6年ぶりに見学する潜水艦「あきしお」です。
当時とはこちらのレベルもカメラ含めて上がっているので、
前回とは違った見方ができるのではないかと内心かなり期待しつつ行ってみました。
しかし、この展示は改めてすごいなあと思います。
今やこの潜水艦が呉のランドマークとなっていますからね。
「あきしお」のスペックが博物館入口のレンガに掲げられています。
これは艦内に入らずとも外から見ることができます。
写真上な進水式の様子、そして写真下はここに設置するために
クレーンで吊るされている「あきしお」の姿。
前の道路を車に乗せて横切るだけのために、歩道の段を取り払い、
工事は深夜から明け方にかけて行われた、と見たことがあります。
「あきしお」の艦体を見ると思うのですが、「ゆうしお」型は
初期の「おやしお」「あさしお」クラスの船っぽい形から
丸々とした可愛らしい形に進化していて、そのことからも
「てつのくじら」の愛称がぴったりくる感じです。
ちなみに2代目「おやしお」から現在の「そうりゅう」型は
葉巻型と呼ばれる全体的に直線の多いシェイプとなっています。
「潜水艦乗組員は船酔いする」
という話を当の乗員から聞いたことがありますが、これは
水上航行の時には潜水艦は艦体が丸く、揺れを軽減するビルジキールがないので、
ローリングして酔う人続出、となるのだそうです。
しかしなぜかそんな中でも艦長だけは決して酔わないとか。
万が一船酔いしてしまったら、即全乗組員の信頼を失ってしまうことは確実ですが、
本人がそれくらいの緊張感を持っていたら酔いは抑えることができるんですね。
潜水艦についての展示の最後、無人ヘリ『DASH』がある場所には
案内の方(この人たちも元自衛官かしら)が立っていて、
「あきしお」に入る通路を案内しています。
ここはご覧のように建物の3階に当たる場所ですが、
この高さに入口が設けられているのです。
この時、わたしは前回には気にも留めなかったこと、
潜水艦の側面に通常入り口はない
つまり、われわれは展示のために艦腹をくりぬいて作った入り口から
艦内に入っていっているということに改めて気づいてしまったのでした。
いや、これまじで最初はなんとも思わなかったんですよ。
ここに普通こんな出入り口があると思う?と聞かれたとしたら
もしかしたら
「そういえばおかしいね。後から作ったのね」
と気づいたかもしれませんが。
自分で言うのもなんですが、こんなところにもわたしが
レベルアップ(海事的に)したということが表れています。
艦内に入ってすぐ、潜水艦がなぜ沈むかのパネルがありました。
海水を艦体に入れたり出したりしてその重力で潜水浮上すると言う仕組みは、
実は南北戦争時代の機械式潜水艇、「ブッシュネルの亀」を発明した
デビット・ブッシュネルの着想そのままなのです。
かつてはなかったところに入り口を作ったため、「あきしお」見学者は
艦内に入ったら否が応でも最初にトイレを見学することになります。
このことも昔は全く気づかなかったのですが、 今回は
「普通どんな博物艦も入っていきなりトイレはないよなあ」
と言う感想を持ちました。
その後アメリカでいろんな軍艦を見てきて経験値が上がったからでしょう。
そんな自分を少しだけ褒めてやりたい。
それはともかく、「あきしお」を展示艦にするに当たって、設計チームは
建物の高さと階段の場所、潜水艦の台の高さ、全てを計算しつくした結果、
入り口はここにするしかない、と言う結論に達したのだと思われます。
その意味では、この唐突な士官用トイレは「あきしお」展示に向けて努力した
設計者たちの工夫と(多分)血と涙と汗の象徴ということもできるのです。
・・・できますよね?
トイレの横には士官用シャワー室。
士官用と曹士用の設備のランクを変えるのは軍隊では当然のことですが、
士官でこれなら曹士のはどんなのだろうと心配になります。
脱衣所もないんですが、みんなどこで服を脱ぎどこに置いておくのでしょうか。
シャワーの頻度は「艦によって違う」ということで、中には
毎日使える艦も存在するそうです。
(これはきっと艦長が毎日浴びたいからそうしているのでしょう)
狭いのに皆そんなので臭くないのか?と心配になりますが、
嗅覚は麻痺しやすいので大丈夫、だそうです。
全然大丈夫じゃないですが、不快でなければいいのでしょう。
それに、わたくし昨年「そうりゅう」型潜水艦の内部にお邪魔しましたが、
艦内は全く変な匂いとかしなかったですよ。
母港停泊中で乗員もここで寝泊まりしているわけではないですが、
艦内のどこにいっても不快な空気は全くなかったです。
ちなみにトイレですが、今の潜水艦のそれはウォシュレット付きだそうです。
それどころか、日本にウォッシュレットが出回り始めたとき、
真っ先にこれを導入したのは潜水艦だったと言われています。
それまでの潜水艦乗員にとって、職業病の一つでもある痔疾が
この偉大な発明によって多少は減ったという説もあるくらいです。
ついでに、潜水艦のその他の職業病とは虫歯と水虫だとか。
特に虫歯は昼と夜の概念がなくなってしまう潜水艦勤務では
歯磨きをするタイミングを逸してしまうことから罹ってしまいます。
それから、密閉された空間の典型である潜水艦内では、
誰か一人がインフルエンザに罹るとたちまち蔓延します。
学級閉鎖ならぬ潜水艦閉鎖するわけにもいかないのですが、
こういうのどうやって対処しているんでしょうね。
ちなみにこの階層は潜水艦内部の最上階となります。
艦内放送用になぜかボーズのスピーカーが!
潜水艦の内部でボーズを使用するほど音質を追求する必要があったのか?
そもそも、現役の潜水艦はただでさえ不必要な音を立てるのは厳禁。
スピーカーで音楽を鳴らすなどということは決してしません。
何をするためか分からなかったハンドル。
ハッチとか開いたりするのかな?
んなこたーない。
ハッチはハッチそのものにハンドルがついています。
「そうりゅう」型の出入りも、基本こんなハッチからでした。
このハッチを開けたら即水中、というものではなく、この外側に
外殻があり、外につながる別のハッチがもう一つあります。
ですから降りる時には自分の足をかける梯子段が見えません。
足探りで足をかける段を確かめてから一瞬体をくの字型にして
ここをくぐらねばならないので、小さな子供と老人は無理でしょう。
昔、ケネディ大統領がポラリスミサイル搭載の潜水艦に
視察のため乗り込むことになった時には、脊椎の悪い大統領のため
わざわざ潜水艦のハッチの大きさの一人用のエレベーターが特注されました。
究極の省エネスペースである潜水艦の中は、少しの無駄もなく収納場所があります。
数字が各引き出しに書かれているところを見ると書類ケースでしょうか。
そう思ったのはここが「庶務室」だから。
潜水艦内で行う「庶務」ってなんなのかしら。
先ほど展示室で見たのとほとんど同じ配置のベッド。
潜水艦は士官であってもほぼ曹士と同じ環境で艦内生活をせねばならず、
ある意味階級社会の軍隊で上下差が最も小さい「公平な職場」であるということは、
当ブログでも「どんがめ下克上」というエントリでお話ししたことがあります。
そうそう、この冷蔵庫も前回来た時に写真を撮りましたが、
狭くて暗い艦内でピントを合わせることができなかったのでした。
今回は潜水艦内部を撮るためにあるような広角レンズを投入しての撮影です。
ここは士官用の階なので冷蔵庫も士官専用。
黄色いシールは「艦長許可第83号」、赤には
「私物を入れる時には名前の記入を忘れずに!」
とあります。
名前がないと食べてもいいというルールのようです。
ここが士官用の食堂であり休憩室となります。
テーブルの上には先ほど館内に展示されていた
「スタンキーフード」
という名前の脱出服が展示されています。
その向こうには「 EAB」 、応急呼吸装置も。
士官室というのは、アメリカの潜水艦(ノーチラス)でも説明されていましたが、
非常事態にはこのテーブルを手術代として緊急手術が行われることを想定しています。
なお、このソファの背もたれはグイッと持ち上げてそれ自体がベッドになり、
座部のベッドと二段ベッドとして使用することができます。
護衛艦「あきづき」もそうですが、潜水艦にも通常は医官は乗りません。
そういうことがあるのかどうかはわかりませんが、長期の航海の時には
医療海曹ではなく医師免許のある医官が乗り込むことになっています。
どこの海軍でも潜水艦の食事が一番美味しい、とよく言います。
それだけ潜水艦乗りは過酷な環境にあるので、少しでもストレスをためずに
勤務していただきましょう、という海軍の心遣いからのことです。
比較的ご飯の美味しいと言われる海上自衛隊の中でも、差別化はあって、
なんと潜水艦の食費は他の艦艇に比べ、多くの予算が計上されるのだそうです。
ビーフステーキなども月に何度となく食卓に上り、カレーと一口に言っても
潜水艦では、わたしたちがこの間「あきづき」でいただいたような、
サラダデザートはもちろん、それに卵料理、魚などの副菜が全員に付きます。
牛すじカレーにエビフライが付いたあの時の料理にはびっくりさせられましたが、
あれが潜水艦の普通の基準だということなんですね。
しかも、地方隊全体に入荷される生鮮食料のうち、少しでも新鮮なものが
潜水艦に優先され、品質も高いものが供されるのだとか。
これは、ビタミン不足になりやすい職場であることが考慮されているというわけです。
士官寝室もこの階にあります。
確かに狭いですが、やはりこれでも曹士のよりは少しは大きいようです。
映画「U-ボート」で、ベッドは何人か共通して使用するため、
「みんなでベッドを温め合う」と水兵が自嘲していましたが、
これを「ホットバンク」とアメリカでは称しています。
三交代制で勤務を行う海自の潜水艦では今ではホットバンクはありません。
ところで、世界のマンモス潜水艦で、映画「レッドオクトーバーを追え」
にも登場したロシアの原潜「タイフーン」級にはなんと艦内に
プールやサウナがあるという噂があります。
写真とかがないので話だけなのですが、どうやらソ連は潜水艦院の
メンタルヘルスを大変重視した結果、
アスレチックジム、サロン、サンルーム、ミニ植物園
等を積極的に設置していたようです。
それどころかペットルームまであり、小鳥などの飼育も行われていたとか、
士官室には部屋それぞれにシャワー室があったという話もあります。
潜水艦のどこで太陽に当たる部屋があったのかが謎ですが、とにかく
広いスペースがあるのでこんなこともできたということです。
日本の潜水艦ではとてもここまではできませんが、メンタルヘルスのために
海自がもしこだわっていることがあるとすれば、 それはやっぱり
炊きたてのご飯を乗員に食べさせるために、どんな狭いキッチンにも
大きな炊飯器を備えていることでしょうか。
続く。