■シー・サチャナライに5日間逗留しました。
今年のソンクラーン休日は土、日曜日と重なって、月、火曜日が振替休日で、12日から16日までの長期間休みになっていました。そのソンクラーン休みも明け、街中の水掛け渋滞も終息、プレーを目指して出発します。
出発日の朝、友人の家族が市場で「ミアン」を買って来ました。
サンカロークの陶人形で口内に食べ物を含み、頬を大きく膨らませた姿がたくさんあります。「オム・ミアン」と呼びます。「オム」とは「口に含む」という意味で、含んでいるのが「ミアン」という木の葉を黄色く変色する程度に蒸してから約1カ月ぐらい木樽に漬け込み発酵させた嗜好品だと言います。
食後にたばこを吸うような感覚で口に含んで食べます。ミアンにはカフェインを含み大量に食べると覚醒作用があるそうです。
シー・サチャナライの市場では、バナナの葉「バイ・トーン」に包まれて売られています。
伝統的なタイプで発酵させたミアンに塩と砂糖(ナムターン・ピープ)がまぶしてあります。
噛むと塩味で、多少舌にしびれを感じますが、かっては保存、携帯も容易で、人体に必要な塩分補給に好都合な食品だったのでしょう。
こちらはミアンにピーナッツ、炒ったココナッツの果肉、砂糖、塩、生姜が包まれています。
こちらはプレーの「ペー・ムアン・ピー自然公園」の入り口にある売店で「ミアン」の話を聞いているときに、店の婦人が自分用に持っているものをくれました。ミアンに揚げた豚肉の小さな角切り、塩、砂糖を生姜と一緒に包んであります。
豚肉の味に塩味と甘味が微妙に調和して、結構いける味でした。
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■「オム・ミアン」の陶人形です。
サンカロークの闘鶏を抱く男です。口元が膨らんでいます。
この人物は象に騎乗していたのでしょう。ワイをしていますが、頬は膨らんでいます。全高4cmの小さな像です。
婦人像です。
小隊長でしょうか、身分の高い兵士の頭像です。
どのような人物像か分かりませんが、漫画に出てきそうな顔立ちです。
この人物も素性が分かりません。
兵士象です。
カロンの兵士頭像です。右頬が膨らんでいます。
サンカロークの一見瘤のような膨らみに比べると、かなり控えめな膨らみです。
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こちらは「マーク」と呼ばれる、檳榔樹の実で、左は「マーク・スック」と呼ぶ生の実、右の袋詰めは「マーク・ヘーン」という乾燥した実です。中央のピンクと朱色は「マーク」を下の写真の葉「プルー」に包みますが、その時プルーに塗りつける「プーン」という粉です。プーンは「ホイ・ケーン」という赤貝の殻を焼き、粉末にした真っ白なものが一般的ですが、写真は「カミン」(ウコンの粉末)を混ぜ合わせています。
色の違いは混ぜ合わせたカミンの量で異なり、それぞれ好みによって使い分けるそうです。
また、これらを口に含んで噛むことを「キン・マーク」といいます。「キン」とは食べるという意味ですが、噛むと出る赤い汁を吐き出し、最後に噛みカスも吐き出します。
胡椒科の植物で「プルー」と呼びます。
「プーン」に用いる「ホイ・ケーン」(赤貝)です。
焼いたホイ・ケーンの殻は写真のような道具で粉にされたのでしょう。7,8世紀のモン遺跡から出土した粉ひき台、遺跡近くの寺院に集められています。
「カミン」(ウコン)です。カレーにも用います。
スコータイ時代の「キン・マーク」のための容器類です。青銅製で寺院や上流社会で用いられたものです。
盆に盛り付けるとこのようになります。かってはどの家庭にもあった寛ぎの基本アイテムだそうです。
マークを大量に摂取すると酒と同じ酔感、倦怠感に襲われるそうです。
「プーン」を入れる容器です。プーンが付着した陶製の小壺も出土しますが、現存するのは青銅製が圧倒的に多いです。
クメール時代のプーン容器です。青磁鳥型小壺で内側に「プーン」が残った状態です。
■檳榔樹の実を噛む習慣ははインド発生で、東西交易と共に東南アジアへ伝播したとも言われており、インド文明の影響下に、マラヤ、タワラワディー、クメール等へ浸透し嗜好されました。南下してきたタイ族もモン、クメールの影響を受けて嗜好品になったのでしょう。また、仏陀に供えられたり、冠婚葬祭でも必ず出てきます。
雲南発生のミアンはタイ族の南下と共にラオス、タイ、ミャンマーへもたらされました。ただ、熱帯のタイでは涼しい北部山岳地帯からウタラデットの山間部までが生育の南限であって、シー・サチャナライ、スコータイ区域では栽培ができませんでした(現在この区域にミアンの木はありません)。
シー・サチャナライの市場で売られているミアンはタイ北部から運搬されてきているようです。
ということで、シー・サチャナライではミアンは一般的に普及していなかったのではないか。と彼に疑問を投げかけると、納得してくれたようで、男性が「オム・ミアン」、女性が「キン・マーク」ということで議論を終えました。
長年「キン・マーク」を嗜むと、噛んで出る赤い汁とプーンのカルシウムによって歯が侵されてしまいます。この老婆も長年の嗜好で歯が茶色に変色しています。
噛み汁や噛みカスを吐き出すのが好ましくないと、1940年に禁止令が出てから廃れていき、ほとんど見かける機会はなくなりました。
しかし、市場へ行くと必ず売っている商品です。ちなみに、檳榔樹の実が2個で1バーツでした。
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タイ中部以南で「ミアン」というと写真の葉が出てきます。正確には「ミアン・カム」と呼ばれ、「バイ・トーン・ラーン」の葉にピーナッツ、乾燥エビ、赤玉ねぎ、炒ったココナッツの果肉、「マナーオ」(柑橘類でスダチの仲間?)、唐辛子、ニンニク、甘いつけ汁を包んで食します。