007年07月16日
1年数ヶ月ぶりでイスラエルのテルアビブを訪問した。ここで決まって会うのは、一人のビジネスマンと、一人の元外交官兼学者兼作家兼軍人だ。それ以外にも大学教授や弁護士といった知人たちもいるが、時間に制約があるときは上記の二人に絞って会うことにしている。定宿はテルアビブのシェラトン・ホテルだが、それは知人の家から比較的近いことと、一般のイスラエル国民の生活の様子が見えるからだ。今回もホテルの部屋からは、海岸を散歩する年配者や、海水浴を楽しむ若者の姿が見えた。しかし、これまでと違って、何故かイスラエル国民の動きに、以前にあったような活発さを感じないし、人口が減っているような印象さえ受けた。もちろんそんなことは無いのだろうが、今回の訪問でそう感じさせる何かが、今のイスラエルにはあるようだ。
知人の一人と会ったのは到着した日の午後5時、ホテルの喫茶店だった。彼は最初に第三次中東戦争でイスラエルを勝利に導いたモシェ・ダヤン将軍の批判を始めた。彼とモシェ・ダヤン将軍とは幼馴染だったと語った、第三次中東戦争からしばらくして、彼はモシェ・ダヤン将軍との交友を絶ったというのだ。批判といっても、それは単なるモシェ・ダヤン将軍に対する中傷ではなかった。彼が批判をしたのは、モシェ・ダヤン将軍が勝利のあと、非常に短時間でアラブ(パレスチナ)人社会に民主化を試みたことだった。1960年代当時のパレスチナ人には、民主化とは何か、民主主義とは何かがわからなかったのは当然であろう。結果的に、アラブ人はあまりにもまぶしすぎる民主主義を前に目がくらみ、勝手なことを誰もが言い始めるようになったというのだ。その弊害が今日なお、アラブ側では続いているのだと知人は語った。モシェ・ダヤン将軍と同じような間違いを、アメリカもイラクでしたとも語った。もしアメリカ軍がバグダッドを陥落したあと、4週間ほどの期間を戒厳令下に置き、その期間で新しい警察機構をイラクに構築していたら、今のような混乱には陥っていなかったろうというのだ。
モシェ・ダヤン将軍がなぜ、アラブに民主化を性急に進めようとしたのかについては、彼がトルコの建国の父、ケマル・アタチュルクにあこがれていたからだと語った。 イスラム世界の覇者であったオスマン帝国が、ヨーロッパとの戦争で敗北した。そして国家が切り刻まれようとしたとき、ケマル・アタチュルクはオスマン帝国から国を、近代システムの国家トルコ共和国へと変え、宗教と政治を切り離す世俗化を進めて成功した。それがあったから、トルコはその後イスラム世界の中では例外的に、近代国家へと発展することができたのだというのだ。
この知人の話の裏には幾つもの示唆が込められている。そのことを考えるだけでも、今後何年かの時間を必要とするかもしれない。彼は年齢もあるがなぜか、何故か敗北者のイメージを私に与えた。そして、それは私に何かをしてくれというメッセージでもあるように感じられた。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/post_34.html
●No.656 イスラエル国民の苦悩-2 :ビジネスマンの知人談 投稿者: 佐々木良昭 2007年07月22日
私よりも12歳若い彼は、最近では髪が薄くなってきたためか丸刈りにし、精悍な顔で現れた。彼に最初に会ったときは、どこか心なしか頼りなさそうな青年だったのだが、歳を重ねるごとに、人間はこうもしっかりした表情に変わるものか、と驚いたほどだった。彼の息子と娘は現在、徴兵で軍に入っている。前回訪問したときには、お嬢さんを伴って会いに来てくれた。彼女は軍関係のコンピューターの仕事をしているのだ、と語っていたが、ごくありふれた、やさしそうな表情のお嬢さんだった。その子が軍服を着て、M-16ライフルを担いで歩くようになるのだ。そのことに、イスラエル国民の誰も違和感を感じていない。彼らは自分の国を守ることは当然であり、徴兵制はその表われだと思っている。誰もが軍人になり、その後であらゆる分野で活躍するのだ。知人も軍隊時代に女性と知り合い、結婚したと以前に語ってくれた。
その自分の国を守ることは当然の義務だ、と考えていたイスラエル国民の間に、大きな疑問と不安がいま広がっている。それは昨年の夏に起こった、レバノンのヘズブラとの戦争による、敗北が尾を引いているためだ。イスラエル政府は、レバノンのヘズブラとの戦争をめぐり、調査委員会を結成し、綿密に敗北の原因、責任の所在を調べている。第一弾のレポートが出され、近く第二弾のレポートが出される予定だということだ。知人はレバノンのヘズブラとの戦争の敗北について、軍の幹部が全くでたらめだったことを指摘した。同時にイスラエル国民の間では、長期にわたる本格戦争が起こらなかったことから、ヘズブラとの戦争では完全な敗北を喫したのだと語った。
確かに、イスラエルが本格的な戦争をアラブとの間に行ったのは、1973年の第四次中東戦争であり、その後1982年に起こったレバノン戦争は、本格戦争というほどのレベルではなかった。その後、イスラエルが経験してきた戦争(??)は、パレスチナ人が石を投げて抵抗する、所謂インテファーダだけだった。知人はこのインテファーダへのイスラエル軍の対応について、「あれは軍隊ではなく警察の仕事だよ」と厳しい評価をしていた。それと、イスラエル政府が国民の安全を無視し、資金を個人的な利益のために運用することを考え過ぎていたとも語った。イスラエル北部を攻撃されて死者が出たのは、政府がシェルターを造らなかったからだとも説明した。
現在、イスラエル国民が、いかに政府や政治家、軍人を信頼していないかについて説明するために、彼はレストランの従業員一人ひとりに聞いて見せた。誰もが口をそろえて答えたのは、信頼に値する政治家も軍人も官僚もいない、というものだった。彼は現段階で、もしシリアが戦争を仕掛けてきたら、イスラエルは勝利できないだろうと語った。ヘズブラはレバノンの、たかがミリシア(私兵)の集団に過ぎないのに、イスラエル軍は敗北したではないか。それを見たシリアは、シリアも勝利できる、と思ったはずだというのだ。しかも、シリアのバッシャール・アサド大統領は、自分の父からの大統領職の禅譲を正当化するためには、ゴラン高原をイスラエルから奪還しなければならない、と考えているだろう。シリアにとっては、イスラエルを攻撃する、今が絶好のチャンスと思っているのではないか、ということだった。
シリアがイスラエルに対して戦争を仕掛ければ、レバノンのヘズブラやパレスチナのハマースが呼応して、イスラエルを攻撃することが十分に予測される。そればかりか、エジプトのガマール氏も、父親から大統領職を禅譲されるにふさわしい人物であることを証明するために、この戦争に参加するかもしれない。そうなれば、イスラエルは過去に例のない、アラブとの戦争で大敗北を経験することになるかもしれないのだ。知人はその不安を語り、ゴランを返還しても、シリアは次のことを要求してくるだろうから、平和な状態は生まれないだろうと悲観的だった。彼に言わせれば、アメリカの仲介によるシリアとの和平交渉も、アメリカが十分な仲介者として、将来のイスラエルの平和を保障してくれない、とも語っていた。
知人二人との会話で明らかになったことは、イスラエルの多くの国民がいま、過去に経験をしたこともないような、不安の中にいるということだ。もちろん表向きには、イスラエルは中東最強の軍事国家であり、アラブと戦おうが、イランと戦おうが、敗北しないと胸を張るのだが。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/no_52.html
●No.657 相互の信頼醸成とパレスチナ史掲載教科書 投稿者: 佐々木良昭 2007年07月23日
イスラエル政府が1948年の建国以来、初めてイスラエルの学校で使用する教科書の中に、アラブ人(パレスチナ人)のナクバ(破局)について記載することを決定した。そのこと自体は結構なことであろうが、パレスチナ人のナクバ(破局)についての記載は、イスラエル国内のアラブ人(パレスチナ人)の使用する教科書に限定している。つまり、イスラエルのユダヤ人が使用する教科書には、その記載は無いということだ。イスラエル政府は、イスラエル国内に居住するアラブ人(パレスチナ人)に対し、イスラエル国籍を与えているが、これでは教育面における、二重基準(ダブル・スタンダード)ということになる。
このままユダヤ人向けの教科書と、アラブ人(パレスチナ人)向けの教科書の内容が、異なる状態を維持していった場合、アラブ人のユダヤ人に対する憎しみは深まり、他方、ユダヤ人のアラブ人に対するアラブ人(パレスチナ人)に対する同情心や、ユダヤ人の感情には何の変化も生まれないということになろう。結果は、明らかな両者の対立感情の、エスカレートになるのではないか。歴史的な出来事については、お互いがお互いの立場で、同じテーマで考えるとき、そこには対話が生まれ、相互の理解が深まるということだ。イスラエル政府の今回の決定は、一見した限りでは正しいもののように思えるのだが、将来的には逆に相互の不信と敵意をあおることになろう。もちろん、イスラエル政府が段階を追って、イスラエルのユダヤ人に対しても、同一内容の教科書を配布するのであれば問題はあるまい。ちなみに、現段階まで使われているイスラエルのユダヤ人対象の教科書には、1948年戦争(第一次中東戦争)は「ホロコーストを生き延びた移民たちが独立を勝ち取った戦争」という表現になっているということだ。
一方は破局であり、他方は勝利の戦争、という表現では、必ずや対立を深める原因になろう。民族の敵意は、こうした安易な判断からは解決しないし、世界に対しても、イスラエル政府の措置が、正当なものであると説明することにはなるまい。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/no_53.html
【私のコメント】今月後半になって中東TODAYの佐々木良昭氏がイスラエルに関する興味深い記事を幾つか書いている。
「イスラエル国民の間に、大きな疑問と不安がいま広がっている。それは昨年の夏に起こった、レバノンのヘズブラとの戦争による、敗北が尾を引いているためだ。イスラエル政府は、レバノンのヘズブラとの戦争をめぐり、調査委員会を結成し、綿密に敗北の原因、責任の所在を調べている。知人はレバノンのヘズブラとの戦争の敗北について、軍の幹部が全くでたらめだったことを指摘した。」という部分だが、強大な軍事力を持つイスラエルが本気で戦ったなら敗北はしないはずだ。これは国際金融資本の世界覇権崩壊を自覚したイスラエル首脳がわざと敗北を演出したのだと想像する。その目的は恐らく近未来の自国の滅亡を国民に知らせることであり、今のうちに脱出の準備を始めよとのメッセージではないかと考える。
イスラエル国民のうち少数派のアシュケナジーは出身地域の東欧がEU圏に組み込まれたことでEUへの脱出がある程度は可能になるだろう。既にEU圏の市民権を獲得した者も多いというニュースもあった。一方、イスラム圏などを出身地とするスファラディは出身地域にユダヤ人への憎悪が存在する場合も多いと考えられ、脱出すべき安全な地域が存在しない者もいるだろう。また、ユダヤ人への憎悪の少ない地域であっても発展途上国で国内情勢が安定せず、出身地に戻っても生活できない者も多いと想像される。イスラエル国民の中の不安はスファラディにより強いのではないかとも想像される。
アラブ人向け教科書にパレスチナ人の破局が記載されると決定されたことの意味合いも非常に大きいと思われる。これはイスラエル政府が自らを加害者であると初めて公認したことを意味するからだ。今後ユダヤ人向け教科書の内容がそれを踏まえるかどうかに関わらず、イスラエル国内ではパレスチナ人がユダヤ人に対して政治的優位に立ち、謝罪や賠償、奪われた土地の返還などを強硬に求めることになるだろう。もはや、イスラエル政府自身が自国を滅亡させる陰謀に積極的に参加し始めた様に思われる。
「モシェ・ダヤン将軍が第三次中東戦争での勝利のあと、非常に短時間でアラブ(パレスチナ)人社会に民主化を試みたためにパレスチナ人は自分勝手になった、その理由はトルコの建国の父、ケマル・アタチュルクにあこがれていたから」との元イスラエル外交官の意見が何を示唆しているのかは難しい。
今私が思いつくのは、モシェ・ダヤン将軍は自国を敗北させることを当時から望んでいたのではないか、というものだ。自国を敗北させた後でイスラエルをアラブ人国家とユダヤ人国家に分割し平和共存することでイスラエルの未来を切り開く意図だったのかもしれない。もう一つの考え方としては、イスラエルを滅亡させ、アシュケナジーを元の欧州に移住させることでイスラム教徒の憎悪に取り囲まれて生きていくという状況から脱出する意図だったことも考えられる。
「ダヤン将軍はケマル・アタチュルクにあこがれていたから」という部分も非常に興味深い。オスマン帝国末期と同様に現在のイスラエルも支配地域内の反乱勢力に苦しんでおり、パレスチナ自治国家の成立によって国家が切り刻まれようとしている。ダヤン将軍はその様な未来を予測した上で、アシュケナジーだけを救うための解決策の準備を始めたのかもしれない。アタチュルクが当時の世界支配者であった国際金融資本に協力してオスマントルコの支配階層を救ったように、ダヤン将軍はイスラエルを建国した国際金融資本に代わって反国際金融資本陣営が近未来の世界支配者になると想像し、彼らに協力してイスラエルの支配階層であるアシュケナジーを救うつもりだったのかもしれない。1953年のジューコフ元帥によるソ連での政変、アイゼンハワー・ニクソン・ケネディといった第二次大戦に従軍した政治家が米国の大統領・副大統領になることにより、米ソ両国で反国際金融資本陣営の勢力は当時既に高まりつつあったからだ。
いずれにせよ、イスラエルが何らかの形で滅亡することは避けられないだろう。しかし、ギリシャ系ユダヤ人を母親に持つサルコジがフランス大統領に就任したことは、欧州出身のユダヤ人をEUは受け入れるというメッセージでもあるように思われる。中近東出身のスファラディは近親憎悪のためか、パレスチナ人に対してより強硬な政策を支持する者が多いとされるが、彼らはこのままならばアシュケナジーの脱出後にイスラエルに取り残されてパレスチナ人の強い憎悪を一身に浴びて大虐殺されるという悲惨な生贄の運命を辿ることになりかねないだろう。
1年数ヶ月ぶりでイスラエルのテルアビブを訪問した。ここで決まって会うのは、一人のビジネスマンと、一人の元外交官兼学者兼作家兼軍人だ。それ以外にも大学教授や弁護士といった知人たちもいるが、時間に制約があるときは上記の二人に絞って会うことにしている。定宿はテルアビブのシェラトン・ホテルだが、それは知人の家から比較的近いことと、一般のイスラエル国民の生活の様子が見えるからだ。今回もホテルの部屋からは、海岸を散歩する年配者や、海水浴を楽しむ若者の姿が見えた。しかし、これまでと違って、何故かイスラエル国民の動きに、以前にあったような活発さを感じないし、人口が減っているような印象さえ受けた。もちろんそんなことは無いのだろうが、今回の訪問でそう感じさせる何かが、今のイスラエルにはあるようだ。
知人の一人と会ったのは到着した日の午後5時、ホテルの喫茶店だった。彼は最初に第三次中東戦争でイスラエルを勝利に導いたモシェ・ダヤン将軍の批判を始めた。彼とモシェ・ダヤン将軍とは幼馴染だったと語った、第三次中東戦争からしばらくして、彼はモシェ・ダヤン将軍との交友を絶ったというのだ。批判といっても、それは単なるモシェ・ダヤン将軍に対する中傷ではなかった。彼が批判をしたのは、モシェ・ダヤン将軍が勝利のあと、非常に短時間でアラブ(パレスチナ)人社会に民主化を試みたことだった。1960年代当時のパレスチナ人には、民主化とは何か、民主主義とは何かがわからなかったのは当然であろう。結果的に、アラブ人はあまりにもまぶしすぎる民主主義を前に目がくらみ、勝手なことを誰もが言い始めるようになったというのだ。その弊害が今日なお、アラブ側では続いているのだと知人は語った。モシェ・ダヤン将軍と同じような間違いを、アメリカもイラクでしたとも語った。もしアメリカ軍がバグダッドを陥落したあと、4週間ほどの期間を戒厳令下に置き、その期間で新しい警察機構をイラクに構築していたら、今のような混乱には陥っていなかったろうというのだ。
モシェ・ダヤン将軍がなぜ、アラブに民主化を性急に進めようとしたのかについては、彼がトルコの建国の父、ケマル・アタチュルクにあこがれていたからだと語った。 イスラム世界の覇者であったオスマン帝国が、ヨーロッパとの戦争で敗北した。そして国家が切り刻まれようとしたとき、ケマル・アタチュルクはオスマン帝国から国を、近代システムの国家トルコ共和国へと変え、宗教と政治を切り離す世俗化を進めて成功した。それがあったから、トルコはその後イスラム世界の中では例外的に、近代国家へと発展することができたのだというのだ。
この知人の話の裏には幾つもの示唆が込められている。そのことを考えるだけでも、今後何年かの時間を必要とするかもしれない。彼は年齢もあるがなぜか、何故か敗北者のイメージを私に与えた。そして、それは私に何かをしてくれというメッセージでもあるように感じられた。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/post_34.html
●No.656 イスラエル国民の苦悩-2 :ビジネスマンの知人談 投稿者: 佐々木良昭 2007年07月22日
私よりも12歳若い彼は、最近では髪が薄くなってきたためか丸刈りにし、精悍な顔で現れた。彼に最初に会ったときは、どこか心なしか頼りなさそうな青年だったのだが、歳を重ねるごとに、人間はこうもしっかりした表情に変わるものか、と驚いたほどだった。彼の息子と娘は現在、徴兵で軍に入っている。前回訪問したときには、お嬢さんを伴って会いに来てくれた。彼女は軍関係のコンピューターの仕事をしているのだ、と語っていたが、ごくありふれた、やさしそうな表情のお嬢さんだった。その子が軍服を着て、M-16ライフルを担いで歩くようになるのだ。そのことに、イスラエル国民の誰も違和感を感じていない。彼らは自分の国を守ることは当然であり、徴兵制はその表われだと思っている。誰もが軍人になり、その後であらゆる分野で活躍するのだ。知人も軍隊時代に女性と知り合い、結婚したと以前に語ってくれた。
その自分の国を守ることは当然の義務だ、と考えていたイスラエル国民の間に、大きな疑問と不安がいま広がっている。それは昨年の夏に起こった、レバノンのヘズブラとの戦争による、敗北が尾を引いているためだ。イスラエル政府は、レバノンのヘズブラとの戦争をめぐり、調査委員会を結成し、綿密に敗北の原因、責任の所在を調べている。第一弾のレポートが出され、近く第二弾のレポートが出される予定だということだ。知人はレバノンのヘズブラとの戦争の敗北について、軍の幹部が全くでたらめだったことを指摘した。同時にイスラエル国民の間では、長期にわたる本格戦争が起こらなかったことから、ヘズブラとの戦争では完全な敗北を喫したのだと語った。
確かに、イスラエルが本格的な戦争をアラブとの間に行ったのは、1973年の第四次中東戦争であり、その後1982年に起こったレバノン戦争は、本格戦争というほどのレベルではなかった。その後、イスラエルが経験してきた戦争(??)は、パレスチナ人が石を投げて抵抗する、所謂インテファーダだけだった。知人はこのインテファーダへのイスラエル軍の対応について、「あれは軍隊ではなく警察の仕事だよ」と厳しい評価をしていた。それと、イスラエル政府が国民の安全を無視し、資金を個人的な利益のために運用することを考え過ぎていたとも語った。イスラエル北部を攻撃されて死者が出たのは、政府がシェルターを造らなかったからだとも説明した。
現在、イスラエル国民が、いかに政府や政治家、軍人を信頼していないかについて説明するために、彼はレストランの従業員一人ひとりに聞いて見せた。誰もが口をそろえて答えたのは、信頼に値する政治家も軍人も官僚もいない、というものだった。彼は現段階で、もしシリアが戦争を仕掛けてきたら、イスラエルは勝利できないだろうと語った。ヘズブラはレバノンの、たかがミリシア(私兵)の集団に過ぎないのに、イスラエル軍は敗北したではないか。それを見たシリアは、シリアも勝利できる、と思ったはずだというのだ。しかも、シリアのバッシャール・アサド大統領は、自分の父からの大統領職の禅譲を正当化するためには、ゴラン高原をイスラエルから奪還しなければならない、と考えているだろう。シリアにとっては、イスラエルを攻撃する、今が絶好のチャンスと思っているのではないか、ということだった。
シリアがイスラエルに対して戦争を仕掛ければ、レバノンのヘズブラやパレスチナのハマースが呼応して、イスラエルを攻撃することが十分に予測される。そればかりか、エジプトのガマール氏も、父親から大統領職を禅譲されるにふさわしい人物であることを証明するために、この戦争に参加するかもしれない。そうなれば、イスラエルは過去に例のない、アラブとの戦争で大敗北を経験することになるかもしれないのだ。知人はその不安を語り、ゴランを返還しても、シリアは次のことを要求してくるだろうから、平和な状態は生まれないだろうと悲観的だった。彼に言わせれば、アメリカの仲介によるシリアとの和平交渉も、アメリカが十分な仲介者として、将来のイスラエルの平和を保障してくれない、とも語っていた。
知人二人との会話で明らかになったことは、イスラエルの多くの国民がいま、過去に経験をしたこともないような、不安の中にいるということだ。もちろん表向きには、イスラエルは中東最強の軍事国家であり、アラブと戦おうが、イランと戦おうが、敗北しないと胸を張るのだが。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/no_52.html
●No.657 相互の信頼醸成とパレスチナ史掲載教科書 投稿者: 佐々木良昭 2007年07月23日
イスラエル政府が1948年の建国以来、初めてイスラエルの学校で使用する教科書の中に、アラブ人(パレスチナ人)のナクバ(破局)について記載することを決定した。そのこと自体は結構なことであろうが、パレスチナ人のナクバ(破局)についての記載は、イスラエル国内のアラブ人(パレスチナ人)の使用する教科書に限定している。つまり、イスラエルのユダヤ人が使用する教科書には、その記載は無いということだ。イスラエル政府は、イスラエル国内に居住するアラブ人(パレスチナ人)に対し、イスラエル国籍を与えているが、これでは教育面における、二重基準(ダブル・スタンダード)ということになる。
このままユダヤ人向けの教科書と、アラブ人(パレスチナ人)向けの教科書の内容が、異なる状態を維持していった場合、アラブ人のユダヤ人に対する憎しみは深まり、他方、ユダヤ人のアラブ人に対するアラブ人(パレスチナ人)に対する同情心や、ユダヤ人の感情には何の変化も生まれないということになろう。結果は、明らかな両者の対立感情の、エスカレートになるのではないか。歴史的な出来事については、お互いがお互いの立場で、同じテーマで考えるとき、そこには対話が生まれ、相互の理解が深まるということだ。イスラエル政府の今回の決定は、一見した限りでは正しいもののように思えるのだが、将来的には逆に相互の不信と敵意をあおることになろう。もちろん、イスラエル政府が段階を追って、イスラエルのユダヤ人に対しても、同一内容の教科書を配布するのであれば問題はあるまい。ちなみに、現段階まで使われているイスラエルのユダヤ人対象の教科書には、1948年戦争(第一次中東戦争)は「ホロコーストを生き延びた移民たちが独立を勝ち取った戦争」という表現になっているということだ。
一方は破局であり、他方は勝利の戦争、という表現では、必ずや対立を深める原因になろう。民族の敵意は、こうした安易な判断からは解決しないし、世界に対しても、イスラエル政府の措置が、正当なものであると説明することにはなるまい。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/07/no_53.html
【私のコメント】今月後半になって中東TODAYの佐々木良昭氏がイスラエルに関する興味深い記事を幾つか書いている。
「イスラエル国民の間に、大きな疑問と不安がいま広がっている。それは昨年の夏に起こった、レバノンのヘズブラとの戦争による、敗北が尾を引いているためだ。イスラエル政府は、レバノンのヘズブラとの戦争をめぐり、調査委員会を結成し、綿密に敗北の原因、責任の所在を調べている。知人はレバノンのヘズブラとの戦争の敗北について、軍の幹部が全くでたらめだったことを指摘した。」という部分だが、強大な軍事力を持つイスラエルが本気で戦ったなら敗北はしないはずだ。これは国際金融資本の世界覇権崩壊を自覚したイスラエル首脳がわざと敗北を演出したのだと想像する。その目的は恐らく近未来の自国の滅亡を国民に知らせることであり、今のうちに脱出の準備を始めよとのメッセージではないかと考える。
イスラエル国民のうち少数派のアシュケナジーは出身地域の東欧がEU圏に組み込まれたことでEUへの脱出がある程度は可能になるだろう。既にEU圏の市民権を獲得した者も多いというニュースもあった。一方、イスラム圏などを出身地とするスファラディは出身地域にユダヤ人への憎悪が存在する場合も多いと考えられ、脱出すべき安全な地域が存在しない者もいるだろう。また、ユダヤ人への憎悪の少ない地域であっても発展途上国で国内情勢が安定せず、出身地に戻っても生活できない者も多いと想像される。イスラエル国民の中の不安はスファラディにより強いのではないかとも想像される。
アラブ人向け教科書にパレスチナ人の破局が記載されると決定されたことの意味合いも非常に大きいと思われる。これはイスラエル政府が自らを加害者であると初めて公認したことを意味するからだ。今後ユダヤ人向け教科書の内容がそれを踏まえるかどうかに関わらず、イスラエル国内ではパレスチナ人がユダヤ人に対して政治的優位に立ち、謝罪や賠償、奪われた土地の返還などを強硬に求めることになるだろう。もはや、イスラエル政府自身が自国を滅亡させる陰謀に積極的に参加し始めた様に思われる。
「モシェ・ダヤン将軍が第三次中東戦争での勝利のあと、非常に短時間でアラブ(パレスチナ)人社会に民主化を試みたためにパレスチナ人は自分勝手になった、その理由はトルコの建国の父、ケマル・アタチュルクにあこがれていたから」との元イスラエル外交官の意見が何を示唆しているのかは難しい。
今私が思いつくのは、モシェ・ダヤン将軍は自国を敗北させることを当時から望んでいたのではないか、というものだ。自国を敗北させた後でイスラエルをアラブ人国家とユダヤ人国家に分割し平和共存することでイスラエルの未来を切り開く意図だったのかもしれない。もう一つの考え方としては、イスラエルを滅亡させ、アシュケナジーを元の欧州に移住させることでイスラム教徒の憎悪に取り囲まれて生きていくという状況から脱出する意図だったことも考えられる。
「ダヤン将軍はケマル・アタチュルクにあこがれていたから」という部分も非常に興味深い。オスマン帝国末期と同様に現在のイスラエルも支配地域内の反乱勢力に苦しんでおり、パレスチナ自治国家の成立によって国家が切り刻まれようとしている。ダヤン将軍はその様な未来を予測した上で、アシュケナジーだけを救うための解決策の準備を始めたのかもしれない。アタチュルクが当時の世界支配者であった国際金融資本に協力してオスマントルコの支配階層を救ったように、ダヤン将軍はイスラエルを建国した国際金融資本に代わって反国際金融資本陣営が近未来の世界支配者になると想像し、彼らに協力してイスラエルの支配階層であるアシュケナジーを救うつもりだったのかもしれない。1953年のジューコフ元帥によるソ連での政変、アイゼンハワー・ニクソン・ケネディといった第二次大戦に従軍した政治家が米国の大統領・副大統領になることにより、米ソ両国で反国際金融資本陣営の勢力は当時既に高まりつつあったからだ。
いずれにせよ、イスラエルが何らかの形で滅亡することは避けられないだろう。しかし、ギリシャ系ユダヤ人を母親に持つサルコジがフランス大統領に就任したことは、欧州出身のユダヤ人をEUは受け入れるというメッセージでもあるように思われる。中近東出身のスファラディは近親憎悪のためか、パレスチナ人に対してより強硬な政策を支持する者が多いとされるが、彼らはこのままならばアシュケナジーの脱出後にイスラエルに取り残されてパレスチナ人の強い憎悪を一身に浴びて大虐殺されるという悲惨な生贄の運命を辿ることになりかねないだろう。
2007-07-29 16:18:10
第二の自作自演テロが迫る8月~9月に
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/nishida/post_319.html
原発も狙われる。ビデオを見て自己防衛あるのみ。
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/omnibus/post_325.html
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20080303_160019.html
明らかに自滅的な発言。ヴェルナイ国防副大臣のPFを確認できなかったが、この人もアシュケナジーなのだろうか。