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アンレップ、コンレップ、バートレップ〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-07-03 | 軍艦

次のコーナーのテーマは「貨物」。
「ミッドウェイ」に運び込まれる荷物についてです。

まるでベンチのような木箱には

ROCKETS, HEAT. H.E.,3.5 INCH
M2BA2, w/ FUSE ANMFA2
QTY.4 

と記されています。

例えば乗員のみんなが食べる朝ごはん一つとっても、その材料は
どこから海軍基地に来るのでしょう、ということで流通ルートが記されています。

ワシントン・・・アップルゼリー、アップルジュース、ベーコン、梨、芋

オレゴン・・・チェダーチーズ、ミルク、玉ねぎ

カリフォルニア・・卵、オレンジ、オレンジジュース、マッシュルーム、砂糖

テキサス・・オレンジ、オレンジジュース

ミネソタ・・シリアル、オートミール、パンケーキミックス、塩

ヴァーモント・・・メープルシロップ

メイン・・・グレープジャム

ニューヨーク・ニュージャージー・・・クリーム、牛乳、砂糖

オハイオ・・・ベーコン、ハム、イチゴジャム

イリノイ・・シリアル

ウィスコンシン・・・チェダーチーズ

フロリダ・・・オレンジ、オレンジジュース

ネブラスカ・・・小麦粉

メキシコ・・・パプリカ、タバスコなど、バニラ

コスタリカ・・・パイナップル

コロンビア・・・コーヒー

オーストラリア・・・キウイ

ベトナム・・・・胡椒

カナダ・・・ブルーベリー、メープルシロップ

在外国米軍は基本現地ではなく、あくまでも内地から
乗員の食料をまかなっているということですね。

地位協定で決まっていることなのかもしれませんが、軍隊は基本
寄港先の外国との商取引を行わないということなのかもしれません。

これがいわゆるリラックスユニフォームでしょうか。
左の人が、すごく不自然な箱の持ち方をしているのが気になります。

白い箱が全部チキン、茶色い方は肉が入っています。

そういえば、アメリカの空母では毎日牛2頭だか3頭だかの肉が
消費されると聞いたことがあります。

左は肉、同じような箱ですが右側はほうれん草の缶詰です。
海軍とほうれん草の缶詰、というとポパイを思い出しますね。

コンテナを使って作ったモニターには、空母に食料品や武器など、
荷物が運び込まれる様子を写したビデオが流れています。

左の「垂直補給」というパネルは、補給の方法として、
ホバリングしたヘリから荷物を降ろしているところです。

一週間に一度行われる補給艦による物資の補給のことを、

UNREP (Underway Replenishment)

といいます。
自衛隊でなんと言っているのかわかりませんが、アメリカ海軍ではおそらく
「アンレップ」と略称で呼んでいるのだと思われます。

物資はヘリコプターによって運ばれてくることもあり、そちらは

VERTREP(Vertical Replenishment)

バートレップといいます。
ヘリ補給は垂直に行うのでヴァーチカル、海上補給は
航行中に行うので「進行中」を意味するアンダーウェイが使われるのです。

洋上補給が行われるということになると、

「UNREPの準備をせよ!」

というアナウンスが行われ、その頃には「ミッドウェイ」の右舷後方から
補給艦がだんだんと近づいてきています。

補給艦が「ミッドウェイ」の数十メートルの距離に近づき平行に並ぶと、
補給艦からロープが渡されますが、流石にサンドレッドを人間が投げることはせず、
銃のようなもので細いロープを撃つのだそうです。

そうなの?

掃海隊の訓練で掃海艇と掃海母艦を連結する作業を二回見たことがあるけど、
どちらもサンドレッドを手で投げて舫につなげていた覚えがあるけど・・・・

と思って調べたら、ニミッツの洋上補給が見つかりました。

 

まず、補給艦「レーニエ」が追いつくのではなく、「ニミッツ」が追いつくというか、
「レーニエ」が後ろに下がってくるような感じで平行になり、すぐさま
女性乗組員が(!)補給艦に向かって二発銃を撃っています。(1:05 )

 

この映像を見る限り、どちらも航行している二隻の船はかなり距離があります。
掃海母艦の時には掃海母艦が錨泊している状態で、掃海艇もギリ近づくことができ、
人間が投げても届くということだったんですね。

面白いと思ったのは、補給艦の舷側に「ニミッツ」に見えるように

「ウェルカム トゥ アロングサイド(横にようこそ)」

「レーニエ」 レジェンド・オブ・サービス

あなたは今年110番目のお客様です

と大きな看板を出していること。
補給に「ウェルカム」「お客様」という言葉を使うとはね。
もっとも英語の任務は「サービス」であり、サービスは「奉仕」ではあるけど、
サービス業と同義の意味もあるわけで。

補給艦に渡された舫を、屈強の男が数人で綱引きのように引っ張って、
スルスルと補給艦からパイプが伸び、液体の補給が始まります。

3:40になると、「レーニエ」の向こう側に一隻駆逐艦らしき船がやってきて、
右舷からも補給が行われるらしいことがわかります。
(どうでもいいけどこの駆逐艦がむちゃくちゃ汚い)

コンテナはフォークリフトで運んできた人が、四角く印をしたところに
ぴったりに降ろすと、上から持ち上げるリフトがスルスルと降りてくるので、
四人がかりで玉掛けしたコンテナが高い位置に持ち上げられると、
引力の法則によりそれが「ニミッツ」の甲板へと滑り降りるように到達します。

ダブル補給といえば、こんなのも見つかりました。

 

補給されているのは「ウィドベイ・アイランド」、補給艦が「ビッグホーン」
向こう側で同時に補給を受けているのは強襲揚陸艦「ワスプ」です。

この映像では、オイルのホースを受け取る様子がよくわかります。

補給が行われている間の二隻の距離は20mといったところだそうですが、
補給の間の二隻のスピードは全く変わらず、距離も完璧に保たれます。

それだけにダブル・コンレップ(connected replenishment (CONREP) 
を行うのはかなりの技量を必要とすると思われます。

ところで、現役時代の「ミッドウェイ」では、洋上補給が始まると必ず
クリスタル・ゲイルの「We Must Believe in Magic」が流されたそうです。

 

We Must Believe In Magic - Crystal Gayle

どういう経緯でかは知りませんが、当時彼女は「ミッドウェイ」の

「名誉音楽士官」(ミッドウェイ・オナー・ミュージック・オフィサー)

に任命されて、正式に乗組員の名簿に載っていたと言います。
なぜこの曲が選ばれていたかというと、それはもちろん「ミッドウェイ」が
「ミッドウェイ・マジック」だったからに決まっています。

でも、わたしはクリスタル・ゲイルといえば、やっぱこの曲が好きですね。
「瞳のささやき」。
本人のバージョンが載せられなかったのでローラ・フィジーでどうぞ。

 Don't Make My Brown Eyes Blue - Laura Fygi


さて、ヘリによる補給、VERTREPは補給艦の搭載ヘリ、H-46が
二機で行うのが普通で、しかもUNREPと同時進行することが多かったそうです。

U.S. Navy Underway Replenishment • CONREP & VERTREP

こちらは東シナ海における強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」の垂直補給。

補給艦の艦尾甲板に荷物をまとめておいて、その上にヘリが飛来すると、
2:39から見ていただければわかりますが、荷物を牽引する先が棒になっていて、
甲板の二人がその棒の先の輪をヘリに引っ掛け、運んでいくという具合。

これ、見ていただければわかりますが、本当に危険な作業です。

機体の下に入る時間をできるだけ少なく、仕事が終わったらすぐさま
ヘリの近くから離れているのがわかります。

この荷物は例えば空母だとフライトデッキの後方に次々と運び込まれ、
荷物はそれぞれの部隊から駆り出された主に下っ端が、バケツリレー方式で
フライトデッキから艦内まで列を作って移動させていきます。

なお、この時には空母側のヘリも補給作業が終了するまで近くを飛んでいます。
万が一人や物資が海に落ちた場合には適切な処置をするためです。

 

「ロケット」の入っていたコンテナには、
「危険・高性能火薬」の札が掛けられています。

右側から入ってくるおじさんは、中華系で、わたしにいきなり、

「あーゆーチャイニーズ?ジャパニーズ?コリアン?」

と問いかけてきて、日本人だというと、

「コニチワー」

と挨拶してくれました。

 

さて、荷物を運ぶ場面といえば、あとは入港した時でしょう。

長い航海を終えて横須賀に戻ってくると、各ショップから各自の荷物が
(お土産などで増えている)運び出され、「トライウォール」という
大きめの段ボール箱に詰め込まれ、フライトデッキから桟橋に降ろされます。

誰しも自分の部隊の荷物を早くフライトデッキまで運びたいので、
かつては熾烈な艦載機エレベーターの取り合いがあったそうですが、
何か問題があったのか「ミッドウェイ」では飛行隊の場合、

それぞれの隊長の階級の順に

場所取りができることになったそうです。
しかし、隊長の階級は皆中佐。
何をもって階級が上とするかというと、中佐に昇進した日が早い方。

しかも飛行隊長というのはせいぜい1年半から2年で転勤になるので、
毎回入港が近づくと、下の者同士の

「おい、あそこの隊長、最近XOからCOになったばかりだから
うちのスキッパーの方が上だよなあ」

とか

「うちの隊長の方があそこのより1ヶ月早く中佐になってるぞ。
ザマアミロ」

などという会話があっちこっちで聞かれます。
(空母ミッドウェイ)

ここで不思議に思ったのが「1ヶ月早く中佐になる」という言葉で、
自衛隊の場合は人事の昇進、移動は一年に何度、と時期が決まっているため、
二佐になる人は同じ日か、それまでの人事移動日になっているかだと思うのですが、
アメリカ海軍はそういうこともあるのでしょうか。


とにかくそんな具合に最初から順番がほぼ予想できるので、
入港前日になるとエレベーターで箱を運ぶ順番が発表され、
万歳三唱して(アメリカ人もするんだ)大急ぎで荷造りする部隊、
あるいは極度に落ち込んでだらだらする部隊と明暗が分かれる事になります。


「ミッドウェイ」が横須賀の岸壁に横付けになると、日本人の基地作業員が
二基のクレーンを動かして荷物を運び出します。

どの荷物から運ぼうかと物色している日本人作業員に向かって、
フライトデッキでオフロードの指揮をとることになっている若い士官は、
英語でペラペラっと

「へい、ユー、オフロードの順番は決まってるから、私の指示に従って
まずはこの部隊の荷物から降ろしてくれ」

などとまくしたてるのですが、残念なことに日本人は彼の英語を全く解せず、

「何言ってんだこのガイジンは」

という様子で互いに顔を見合わせるだけ。
すると士官はこりゃあかんわ、とやる気をなくし、

「スミマセンコレネ、コレ、プリーズ。
ネクスト、コレ。ドモアリガト」

などといいつつ現場放棄をして逃げていくのでした(笑)

そんな時には日本語の話せる乗組員がいる部隊が断然有利。
おじさんたちにマルボロなど渡しながら

「あいつらの部隊の前に、うちの部隊先にやってくんないかな?」

などとお願いすると、日本人作業員は日本語に喜んで、

「ああいいよ」

かわいそうなのは、荷下ろしのために一人ずつ部隊から残された
ペーペーの乗員で、何が起こっているかわからないうちに
自分とこの荷物がいつの間にか後回しにされているのでした。

 

さて、これで艦内は本当に全部見学を終わりました(と思います)。
もう一度甲板の航空機展示に戻ります。

続く。