
ホセ・クーラが演出・舞台デザインなどを担当した、ストックホルム王立歌劇場でのプッチーニのラ・ボエーム。
テーマは、「スカンジナビアのボエーム」。これまで、(構想編)、(演出メモ編)、(舞台模型編)と紹介してきました。
ようやく今回は、実際の舞台の紹介にうつります。
2015年11月21日の初演を前にして、クーラは、自分のフェイスブックに舞台のハイライト写真をアップしました。
クーラ自身が書いた短い紹介文が、それぞれの写真についています。ひとことのセリフ、舞台の情景を説明するものとなっています。
これまで紹介したクーラの構想、演出メモ、そして前回紹介した舞台模型をふまえ、実際の設計・設営、リハーサルをつうじて、どんなふうに舞台に結実していったのでしょうか。
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●第1幕

デドルアルト・グリーグ(作曲家・ショナール役)がワインのボトルを開けている。
“飲むのはここで! だが食事は外だ ”

部屋に1人残ったアウグスト・ストリンドベリ(作家・ロドルフォ役)
“だめだ、乗ってこない。”

ストリンドベリとミミとのはじめての出会い
"Sì,Mi chiamano Mimì"
“はい、みんなは私をミミと呼びます。”

"Ma, quando vien lo sgelo, il primo sole è mio..."
“雪解けの季節がやって来る時、最初の太陽は私のものなのです。”

"Dammi il braccio, mia piccina..."
“腕を貸して、僕のかわいい人。”
●第2幕

ムンク(画家・マルチェロ役)は、彼の絵を仕上げる。
日没のガムラスタン(ストックホルムの旧市街)

旧市街ガムラスタンのストートリィ広場の市場。
背景には、私たちが“偽造”したムンクの絵が、有名な広場の建物と空の輪郭を描く。
*偽造というわけは、こちらをお読みください → (演出メモ編)
●第3幕

”Early morning... (third act)”
早朝‥(第3幕)

後方ではトゥラとムンク(ムゼッタとマルチェロ)が争っている。
前方では、ミミとアウグスト・ストリンドベリ(ロドルフォ)が別れの歌を歌っている。

"The two friends grieving the loss of their lovers..."
“2人の友人同士は、恋人を失ったことを嘆いている”
心象風景としてムンクの「叫び」が背景に。
●第4幕

“私が来たときのこと、あなたは覚えてるかしら? 初めて、ここに。”
ミミが歌う間、背景に掲示された絵から、女性の存在がなくなっている。

キルケゴール(哲学者・コルリーネ役)の“古いコートよ”のアリアの終りに、グリーグは彼の肩を抱く。
ミミとアウグスト(ロドルフォ)は、彼らの傍らのベッドに。

ミミとアウグスト(ロドルフォ)
“みんな行ってしまったのね?私は眠ったふりをしてたのよ。あなたと二人きりになりたかったから”

ラストシーン。
ミミの体はベッドに横たわり、彼女の魂はムンクの絵の中に戻っていく。
舞台中央で、画家は自分の絵を凝視し‥‥
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全てのシーンで、このようにムンクの絵を利用して、クーラの「スカンジナビアのボエーム」が表現されています。
ムンクと言うと、日本では「叫び」の絵だけが有名ですが、このようにさまざまな雰囲気とタッチの絵が残されていることを、私は初めて知りました。
クーラの目的は、有名人の伝記的な舞台にすることではなく、あくまで、普遍的な、若者たちの愛と喪失、模索と失敗、芸術や政治・社会への情熱、自己実現への努力など、青春群像を、スカンジナビアで実在した文化的、創造的な運動が繰り広げられた時代を借りて描くことでした。
実際の舞台の映像を見ることができないのが残念ですが、これらの写真をみると、とても抒情的で、少し幻想的、そしてとても美しい舞台になったように思われます。
クーラのスカンジナビアのボエームの紹介も、次回でようやく最後(笑)になります。次回、初日の舞台でのサプライズと、反響、演出家クーラの思いなどを紹介して、終りたいと思います。
劇場HPにリハーサルの写真が多く掲載されていました。







●劇場がアップした予告編です。これで舞台の雰囲気がだいぶつかめます。若い出演者たちが、役柄になりきった演技を見せています。
La Bohème - trailer
●おまけ
クーラ自身が歌う、第1幕の二重唱「愛らしい乙女よ」、2012年ロシアのクレムリンでのコンサートより。ディナーラ・アリエヴァとホセ・クーラ。
Dinara Alieva & Jose Cura. Duet from "La Boheme"(Kremlin)
*写真はクーラのFB、劇場のHPからお借りしました。