しかし侯爵の方では、何も疑わず、言葉を続けていた。フォルチュナ氏に向かって、というよりは自分自身に向かって語っているかのようであった。
「君の目には奇妙に映っているんだろうな。この私、アンジュ・マリー・ロベール・ダルボンのド・ヴァロルセイ侯爵が、父親も母親も知らぬ、ただマルグリットという短い名前しか持たぬ娘と結婚するとは。この点から見れば、この結婚は特に素晴らしいものとは言えない。それは確かだ。しかし、彼女が二十万フランの持参金しかないということが周知の事実となれば、私が自分の家名を武器に持参金目当てで結婚したと私を悪く言う者はいないだろう。それどころか、私は恋愛結婚をしたという風に見えるだろう……それで私も若返れるというものだ」
ここで彼は言いさした。フォルチュナ氏があくまでも冷たい沈黙を保っているのに苛立ったのだ。
「おい、君ね、二十パーセントの親方」と彼は言った。「君の不機嫌な顔を見ていると、君が成功を疑っているように見えるよ」
「疑いを持つことは常に必要です……」とフォルチュナ氏は哲学を論じるような言い方をした。
ヴァロルセイ侯爵は肩をすくめた。
「障害物をすべてクリアした後でもか?」彼はからかいの口調で言った。
「ええもちろん、そうですよ」
「この結婚は成立したも同然だというのに、一体何が欠けていると言うのかね?」
「マルグリット嬢の承諾が、でございます」
これはヴァロルセイ侯爵の頭に冷水をぶっかけるようなものだった。苛立った身震いが彼の全身を襲った。彼は蒼白になり、内にこもった声で答えた。
「承諾は得てみせる。自信をもって言える」
フォルチュナという男は、怒っているかどうか外からは分からない。まるで五フラン硬貨のように冷たく滑らかなこの手の人間は、無駄な感情など持たないのだ。しかし、このときの彼は顧客が愚かにも勝利のファンファーレを吹き鳴らすのを聞いて、非常に苛立っていた。彼の方では自分の四万フランとの辛い別れの悲しみを心に深く隠しているというのに。というわけで、侯爵の喜びように心を動かされるどころか、彼は今ナイフを突き立てたばかりの傷口に更にナイフをねじ込むことで憂さ晴らしをしてやろうと考えた。
「私が猜疑心を持つのは致し方のないことでございます」と彼は言った。「これはそもそもあなた様が一週間前に仰ったことに端を発しておりますので」
「私が何を言った?」
「マルグリット嬢には、その、どう言えばよろしいでしょうか、密かに思い定めた方がおられるのではないか、とあなた様がお疑いになっておられるということです」
侯爵の熱狂した表情が一変し、この上なく暗い落胆の色が浮かんだ。彼の心中に激しい苦痛が去来しているのが見て取れた。9.17
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