数日前のこと、朝、コーヒーを飲みながら、Oさんを待っていた。
Oさんとは、ガソリン代節約のため交代で車を出して一緒に通勤しているのだ。
インターホンが鳴ったので出て行くと、いつもは、鳴らすとすぐ車に戻っているOさんが、困ったような顔をして、玄関ドアの前に立っていた。
「あら、どうしたの?」
と聞くと、何かを包むようにふっくらと合わせた両手を差し出した。
「これ、見て」
そっとその手を開くと、中に小さなスズメが
まだ、子供のようだけれど、どうしてか、ぬいぐるみのように動かない。
Oさんが我が家へ向かって車を走らせていたら、このスズメが道路の真ん中で蹲っていたのだそうだ。
逃げるだろうと思ってスピードを落として行ったけれど、すずめは一向に逃げない。
このままでは轢いてしまう。
いや、自分は轢かないけれど、他の車に轢かれてしまうかも知れない。
しかたなく、スズメの前で停車、近づいて行って手を伸ばしても逃げない。
悪いものでも食べたのか、怖いことがあってショック状態なのか。
とにかく放っても置けない気がして、拾い上げて両手に包みこんだ。
でも、さて、どうしようか?
そこで、我が家に餌台があるのを思い出して、持ってきたのだという。
「どうやって運転してきたんだ?この人」
と、思ったら、運転中助手席に置いておいたけれど、やはりピクリとも動かなかったのだそうだ。
餌台にすずめをそっと置いてら、やはりそのままじっとしている。
心なしか、目が虚ろだ。
すずめの目が虚ろというのもおかしいけれど、ほんとうにそんな感じなのだ。
Oさんと私は出勤しなければならないので、お休みで家にいた夫に、餌をやってと頼んで出かけた。
「ほっとしたよー、すずめなんか拾っちゃってどうしようかと思ったー」
と、Oさん。
もし、あのすずめがこのまま居ついたら、きっと夫が溺愛するだろう。
そう思うと私も楽しくて、居ついてくれたらいいなと思う。
これから、あの餌台を「すずめのお宿」と呼ぼう。
さて、帰りもOさんに送ってもらい、すずめはどうなったかしらと、少しワクワクしながら二人で餌台を見に行った。
すると、いない。
ああ、やっぱり。
Oさんも私も、何となく予期していたような気がする。
何が原因かはわからないけれど、しばしのショック状態から回復して、飛んで行ったのだろう。
Oさんが帰って行って、家の中に入ると、夫が、私が聞くより先に
「あのすずめ、すぐに飛んでいったよ」
と、言う。
夫が餌をやろうと、手をのばした瞬間、ぱっと飛び立ったのだそうだ。
元気に、隣家の二階の屋根を越えて行ったという。
「あのすずめのどこが具合が悪いんだ」
とやや不満げな夫。
やはり、ちょっとすずめを飼ってみたかったに違いない。
しかたがない、すずめのお宿化計画は夢だったわね。
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