『電詞都市DT』(2002年 メディアワークス電撃文庫)
『電詞都市DT』(でんしとしデトロイト)は、川上稔の代表作「都市シリーズ」の第8作である。シリーズ第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』以来、ふたたび時代設定を執筆当時の現代(2001~02年)に戻している。上下2巻組み大長編。2013年12月時点では、「都市シリーズ」の最終作となる。
「都市シリーズ」の第6・7作にあたる『創雅都市 S.F 』(1999~2002年)と『矛盾都市 TOKYO 』(2001~05年)は、どちらも川上が所属しているゲーム制作会社「 TENKY 」ホームページ内の「テンキーストア」で単行本が販売されている。
全ての物質が「電詞」情報として変換され、再構築された都市デトロイトが舞台となっている。文庫版イラストはさとやすが担当した。
「神の符号(聖書神話)」や「 BABEL 」など、作者の次シリーズ『終わりのクロニクル』(2003~05年)を想起させるキーワードが多いが、作品同士に直接の関連はない。
あらすじ
こことは異なる世界のアメリカ合衆国。
過去に新型爆弾が暴発した影響で、全ての物質が電詞情報として変換され、再構築された、アメリカ中西部の大都市デトロイト。そこはかつて「大神(おおかみ)」の降誕に失敗し、一度記憶を封じられた経験のある都市でもある。
日本政府の特殊部隊班長・青江は、重犯罪者アルゴを追い、自らも犯罪者という立場に偽装してデトロイトに潜入する。だがデトロイトは、日本のソウ楽都市・大阪から移送された、神の信託を降ろす預言塔「 BABEL 」の起動や、封じられた記憶の公開を間近に控えていた。青江は、デトロイトを治める「十三亜神」の一人であり、自分の後輩でもあった優緒と再会して捜査を進める。だが、アルゴは亜神の一人エダムザと共謀して王城を占拠。神の符号をもって、かつてデトロイトを壊滅の危機に陥れた大神の降臨を再び引き起こそうとしていた……デトロイトにふたたび、崩壊の危機がおとずれる。
作中での関連年表
1945年 アメリカ合衆国南西部ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所からデトロイトに輸送された、アメリカ軍の「言詞爆弾」の起爆遺伝詞封入中に暴発事故が発生し、デトロイト全域が広大な空白地帯に変質する。
1946年 イギリス・フランス両国の研究チームによる解析の結果、デトロイトの「電詞空間化」が確認される。
1951年 デトロイトの分解作業が開始され、作業をバックアップする永世中立国スイスがデトロイトの統治権を獲得する。
1952年 デトロイト内部の混沌化が確認され、都市機能が完全に放棄される。
1957年 「三賢者」によるデトロイト研究開発が本格的に開始され、「電詞都市」構想が表明される。
1958年 この年から1982年までの研究記録は全て非公開となり、情報の開示は「デトロイト歴5800年(西暦2040年)7月7日15時」まで禁止となる。
1963年 世界各国より、研究者がデトロイトに招集される。
1977年 「第一次神触実験」が失敗し、デトロイトが半壊する。その結果、実験に参加した「三賢者」は消失し、13名の研究関係者が「大神」の遺伝詞に神触してデトロイトの基盤OS に融合。不老不死の「九家十三亜神」となる。
デトロイトの復興に際し、十三亜神のリーダーであるアカラベス=チューブズリーブを「女王」とした都市王朝が建国される。
1982年 「第二次神触実験」が失敗し、デトロイトが再び半壊する。十三亜神のメンバーであるアーコン=エダムザが重傷を負い、優緒=NATAS は死亡が確認された後に蘇生するが、2名とも記憶を喪失する。この実験が行われた7月7日から「デトロイト歴」が始まる。
1983年 女王アカラベスが2回の神触実験に関する情報の封印を宣言し、開示は「デトロイト歴2000年(西暦2002年)7月7日15時」まで禁止となる。
1985年 女王アカラベス、「大神降誕機構(クエストロン)」の研究記録を喪失技巧(デステクノ)化して封印する。
1999年 同年に「世界破滅に至る不幸」を封印して閉鎖された日本の首都「矛盾都市・東京」の救済策を得るために、ソウ楽都市・大阪からデトロイトに預言塔「 BABEL 」が輸入され、神の信託の抽出がはかられる。
主な登場キャラクター
青江 正造
ASB 詞族(高速動作耐性)の近接格闘師(クリティカルフォーサー)。召喚紋章は「ブラックベルト」。1976年生まれ。
「拳聖」小林吽暁(うんぎょう)を師に持つ、元・北関東圏総長で、現・日本国臨時内閣対特殊領域部隊「 GASAS 」第四班班長。同じく吽暁の門弟だったアルゴの弟弟子にあたるが、アルゴが吽暁を殺害して吽暁の養女オルタネートの意識遺伝詞を拉致していったため、アルゴを追跡する。拳位は「拳豪」。
過去に自身も人を殺め、優緒との不本意な別れを経験したことをいまだに気にかけている。必殺の拳を持つ完全体育会系で、エロい。
「都市シリーズ」第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』に登場した東京圏総長連合第一特務隊長・池丸孝弘によく似た名前の「池丸孝一」という人物が上司である(両者の関係は不明)。
得意とする技は「疾風雷花拳」。
優緒(ゆうお)=NATAS
WAV 詞族(長寿族・音声系強化)の少女で、全方位理術師(プログラムマスター)。召喚紋章は「ウィッシュブリンガー」。
1977年の「第一次神触実験」によって不老不死者となり、電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第十三亜神となるが、1982年の「第二次神触実験」で、それ以前の過去の記憶を失っている。ややユルい。
自分の失われた記憶を探るために日本に留学していた時期(1993~95年)に、青江が総長を務めていた北関東圏総長連合で広報長として活躍していたため、青江の後輩にあたる。今も昔も青江のエロの被害者だが、6年前に青江に何も告げずに日本を去ったことを後悔している。
長寿族特有の歌唱能力の高さから、現在はデトロイトで、音声入力も駆使する理術師として活動する。デトロイド憲兵師団(ヤード)機軍少尉。
第二次神触実験の直後に、女王アカラベスの養女となって後継者に指名された。
亜神己動詞(プログラム)は「シャドウキープ(高度結改)」。
オウガ=テライ
DLL 詞族。召喚紋章は「バランスオブパワー」(フーブリッキーとの合一)。黒人の太り気味な中年男性。
電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第五亜神で、デトロイドヤード団長。フーブリッキーの夫。
亜神己動詞(プログラム)は「スペルブレイカー(高度均転)」(フーブリッキーとの合一)。
フーブリッキー=テライ
SYS 詞族。召喚紋章は「バランスオブパワー」(オウガとの合一)。金髪碧眼の女性。
電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第六亜神で、デトロイドヤード副団長。オウガの妻。
亜神己動詞(プログラム)は「スペルブレイカー(高度均転)」(オウガとの合一)。
アルゴ=エバークエスト
ASB 詞族(高速動作耐性)の近接格闘師。召喚紋章は「サドンストライク」(オルタネートとの合一)。アメリカ合衆国出身。
青江の兄弟子で、最強の拳を持つ男。師匠・小林吽暁の娘オルタネートが侵されている「言障(ワーズワーン)」と呼ばれる不治の病を治すためにデトロイトにやってきた。青江に追跡されている。
「拳聖」である師匠の吽暁を殺害したため、不老不死の特性を継承している。
オルタネート=小林
ASB 詞族(高速動作耐性)の一般市民。召喚紋章は「サドンストライク」(アルゴとの合一)。
青江とアルゴの師匠である「拳聖」小林吽暁の姪にあたるが、1962年8月に遺伝詞研究者の父・小林阿昏(あこん)がデトロイトに旅立ったため、阿昏の弟である吽暁の養女として日本で育った。不治の病「言障」に侵されており、2001年の段階で翌年夏までの命と診断されていた。
肉体は日本の病院施設で昏睡状態となっているが、アルゴが意識遺伝詞を拉致したため、意志はデトロイトでアルゴと行動を共にしている。デトロイトでのアバターである「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」の等級は「ミカエル(一天)級」で、基本的に3頭身の状態になっている。白いワンピース姿。ノン気系。
父とともにデトロイトに旅立った双子の姉がいる。
エクセル
アルゴに従う「四管理長」の一人。SYS 詞族。擬似召喚紋章は「ロータス」。
長身痩躯の黒人男性で、ベストにシャツ、黒トルーザーという執事のような風貌をしており、戦闘時には両手に白手袋と右目にモノクル(片眼鏡)をかける。「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」の等級は「ラファエル(三天)級」。
ミスト
アルゴに従う「四管理長」の一人。AVI 詞族。擬似召喚紋章は「プレミア」。長さ1.4メートルの巨大な白い電詞ペンを珠座神形具(マウスデヴァイス)として使用する。
白いドレスを着た金髪で細身の若い女性。「旧型・贋作外殻」の等級は「ガブリエル(二天)級」。
大刀(ダイカタナ)
アルゴに従う「四管理長」の一人。ASB 詞族。擬似召喚紋章は「メビウス」。
長い鉄杖を持ち、帯に脇差をさした青と白の和装の男。「旧型・贋作外殻」の等級は「ウリエル(四天)級」。
メクトン
アルゴに従う「四管理長」の一人。ASB 詞族。擬似召喚紋章は「トライブス」。
ブラウンの短髪の巨躯の男で、肩から先を破いた紺色の軍服を着ている。「旧型・贋作外殻」の等級は「ウリエル級」。
電詞都市デトロイトとは……
アメリカ合衆国中西部ミシガン州の大都市だったが、1945年に発生した「言詞爆弾」の暴発によって電詞的に閉鎖されてしまった。
住民はデトロイトを放棄したが、研究者たちの努力によって電詞的加圧が100倍に制限され、「大神」を降誕させるための実験都市として再利用された。それ以来、旧来の奏荷(プラス)を象徴する工業都市の要素は撤廃され、外観は RPGゲームのような中世ヨーロッパ風のものへと組み替えられた。そのため、デトロイトは「偽物の都市」とも呼ばれている。
電詞都市となるにあたり、「広域結改」で包まれた街の周囲は、無限ループする水域で取り囲まれるようになった。
デトロイト内の時間は通常の100倍の速度で進行しているため、西暦1982年7月7日に開始された「デトロイト歴」は、20年経過した西暦2002年7月7日の時点で「デトロイト歴2000年」を迎えることとなる。
西暦2002年時点での総人口は4096名で、デトロイトにもともと在住している住民数はそのうちの約2300名である。
九家十三亜神とは……
1963年に世界各国からデトロイトに招集された遺伝詞研究者の中から選抜された12名のエリートと、1名の民間人が、1977年の「第一次神触実験」の失敗に巻き込まれ、「大神」の遺伝詞に神触してデトロイトの基盤OS に融合した結果、不老不死の「亜神」となったもの。
電詞都市デトロイト自体が滅亡しない限り消滅しない彼ら彼女らは、デトロイトの実質的な統率者となっており、全員が自らの出自、本名、過去の経歴、デトロイトの成立過程を明らかにしていない。
「チューブズリーブ家1名(デトロイト王朝王家)」、「テライ家2名(デトロイトヤード団長)」、「リーブ家2名(商業地区管理)」、「ナスラップ家1名(デトロイト大聖堂司祭)」、「ノーミャ家2名(外交担当)」、「ナパツ家1名(デトロイト自治体代表)」、「エダムザ家1名(医療・遊戯地区管理)」、「レイルブ家2名(デトロイト刑務所管理)」、「ナタス家1名(デトロイトヤード団員)」の9家13名で構成される。
本編の時点では、リーブ家、ノーミャ家、ナパツ家、レイルブ家の7名が、デトロイト歴2000年(西暦2002年)7月7日15時にせまった情報公開に向けての外交交渉のために国外に出張しているため、デトロイト内に残っていた亜神は6名だった。
主な用語
召喚術(ロードエンブレム)
全てが電詞で構成された「電詞都市」であるデトロイトでは、電詞化の際に強烈な速度加圧がかけられるため、人間が生身の遺伝詞のままで入ると、その急激な熱量消費に耐えられなくなってしまう。
そのため、入市者は遺伝詞情報を基にして作成された、入市者との遺伝詞共鳴で操作できる「アバター(偽物の身体)」である「通常外殻(つうじょうがいかく)」を使用することになる。
通常の生活のほとんどは、この通常外殻で活動できるが、あくまでもアバターであるため、本人ほどの能力も精密さもない(0% 召喚)。
しかし、緊急の事態には本人の意思により、この通常外殻に一時的に入市者の遺伝詞(本人)を召喚することができる。これを「字呼召喚(ダウンロード)」と呼び、字呼召喚は入市者の遺伝詞の50% を召喚することができる。
更に本人が意思を強く持つと、「大召喚(グランドロード)」と呼ばれる、遺伝詞の100% 召喚が可能になる(完全展開)。
これらの召喚時に現れる紋章を「召喚紋章」と呼ぶ。
召喚紋章(エンブレムパターン)
字呼召喚や大召喚の際に、自身の遺伝詞を召喚するための触媒として、デトロイトのOS から与えられた個別の紋章。
奏荷(プラス)
現実の中で真実を見いだす力。「生」「現実」「奏」。
騒荷(マイナス)
架空の中で真実を見いだす力。「殺」「架空」「騒」。
言定議状態(ボードモード)
電詞都市デトロイトはネットワークゲームの世界に非常に似ており、「言定議状態」は、ネットワークゲームにおけるチャットに感覚が近い、会話と思考しか表示されない高速会議状態。
チャットでは、文字のみで映像がないが、そのために消費する電詞熱量が少なく「軽い」。ただし、アバター(通常外殻)の行動はプログラムで自動化しているため、精密な動作はできない。また、この言定議状態では周囲の情報が映像として理解できないため、周囲の情報を文字情報として出力する必要があり、この作業を「言像更新(オーバーリロード)」と呼ぶ。
言解議状態(サイトモード)
言解議状態は、ネットワークゲームにおいてゲーム本編をプレイしている状態に近い。
本人がダイレクトにアバター(通常外殻)を操作することができ、情報も視覚から得るため、こちらの方が現実世界に近い状態だと言える。
ただし、そのために消費電詞熱量が多く、使用し過ぎるとアバターが疲弊するため、「高機能化(SD)」によって、アバターを二~五頭身にディフォルメして消費電詞熱量を節約することもできる。
詞族
デトロイトにおける詞族の設定は、もとは「拡張詞族」と呼ばれていた技術で、1960年代以降に本格化した「贋作外殻」の研究の過程で生まれた。これは、アバター(外殻)に特徴と安定性を付与するために拡張された情報で、「種族」のような概念になっている。
詞族の種類は、「外殻の使用言語」「動作時の代行己動詞(サブプログラム)や保有情報の形式」「外殻と遺伝詞との伝達形式」といった情報をもとにデトロイト入市時に設定され、デトロイト内では本来の本名をもちいずに偽名や詞族名を使用することも許可されている。なお、この偽名・詞族名はデトロイト外の世界でも使用することができるが、その場合はデトロイトとは逆に、遺伝詞(本人)に詞族の特徴がフィードバックされる形になる。
詞族の数は多量に存在するが、基本的には、文字情報を高速精密に見聞・作成できる「文字情報型」(TXT など)、精細な音声情報を高速で作成・取得できる「音声情報型」(WAV など)、画像把握能力や画像作成・展開能力に優れている「画像情報型」(AVI など)、己動詞(プログラム)の作成や把握・制御に優れている「システム型」( DLL、SYS など)、行動や情報整理・制御などの手法が各自個性的な「機動言語型」(ASB )の5種類に分類される。
言障(ワーズワーン)
「都市シリーズ」の世界における、原因不明の不治の病。
人間の遺伝詞を構成する因子を崩壊させ、人間を完全に分解・消滅させてしまう正体不明の病気である。しかし、分解された遺伝詞は地脈に合流し、新たに進化した遺伝詞に再構成されて再び誕生するという、「輪廻転生」と「業」のシステムを解明する手がかりなのではないかとも推測されているが、その真相を証明する手段はない。
ブラックベルト(黒帯槍)
青江正造の召喚紋章。腕部を中心に遺伝詞召喚し、打撃力の上限設定を解除する。
ウィッシュブリンガー(歌昇師)
優緒=NATAS の召喚紋章。発声器官を中心に遺伝詞召喚し、発声力の上限設定を解除する。
サドンストライク(突然撃)
アルゴ=エバークエストとオルタネート=小林の合一召喚紋章。腕部と察知力を中心に遺伝詞召喚し、精密高速打撃の上限設定を解除する。
バランスオブパワー
テライとフーブリッキーの合一召喚紋章。体力と意識力を中心に遺伝詞召喚し、精密判断動作の上限設定を解除する。
ロータス(蓮華陣)
アルゴに従う「四管理長」の一人・エクセルの擬似召喚紋章。プログラム制御力を中心に召喚し、プログラム制御力の上限設定を解除する。
プレミア(描写師)
アルゴに従う「四管理長」の一人・ミストの擬似召喚紋章。技術力を中心に召喚し、描写力の上限設定を解除する。
メビウス(無双輪)
アルゴに従う「四管理長」の一人・大刀の擬似召喚紋章。重心関係を中心に遺伝詞召喚し、剣線統合力の上限設定を解除する。
トライブス(攻種族)
アルゴに従う「四管理長」の一人・メクトンの擬似召喚紋章。反射関係を中心に召喚し、接続設定先の反射力の上限設定を解除する。
預言塔「 BABEL 」
日本のソウ楽都市・大阪で1971年から企画・建造が開始され、1999年に完成した「全世界広告塔」。正式名称は「 BABEL71」。全高3.2キロメートル。
建造とそのスポンサーは、全面的に日本の「幻実都市・出雲」を拠点とする、「出雲航空電詞研究所」や「 IAI(出雲航空技術研究所)」といった、複数の出雲系列企業が競合しながら請け負っている。
「大天蓋」の存在によって世界規模での通信網の延伸が遮断されている現在において、ケーブル系が及ばない地域にまで情報を送り、全世界ネットワークの中心基地となると期待されていた。また、第二次世界大戦で使用されたとされる「言詞塔砲」を搭載して、大天蓋を直接粉砕する構想もあったという。
禁忌である喪失技巧(デステクノ)の復活に利用されたために、完成間もない1999年3月に運用が停止され、廃棄も検討されていたが、同年8月に「世界破滅に至る不幸」を内包して閉鎖された日本の首都「矛盾都市・東京」の救済策を得るため、同年12月に「工期およそ4ヶ月」という異例の速さでデトロイトに移送された。その際に「半トリスタン式地脈接続型」に改造され、地脈から「大神」の遺伝詞にアクセスし、東京解放の預言を得ることを目的として稼動する。
「都市シリーズ」第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』の後日譚にあたるプレイステーション用ゲームソフト版に登場していた。
亜神己動詞(プログラム)
九家十三亜神がデトロイトOS から与えられている、強力なマスタータイプの己動詞。十三亜神はこれを駆使してデトロイトの諸問題の解決に対処する。本人たち以外が使用する場合には許可設定(プロパティ)が必要となる上に、デトロイトOS からの加圧援助が入らず膨大な電詞熱量を消費するため、基本的に亜神己動詞の他者への貸与は行われない。
十三亜神のそれぞれに、デトロイトに唯一しか存在しない個別の亜神己動詞が備わっており、全てがデトロイトOS と合致しているため、複製は不可能である。
デトロイト憲兵師団(ヤード)
1982年に発生した第二次神触実験事故による混乱期に結成された自警組織で、正式名称は「スイス銀行騎師軍情報警備部独立師団デトロイト方面警察担当」。
結成当初は、団長のオウガと副団長のフーブリッキーが中心となった、デトロイト住民の有志による自衛団だったが、翌83年に女王アカラベスの推挙により、デトロイトの独立電詞警備機構に発展した。
ヤードは、デトロイト以外の通常世界の情報も電詞空間に変換できる独自の「結改展開システム」を保有しており、これによって世界各国にデトロイトの出張所を設置し、人間や物品のデトロイトや各出張所間での移動を可能にし、かつ、この保安を基本任務としている。
同時に、まれに遺伝詞乱散を起こしたデータが実在遺伝詞に憑依して発生する「妖物」を鎮圧・封印する作業もおこなう。
アメリカ合衆国内の各警察機構への技術提供のほか、実務アシストもおこなっており、特に外界のコンピュータから電詞世界にアクセスして行われるサイバー犯罪は、厳正な態度をもって取り締まる。
四管理長(カルテット)
デトロイトでアルゴに従い行動する、エクセル・ミスト・大刀・メクトンの4人組。全員が騎師(ナイト)級である。
1963年に、亜神になる以前のアーコン=エダムザが創造し、1982年の第二次神触実験の失敗まで南部地区の遊園地「白城(はくじょう)」を管理していた「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」。第二次神触実験以前の優緒の記憶を甦らせるためにアルゴの決起に加勢する。アルゴがオルタネートの意識遺伝詞を拉致して日本から帰国する以前から、各自「名無し1~4」と匿名設定で潜伏していた。
四管理長が持つ「擬似召喚紋章」は、自身の遺伝詞ではなく「全高度代行己動詞(サブプログラム)」と呼ばれる超重代行己動詞を召喚する。これは1977年の第一次神触実験以前に開発された試作段階の召喚紋章であるために電詞熱量を激しく消費するが、現在使用されている召喚紋章よりも専門能力に特化している。
全員、デトロイト内では他人に干渉できない強制縛鎖(セキュリティ)がかけられていたが、アルゴがセキュリティを解除したために活動可能となる。
旧型・贋作外殻(NPC ボディ)
デトロイトが電詞都市化した1950年代後半に、管理を担当した「三賢者」が初めて開発した「通常外殻」の原型。西暦2000年代では一般には運用されていない。初期からデトロイトOS に連動しており、アーコン=エダムザが1960年代に量産化させてからは、OS の一部として機能するようになった。
アーコンの開発した贋作外殻は、言障患者用の「一天級」、画像系詞族用の「二天級」、SYS 詞族用の「三天級」、ASB 詞族用の「四天級」の4種類だった。
贋作外殻の欠点としては電詞熱量を激しく消費することがあげられ、現在の体制となったデトロイトでさらに多量に作成するには高性能すぎたために生産は終了し、それに代わった新型の通常外殻が量産されるようになった。
現在の通常外殻は共通の記憶を持たずに画一的な個性しか有していないが、贋作外殻は言障患者のアバターになることも考慮されていたために、人間的な思考をする能力も持っている。
位階制度
人間の、特定の分野に関する能力に位階を付けて管理し、その行動を全世界共通に監視、制御する制度。国際連合決議によって1999年9月に制定された。
具体的には、「攻撃力」「開発力」「速度」といった実質的な能力の高い人間に正当な階級を付け、その階級ごとに活動範囲などに制限を与える制度である。作中に登場する、小林吽暁の「拳聖」位や、青江正造の「拳豪」位が、これにあたる。
1999年8月に発生した「矛盾都市・東京」の閉鎖現象は、その利権をめぐって世界各国が、「援助」や「警備」を名目として自国の最強の軍事戦力である「英雄」たちを東京周辺に展開させる事態をまねき、東アジアの沿海地域は一触即発の危険な状態となった。そのため、日本政府の要請を受けた国際連合が、個人戦力の各国による都合の良い利用を避けるために緊急に制定したのが、この位階制度だった。
ある一定以上の高い能力を持つ個人戦力は国際連合の管理下に入り、その国籍国の「保有兵器」と認定されない限りは、国籍国の権利の行使には利用できない。また、兵器認定されない位階保持者が他国の不利益になる行為をなした場合は、他の位階保持者か、もしくは国際連合軍の討伐の対象となる。
位階は上位から、「天」1名、「神(竜)」4名、「仙(皇)」8名、「聖(帝)」16名、「豪」32名、「王」定員無制限となっており、全ての位階保持者は国際連合への登録が必須であるほか、「聖」位以上は国籍国の兵器認定の可否を決めなければならない。
「天」位は特定の武器や武術、技術における各分野の象徴となるべき人物が当てられており、また、「神」「仙」「聖」位の保持者は不老不死の能力を得ていることが前提となる。この不老不死能力は、過酷な修行や戦闘によって遺伝詞が歪んでいくことによって生じるもので、その方法を会得した流派が位階を継承させていくことによって、位階保持者の人数は世界的に安定すると見られている。
ちなみに、「竜」「皇」「帝」位は、それぞれ不老不死にならずに「神」「仙」「聖」位と同じ能力を有している者に与えられる位階で、人数が少ないために特殊記号とされている。
三賢者
1977年の第一次神触実験以前にデトロイトの研究に着手していた、「科学」「化学」「旧言詞学」の各権威による三人組。デトロイトの電詞都市化をはじめ、デトロイトOS や贋作外殻の基礎を作成した。西洋人男性、アメリカ人女性、東洋人男性の3名だったということしか明らかになっておらず、三賢者に関する記録はスイス銀行の情報金庫に保管されて完全匿秘とされている。
三賢者による研究開発は1957年から始まったが、1963年からは亜神になる以前のアーコン=エダムザによる贋作外殻の量産が中心となり、三賢者の役割は終了した。
その後、第一次神触実験の爆発に巻き込まれて消失したとされているが、3名の遺体が確認されなかったため、自らもデトロイトOS の一部と同化したか、デトロイト外に逃れて無事だったのではないかという説がささやかれている。
『電詞都市DT』(でんしとしデトロイト)は、川上稔の代表作「都市シリーズ」の第8作である。シリーズ第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』以来、ふたたび時代設定を執筆当時の現代(2001~02年)に戻している。上下2巻組み大長編。2013年12月時点では、「都市シリーズ」の最終作となる。
「都市シリーズ」の第6・7作にあたる『創雅都市 S.F 』(1999~2002年)と『矛盾都市 TOKYO 』(2001~05年)は、どちらも川上が所属しているゲーム制作会社「 TENKY 」ホームページ内の「テンキーストア」で単行本が販売されている。
全ての物質が「電詞」情報として変換され、再構築された都市デトロイトが舞台となっている。文庫版イラストはさとやすが担当した。
「神の符号(聖書神話)」や「 BABEL 」など、作者の次シリーズ『終わりのクロニクル』(2003~05年)を想起させるキーワードが多いが、作品同士に直接の関連はない。
あらすじ
こことは異なる世界のアメリカ合衆国。
過去に新型爆弾が暴発した影響で、全ての物質が電詞情報として変換され、再構築された、アメリカ中西部の大都市デトロイト。そこはかつて「大神(おおかみ)」の降誕に失敗し、一度記憶を封じられた経験のある都市でもある。
日本政府の特殊部隊班長・青江は、重犯罪者アルゴを追い、自らも犯罪者という立場に偽装してデトロイトに潜入する。だがデトロイトは、日本のソウ楽都市・大阪から移送された、神の信託を降ろす預言塔「 BABEL 」の起動や、封じられた記憶の公開を間近に控えていた。青江は、デトロイトを治める「十三亜神」の一人であり、自分の後輩でもあった優緒と再会して捜査を進める。だが、アルゴは亜神の一人エダムザと共謀して王城を占拠。神の符号をもって、かつてデトロイトを壊滅の危機に陥れた大神の降臨を再び引き起こそうとしていた……デトロイトにふたたび、崩壊の危機がおとずれる。
作中での関連年表
1945年 アメリカ合衆国南西部ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所からデトロイトに輸送された、アメリカ軍の「言詞爆弾」の起爆遺伝詞封入中に暴発事故が発生し、デトロイト全域が広大な空白地帯に変質する。
1946年 イギリス・フランス両国の研究チームによる解析の結果、デトロイトの「電詞空間化」が確認される。
1951年 デトロイトの分解作業が開始され、作業をバックアップする永世中立国スイスがデトロイトの統治権を獲得する。
1952年 デトロイト内部の混沌化が確認され、都市機能が完全に放棄される。
1957年 「三賢者」によるデトロイト研究開発が本格的に開始され、「電詞都市」構想が表明される。
1958年 この年から1982年までの研究記録は全て非公開となり、情報の開示は「デトロイト歴5800年(西暦2040年)7月7日15時」まで禁止となる。
1963年 世界各国より、研究者がデトロイトに招集される。
1977年 「第一次神触実験」が失敗し、デトロイトが半壊する。その結果、実験に参加した「三賢者」は消失し、13名の研究関係者が「大神」の遺伝詞に神触してデトロイトの基盤OS に融合。不老不死の「九家十三亜神」となる。
デトロイトの復興に際し、十三亜神のリーダーであるアカラベス=チューブズリーブを「女王」とした都市王朝が建国される。
1982年 「第二次神触実験」が失敗し、デトロイトが再び半壊する。十三亜神のメンバーであるアーコン=エダムザが重傷を負い、優緒=NATAS は死亡が確認された後に蘇生するが、2名とも記憶を喪失する。この実験が行われた7月7日から「デトロイト歴」が始まる。
1983年 女王アカラベスが2回の神触実験に関する情報の封印を宣言し、開示は「デトロイト歴2000年(西暦2002年)7月7日15時」まで禁止となる。
1985年 女王アカラベス、「大神降誕機構(クエストロン)」の研究記録を喪失技巧(デステクノ)化して封印する。
1999年 同年に「世界破滅に至る不幸」を封印して閉鎖された日本の首都「矛盾都市・東京」の救済策を得るために、ソウ楽都市・大阪からデトロイトに預言塔「 BABEL 」が輸入され、神の信託の抽出がはかられる。
主な登場キャラクター
青江 正造
ASB 詞族(高速動作耐性)の近接格闘師(クリティカルフォーサー)。召喚紋章は「ブラックベルト」。1976年生まれ。
「拳聖」小林吽暁(うんぎょう)を師に持つ、元・北関東圏総長で、現・日本国臨時内閣対特殊領域部隊「 GASAS 」第四班班長。同じく吽暁の門弟だったアルゴの弟弟子にあたるが、アルゴが吽暁を殺害して吽暁の養女オルタネートの意識遺伝詞を拉致していったため、アルゴを追跡する。拳位は「拳豪」。
過去に自身も人を殺め、優緒との不本意な別れを経験したことをいまだに気にかけている。必殺の拳を持つ完全体育会系で、エロい。
「都市シリーズ」第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』に登場した東京圏総長連合第一特務隊長・池丸孝弘によく似た名前の「池丸孝一」という人物が上司である(両者の関係は不明)。
得意とする技は「疾風雷花拳」。
優緒(ゆうお)=NATAS
WAV 詞族(長寿族・音声系強化)の少女で、全方位理術師(プログラムマスター)。召喚紋章は「ウィッシュブリンガー」。
1977年の「第一次神触実験」によって不老不死者となり、電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第十三亜神となるが、1982年の「第二次神触実験」で、それ以前の過去の記憶を失っている。ややユルい。
自分の失われた記憶を探るために日本に留学していた時期(1993~95年)に、青江が総長を務めていた北関東圏総長連合で広報長として活躍していたため、青江の後輩にあたる。今も昔も青江のエロの被害者だが、6年前に青江に何も告げずに日本を去ったことを後悔している。
長寿族特有の歌唱能力の高さから、現在はデトロイトで、音声入力も駆使する理術師として活動する。デトロイド憲兵師団(ヤード)機軍少尉。
第二次神触実験の直後に、女王アカラベスの養女となって後継者に指名された。
亜神己動詞(プログラム)は「シャドウキープ(高度結改)」。
オウガ=テライ
DLL 詞族。召喚紋章は「バランスオブパワー」(フーブリッキーとの合一)。黒人の太り気味な中年男性。
電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第五亜神で、デトロイドヤード団長。フーブリッキーの夫。
亜神己動詞(プログラム)は「スペルブレイカー(高度均転)」(フーブリッキーとの合一)。
フーブリッキー=テライ
SYS 詞族。召喚紋章は「バランスオブパワー」(オウガとの合一)。金髪碧眼の女性。
電詞都市デトロイトの「九家十三亜神」の第六亜神で、デトロイドヤード副団長。オウガの妻。
亜神己動詞(プログラム)は「スペルブレイカー(高度均転)」(オウガとの合一)。
アルゴ=エバークエスト
ASB 詞族(高速動作耐性)の近接格闘師。召喚紋章は「サドンストライク」(オルタネートとの合一)。アメリカ合衆国出身。
青江の兄弟子で、最強の拳を持つ男。師匠・小林吽暁の娘オルタネートが侵されている「言障(ワーズワーン)」と呼ばれる不治の病を治すためにデトロイトにやってきた。青江に追跡されている。
「拳聖」である師匠の吽暁を殺害したため、不老不死の特性を継承している。
オルタネート=小林
ASB 詞族(高速動作耐性)の一般市民。召喚紋章は「サドンストライク」(アルゴとの合一)。
青江とアルゴの師匠である「拳聖」小林吽暁の姪にあたるが、1962年8月に遺伝詞研究者の父・小林阿昏(あこん)がデトロイトに旅立ったため、阿昏の弟である吽暁の養女として日本で育った。不治の病「言障」に侵されており、2001年の段階で翌年夏までの命と診断されていた。
肉体は日本の病院施設で昏睡状態となっているが、アルゴが意識遺伝詞を拉致したため、意志はデトロイトでアルゴと行動を共にしている。デトロイトでのアバターである「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」の等級は「ミカエル(一天)級」で、基本的に3頭身の状態になっている。白いワンピース姿。ノン気系。
父とともにデトロイトに旅立った双子の姉がいる。
エクセル
アルゴに従う「四管理長」の一人。SYS 詞族。擬似召喚紋章は「ロータス」。
長身痩躯の黒人男性で、ベストにシャツ、黒トルーザーという執事のような風貌をしており、戦闘時には両手に白手袋と右目にモノクル(片眼鏡)をかける。「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」の等級は「ラファエル(三天)級」。
ミスト
アルゴに従う「四管理長」の一人。AVI 詞族。擬似召喚紋章は「プレミア」。長さ1.4メートルの巨大な白い電詞ペンを珠座神形具(マウスデヴァイス)として使用する。
白いドレスを着た金髪で細身の若い女性。「旧型・贋作外殻」の等級は「ガブリエル(二天)級」。
大刀(ダイカタナ)
アルゴに従う「四管理長」の一人。ASB 詞族。擬似召喚紋章は「メビウス」。
長い鉄杖を持ち、帯に脇差をさした青と白の和装の男。「旧型・贋作外殻」の等級は「ウリエル(四天)級」。
メクトン
アルゴに従う「四管理長」の一人。ASB 詞族。擬似召喚紋章は「トライブス」。
ブラウンの短髪の巨躯の男で、肩から先を破いた紺色の軍服を着ている。「旧型・贋作外殻」の等級は「ウリエル級」。
電詞都市デトロイトとは……
アメリカ合衆国中西部ミシガン州の大都市だったが、1945年に発生した「言詞爆弾」の暴発によって電詞的に閉鎖されてしまった。
住民はデトロイトを放棄したが、研究者たちの努力によって電詞的加圧が100倍に制限され、「大神」を降誕させるための実験都市として再利用された。それ以来、旧来の奏荷(プラス)を象徴する工業都市の要素は撤廃され、外観は RPGゲームのような中世ヨーロッパ風のものへと組み替えられた。そのため、デトロイトは「偽物の都市」とも呼ばれている。
電詞都市となるにあたり、「広域結改」で包まれた街の周囲は、無限ループする水域で取り囲まれるようになった。
デトロイト内の時間は通常の100倍の速度で進行しているため、西暦1982年7月7日に開始された「デトロイト歴」は、20年経過した西暦2002年7月7日の時点で「デトロイト歴2000年」を迎えることとなる。
西暦2002年時点での総人口は4096名で、デトロイトにもともと在住している住民数はそのうちの約2300名である。
九家十三亜神とは……
1963年に世界各国からデトロイトに招集された遺伝詞研究者の中から選抜された12名のエリートと、1名の民間人が、1977年の「第一次神触実験」の失敗に巻き込まれ、「大神」の遺伝詞に神触してデトロイトの基盤OS に融合した結果、不老不死の「亜神」となったもの。
電詞都市デトロイト自体が滅亡しない限り消滅しない彼ら彼女らは、デトロイトの実質的な統率者となっており、全員が自らの出自、本名、過去の経歴、デトロイトの成立過程を明らかにしていない。
「チューブズリーブ家1名(デトロイト王朝王家)」、「テライ家2名(デトロイトヤード団長)」、「リーブ家2名(商業地区管理)」、「ナスラップ家1名(デトロイト大聖堂司祭)」、「ノーミャ家2名(外交担当)」、「ナパツ家1名(デトロイト自治体代表)」、「エダムザ家1名(医療・遊戯地区管理)」、「レイルブ家2名(デトロイト刑務所管理)」、「ナタス家1名(デトロイトヤード団員)」の9家13名で構成される。
本編の時点では、リーブ家、ノーミャ家、ナパツ家、レイルブ家の7名が、デトロイト歴2000年(西暦2002年)7月7日15時にせまった情報公開に向けての外交交渉のために国外に出張しているため、デトロイト内に残っていた亜神は6名だった。
主な用語
召喚術(ロードエンブレム)
全てが電詞で構成された「電詞都市」であるデトロイトでは、電詞化の際に強烈な速度加圧がかけられるため、人間が生身の遺伝詞のままで入ると、その急激な熱量消費に耐えられなくなってしまう。
そのため、入市者は遺伝詞情報を基にして作成された、入市者との遺伝詞共鳴で操作できる「アバター(偽物の身体)」である「通常外殻(つうじょうがいかく)」を使用することになる。
通常の生活のほとんどは、この通常外殻で活動できるが、あくまでもアバターであるため、本人ほどの能力も精密さもない(0% 召喚)。
しかし、緊急の事態には本人の意思により、この通常外殻に一時的に入市者の遺伝詞(本人)を召喚することができる。これを「字呼召喚(ダウンロード)」と呼び、字呼召喚は入市者の遺伝詞の50% を召喚することができる。
更に本人が意思を強く持つと、「大召喚(グランドロード)」と呼ばれる、遺伝詞の100% 召喚が可能になる(完全展開)。
これらの召喚時に現れる紋章を「召喚紋章」と呼ぶ。
召喚紋章(エンブレムパターン)
字呼召喚や大召喚の際に、自身の遺伝詞を召喚するための触媒として、デトロイトのOS から与えられた個別の紋章。
奏荷(プラス)
現実の中で真実を見いだす力。「生」「現実」「奏」。
騒荷(マイナス)
架空の中で真実を見いだす力。「殺」「架空」「騒」。
言定議状態(ボードモード)
電詞都市デトロイトはネットワークゲームの世界に非常に似ており、「言定議状態」は、ネットワークゲームにおけるチャットに感覚が近い、会話と思考しか表示されない高速会議状態。
チャットでは、文字のみで映像がないが、そのために消費する電詞熱量が少なく「軽い」。ただし、アバター(通常外殻)の行動はプログラムで自動化しているため、精密な動作はできない。また、この言定議状態では周囲の情報が映像として理解できないため、周囲の情報を文字情報として出力する必要があり、この作業を「言像更新(オーバーリロード)」と呼ぶ。
言解議状態(サイトモード)
言解議状態は、ネットワークゲームにおいてゲーム本編をプレイしている状態に近い。
本人がダイレクトにアバター(通常外殻)を操作することができ、情報も視覚から得るため、こちらの方が現実世界に近い状態だと言える。
ただし、そのために消費電詞熱量が多く、使用し過ぎるとアバターが疲弊するため、「高機能化(SD)」によって、アバターを二~五頭身にディフォルメして消費電詞熱量を節約することもできる。
詞族
デトロイトにおける詞族の設定は、もとは「拡張詞族」と呼ばれていた技術で、1960年代以降に本格化した「贋作外殻」の研究の過程で生まれた。これは、アバター(外殻)に特徴と安定性を付与するために拡張された情報で、「種族」のような概念になっている。
詞族の種類は、「外殻の使用言語」「動作時の代行己動詞(サブプログラム)や保有情報の形式」「外殻と遺伝詞との伝達形式」といった情報をもとにデトロイト入市時に設定され、デトロイト内では本来の本名をもちいずに偽名や詞族名を使用することも許可されている。なお、この偽名・詞族名はデトロイト外の世界でも使用することができるが、その場合はデトロイトとは逆に、遺伝詞(本人)に詞族の特徴がフィードバックされる形になる。
詞族の数は多量に存在するが、基本的には、文字情報を高速精密に見聞・作成できる「文字情報型」(TXT など)、精細な音声情報を高速で作成・取得できる「音声情報型」(WAV など)、画像把握能力や画像作成・展開能力に優れている「画像情報型」(AVI など)、己動詞(プログラム)の作成や把握・制御に優れている「システム型」( DLL、SYS など)、行動や情報整理・制御などの手法が各自個性的な「機動言語型」(ASB )の5種類に分類される。
言障(ワーズワーン)
「都市シリーズ」の世界における、原因不明の不治の病。
人間の遺伝詞を構成する因子を崩壊させ、人間を完全に分解・消滅させてしまう正体不明の病気である。しかし、分解された遺伝詞は地脈に合流し、新たに進化した遺伝詞に再構成されて再び誕生するという、「輪廻転生」と「業」のシステムを解明する手がかりなのではないかとも推測されているが、その真相を証明する手段はない。
ブラックベルト(黒帯槍)
青江正造の召喚紋章。腕部を中心に遺伝詞召喚し、打撃力の上限設定を解除する。
ウィッシュブリンガー(歌昇師)
優緒=NATAS の召喚紋章。発声器官を中心に遺伝詞召喚し、発声力の上限設定を解除する。
サドンストライク(突然撃)
アルゴ=エバークエストとオルタネート=小林の合一召喚紋章。腕部と察知力を中心に遺伝詞召喚し、精密高速打撃の上限設定を解除する。
バランスオブパワー
テライとフーブリッキーの合一召喚紋章。体力と意識力を中心に遺伝詞召喚し、精密判断動作の上限設定を解除する。
ロータス(蓮華陣)
アルゴに従う「四管理長」の一人・エクセルの擬似召喚紋章。プログラム制御力を中心に召喚し、プログラム制御力の上限設定を解除する。
プレミア(描写師)
アルゴに従う「四管理長」の一人・ミストの擬似召喚紋章。技術力を中心に召喚し、描写力の上限設定を解除する。
メビウス(無双輪)
アルゴに従う「四管理長」の一人・大刀の擬似召喚紋章。重心関係を中心に遺伝詞召喚し、剣線統合力の上限設定を解除する。
トライブス(攻種族)
アルゴに従う「四管理長」の一人・メクトンの擬似召喚紋章。反射関係を中心に召喚し、接続設定先の反射力の上限設定を解除する。
預言塔「 BABEL 」
日本のソウ楽都市・大阪で1971年から企画・建造が開始され、1999年に完成した「全世界広告塔」。正式名称は「 BABEL71」。全高3.2キロメートル。
建造とそのスポンサーは、全面的に日本の「幻実都市・出雲」を拠点とする、「出雲航空電詞研究所」や「 IAI(出雲航空技術研究所)」といった、複数の出雲系列企業が競合しながら請け負っている。
「大天蓋」の存在によって世界規模での通信網の延伸が遮断されている現在において、ケーブル系が及ばない地域にまで情報を送り、全世界ネットワークの中心基地となると期待されていた。また、第二次世界大戦で使用されたとされる「言詞塔砲」を搭載して、大天蓋を直接粉砕する構想もあったという。
禁忌である喪失技巧(デステクノ)の復活に利用されたために、完成間もない1999年3月に運用が停止され、廃棄も検討されていたが、同年8月に「世界破滅に至る不幸」を内包して閉鎖された日本の首都「矛盾都市・東京」の救済策を得るため、同年12月に「工期およそ4ヶ月」という異例の速さでデトロイトに移送された。その際に「半トリスタン式地脈接続型」に改造され、地脈から「大神」の遺伝詞にアクセスし、東京解放の預言を得ることを目的として稼動する。
「都市シリーズ」第4作『ソウ楽都市 OSAKA 』の後日譚にあたるプレイステーション用ゲームソフト版に登場していた。
亜神己動詞(プログラム)
九家十三亜神がデトロイトOS から与えられている、強力なマスタータイプの己動詞。十三亜神はこれを駆使してデトロイトの諸問題の解決に対処する。本人たち以外が使用する場合には許可設定(プロパティ)が必要となる上に、デトロイトOS からの加圧援助が入らず膨大な電詞熱量を消費するため、基本的に亜神己動詞の他者への貸与は行われない。
十三亜神のそれぞれに、デトロイトに唯一しか存在しない個別の亜神己動詞が備わっており、全てがデトロイトOS と合致しているため、複製は不可能である。
デトロイト憲兵師団(ヤード)
1982年に発生した第二次神触実験事故による混乱期に結成された自警組織で、正式名称は「スイス銀行騎師軍情報警備部独立師団デトロイト方面警察担当」。
結成当初は、団長のオウガと副団長のフーブリッキーが中心となった、デトロイト住民の有志による自衛団だったが、翌83年に女王アカラベスの推挙により、デトロイトの独立電詞警備機構に発展した。
ヤードは、デトロイト以外の通常世界の情報も電詞空間に変換できる独自の「結改展開システム」を保有しており、これによって世界各国にデトロイトの出張所を設置し、人間や物品のデトロイトや各出張所間での移動を可能にし、かつ、この保安を基本任務としている。
同時に、まれに遺伝詞乱散を起こしたデータが実在遺伝詞に憑依して発生する「妖物」を鎮圧・封印する作業もおこなう。
アメリカ合衆国内の各警察機構への技術提供のほか、実務アシストもおこなっており、特に外界のコンピュータから電詞世界にアクセスして行われるサイバー犯罪は、厳正な態度をもって取り締まる。
四管理長(カルテット)
デトロイトでアルゴに従い行動する、エクセル・ミスト・大刀・メクトンの4人組。全員が騎師(ナイト)級である。
1963年に、亜神になる以前のアーコン=エダムザが創造し、1982年の第二次神触実験の失敗まで南部地区の遊園地「白城(はくじょう)」を管理していた「旧型・贋作外殻(NPC ボディ)」。第二次神触実験以前の優緒の記憶を甦らせるためにアルゴの決起に加勢する。アルゴがオルタネートの意識遺伝詞を拉致して日本から帰国する以前から、各自「名無し1~4」と匿名設定で潜伏していた。
四管理長が持つ「擬似召喚紋章」は、自身の遺伝詞ではなく「全高度代行己動詞(サブプログラム)」と呼ばれる超重代行己動詞を召喚する。これは1977年の第一次神触実験以前に開発された試作段階の召喚紋章であるために電詞熱量を激しく消費するが、現在使用されている召喚紋章よりも専門能力に特化している。
全員、デトロイト内では他人に干渉できない強制縛鎖(セキュリティ)がかけられていたが、アルゴがセキュリティを解除したために活動可能となる。
旧型・贋作外殻(NPC ボディ)
デトロイトが電詞都市化した1950年代後半に、管理を担当した「三賢者」が初めて開発した「通常外殻」の原型。西暦2000年代では一般には運用されていない。初期からデトロイトOS に連動しており、アーコン=エダムザが1960年代に量産化させてからは、OS の一部として機能するようになった。
アーコンの開発した贋作外殻は、言障患者用の「一天級」、画像系詞族用の「二天級」、SYS 詞族用の「三天級」、ASB 詞族用の「四天級」の4種類だった。
贋作外殻の欠点としては電詞熱量を激しく消費することがあげられ、現在の体制となったデトロイトでさらに多量に作成するには高性能すぎたために生産は終了し、それに代わった新型の通常外殻が量産されるようになった。
現在の通常外殻は共通の記憶を持たずに画一的な個性しか有していないが、贋作外殻は言障患者のアバターになることも考慮されていたために、人間的な思考をする能力も持っている。
位階制度
人間の、特定の分野に関する能力に位階を付けて管理し、その行動を全世界共通に監視、制御する制度。国際連合決議によって1999年9月に制定された。
具体的には、「攻撃力」「開発力」「速度」といった実質的な能力の高い人間に正当な階級を付け、その階級ごとに活動範囲などに制限を与える制度である。作中に登場する、小林吽暁の「拳聖」位や、青江正造の「拳豪」位が、これにあたる。
1999年8月に発生した「矛盾都市・東京」の閉鎖現象は、その利権をめぐって世界各国が、「援助」や「警備」を名目として自国の最強の軍事戦力である「英雄」たちを東京周辺に展開させる事態をまねき、東アジアの沿海地域は一触即発の危険な状態となった。そのため、日本政府の要請を受けた国際連合が、個人戦力の各国による都合の良い利用を避けるために緊急に制定したのが、この位階制度だった。
ある一定以上の高い能力を持つ個人戦力は国際連合の管理下に入り、その国籍国の「保有兵器」と認定されない限りは、国籍国の権利の行使には利用できない。また、兵器認定されない位階保持者が他国の不利益になる行為をなした場合は、他の位階保持者か、もしくは国際連合軍の討伐の対象となる。
位階は上位から、「天」1名、「神(竜)」4名、「仙(皇)」8名、「聖(帝)」16名、「豪」32名、「王」定員無制限となっており、全ての位階保持者は国際連合への登録が必須であるほか、「聖」位以上は国籍国の兵器認定の可否を決めなければならない。
「天」位は特定の武器や武術、技術における各分野の象徴となるべき人物が当てられており、また、「神」「仙」「聖」位の保持者は不老不死の能力を得ていることが前提となる。この不老不死能力は、過酷な修行や戦闘によって遺伝詞が歪んでいくことによって生じるもので、その方法を会得した流派が位階を継承させていくことによって、位階保持者の人数は世界的に安定すると見られている。
ちなみに、「竜」「皇」「帝」位は、それぞれ不老不死にならずに「神」「仙」「聖」位と同じ能力を有している者に与えられる位階で、人数が少ないために特殊記号とされている。
三賢者
1977年の第一次神触実験以前にデトロイトの研究に着手していた、「科学」「化学」「旧言詞学」の各権威による三人組。デトロイトの電詞都市化をはじめ、デトロイトOS や贋作外殻の基礎を作成した。西洋人男性、アメリカ人女性、東洋人男性の3名だったということしか明らかになっておらず、三賢者に関する記録はスイス銀行の情報金庫に保管されて完全匿秘とされている。
三賢者による研究開発は1957年から始まったが、1963年からは亜神になる以前のアーコン=エダムザによる贋作外殻の量産が中心となり、三賢者の役割は終了した。
その後、第一次神触実験の爆発に巻き込まれて消失したとされているが、3名の遺体が確認されなかったため、自らもデトロイトOS の一部と同化したか、デトロイト外に逃れて無事だったのではないかという説がささやかれている。