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EYES IN THE SKY 電子戦機EA-6Aプラウラー〜フライング・レザーネック航空博物館

2022-02-03 | 航空機

わたしがフライング・レザーネック博物館に行った時、
ただでさえ暑いサンディエゴの真夏の炎天下の下、
そこで何の遮蔽物もない航空機展示場を重いカメラを構えっぱなしで
しかも色々とそれなりに考えながら写真を撮って歩くのは
正直ベリーハードな体験でした。

展示されている航空機を一つも漏らすことなく短時間で説明まで撮影。
しかもアポロ13号ではありませんが、フェイリアーイズノットアンオプション、
撮影の失敗は決して許されません。(その心はおそらく2度と来ないから)

ですからどの航空機も全体1〜2カット、
細部で気になるところがあるときだけ直感で判断してズーム、
となると、どの機体も必要最小限のカットしか残っていないのですが、
あとで写真を見て驚いたのが、今日紹介するプラウラーだけは、
なぜかしつこくしつこく何カットも撮っていたことです。



うーん、わたしってそんなにプラウラー好きだったのか。

■ グラマンEA-6B プラウラー(Prowler)



EA-6Bプラウラーの主な任務は、敵の電子活動を妨害し、
戦闘エリア内で戦術的な電子情報を取得することにより、
攻撃機と機上部隊を支援する敵の防空を抑制することです。

戦いにも色々ありますが、敵の防御を崩すという
非常に巧妙な戦法を任務として負わされている、それがプラウラーです。


正確にはこのモデルノートEA-6Bは、1963年に
F3D-2Q(EF-10B)スカイナイトの代替として開発した、

EA-6A エレクトリック・イントルーダー
Electric Intruder(直訳;電気的侵入者)

の続編ともいうべき機体でした。
EA-6Aは艦上攻撃機として誕生したイントルーダーの初期の電子戦型です。


スカイナイト

【電子戦機Electronic-warfare aircraftとは】

電子戦(EW)
近年になって登場した、従来の陸空海の領域を超える、全く新しい戦争の顔です。

電磁環境の中で行われ、電子情報に依存した現代の戦闘において、
敵の情報収集を混乱させたり、誤った情報を与えたりする能力は、勝利に不可欠。

現在は多くの戦闘機がされたアビオニクス(航空電子機器)
を装備しているため、電子戦の定義そのものが曖昧になりつつあります。

たとえば戦闘機F-22ラプターひとつとってみても、
RC-135に匹敵する電子情報(ELINT)システム
ボーイング社の空中警戒管制システム(AWACS)
電子攻撃能力が搭載されているといった具合です。

【ジャミングとは?】

電子戦に特化した航空機EW機の基本任務は、
敵戦闘機の電子システムを妨害することです。

例えば、空対空戦闘中に敵機の無線機を沈黙させ、
他の航空機と通信できないようにするというように。

そのためにどうするかというと、使用するのがEWシステムとなります。
具体的には電波やレーザー光などの集束&指向性エネルギー(DE)を用いて、
相手の探知電子機器(レーダー、ソナー、赤外線、レーザーなど)
の機能を低下させるのです。

そのために、EW機は、必ず航空機のポッドに取り付けられたり、
機体に組み込まれたジャミング・システムを搭載しています。

EW機は電子戦に特化し、この目的のためだけに作られているので、
他の軍用機に比べると武装は必要最小限となっています。

EW航空機は防御手段も電子を利用して行います。
具体的には、敵のシステム上に複数の「デコイターゲット」を作成したり、
敵のターゲットディスプレイを不規則に動かなどの戦法で自らを守るのです。

それでは攻撃はどうするかというと、
アジャイル・レーダー周波数ホッピング・ラジオで、
相手のシステムの情報伝達を妨害するという方法で行います。


「ジャミング」ですが、無線とレーダー、両方の周波数で行います。
送信機を使って敵の受信機の信号を上書きし、代わりにノイズを発生させるのです。

音楽(!)ランダムノイズ、パルスなどで、敵のシステムに可聴ノイズをかけたり
「微妙な」妨害で、相手が全く音を受信できなくさせます。

レーダー周波数による妨害の方法は大きく分けて二種類。
機械的な妨害と電子的な妨害があります。

前者は反射技術を使って敵のレーダー信号を跳ね返し、偽の目標を作り出すもの。
この装置には、チャフ(異なる周波数を反射する金属片)、
コーナーリフレクター(立体的な反射物体)、
デコイ(航空機から独立した操縦可能な物体で、相手のレーダーに目標を示すもの)
などがあり、もう一つの電子妨害は、高濃度のエネルギーを送信して、
過負荷によるノイズ妨害、偽信号によるリピーター妨害を発生
させます。

【プラウラーの電子戦】


現在、グロウラーに移行しているプラウラーは、
レーダー妨害などの通信障害を利用して地上部隊や攻撃部隊を支援する
SEAD(Suppression of Enemy Air Defenses)オペレーターでした。

ICAP(Improved Capability)IIIプログラム
電子機器をアップグレードしたプラウラーは、
連続波(CW)送信機を搭載したALQ-99ジャミングポッド5基、
AN/ALQ-218 EW受信機、LR700リアクティブジャマー
HARM(高速対放射線ミサイル)、Link16データリンク
その他の非運動性の無力化機能を備えていました。

1994年、プラウラーは米軍の主要な戦術的EW機に指定されています。


【日本の電子戦機〜SIGINT】

電子戦機というのは高度な技術の総合体なので、
開発はもちろん、運用もいわゆる先進国に限られる、とされます。

というわけで、我が日本国自衛隊も国産の電子戦機を何機か保有しています。


Kawasaki C-1

あれ?これ輸送機ですよね。


EC-1

失礼しました。こちらでした。
って外側からはほとんど見分けがつかないわけですが。
EC-1は電子戦訓練機です。

ちなみにSIGINTsignals intelligenceからきた用語で、
今や電子戦よりこちらの方が優勢であると思われます。
耳で聞いたことはありませんが、おそらく「シギント」と発音するのでしょう。
違ったらすみません。

それではそのシギントってなんですか、って話なんですが、
通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動のことです。

それって電子戦と何が違うの?という気がしますが、
電子戦は同じようなハードウェアを使用し、その運用においては
部隊指揮官の意思決定が直接反映されるという点が違います。

RC-2、電子情報収集機

海自はP−3C型で データ収集機EP-3
画像データ収集機(電子情報集偵察機)OP-3C
電子戦訓練支援機UP-3D(標的の曳航やチャフ散布を行う)
試験評価機UP−3Cを運用しています。


EP-3C胴体上面のレドームが増設された(おそらく岩国)

【プラウラー(うろうろする人)】

何度か書いていますが、Plowrerとは「うろつく人」の意味があります。
情報収集が任務の航空機にはいいかもしれませんが、
日本語で「うろうろする人」と訳してしまうと、
とたんに単なるヒマな人か動揺している人みたいなニュアンスになってしまいます。

プラウラーの後継機であるグラウラー(Glowrer)は、
「唸るもの」という意味ですが、これはあきらかにプラウラーと
韻を踏んだ言葉を探してきた感じがあります。

プラウラーと名付けられた経緯はどのようなものだったのか、
そのエピソードなどがいつかわかるといいなと思っています。

EA-6A「エレクトリック・イントルーダー」は、
1960年代に海兵隊のEF-10Bスカイナイトの後継機として開発されました。

EA-6Aは、標準的なA-6イントルーダーの機体をそのまま転用したもので、
2つの座席を持ち、電子戦(EW)装置を装備しています。

ベトナム戦争中、海兵隊の3つの飛行隊で使用されました。
27機生産され、そのうち15機は新規に製造されたものです。

ほとんどは1970年代に、そして最後の数機は1980年代に退役しました。
いわばより高性能なEA-6Bができるまでの暫定的な戦闘機だったのです。

ここに展示されているのは海軍のEA-6Bです。
スカイウォリアーズ(AKA-3B)の後継機として開発されたもので
大幅に設計変更され、より進化していました。
1971年からは空母で運用されるようになります。

【仕様】

2基のターボジェットエンジンを搭載しており、高い亜音速を実現しています。
長い間(1991年まで)生産されていたため、メンテナンス性が高く、
海軍や海兵隊の他の航空機よりも頻繁にアップグレードが行われています。



空爆任務のための電子戦および指揮統制機として設計されており、
単独で地上目標、特に敵のレーダーサイトなどを攻撃することも可能で、
もちろん電子信号の情報収集も可能です。



最終的なアップグレードでは、EA-6Bはシュライクミサイル(AGM-45)
AGM-88 HARMミサイルを発射できるようになりました。

【デザイン】

EA-6Bは、空母基地および先進基地での運用を想定して設計されています。
長距離・全天候型の能力、そしてと高度な電子対策。
どちらも兼ね備えた完全統合型の電子戦機です。


垂直尾翼の上に乗っかっているように見えるのはポッド型フェアリングで、
ここには追加のアビオニクス機器が搭載されています。


これですわ

プラウラーの乗員は4名。
構成はパイロットと3名のElectronic Countermeasures Officer(ECMO)
「エクモ」というと最近は医療機器としか受け取られませんが。


前にも散々話題にしたツノのような給油プローブですが、
もしかしたらわたしの当機に対する「萌えポイント」はこれかもしれません。

この給油プローブ、右に曲がっているように見えますが、
実は本当に左右非対称の作りになっているのだとか。
プロープの根元にはアンテナが付いています。



キャノピーは、電子戦機器が発する電波から乗員を守るため、
金色の陰影がつけられています。
電磁干渉からの保護と一部の電磁放射の防止の役割を果たしているのです。

【運用の歴史】

EA-6Bは1970年艦隊補充飛行隊VAQ-129に就役し、
1971年には戦術電子戦飛行隊132(VAQ-132)が最初の運用飛行隊となりました。
USS「アメリカ」(CVA-66)でベトナムへの初の戦闘配備を開始し、
USS「エンタープライズ」(CVAN-65)
USS「コンステレーション」(CVA-64)に電子戦部隊が配備されました。

1995年、EF-111 「レイブン」Ravenが退役して以来、
EA-6Bは米軍唯一の空中レーダージャマー専用機として125機が活躍しています。

レイブンって感じのスタイル


【アフガニスタン・イラクでの活動】

報道によると、プラウラーは数年前からアフガニスタンでの
対爆発物作戦に使用されており、実際にガレージ・ドア・オープナー
(ガレージを自動で開ける時のスイッチ)や携帯電話などを使った遠隔起爆装置を
妨害して未然に防いでいるということです。

イラクにも2つのプラウラー飛行隊が配備されていました。

【FLAMのプラウラー】

機体番号161882のEA-6Bは、製造された170機の機体の105番目です。

ノースカロライナ州のMCASチェリーポイントで、VMAQ-1,2,3,4、
全ての海兵隊飛行隊に所属していました。

2011年、ワシントン州NASウィッピーアイランドの海軍に移動、
続いてVAQ-131ランサーズから海軍の乗員を乗せて飛行しました。

ランサーズの徽章。電子戦部隊らしさ満点

彼女をこの航空博物館に届けたのは、4名の乗員で、
パイロットは、


フランク「ウタWuta」ウィリス中尉


マーク「ハイクHaiku」ハーン中尉、以下2名でした。
(以下2名のうち1名女性)

「詩(うた)と俳句」

何と風雅なタックネームでしょうか。
きっとこの人たち、日本勤務が長かったか、日本勤務中に付けたんだろうな。



プレイン・キャプテンの女性の名前がペイントされています。
プレイン・キャプテンの仕事については、
海軍のフィルムがあるのでこちらをどうぞ。

U.S. NAVY TRAINING FILM THE AIRCRAFT CARRIER PLANE CAPTAIN 81144

続く。