エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-X-20

2024-03-10 13:27:16 | 地獄の生活
ただ、行動を開始する前に、フェライユールさんのお考えを聞くことがどうしても必要です……」
「それはどうも出来ない相談のようです」
「何故ですの?」
「フェライユール氏がどうなったのか、分からないからですよ。私だってですよ、復讐をすると誓ったとき、最初に考えたのは他でもないフェライユール氏でした。私は彼の居所を突き止め、ウルム街に走りました。ところがそこはもぬけの殻。あの不幸が見舞った翌日にはもう、彼は家財道具を売り払って、母親とともに出て行ったのです」
「それは存じておりますわ……。私がここに参りましたのは、あなた様に彼を探し出してくださるよう依頼をするためでした……。彼がどこに身を隠しているか、それを探し出すのなんて貴方様にとっては子供の遊びのようなものでしょう」
「まさか、お嬢様は私が探そうとしなかったとお考えなのではないでしょうね! 昨日一日中、私は捜索に奔走しておりました。近隣の住人に聞き込みをした結果、マダム・フェライユールを乗せた辻馬車は5,709の番号を付けていたことが分かりました。私は車庫に行きましてその御者の帰りを待ちました。彼が戻ってきたのは夜中の一時でございました……。この御者はマダム・フェライユールのことをよく覚えておりました。大量の荷物をお持ちだったからです。で、どこまで行ったと思われますか? ル・アーブル駅です。駅の係り員にそのたくさんの荷物をどこまで運んでくれと依頼なさったと思われます? ロンドンまで、です。今頃はもうフェライユール氏はアメリカに向かっていて、我々は彼の消息を聞くことはもう出来ないでしょう……」
マルグリット嬢は首を振った。
「それは間違いですわ」と彼女は言った。
「私は調べて得た事実をお伝えしているのですよ」
「そのことは否定しません……でもそれは見せかけだけです……私は見せかけ以上のことを知っています。フェライユールさんがどういう方なのか、あの方の性格を私はよく知っていますから。不名誉な中傷を受けたからといって、そんなものに圧し潰されるような人ではありません。表向きには姿を隠し、逃亡し、しばらくの間身を潜めているように見えますが、それは報復を確実なものにするためです。そうですとも、エネルギーの塊のような、強固な意志が人の姿をしているようなあのパスカルが、自分の名誉、愛する女、そして自らの未来を捨て去るような卑怯な真似をするものですか! 彼について恐れるものはただ一つ、ピストルの弾丸です……もし彼が自殺をしていないとすれば、まだ希望を持っている筈です。彼はパリから去ってはいません。私には分かります。確信があります……」
彼女の言葉はすべてフォルチュナ氏に対しては説得力を持たなかった。彼に言わせれば『センチメンタル』に過ぎなかった。
しかし、ここにはもう一人、若者がおり、この美しい娘のひたむきな思いに彼の心が呼び覚まされていた。今まで会った中で最も美しいこの娘の一途な献身と精神力の強さに、彼は心打たれ感嘆していた。彼は前に進み出、熱意に目を輝かせ、感動した声で言った。
「お嬢様のお気持ちはよく分かります。フェライユールさんはきっとパリにおられると思います。僕の名に掛けて、シュパンというのが僕の名前ですが、二週間以内にその方を探し出して御覧に入れます!」3.10


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