旅行5日目の夕方のこと、
ルクセンブルグからブリュッセルへ向かうバスの中で、うとうとしていたら、
ぼそぼそと話す男性の声で目が覚めた。
どうやら前のほうの席で、電話をしている様子。
皆さんに気を使って小声なので、内容はわからない。
でも、かなり深刻な感じだ。
1時間近くも話していたような気がしたが、
その間にバスは脇道に入って駐車していた。
日はもう落ちて、夜のとばりが下りている。
重苦しい雰囲気で、みんな無言だった。
しばらくして1台の車がやって来て、
電話をしていた男性と奥様がバスを降りて、その車に乗って行った。
奥様は歩くのもおぼつかない足取りで、ご主人に抱きかかえられるようにしていた。
その時初めて、前夜ディナーでテーブルをご一緒したご夫婦だとわかった。
ご主人、Sさんは70代前半、奥様は60代後半くらいだろう。
昨夜はとてもお元気だったのに。
でもそう言えば、今日の観光中奥様がSさんにもたれかかるように歩いているのを
見た記憶があった。
その時は、連日のバス移動で疲れたのかしらくらいにしか思わなかったけれど。
二人を下したバスは、何事もなかったようにディナーをとるレストランへ向かった。
添乗員さんからは、「Sさんの奥様の具合が悪くなられたので、
病院へ行っていただきました」と、簡単な説明があった。
迎えに来た女性は保険会社から要請されて来た人のようだ。
殆どのツアーの参加者が同年配、詳しいことはわからないまでも、
明日は我が身 という思いがみんなにある。
レストランで、そのご夫婦と反対側に座っていたという方達が一緒だった。
奥様が口がきけなくなり、ペンを渡しても持つこともできなくなったのだそうだ。
脳梗塞、という不吉な言葉が頭に浮かんだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます