そんな風に私たちはフランスを後にしました。
その航海は私にとって長い責め苦の時間でした……。蔑まれ、辱めを受ける初めての体験だったのです。船長のわざとらしい丁寧さ、その部下の馴れ馴れしい態度、最初に甲板に上がったときから乗組員が私に浴びせる皮肉な視線。私の立場は公然の秘密であることは明らかでした。あの下品な男たちは皆、私が夫と呼んでいた男の情婦であり、妻ではないと知っていて、おそらくはっきりと意識してはいなかったでしょうが、私にその罪を残酷に突き付けていたのです。
最悪なことは、理性が目覚めてきて、私の目は少しずつ開かれ、この品性卑しい男の本性が見えてきたことでした。その男のために私は自分の人生を擲ったというのに。
彼の方は、それでもまだ完全に自制することを忘れたわけではありませんでした。でも夕食の後、彼はよく友達の船長と一緒に煙草を吹かし酒を飲んでは、酔っ払った状態で私のもとに戻ってくると、奇妙な恐ろしい話をして私をぎょっとさせたものでした……。一度など、いつもより多量に酒を飲んだ彼は、自分が演じている役割をすっかり忘れてしまい、本性を現したのです。
彼は私たちの『恋物語』が出来の悪いメロドラマみたいになってしまったことを、苦々しい口調で嘆きました。最初は上々の滑り出しだったのに、と彼は言うのです。上手く『順調に』事が運んだ筈なのに、流血で終わるとは!なんたる失態!と。
しかも、なんというタイミングで起こったことか。あともう少しで目的に達するところだったのに。すべてが上手くいって俺の苦労が報われる寸前だったというのに……、と。
後何週間かあれば彼は私を完全に支配し、両親のもとから家出をするよう説得する……。すぐに大きなスキャンダルになり、私の家族との話し合いが持たれ、取引がなされ、ついに莫大な持参金を持たせて私と結婚させることで事を収めることになる……。
『そしたら俺は大金持ちになったのに』と彼は何度も口にしました。『豪華な四輪馬車でパリの街を乗り回すことになったのに。それが、こんな薄汚れた船に乗って一日二度の食事は塩漬けの鱈だ……しかもそれがお情けと来てる!』
それから酒の酔いも手伝って彼は怒りを爆発させ、冒涜の言葉を吐きながら怒鳴りました。私が彼の計画を台無しにした、と。恋人を作って、それを隠すことも出来ないとは、私ほどの馬鹿女はいない。あらゆることを想定してきた自分だが、その点だけは見逃していた……世の中広しと言えども、知能も知恵もない女はおそらく私ただ一人であろう、たまたま手に入った女がそんな女だったとは……自分は昔から運の悪い男だった……。
ああ、もう疑いの余地はありませんでした。もう無意味な幻想で自分を騙すことは出来ませんでした。真実が白日のもとに晒されたのです。私は一度も愛されたことはなかった、一時間も、一分たりとも。私をうっとりさせた多くの手紙、私を恋に狂わせた情熱溢れる行為の数々は私に向けられたものではなく、私の父の財産に向けられていたのです。
別の日には顔を曇らせている彼の姿を見ました。みるからに不安そうに、彼はアメリカで私たち二人の生活費を稼ぐには何をしたらいいのかを考えている、と言いました。2.25
その航海は私にとって長い責め苦の時間でした……。蔑まれ、辱めを受ける初めての体験だったのです。船長のわざとらしい丁寧さ、その部下の馴れ馴れしい態度、最初に甲板に上がったときから乗組員が私に浴びせる皮肉な視線。私の立場は公然の秘密であることは明らかでした。あの下品な男たちは皆、私が夫と呼んでいた男の情婦であり、妻ではないと知っていて、おそらくはっきりと意識してはいなかったでしょうが、私にその罪を残酷に突き付けていたのです。
最悪なことは、理性が目覚めてきて、私の目は少しずつ開かれ、この品性卑しい男の本性が見えてきたことでした。その男のために私は自分の人生を擲ったというのに。
彼の方は、それでもまだ完全に自制することを忘れたわけではありませんでした。でも夕食の後、彼はよく友達の船長と一緒に煙草を吹かし酒を飲んでは、酔っ払った状態で私のもとに戻ってくると、奇妙な恐ろしい話をして私をぎょっとさせたものでした……。一度など、いつもより多量に酒を飲んだ彼は、自分が演じている役割をすっかり忘れてしまい、本性を現したのです。
彼は私たちの『恋物語』が出来の悪いメロドラマみたいになってしまったことを、苦々しい口調で嘆きました。最初は上々の滑り出しだったのに、と彼は言うのです。上手く『順調に』事が運んだ筈なのに、流血で終わるとは!なんたる失態!と。
しかも、なんというタイミングで起こったことか。あともう少しで目的に達するところだったのに。すべてが上手くいって俺の苦労が報われる寸前だったというのに……、と。
後何週間かあれば彼は私を完全に支配し、両親のもとから家出をするよう説得する……。すぐに大きなスキャンダルになり、私の家族との話し合いが持たれ、取引がなされ、ついに莫大な持参金を持たせて私と結婚させることで事を収めることになる……。
『そしたら俺は大金持ちになったのに』と彼は何度も口にしました。『豪華な四輪馬車でパリの街を乗り回すことになったのに。それが、こんな薄汚れた船に乗って一日二度の食事は塩漬けの鱈だ……しかもそれがお情けと来てる!』
それから酒の酔いも手伝って彼は怒りを爆発させ、冒涜の言葉を吐きながら怒鳴りました。私が彼の計画を台無しにした、と。恋人を作って、それを隠すことも出来ないとは、私ほどの馬鹿女はいない。あらゆることを想定してきた自分だが、その点だけは見逃していた……世の中広しと言えども、知能も知恵もない女はおそらく私ただ一人であろう、たまたま手に入った女がそんな女だったとは……自分は昔から運の悪い男だった……。
ああ、もう疑いの余地はありませんでした。もう無意味な幻想で自分を騙すことは出来ませんでした。真実が白日のもとに晒されたのです。私は一度も愛されたことはなかった、一時間も、一分たりとも。私をうっとりさせた多くの手紙、私を恋に狂わせた情熱溢れる行為の数々は私に向けられたものではなく、私の父の財産に向けられていたのです。
別の日には顔を曇らせている彼の姿を見ました。みるからに不安そうに、彼はアメリカで私たち二人の生活費を稼ぐには何をしたらいいのかを考えている、と言いました。2.25