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フラッグ・オフィサーズ・アイランド〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-09-05 | 軍艦

空母「ミッドウェイ」のフライトデッキを時計回りに艦載機を
見学してきて、ちょうど艦橋の根元にたどり着きました。

甲板と同じレベルにはフライト・デッキ・コントロールがあります。
海軍で「ウィジャボード」(コックリさん)と呼ばれている
ボードでデッキの機体のステイタスを把握するところです。

そこから見学路が下に続いていたので階段を降りていきました。

おお、ブルードレスも凛々しい海兵隊員がお出迎えだ。

海兵隊というのはつまり水陸両用部隊で、乱暴な言い方をすれば
文字通り「殴り込み部隊」だと思ってください。

海軍と海兵隊は独立した別組織ですが、案外皆が知らないことは
どちらもが海軍省の隷下にあるということです。
海軍の艦艇に海兵隊が乗っている、というのは、例えば海上から
小型ボートや水陸両用車などで輸送されて、敵地に上陸のは海兵隊の役割です。

先日ご紹介した映画「マスター・アンド・コマンダー」には
制服の違う「マリーンズ」が乗り組んでいるのが描かれていましたが、
帆船時代からこの分業は行われてきたのです。

海軍は水上艦同士で砲撃戦が行うのが仕事ですが、戦争には
敵の陸地に上陸して陸上戦を行うという必要性が出てきます。

しかし敵地に上陸後自軍陣地を構築したり、
敵地に侵攻するということは全くの専門外。

そこで艦船に搭載して敵地に送り込む専門の部隊が生まれました。
これが後の海兵隊の始まりです。

しかし、「ミッドウェイ」に揚陸部隊が乗っているって変じゃない?

と思った方、現代の海兵隊と海軍の関係は昔とは違います。
大型艦艇に乗り込んでいる海兵隊員の役割は「警備」なのです。

皆さんはホワイトハウスの警備を海兵隊員が行なっているのをご存知でしょうか。

ホワイトハウスの内側:海兵隊歩哨

日本語字幕がついているのでぜひご覧いただきたいですが、
ホワイトハウスには4人の海兵隊員が30分交代で歩哨に立ち警備を行います。

海兵隊全員の中からたった4人しか選ばれない大変名誉な仕事で、
おそらく厳しい審査があるのだと思われます。
歩哨に立っている間は、たとえ「鼻が痒くても掻くことはできない」し、
ビデオにもあるように強風でクリスマスツリーが近くで倒れるような
アクシデントがあっても微動だにしないのが歩哨の任務です。

在外公館の警備も海兵隊がいわゆる在外公館警備対策官として
本国から派遣されて行います。

それでは「ミッドウェイ」艦内の海兵隊員は何を警備するのでしょうか。

空母の艦内には、特殊兵器の貯蔵庫や極秘文書など、24時間体制で
警備をしなければならないポイントがあります。
海兵隊が警備を任されているのはそういった重要なものが収納されている
部屋そのものだったりします。

そういった部屋はたとえ「ミッドウェイ」の乗員に対しても
厳に秘匿されているのが普通で、下士官兵、もしかしたら士官も
一部を除き何が中にあるのか全くわからない部屋、というのがあり、
外からは覗きこむこともできないように窓を黒塗りにしてあったりするのです。

結構大きな窓なので、好奇心の旺盛な水兵などが、

「中に何があるんだろう」

などとガラスにおでこをくっつけて中を見ようとすると、
たちまち中からガラスがドーンと叩かれ、

「こらあっ!すぐにそこをどけえっ!」

とものすごい勢いで怒鳴りつけられるのです。
大きなガラスは警察の面通しで使うワンウェイミラーになっていて、
ガラスの内側では海兵隊員が外を見張っているからです。

彼らは警備に当たるときがっつりと武装しています。

空母では航海中何らかの緊急事態が起こった時には
「セキュリティ・アラート」が発令され、対処します。

理由は様々で、秘密文書が紛失したとか、入港中に
不審者が侵入していたのがわかったとかですが、そうなると、
乗組の海兵隊員は全員がM-16自動小銃やガバメント45拳銃を持ち
艦内を走り回ることになります。

セキュリティ・アラートが発令されると、艦内の一切の作業は一旦停止。
しかし、何があったのかこそこそ話し合ったり、走り回っている海兵隊に
何があったの?とか聞くことは断じて禁止されています。

そんな時に何の関心も持つなという方が酷な気もしますが、とにかく
セキュリティ・アラートの放送があり、対象になった周辺では、
好奇心どころか全員床にうつ伏せに体を横たえなくてはなりません。

作業をしていた場所がどこかは全く関係ありません。
シャワーを浴びていれば裸でシャワーブースの床に、
トイレに入っていればズボンを下ろしたままでトイレの床に、
発令が解除されるまで長い時には數十分もの間、ずっと
「死んだふり」をしなくてはいけないのです。

それも大変ですが、セキュリティ・アラートが発令になる、つまり
緊急事態でもあるので、海兵隊員も全員がそれまでやっていたことを
一切切り上げて任務に当たらなくてはなりません。

ですので、必ずといっていいほどパンツ一丁にブーツだけ履いて、
武器を持って走り回っている海兵隊員が出てくるのだそうです。

空母に転勤してきたばかりで、そんな光景が珍しく、寝ているときに
つい頭をもたげて見てしまったり、最悪笑ったりするとさあ大変。
殺気立った海兵隊員にまたしても物凄い勢いで怒鳴りつけられてしまいます。

ちなみにセキュリティ・アラートの時の「ダイ・インの掟」
全ての人に平等に適応され、将官であろうがチーフであろうが、
大人しく床にうつ伏せになってこれをやり過ごさなければなりません。

ホワイトハウスほど厳密ではありませんが、海兵隊員は
艦隊の中でも「要人警護」を任務とすることがあります。

また海兵隊員は「オーダリーズ」と呼ばれ、例えばアドミラルに
伝令を行うなどという任務を行うこともあります。

この海兵隊員が警備しているのは、ここ「アドミラルズ・カントリー」

「ミッドウェイ」の中でも、将官が生活する区画です。
右に入っていくと、そこは「フラッグ・オフィサー」のキャビン

冒頭写真の光景が広がっております。

”Flag Officer”というのはアメリカ海軍と海兵隊においては

「少将以上」

のランクで、これらの位を「フラッグ・ランク」と呼ぶこともあります。
関係ないですが日本だと袖の金線が太くなるので「ベタ金」とか言いますよね。

つまり、その人が乗艦したらその階級を表す旗が揚げられる位が、
「フラッグランク」というわけ。

部屋には入れないようになっています。
軍艦の中なのにベッドはキングサイズ。
蚕棚みたいなところで寝ている人もいれば、一人で
枕を二つ並べてどんな場所でも寝放題な人もいるのが軍艦。

洗面所は流石にリッツ並みとはいきませんが、(むしろしょぼい)
ホテルの部屋のようにベッド両脇にはベッドチェストまで。

ベッドの上部に飾っている細い旗は、

「コミッション・ペナント」「マストヘッド」「ロングナロー」

などと呼ばれるものです。
あえて日本語に訳すと「就役旗」という感じでしょうか。
自衛隊では単に「長旗」といっているようです。
長旗がどうしてこんな形をしているかというと、英蘭戦争の時に
確か英国軍の艦長が、相手を「鞭で打ってやる」みたいな挑発をするため、
わざわざ作らせたとか理由があるそうですが、本当のところはわかりません。

司令官が乗艦しているときにそれを表すために揚げられ、
例えば司令官が戦死した場合には航海中この旗が半旗で掲揚され、
その遺体を運ぶボートでも、棺の葬列にもこれを用いなくてはなりません。

公式にではありませんが、この旗は実質その司令官専用のものとして、
任務が終われば個人に与えられるという慣習があるようです。

この額入りのコミッション・ペナントは、(近くで見られないので想像ですが)
おそらくかつてこの部屋の住人だった「ミッドウェイ」の司令官個人所有のもので、
博物艦となるにあたって寄贈されたものと思われます。

ペナントの星の数は、長いものだと13個あったりした時代もあったようですが、
この写真のものは7つ星で、1800年代にボート用にコンパクトになったものだそうです。

戸棚の中にテレビとラジオがセットされているというのが軍艦ですね。
壁収納で実に部屋がすっきりしております。
これだけ引き出しがあれば、どんな衣装持ちさんでも大丈夫。

クローゼットの中にある制服から、この部屋の主がリア・アドミラル、
少将であったらしいことがわかります。

コーヒーメーカーがあったり、現役のゴミ箱もあるので、
今でもよく使われている部屋みたいですね。

「ミッドウェイ」では他の展示軍艦のように一人っきりになれることは
滅多になく、いつも見学者がどこにいってもウロウロしています。

アメリカにも上座という概念があるのかどうかは知りませんが、
部屋の奥中央に偉い人が座ることになっているようです。

星二つのカバーのかかった椅子は、少将専用・・・?

それから近くで写真を撮るのを忘れましたが、後ろの絵は一体・・・?
シルエットはなんとなく輸送機のC-130っぽいですが・・・。

ところでこの部屋は何かと言うと、CTF77、つまり
(キャリア)タスクフォース77、第77任務隊の司令部です。

現在は「第7艦隊隷下の機雷戦部隊であり常設ではないようですが、
創設以来、第二次世界大戦、朝鮮戦争、冷戦、ベトナム戦争、
湾岸戦争、イラク、アフガニスタンと任務を行ってきました。

第77任務隊が「ミッドウェイ」を旗艦としていたのは、ベトナム戦争後、
1973年10月以来、FPS(Forward Deployed Naval Force)として
日本に展開した頃です。

湾岸戦争では第77任務隊は「砂漠の盾」「砂漠の嵐」作戦に参加しました。

1990年、イラク侵攻から再び「ミッドウェイ」を旗艦とした第77任務隊は、
「ミッドウェイ」の他、「レンジャー」「セオドア・ルーズベルト」
「ジョン・F ・ケネディ」「サラトガ」「アメリカ」などでペルシャ湾に展開しています。

大佐の制服があるので、艦長かエアボスの部屋ではないかと思われます。

エアボスは艦長と同等の位で、フライトオペレーションの全責任者。
フライトオペレーションの開始とともに空母全体が彼の指揮下に入るのです。

ちなみに、艦長とエア・ボスは共に「寝ない」のだとか。
エア・ボスの子分?に当たる役職は「ミニ・ボス」といい、
中佐の配置で、ミニ・ボスはエア・ボスが不在の時、その権限を
任されることになっているのですが、エア・ボスが寝ないので
滅多に出番がないのだそうです。

じゃミニボスはいつも何をしてるんだ、って話ですが、おそらく、
エア・ボスがいなくなるのを待っているのではないでしょうか。

この部屋のソファーはどうやらベッドになるタイプのようですが、
果たして寝ない艦長あるいはエアボスの部屋であれば、
このソファーが使われることはあまりなかったのでは・・・。

ちなみにソファーの上に黒いカバンが置いてありますが、これリアル。

自衛隊でも、これと全く同じようなカバンを副官が持ってますよね。
いつも中に何が入っているんだろうと思いながら見ています。

偉い人たちの食事を用意するキッチンがありました。
後ろ向きの従兵?が、左腕にナプキンをかけて
何やらサーブの用意をしているようです。

分厚いビーフステーキにポテト丸々一個、バター乗せ。
司令部はそんなにたくさん乗っているわけではないので、
小さなキッチンで食事を皆用意できるのだろうと思われます。

初級士官ですら食事の時にはサーブが付くくらいですから、
フラッグ・オフィサーともなると大変な格式で食事をするのでしょう。

余談ですが、アメリカ海軍では階級による待遇の違いが大きいせいか、
士官と下士官兵の雰囲気というのは歴然としていて、

「風貌が我々下々の者とはちょっと違っていて、
たとえジョギングウェアでもなんとなくそれとわかる。
肌が綺麗で髪が整い、無意識のうちに気取っているのか・・・・。
きっとそのように訓練されているのだろう」
(『空母ミッドウェイ』 )

だそうです。

 

続く。