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エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XII-18

2024-10-10 11:56:28 | 地獄の生活
しかし危険が切迫したものであればあるほど、彼は自信を深めた。人が運命を味方につけているかどうかを知るのは、こうしたちょっとした偶然ではないだろうか。それが人生において決定的な役割を果たすのだ。
それに彼は自分がある人物を演じきったことに満足していた。その役柄は生来廉直な気質の彼にとってひどく嫌悪を催すものであったのに。彼は堂々と嘘を吐く能力が自分にあることに自分でもちょっと驚き、自分の大胆さに当惑を覚えずにいられなかった。
それにしても、そこから得られた報酬は大きかった! 彼はまんまとド・ヴァロルセイ侯爵の首の周りに縄を巻き付けてきた。そのことに疑いの余地はなかった。やがてその縄を絞り、侯爵を絞め殺すことになるのだ……。
だが、マダム・レオンの訪問が彼を不安にさせた。
「何用で彼女はド・ヴァロルセイに会いに来たんだろう? しかも医者と一緒に?」と彼は考え始めた。「そのジョドンとかいう医師は何者だろう? どんな良からぬ役回りが彼に割り当てられているのか?」
出来事の経過を辿って行くと必然的に虫の知らせのような予感が生まれるものだ。この予感が、マルグリット嬢と彼の周囲に張り巡らされた腹黒い陰謀においてこの医者が何らかの役割を過去に演じたか、あるいはこれから演じることになるかのどちらかであろう、とパスカルに告げた。
しかし、この謎を解こうとしたり、そこから最も起こり得そうな結論を引き出そうとしている暇はなかった。時間はあっという間に経ち、侯爵邸に戻る前に彼にはどうしても知りたいことがあった。侯爵が自分の馬を売却した際、購入者がかくも厳格な馬の履歴を要求したその背景にある疑いとは一体どのようなものなのか、ということである。
トリゴー男爵を通じてならすぐカミ・ベイに連絡が着くであろう。従って、彼が急いだのは男爵邸であった。
今朝の主人の手厚いもてなし様を見た後なので、召使たちがパスカルを丁重に扱ったのは当然のことであった。彼が訪問の目的を説明しようとするまでもなく、男爵の下男が自分の仕事を中断してやって来て、彼を一階の小さなサロンに案内しながら言った。
「主人は今取り込み中でございますが、あなた様でしたらお知らせしなければ叱られます。今知らせに行って参りますので、しばらくお待ちください……」
すぐに男爵が姿を現した。階段を二十段急いで降りてきたのですっかり息を切らしている。
「ああ、上手くいったのですね!」パスカルの顔を見るなり、彼は叫んだ。
「すべて思い通りに運びました、男爵。ただ、今朝お会いした外国の方とお話しする必要が生じたのです」
「カミ・ベイのことですか?」
「はい」
それから彼は少ない言葉数で状況を的確に説明した。
「確かに、運は我々の味方をしているようだ」と男爵は考え込む態度になった。「カミならまだここに居ますよ……」
「まさか、そんなことがあり得るとは!」
「本当のことですよ。あのトルコ人めを厄介払いするのは並大抵のことじゃありませんからね。勝手にずかずかと昼食のテーブルに着いて、ゲームを二時間する約束までさせられましたよ。カードを手に持った彼と二人きりになってどうしようもなくなったところへ、貴方が来られたというわけです。さぁいらっしゃい。彼を問い質そうではありませんか」10.10

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