エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XIV-4

2025-02-04 11:47:08 | 地獄の生活
私は何か喋ろうとしました。何かを言わなくては、二人の間に割って入らなくては、と。でも身体が言うことを聞かないのです。私は一言も発することが出来ませんでした……凍り付いたようになって……。
二人はもとより一言も言葉を交わそうとしませんでした。兄は壁に掛けられていた武具一式の中から剣を二本外し、そのうちの一本をアルチュールの足元に投げ、こう言いました。
『貴様を殺したいわけではない……命を懸けて戦うのだ、出来るものなら!』
アルチュール・ゴルドンは交渉しようとし始めました。足元の武器を拾う代わりに時間稼ぎをしていると見て取ったか、兄は自分の剣でアルチュールの顔を叩いてこう叫んだのです。
『御託はいい、戦うんだ、卑怯者!』
その後は一瞬の出来事でした。アルチュールは自分の剣を拾い上げ、兄の方へ突進していくと、兄の胸に剣を鍔元まで突き刺したのです。
私は見ていました……アルチュールの指の間から血が噴き出るのを……兄がよろめき、空気を掴むような仕草をしたかと思うと力尽きて倒れるのを……。
私自身は、そこで気を失い、倒れてしまった……」
マダム・ダルジュレは立ったまま、前屈みになった。顔を引き攣らせ、瞳孔が異様に拡大しているその様子は、まるで彼女が意志の力で長い時の帳を切り裂き、今語っているその場面を現にその目で見ているかのようであった。
彼女は二十年間ずっとその苦しみに耐え、そこから恐怖を汲み尽くしてきたに違いなかった。そのため彼女の口から語られる内容は痛切な響きを持ち、ウィルキー氏でさえ、心を打たれたとまでは行かなくとも、彼の後の言葉によると『かなりエモかった』と評したほどであった。
彼はスーツケースの上に座って優雅に身体を揺らしていたのだが、それをやめ、ぶらんと垂らした脚で拍子を取り始めた。
しかしマダム・ダルジュレは彼の存在を忘れたかのようだった。唇から血の筋の付いた泡を拭い取り、それまでと同じ陰気な声で先を続けた。
「私が意識を取り戻したときは、もう昼間になっていました。私は服を着たまま、見知らぬ部屋のベッドの上に寝かされていました。アルチュール・ゴルドンは枕元に立ち、私をじっと不安そうな目で窺っていました。彼は私にものを尋ねる間を与えませんでした……。
『ここは私の家です』と彼ははっきりとした口調で言いました。『お兄様は亡くなられました!』
ああ、神様、私も死ぬのだ、とそのとき思いました。死を望んでいました。死にたかった……。でもアルチュールはむせび泣く私を前に、無慈悲に言葉を続けていました。
『恐ろしい不幸な出来事が起きた。私はどうしても自分が許せない……。それでも、それを望んだのが向こうであることは、貴女がその証人です……私の頬にまだ傷跡が残っているでしょう。貴女の兄上が剣の平らな部分で私を突いたときに出来たものです。私は自分を防御するしかなかった……。貴女と私を護るために……』
このとき私は正式な決闘のルールを知らなかったのです。アルチュールは兄が防御の体勢を取る前に不意打ちしたのでした。これは紛うことなき殺人でした……。
アルチュールは私の無知を当てにしていました。彼の陰険な芝居をまんまと成功させるために。だって、それは芝居だったのです……。2.4
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