2020年4月のブログです
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村上春樹さんの『猫を棄てる-父親について語るとき』(2020・文藝春秋)を読みました。
つい最近、出た本ですが、小さな本ですので、あっという間に読んでしまいました。
しかし、内容は深いです。
村上さんのお父さんのことを書いた本ですが、村上さんとお父さんとの二人の思い出も出てきます。
タイトルの、猫を棄てる、はそういう思い出の一つ。
不思議な、しかし、少しだけほっとする、猫とのお話です。
一方、お父さんのお話は、その青春時代が戦争中と重なっていて、なかなかつらいものがあります。
中国で捕虜を虐殺するのを見た、という話を村上さんのお父さんがされるのを、村上さんは一回だけ聞いたことがあるそうですが、それがお父さんだけでなく、村上さんのこころにも、大きな影響を与えていることが記されています。
父子の葛藤は当然のことですが、村上さんの場合も、かなり大変だったようです。
村上さんがよく見たというテストで苦しんでいるという悪夢(?)もよくわかる気がします。
村上さんの文章は淡々と書かれていますが、その底には深い感情がこもっています。
特に、お父さんのお話を書かれている文章は、淡々とした奥に戦争や国家への憤りみたいなものが感じられます。
それは人が生きることの哀しさやつらさと裏表になっているかのようです。
小さな本ですが、何度でも繰り返して読める、一片の詩のような本だと思います。
いい本に出会えたと思います。 (2020.4 記)