ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

前部エンジンルーム〜潜水艦「シルバーサイズ」

2023-02-05 | 軍艦

前回はちょっと息抜きに、潜水艦とペット(特に猫)
についてお話ししましたが、艦内ツァーの続きに戻ります。


アフターバッテリーの上にあるクルーズ・クォーター
(下士官兵乗員居室&食堂)を出て
次のコンパートメントに進んでいきましょう。

今更ですが、潜水艦の内部はコンパートメントごとに
ご覧のような水密ドアで仕切られています。


乗組員のヘッド(トイレ)の後ろには、
前から5番目、6番目となるコンパートメントがあります。
この二つのコンパートメントを、それぞれ

前方&後方エンジンルーム
FORWARD AND AFTER ENGINE ROOMS

といい、文字通りエンジンが搭載されています。

第二次世界大戦時のディーゼルエンジン搭載潜水艦の動力は、
これら二つのコンパートメントから生み出されてきます。



コンパートメントは長さ25フィート(7.62m)、幅15フィート(4.5m)。

巨大なエンジンは端っ子の水密ドアに挟まれて、
ほとんど全てのスペースを占めています。



どちらのコンパートメントにも巨大なエンジンがあるように見えますが、
外観にはちょっと騙されることになるかもしれません。

というのは、ここに見えている鉄板の「床」と思われるものは、
実は高架足場なのです。



どういうことかというと、今この写真であなたが見ているのは、
エンジンの上半分の
長さ16フィート(4.87m)、
幅3フィート(90cm)、高さ4フィート(1.2m)
の部分だけ。

エンジンの「残りの部分」は床下の”ロウワーフラット”にあるのです。


もう一度注意深くここの床(特に端部分)を見てください。
床のようで、実際は「足場」「デッキ」状であることがわかるでしょう。


床にはヒンジのついたデッキ開口部があります。

エンジンルームに働く乗員が、実際に手を汚すのが
この下で、この開口部はそこにつながっています。

各エンジンルームには、二つのメインと、
一つの小さな補機を含む合計3基のエンジンがあります。

訪問者が目にする補助装置のうち、
唯一目にはっきりと見えるのは、
部屋の中央を垂直に走っている大きな排気管です。


大変お見苦しい写真しかなくて申し訳ない。
現地のパネルでしか見ることのできない、デッキ下の様子です。

エンジン下半分は、プラットホームデッキ下方でしか見ることができません。

この写真は、パネルによると、ドクター・ローシュ(Dr.Roesch)
という人が撮った写真ということですが、一体これは誰なのか(笑)

この写真で確認できるのは、メインエンジンとエンジンの補機。
エンジンは大型発電機に動力を供給しますが、
そのうちの一つがこの写真の前方に写っています。

■ フェアバンクス-モース ディーゼルエンジン

主なディーゼルそのものは、2ストロークディーゼル機関、つまり、
燃焼は単一のシリンダーライナー内の2つのピストン間で行われます。
直列型ディーゼルエンジンで、ディーゼルは電気を生成するだけのものです。

各メインは、1,120ワット、400ボルトの発電機を回します。
この電気はプロペラを駆動するバッテリー、
または電気モーターに供給されます。

ここで勘違いしやすいことをあらためて書いておきますが、
潜水艦の動力というものは、そう簡単な仕組みではなく、

ディーゼル自体がスクリューに接続されているのではありません。

Fairbanks Morse 38 8-1/8 diesel engine
(フェアバンクスモース・ディーゼルエンジン)


は、1940年代から1950年代にかけて、アメリカのディーゼル電気潜水艦や、
ほとんどのアメリカ原子力潜水艦の予備動力として広く使われたほか、
その他の船舶用途、定置発電、一時は機関車にも使用されたエンジンです。

現在も、「ロサンゼルス」級、「シーウルフ」級、「オハイオ」級
などの原潜には、この38ND 8-1/8を改良したものが搭載されています。

かつて当ブログでは、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフにある、

USS「パンパニート」Pampanito(SS-383)

を紹介したことがありますが、
USS「パンパニート」も、「シルバーサイズ」と同じく、
現存する貴重なディーゼル電気潜水艦の一つです。

「パンパニト」のディーゼルエンジン

1600馬力、9気筒、18ピストンのフェアバンクス-モースエンジンの構成は、
シリンダーが垂直に配置され、シリンダーごとに
二つのピストンが配置されているという点で珍しいものです。



シリンダーとそれぞれの二つのピストン、と言われても
文字だけではおそらく分かりにくいので、動画を見つけてきて、
その中で紹介されている説明図をキャプチャしてみました。

動画というのは、第二次世界大戦中に、海軍の潜水艦乗員などの
教育用に作成されたフェアバンクス・モースエンジンの解説動画です。

ちょっとした実験から始まって、この仕組みが進化し、
潜水艦に搭載するエンジンがどのような機構なのか、
動画で大変分かりやすく説明してあります。

SUBMARINE DIESEL ENGINES WWII U.S. NAVY TRAINING FILM FAIRBANKS MORSE 17984


英語が全くわからなくてもその理屈は十分理解できるくらい、
平易に解説されているので驚かされます。
見学する対象が若い水兵であるからでしょう。

もし時間があったら是非ご覧ください。
改めてエンジンの動力のメカニズムがよくお分かりいただけるでしょう。



さて、この図でとりあえず説明を試みます。

上下に一つづつピストンがありますね。
このピストンは一つのシリンダーを共有しています。

そして中央に燃料を噴射する燃料イジェクターがあります。

二つのピストンはイジェクターのある中央で合流します。

上のクランクシャフトは下部のクランクシャフトと連動しています。

各ピストンの直径は8インチ、ストロークは10インチです。
エンジンは750rpmで比較的ゆっくりと作動します。

排気ガス掃気排気と呼ばれる。ビデオを見ていると、
Scavenged exhaustという言葉がしょっちゅう出てくる)は、
ブロワーメカニズムで吸い出すことで、パワーをブーストします。


38D8-1/1/8対抗ピストンエンジン
第二次世界大戦中の潜水艦に搭載されていたもの


■ 燃料清浄器と水蒸留器

コンパートメントの両端には、まるで
クリームセパレーターのように見える機械があります。


これは、燃料および潤滑油の清浄器です。

燃料が消費されると、燃料タンク内の空間が海水に置き換わります。
燃料は水に浮きますが、その燃料は、
保持タンクに移す前に精製する必要があるのです。

その仕組みを持つのがこの機械です。



また前方エンジンルームの後方端には二つの真空バキューム式蒸留器があり、
これらは一日に1,200ガロンの真水を生成することができます。



半分床に埋まっている部分が「チェンバー」
その上に電気式モーターによるポンプがあり、ここで生成された水は
哨戒中、バッテリー、飲料水、シャワー、調理などに利用されます。

海水を汲み上げ熱することによって生成される蒸気から水を作るのです。

「シルバーサイズ」には浄水用のタンクが4基あり、
それぞれが約1000ガロンを貯蔵することができました。

■生きている「シルバーサイズ」のエンジン

天井を無数に走るダクト。

外気をエンジンに送り込むフレッシュエア・ベンチレーションダクト
そしてメインエア導入(インダクション)ダクトです。

そしてやはり無数のバルブ、スイッチ、ゲージ。
一つとして潜水艦の機能にとって無駄なものはありません。


ディーゼルエンジンというのは、酸素を必要とするので
基本海面上でのみ稼働するものです。

ですから、いざダイブアラームが鳴ると、それと同時に
メインの吸気バルブと排気バルブは油圧で閉じられ、
エンジンは停止します。

潜航になると、水中で全ての電力はバッテリーから供給されます。

「シルバーサイズ」の場合、最大航行速度は水上で21ノットですが、
水中ではわずか8ノットしか出すことはできません。

そして航続距離は約12,000マイル。(19,312km)

「シルバーサイズ」は優秀で機能的なエンジンに恵まれました。

当時の最新であったこのファバンクス-モースの内燃機関は、
現在でも原子力潜水艦の補助に使われているくらいです。

そのエンジンは、毎年、戦没将兵追悼記念日になると、
メインディーゼルの#3、#4が、かつて潜水艦勤務だった
退役軍人たちの手で実際に起動されることになっています。

機関室の騒音レベルは低周波ですが、
隣の人と話すには耳に向かって直接声を張り上げる必要があるほど
大きな音でエンジンは唸りを上げます。

その時、ディーゼルは知覚できるほどの振動もないまま、
非常にスムーズに作動します。

実際にエンジンを始動することは、
冷却水、燃料ポンプ、および実際にエンジンを回転させるための
圧縮空気を送り込む大変複雑なプロセスです。

しかし、全てが「ラインアップ」すると、
ただスタートレバーを押すだけで、スリル満点の轟音が鳴り響きます。

訪問者は、前部機関室の録音を聞くと、
その片鱗を体験することができるでしょう。

万が一、あなたが「シルバーサイズ」の見学をすることになったとして、
もし、ツァーガイドがいたら、

「エンジンを始動してください」

と頼んでみてください。

実際に始動してくれることはないと思いますが、少なくとも
前部機関室で、その録音を聞かせてくれるはずです。

USS Silversides WW2 Submarine Engine Start-up

5分20秒過ぎからエンジンを始動させています。

USS Silversides - Starting the Engines

こちらは外からエンジン始動を見守る人たち。
見事エンジンが水煙を噴き上げると、見物人から拍手が起こります。



続く。






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2 Comments

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何もなし (Unknown)
2023-02-06 18:43:26
>ここで勘違いしやすいことをあらためて書いておきますが、潜水艦の動力というものは、そう簡単な仕組みではなく、ディーゼル自体がスクリューに接続されているのではありません。

この後で、電池力潜水艦の電気推進の仕組みの解説を期待したのですが、何もなし(汗)
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潜水艦用デイーゼル機関 (お節介船屋)
2023-02-06 20:23:14
デイーゼル機関は1892年ドイツのルドルフ・デイーゼルによって発明された内燃機関です。
原理はピストンによって空気を圧縮し、シリンダー内の高温空気に燃料を噴射して発火、その爆発力を動力系に伝達します。
作動形態で、吸入・圧縮・膨脹・排気の行程を2ストロークで行う2サイクル・エンジンと4ストロークで行う4サイクル・エンジンの2種類があります。
同じ燃焼容積であれば2サイクルは4サイクルの2倍の発生馬力があり、軽量小型となります。ただ単位時間当たり仕事量が2倍となりますので発生する熱応力や機械応力が高くなります。
従ってデイーゼル機関は一般的に大出力低回転所要であれば2サイクル、大出力中速や中高速が所要であれば4サイクルが採用されます。

潜水艦には軽量・小型が優先されますので2サイクルが装備されていました。

ガトー級は1,600馬力の3種類の2サイクル・デイーゼル主機が採用されましたがHOR社製は不調でGM社製V型16-278AとFM社製対向型38D8 1/3に統一されました。

日本も2次大戦前は2サイクルでしたが燃料消費率が良好で比較的単純な機構である4サイクルに移行されました。
ドイツ潜水艦も主力だったⅦC型は4サイクルでした。

潜水艦の推進方式は、第2次世界大戦まで内燃機関の主機と蓄電池及び電動機で構成されていましたが2方式がありました。

1 内燃機関・推進器直結方式  
  内燃機関、発電機兼電動機、推進器が軸を介して直結、それぞれの機器間をクラッチで嵌脱する

2 内燃機関駆動電気推進方式
  内燃機関駆動発電機と電動機機動推進器を別軸に分離、電気的結合

アメリカ潜水艦は2,日本潜水艦は水上高速力を狙い、すべて1の方式でした。
なおかつ日本は巡航用低速の小型補助電動機を装備し、水中航続力増大も狙っており、補機等も多く、大きな高馬力エンジンで機構上の不具合や運用上の複雑さもあり、騒音も大きく、活躍も不活発で被害が大きくなりました。

現在の潜水艦に採用されているデイーゼル機関は燃料消費率良好と燃焼用空気消費率の少ない4サイクルでターボ過給機付きで出力や効率向上が図られています。

参照海人社「世界の艦船」No469、766
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