先日、パレンバン降下作戦について一項を投じ詳しく書いたのですが、
その検索の過程でなんとこんな映画があることがわかりました。
パレンバン降下作戦はその成功後国民の喝采を受け、ドキュメンタリー
「空の神兵」は大ヒットしたそうですが、この作戦そのものを描いた映画はなく、
昨年暮れにお話しした「あゝ陸軍隼戦闘隊」、あるいは「加藤隼戦闘隊」に、
その一部としてこの作戦が挿入されているだけです。
この映画タイトルを見つけたとき、「もしかして唯一の降下作戦を映画にしたもの?」
と、かなり期待して観てみたのですが、違いました。
主演が丹波哲郎であるあたりで、おかしいとは思っていたんですが。
だって、どう見てもこの人、降下作戦に参加した軍人なんてタイプじゃないし。
結論から言うと、この映画は降下作戦を扱ってはいるものの、
「パレンバン降下作戦が成功したのは、実は本隊突撃の前に
5人の陸軍軍人と軍属の丹波が精油所に忍び込み、
オランダ軍の精油所爆破を防いだからであった」
という ストーリー、つまり全くの創作です。
99%の嘘じゃなくて創作にに史実を絡めて深みと彩りをつける、という
「紫電改のタカ」商法(エリス中尉命名)とでもいうべき、あれです。
戦争映画としてこの映画があまり有名でないのも、どちらかというと
丹波哲郎主演のアクション映画、という色合いが強いせいかと思われました。
つまりこのブログ的には、わざわざ掘り下げつつお話する価値はないらしい、
ということは出だし5分くらいで判明しましたが、せっかくですので、
こんな映画があることすら知らなかった方のために、今日はこの作品を紹介します。
1962年、東映作品。
シナリオは「陸軍残虐物語」の棚田吾郎、
監督は「暴力街」の小林恒夫、
そして撮影は「殺人鬼の誘惑」の星島一郎。
こうやって並べると実に殺伐としたタイトルの作品群ですね。
つまりこの映画もこの範疇?
小林監督は落下傘部隊並びに陸軍ものが多く、
「第八空挺部隊 壮烈鬼隊長」
「八月十五日の動乱」
「二・二六事件 脱出」
「陸軍諜報33」
などの作品があります。
この壮烈鬼隊長って、ちょっと観てみたいですね。
ちょっとストーリーを調べたのですが、「第八空挺部隊」とは、
習志野に駐屯する空挺団の仮名
のようです。
さて、大東亜戦争初頭のマレー半島、日本軍基地。
この映画の特撮は、出演機がすべて輸送機なので、
あまり粗もなく無難にやっております。
ただ、陸軍の輸送機には1式、100式などがあり、
パレンバンでのみ投入されたのはキ56貨物輸送機である1式だそうですが、
これがどちらにも見えないのが困りものです。
ちなみに劇中、丹波哲郎が
「日本陸軍にはこんなおんぼろ飛行機しかねえのかい!」
と憎まれ口を叩いています。
連絡機で現れた陸軍参謀本部の岸田中佐(佐藤慶)。
飛行機の尾翼に空挺団のマークに注目。
南方作戦の目的は資源確保、つまりパレンバンの精油所を奪取することが
日本に取って最重要事項である、と言う岸田中佐。
そして、降下作戦を直ちに決行するべしと檄を飛ばすのですが、
なぜかこのけだるい様子の小畑中佐(神田隆)が
「敵の反撃も凄まじいので爆撃機でもっと敵を叩いて欲しい。
このまま降下しても効果は薄い」
などと反発します。
つまり「無茶を言う陸軍参謀」vs.「現状を考慮して渋る現場」という
よくある構図です。
勿論実際は、先日当ブログでお話しした降下作戦実地に至る過程を
見てもお分かりの通り、このようなやり取りは存在しません。
若い中尉たちも参謀に向かって影で「威勢がだけはいいな」とこそこそ反発。
右側は、若き日の梅宮辰夫。
左は小林作品でよく出演する(らしい)南廣という俳優です。
ちなみに第八空挺団の鬼曹長を演じています。
なかでも野尻中尉(江原信二郎)は参謀に反発し、叱られついでに、
「本作戦の前に、少人数編成の特攻部隊が潜入し、
オランダ軍が逃走の際に精油所を爆破するのを阻止する」
という作戦を進言します。
それこそがこの映画の主眼であり、100%創作の部分です。
「君は自信がありそうだな。
しかし失敗したらどうする。本降下にも影響があるんだぞ」
そういわれて意気を飲む野尻中尉。
言い出したからには自分が部隊を組織していくつもりです。
早速部下の鬼軍曹武内(織本順吉 )に人選させ、4人のメンバーを決めます。
まず、酔っぱらって基地の慰安所で暴れている村越伍長(山本鱗一)。
病院で看護にセクハラ真っ最中の堀江上等兵(潮健児)。
そして並河兵長(今井健二)。
堀江上等兵は何で選ばれたのかまったくわかりません。
メンバーにバラエティを持たすためだと思われます。
ともかく、精油所の爆破装置をストップすることを目的に
作戦を立て始めるのですが、現地の様子が皆目分からず行き詰まります。
そこに運良く、昔パレンバン精油所で働いていた、現「大陸浪人」、
砂見(丹波)が見つかります。
「どうしてやめたんだ」
「野暮な質問するな勝手に戦争なんかおっぱじめやがって。
いられるわけねーじゃねえか!」
丹波哲郎キター。
パレンバン作戦は1942年の2月に行なわれています。
つまり、開戦から三ヶ月後。
丹波の言うことを信じるならば、この技師はわずか三ヶ月の間に
仕事が無くなって「大陸浪人」になったということになります。
そりゃ身を持ち崩すのが早すぎないかい?
というツッコミはともかく、わたくし、以前なんとエントリ二つを投じて
「俳優としての丹波哲郎」「軍人俳優としての丹波哲郎」と、
やたら軍服が似合うが実は陸軍軍人としてはダメダメだった、
この丹波哲郎問題についてアツく語ったこともあるんですね。
「大俳優丹波哲郎」
なんて本もわざわざ買ったくらい興味のある俳優ではあるのですが、
よく考えたら若い頃の丹波哲郎の映画を観たのはこれが初めてかもしれない。
で、あらためてこれを観て丹波哲郎には感動しました。
もう、完璧な造形。好みとか好みでない以前に、この世のものとも思えない美貌です。
陸軍時代は女性の面会者が分刻みで基地に訪れ、戦後は世界中で美人女優と浮き名を流した
というその水も滴る男ぶりを、この映画でもたっぷり堪能することが出来ます。
そして美形役者は大根という通説もありますが、案外この人演技もうまいんですね。
こういうセリフなんかも、殆ど台本を無視して、自分でやっているんじゃないか、
というくらい普通の演技で、自然です。
そして野尻中尉に「オランダ語はしゃべれるのか」と聞かれて、
ペラペラとしゃべり出すのですが、これがうまい。
わたしは勿論オランダ語はわかりませんが、それでもそれが
いい発音であるらしきことくらいはわかります。
アメリカでの撮影で発音だけはあまりにいいので、
英語が堪能であると思い込まれて酷い目にあった、というエピソードを
「大俳優」で読みましたがそれを思い出します。
とにかく、いきなり野尻中尉は砂見を軍属として採用し、
本人の意向を全く無視して降下訓練を受けさせます。
草原を延々とでんぐり返しで移動とか。
本当に降下兵はこんな訓練をやっていたのでしょうか。
いやがる砂見をうしろから蹴飛ばす鬼軍曹。
飛行機の降下口を模したところから飛び降りるおなじみの訓練ですが、
この映画のセットは実際のものよりもかなり低くしてあります。
実際が二メートルなら、これはせいぜい1メートルちょっとくらい。
そんな必死に抵抗するほどの高さではないわよ砂見さん。
おそらくこんな砂見ですから降下させるのは大変だったと思うのですが、なぜか省略。
いきなり降下したあと落下傘に地面を引きずり回され、
鬼軍曹に殴られたのに腹を立てて殴り返したりします。
このシーケンスには終止ユーモラスなタッチの音楽が流れ、
他の隊員たちはニヤニヤ笑いながら見ているという具合で、
この映画の唯一「笑えるシーン」のつもりで挿入したようですが、
ふてくされながら訓練を受ける砂見はともかく、実際なら観ている方に取っても
笑っている場合か?って気がします。
だって、パレンバンに特攻隊が飛び降りるのは今夜なんですぜ?
そもそも当日にでんぐり返しなんかしていったい何の役に立つのか。
砂見に精油所の内部について詳しく聞くとか、見取り図を書かせるとか、
そんなことよりすべきことがいっぱいあると思うのはわたしだけ?
というわけで丹波、脚を引きずっています。
すでに筋肉痛のようですが、こんなことで今晩大丈夫なんでしょうか。
「やめたやめた!俺にサーカスの芸を仕込もうったってダメだぜ!
戦争ごっこは軍人だけでやってくれい!」
と隊長に言いにいったら、
「さっき軍曹を殴ったから、内地に送還されるか、
作戦に同行するか二つに一つ、どちらか選べ」
「軍の機密を知られた以上生きて返すわけにはいかん」
とピストルを突きつけられ脅迫され、選択の余地無し。
っていうか、このときまで砂見は自分が何のために陸軍軍属になったのか
全く知らされていなかったと言う・・・。
いくら陸軍でも一般人にそんなことさせますかね。
そして夜。
彼らを乗せた輸送機が飛び立ちます。
緊張の面持ちの面々。
ふてくされる砂見。筋肉痛は治ったのか砂見。
そのとき地上からの高射砲が輸送機を狙います。
高射砲によってエンジンが片発やられてしまいます。
すぐさま全員は降下しますが、輸送機の運命は・・・・
降下前、機長は野尻中尉に向かって微笑みつつ
「侵入します・・・!ご成功を祈ります」
「ありがとう・・・・忘れんぞ!」
ちょっと感動シーンなのですが、野尻中尉は機長の肩を叩き、
敬礼もせず、そしてなぜかコクピットの扉をばたんと音させて閉めていきます。
・・・・なんか緊張感ないけど・・まあいっか。
輸送機は夜のジャングルに墜落してしまいます。合掌。
しかし全員、夜のジャングルにしかもピンポイントで同じ場所に降下。
傘が木に引っかけた砂見でさえも、脱出後軽々と皆に合流。
近隣の学校グラウンドに流されて降下してしまう第一空挺団の隊員には
爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいの超絶技量です。
てか、どうやってこの暗闇の中彼らは集合することが出来たのか。
ところが砂見が自分の傘を始末してこなかったため、敵に発見され追われ逃走するうち、
一行は土民(放送禁止用語)に遭遇します。
因みにここに出演しているインドネシア人たちは、
日本に留学していたインドネシア留学生協会の皆さんです。
地面を転がる変なダンスをしています。
さらに驚くことに、ここでダンスをしている左の女性は、
わざわざクレジットに『の踊り娘』と出ている日本人女優です。( 富士あけみ)
なんと彼らは闇夜に乗じてこの見物の輪に加わり、原住民のふり。
いくらなんでも見たことのない日本人がいたら、こんな小さな村ではたちどころに
大騒ぎになると思うのだけど、皆顔を見合わせてニコニコしています。
女好きの堀江上等兵は、女性の横に座り込み、土民女性を見てニヤニヤ。
なんなのこの展開は。
そして彼らが次に忍び込んだ高床式住居は、なんと独立解放軍の秘密基地。
飛んで火にいる夏の虫。
彼らを見逃す代わりに日本軍の武器をよこせ!と言い出します。
確かにインドネシア解放軍が武器を欲しがっていた、というのは実話ですが、
こんな少人数相手に武器よこせとか、そんなこといっているあいだに、
こんな敗残兵みたいな6人くらいころすけしちゃったほうが話は早いんではないか?
そこで、野尻中隊長が
「日本軍は開戦布告以来大東亜民族の解放を約束している。
我々の任務遂行はとりもなおさず君たちに独立の保証を与えることになるんだ」
というと、リーダーが
「独立は与えられるものではない。
自分たちの血で獲得するものだ」
ここぞと決め台詞。
ここからの流れははっきりいって無茶苦茶です。
インドネシア人「我々に真意の証を見せろ。さもなければオランダ兵に渡す」
→日本、怪我をした村越伍長を人質に置いていこうとして仲間割れ
→イ「仲間が裏切った!オランダ兵と一緒にやってくる」
→日「なに~!?」
→イ「君たち、日本人、ニゲロ!成功を祈る!」
→日「えっ」
→インドネシア人とオランダ軍の間で銃撃戦となる
→日本人たち、逃げる
ここで、仲間を逃がすために村越伍長が犠牲になります。
ジャングルを逃走する彼ら5人を、戦車2台投入して追いかけるオランダ軍(笑)
その間も「戦意を喪失させるようなことを言うな!」などと争う砂見と曹長(笑)
逃走の間に堀江上等兵が怪我をして敵の手に落ちそうになり、
武内が手榴弾で殺したりして犠牲を出しつつ、彼らが迷い込んだのは、村の教会。
シスターにフランソワーズ・モレシャンが扮しております。
「尼僧物語」(59年度作品)の影響なのか、ヘプバーンと同じ眉を描いています。
知ってますか?モレシャンさんって。
外国人タレントの走りとでもいう人で、このころはNHKのフランス語講座で
講師をして人気が出ていた頃です。
おしゃれアドバイザーとしての著書が多いのは、一旦帰国し、
シャネルの美容部長として再来日して以来。
勿論映画俳優ではありませんが、外人が必要なシーンに時折出演していたようです。
ところで「大俳優・丹波哲郎」で丹波自身が重大発言をしているのですが、
モレシャンは丹波に惚れ込んで、一時熱狂的に追いかけ回していたことがあり、
なんと一時外国のロケ先まで会いに来ていたのだそうです。
この映画を観たとたんその話を思い出したのですが、
そのきっかけはおそらくこの共演にあったのではないでしょうか。
それを知った上でこの映画を見ると、確かに彼女が丹波を見る目には、
何やらアツいものが感じられます。
このときシスターは「神に仕える者以外は入れません」と言っていますが、
神の子を等しく迎え入れる教会のシスターならば、普通こんなことは言いませんねー。
『キリスト教信者の特攻隊員に上官が聖書を踏めと命令する』というシーンのある
「ザ・ウィンズ・オブ・ゴッド」でもそうですが、日本人は、時折こういう
他信教に対する無知を晒してしまうのは良くないね。
そのシスターに対し、中隊長は
「We expect to danger, we need help.」
と滞在を求めるのですが、この簡単なセリフを言うとき、
江原信二郎はカンペーを読んでいるらしく、視線があさってを向いています。
モレシャンの顔に紙を貼れば良かったのではないか。というかこれくらい覚えろよ。
モレシャン扮するシスターの起用は、パレンバン空挺作戦という、どこを取っても
女性とか色気のからむ必然性のないこのストーリーにとっての
「映画的彩り」という目的でなされたことだと思いますが、さすがに尼さんなので
丹波と恋に落ちるなどという不謹慎なサイドストーリーはなくそこは評価します。
(モレシャンさん的には望むところだったかもしれませんが)
それはともかく、このシスターのセリフにこういうのがあります。
「Anyway, there is no justification of war. The sin of war be feard.」
戦争に善悪はありません。戦争の罪をこそを恐れるべきです。
これは、この映画で唯一わたしが感動()したセリフで、当ブログでも常に言っていることであり、
日本だけが罪を犯したと言って憚らない近隣諸国と国内の自虐派に向けて贈りたい。
映画制作者がわたしと同じ意味でこのセリフを書いたのかどうかはわかりませんが。
さて、ここでとんでもない展開です。
精油所の技師が集まるバーに、変装した砂見が送り込まれるというのです。
誰でもいいから技師を一人拉致してくるというのが砂見の任務。
それまでの、オランダ兵から奪った軍服からぱりっとした白麻のスーツに着替え、
砂見は繰り出していきます。
教会なのにどうしてこんなぴったりサイズの衣装が揃ったんだろう(棒)
バーにたまたまいた砂見の元同僚、欄印ハーフの技師、ケッスラー(岡田真澄)。
ちょうどいいので、丹波はケッスラーを教会に無理矢理連れてきます。
都合良く日本語が話せる技師がバーにいたもんだ。
と、細かく突っ込み出すと映画のとんでもなさが次々と浮き彫りになってくるのですが、
めげずに後半に参ります。
(すでに少し疲れつつ続く)