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三井造船資料館~「おおすみ」事故対応の「ワンボイス」

2014-09-25 | 博物館・資料館・テーマパーク

サンフランシスコのジェレマイアオブライエン、パシフィックコースト博物館、
サンノゼの日系人記念館、呉地方隊訪問記、
全てのプロジェクトが現在進行中であるわけですが(笑)
「ふゆづき」自営艦旗授与式の日に見学した、三井造船の資料館に戻ります。



ここ三井造船資料室には、写真とパンフレットなどの資料、そして、
さすがは造船会社、博物館レベルのハイクォリティな模型が飾られています。
造船会社ですから設計起工の段階でこのような模型を普通に制作するのです。
つまりこれは最初から展示用だったわけではなく、「実用」なのですね。

冒頭写真とこれは

「ましゅう」JS Masyu, AOE-425。




平成12年度の中期防衛力整備計画に基づいて建造され、
2004年から就役している定繋港舞鶴の補給艦です。

「ましゅう」は就役直後の2004年、さらに2006年、2008年、2009年と
4回にわたってテロ対策防止措置法における補給任務のためインド洋に派遣されています。
一度派遣に出た自衛艦は、3~5ヶ月間の任務を終えてから帰国します。



「ましゅう」は、第二代目の砕氷船「しらせ」が2011年、砕氷作業中座礁して
動けなくなったとき「おおすみ」とともに緊急出動することが検討されましたが、
19日後に「しらせ」が自力で氷を割って脱出することができたため、
行かなくてすみました。(笑)

しかし、砕氷船すら座礁して動けなくなるような海域に、「ましゅう」のような
普通仕様の補給艦を行かせて何かあったらどうするつもりだったのか、
この決定がよほど切羽詰まったものだったとはいえ、不思議でなりません。



さて、その「南極に行かなくてもすんだ」もうひとつの

補給艦「おおすみ」LSTー4001

「おおすみ」といえば、まず2013年の11月に起きた衝突事故を思い出します。

実は、先日呉地方総監部を訪ね総監とお話をしたとき、
この事件の話が出たのですよ。
まあ、出たっていうか、わたしが振ったんですけどね(笑)

まずは、「なだしお」事件の際の報道のされ方、そして
海幕長が「にやにやしているように見える顔をしていて」それが
顰蹙だとまたマスコミが騒ぎ立てた事件(何だっけ)などを他山の石とせず、
海将が広報担当だったときに対マスコミにおいて心がけたのは

「常にワンボイス」

ということだったそうです。
自衛隊としての意見は必ずアウトレットを一つに絞り、
あちらこちらから声が出て来ることのないように、いわば
「情報統制」し、その上で総意を表明するようにしたのだそうです。
そのときの薫陶が「おおすみ」の際も生かされていたということでしょうか。

「あれは見事でしたね」

事故後対応についての評価をお聞きしたところ、
にやりと笑って海将はきっぱりといいました。

「すぐに報道が止んだでしょう」


確かに。


当初マスコミは「おおすみ」の巨体にはまず不可能な
ドリフト航跡まで偽造して(笑)
何とか自衛隊を悪者に仕立て上げようとしていましたが、
ある時期から海将のおっしゃるように、ピタリと報道を止めました。 


報道が無くなったということは、どうやら
プレジャーボートのミスで
「おおすみ」には過失はないらしい、
と我々は理解しましたが、
それもこうして聴くと、どうやら自衛隊側の「作戦勝ち」の面があったようです。

もしこの海将の「ワンボイス主義」が今回の報道対応に生かされたのなら、
報道対処の作戦において自衛隊は経験値をあげたことになります。

それにしても、相変わらず学習していなかったのがマスコミです。

航跡から漁船がおおすみに近づいていったらしいことが明らかになるや、
亡くなった船長が救命胴衣を全員に付けさせていなかったことも触れず、
船長の内縁の妻をカメラの前で号泣させて、

「あの人はそんな人じゃない」

のお情けちょうだい作戦まで発動しましたからね。
(しかし、内縁の妻という立場と、本人がなんというか、
余りにも怪しい雰囲気だったせいか、作戦は全く功を奏しませんでした)

マスコミにすれば、あることないこと叩いて世間を追従させ、
「なだしお」事件のバッシングよもう一度、というところでしょうが、
インターネットの普及と、何よりもマスコミ自身に対する不信のせいで、

いくら恣意的な報道で世論誘導をしようとしても、たとえば今回もそうですが、
国民が全面的な「自衛隊推定有罪」のムードになってしまうような、
そんな時代はもう終わってしまったのですよ。

マスコミ人諸氏はそろそろ現実を知って、
事実をそのまま伝える報道にシフト
するべきではないでしょうかね。

朝日新聞の件もあることですしね。(嫌味です)


 


「おおすみ」はまた、当ブログで「戦艦伊勢の物語」という項にも書いた
フィリピン湾の台風被害に、急遽予定されていた訓練を中止して参加しています。
この訓練は沖縄での離島防衛訓練でしたが、
「おおすみ」が拠点となる予定であったため、その欠落を埋めることができず、
訓練そのものを中止することになりました。

防衛訓練より人命救助。

いかにも日本国の軍隊である自衛隊らしい決定です。
ちなみにこの救助作戦はフィリピン語の「友情」という意味である

オペレーション・サンカイ(サンカイ作戦)

と名付けられました。
我々があの東日本大震災後、米海軍第7艦隊の

オペレーション・トモダチ 

にどれほど感激し、日本国自衛隊もまた、いついかなる時でも
災害に打ちのめされた国に対しそのような存在であろうとしているかが、
その受け継がれた意思とともに、この言葉に表されています。


ところで、わたしはこの「サンカイ作戦」という言葉、
報道ではなく後からWikipediaを見て初めて知ったのですが、どうして
報道はこういう活動について相応の報道をしないのでしょうか。

プレジャーボートとの事故のせめて10分の1くらい熱意をもって
国民に希望を与えるような自衛隊の活動についての報道もしていただきたい、
と思うのですが、マスコミ的には何か不都合でもあるんでしょうかね。
(勿論嫌味です)
 





シュモクザメのようなこの物体、

自立航行型海中ロボット「AQUA EXPRORER 2000」

といい、
海底敷設ケーブルの調査、各種観測 ・ 点検用に開発された
水深 2 000 m まで潜航可能な自律型ロボットです。
 
三井造船の水中機器開発は40 年前には始まっています。

1970 年代は海洋石油 生産に関連する重作業機能を有するものから、
テレビカメラによる観察用小型機械、1990 年代には自律型水中ロボット
また最近では水上無人機の開発も手がけています。 

無人機の発展が何よりも役に立った場面と云うと、
やはり2011年のあの東日本大震災における原発事故でしょう。

福島第一原発において、航空無人機が上空から撮影した 原発建屋の写真や、
遠隔操作式陸上ロボットが撮影した建屋 内のビデオカメラ映像。

無人機は人が近 付くことができない危険な場所に行き、
観測データの収集や 大型のものであれば重作業をすることもできます。

東日本大震災では、また水中・水上無人機が投入され、
例えば水中小型カメラロボットが、被災地支援として
津波後の三陸沖海底調査を行い、
また無人機によって、
福島原発沖の海水の放射性物質のモニタリングが行われています。


他にも海底資源の宝庫といわれる我が国の海域を海底調査するため
海底探査機「かいこう」(1台目は海底で部品を喪失したため2代目)が
2015年から本格的に指導を始めることになっています。



海底探査船「ちきゅう」

防衛省でも民間企業でも海保でもない独立行政法人が運用しています。
正確には

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の一部門である
地球深部探査センター(CDEX)

 
で、一言で言うと先ほどの無人機にも関係あるのですが、

科学掘削船(深海掘削船)

です。
目標は人類未踏のマントルへの到達。
科学のロマンを感じるこの壮大なプロジェクト、何が目的かというと、

● 巨大地震、津波の発生メカニズムの解明

●地下に広がる生命圏の解明

●地球環境変動の解明

いずれも明日あさってどうにかなるという問題ではなさそうですが、
地震国で常に大地震災害と戦ってきた我々日本人であるからこそ、
このような一見明日役立つようなことでない壮大なプロジェクトに
邁進する意味があり、その動機もあるのです。

「ちきゅう」の掘削能力は現在でも世界一を誇り、
水深2,500mの深海域で、地底下7,500mまで掘削する能力を備えています。
世界最高の掘削能力であり、
マントル物質や巨大地震発生域の試料を
採取することができる
 のです。

こんなところにも日本の「世界一」が・・・・。

製作は(ここにあるのですから勿論のこと)三井造船によるものです。



映画「海猿」第3作では、天然ガスプラント施設の大事故がテーマでし
たが、
ついあれを思い出しました。

フジテレビが制作しただけあって、なぜかこのプラントは日本と韓国が
共同運用しているという設定になっていたと記憶します。

どうして日本の海域の天然ガスを韓国が一緒になって取っているのか。
普通に考えたらただでさえ島の領有でもめている国同士なのに、
どう考えてもありえませんし、今にして思えばもしあの映画のような大事故に
共同運用しているプラントが見舞われたとき、彼らがどのような行動をとり、
その結果日本人との間にどのような惨事が巻き起こるか・・・。

その実証となるようなフェリーの沈没事故が起こってしまった今、
考えただけでぞっとしますね。

さて、あのプラントは「レガリア」といいましたが、こちらは


ホテルバージ「ポリコンフィデンス」

です。
ホテルバージ?ポリコンフィデンス?

どっちの言葉も全くなんなのか理解の糸口にもならないのですが、
驚くなかれ、これ、1987年三井造船が建造したもので、
自動位置保持機能を備えた世界最大の半没水型双胴船型の

居住区プラットフォーム

なのです。
つまり海上ホテルですね。

モルジブで、海の上に一室ずつ高床式のように建つコテージに泊まりましたが、
夜は打ち寄せる波の音がうるさすぎて寝られなかったのを思い出しました。
波の音って、遠くで聞くからいいのであって、そのただ中にいると
こんなに騒々しいものかと驚愕したものです。
ここもかなりうるさいと思いますがどうなんでしょうか。

さて、このプラットフォーム、

ヨーロッパ風のホテル並みの設備と内装を有しており、
収容人員は800人となっている。

そんなホテル見たことも聞いたこともないぞ、って?
きっとセンチュリオンクラブに頼んでも無理でしょう。

なぜなら、これは確かにホテルとして稼働しているのだけど、
どこにあるかというと・・・・・ノルウェー
んじゃノルウェーに旅行に行けば泊まれるのか?というとそれも駄目で、
何となればこのホテルは

ノルウェーで活動する掘削工たちの宿泊施設

なのですって。
そう思ってみると、ヘリポートがあり、ボートダビットらしきものがあり、
ホテルは全部で4棟建っているように見えます。
さすがにリゾートホテルになりようがないのは、四方が海でとてもではないけれど
風光明媚ではないことと、モルジブのホテルと違ってすぐに陸地に行けないので
自然災害に対して非常に不安だからでしょう。

玉野の造船技師がやっているブログにこのホテルについて唯一の記述があったのですが、
それによると

あらゆる面で当時の最新最高システムが装備されていた。
ホテル部分は、超一流5つ星並みのグレードであった。 


ということです。
海の上のリッツカールトン。
しかしそれでもやはり掘削の仕事に携わるから仕方なく?泊まるのであって、
いくら豪華でもここに客は呼べないと思いますね。

その方は造船技師としてこのバージ建造に携わったらしく、

 固定された掘削リグに橋を渡して乗り移るため、
ホテルバージは海上に浮かびながら固定されなければならない。
激しい潮流や強風の中でもバージを一定の位置に保持するために採用された
システムがDPS(ダイナミックポジショニングシステム)である。

とその工法についても触れておられます。 

うーん、三井造船、こんなものもつくっておったのか。
たしかに企業理念は

「社会に人に信頼されるものづくり企業でありつづけること」

だそうだけど。
造船会社だからといって船ばかり作っているというのでは、今の世の中
とてもやっていけないし、培われた技術を様々に転用するのは当然のこと。

というわけで、三井造船。

船舶関係だけでなく、プラントのエンジニアリングや
建設工事(石油精製、石油化学、無機化学)、廃棄物処理、水処理、
ガス処理関連、発電プラントなどにも事業を展開しています。


「海猿」の「レガリア」が三井造船の建造であっても全く驚きません。


 


 続く。