長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

世界よ、これが日本の土曜ワイド劇場だ!!  ~明智小五郎シリーズ第10作『大時計の美女』~

2012年12月08日 23時02分20秒 | ミステリーまわり
 おっしゃーい! どうもこんばんは、そうだいでございます~。みなさま、休日いかがお過ごしでしょうか~?
 いやぁもう、寒い寒い! もうどんなに天気がよくなっても、気温の方は真冬モードに突入してしまったんですなぁ。

 真冬といえば年の瀬、年の瀬といえばあなた、年賀状でございますよ……そろそろ、そっちのほうに費やす時間の計算もしなくちゃならない時期になってきてしまいました。はなはだ面倒くさいけど、これをやらなきゃ年は越せないわけなんですよ! がんばろ~っと。

 話はまるで変わりますが、電車に乗っていたら、中吊りに来年の NHK大河ドラマの『八重の桜』の宣伝広告が! こっちのほうも、そういう季節になってきたんですねぇ。
 いや~、この宣伝写真の綾瀬はるかさんが、カッコいいカッコいい!! ハリウッドで量産されているタイプとはまったく違った「日本のバトルヒロインここにあり!」といった趣のある実に凛々しい表情で、表面上の顔立ちやプロポーションなどといったものとは別の次元にある、彼女の中心から湧き出る「女優です!!」オーラに惚れてしまいます。

 綾瀬さんといえば、普段はおっとりした印象の強い方ですし、大阪城天守閣のことを「お寺」と呼ぶなどといったかなりキテるエピソードにもこと欠かないお方であるわけなのですが、この『八重の桜』宣伝写真での「やるときゃやらせていただきます。」というたたずまいとのギャップに、女優としての器のデカさを感じずにいられません。
 『八重の桜』、ちょっとだけ楽しみになってきましたね。去年、今年と、大河ドラマはなにかと不本意な話題の多い作品が続いてしまいましたから、いまだかつて大河では取りあげられることのなかった観点からの江戸幕末ものなので未知数のところはありますが、ぜひともがんばっていただきたいと思います。

 あっ、そういえば、その中吊り広告には「テーマ音楽 坂本龍一」ともうたれてましたわ!
 本編の BGMまでは担当されないようなのですが、こっちも楽しみですねぇ。
 いつだったか、この『長岡京エイリアン』で私が勝手に選出した「 NHK大河ドラマ 好きなテーマ曲ランキング」では、なんてったってベスト10にランクインしたいちばん新しい作品が『北条時宗』(2001年)だったんですからね! 最近のものではかろうじて『龍馬伝』(2010年)が第11位につけていましたが、そろそろ「おぉ、これは!」と思わずうならされてしまうような名曲がほしいです! 教授、よろしくお願いいたしま~っす。

「『八重の桜』の評判しだいでは、もしかしたら TVを買うかもね!?」

 なんていう、現時点では1ミクロンも考えていないようなことを、誰に向けるわけでもないリップサービスとして口走っておきまして、今回の本題に入っていくことにいたしましょっかね~。


 今月はいろいろと、11月から引っぱっている話題でやりたいことがたまっているのですが、まずは先月末に観た、恒例のこのシリーズの感想をつづりたいと思いま~っす。
 このシリーズの話題を2012年の今ごろにやるのって、誰か喜んでくれる人っているんですかね……まぁ、そこに期待をいだかないのが個人ブログのフットワークの軽さであるわけなんですが、それにしても、この一連の企画は他にもまして、「体育座りをしながら真っ黒い夜の海に石ころを投げている」ような感覚におそわれることが多いんですよね……

 ま、いっか!! 好きなんだから☆


ドラマ『江戸川乱歩の美女シリーズ 大時計の美女』(1979年11月放送 テレビ朝日『土曜ワイド劇場』 95分)


おもなキャスティング
 19代目・明智小五郎    …… 天知 茂(48歳 1985年没)
 児玉丈太郎        …… 横内 正(38歳)
 丈太郎の妻・夏代     …… 赤座 美代子(35歳)
 ヒロイン・野末秋子    …… 結城 しのぶ(26歳)
 黒川太一弁護士      …… 根上 淳(56歳 2005年没)
 刑務所の監察医・股野礼三 …… 松橋 登(35歳)
 丈太郎の元婚約者・アケミ …… 内藤 杏子(24歳)
 屋敷の下男・岩淵甚助   …… 岡部 征純(43歳)
 老婆の幽霊        …… 村上 記代(?歳)
 12代目・小林芳雄     …… 柏原 貴(?歳)
 助手・文代        …… 五十嵐 めぐみ(25歳)
 3代目・波越警部     …… 荒井 注(51歳 2000年没)

 ※天知茂による不定期スペシャルドラマシリーズ『江戸川乱歩の美女シリーズ』の第10作で、乱歩の長編小説『幽霊塔』(1937年3月~38年4月連載)の2度目の映像化となるが、明智小五郎が活躍するのは本作のみ
 ※乱歩の『幽霊塔』は、イギリスの探偵小説家・アリス=マリエル=ウィリアムスンの長編『灰色の女』(1898年)を、日本の小説家・黒岩涙香(るいこう)が翻案した長編『幽霊塔』(1899~1900年連載)を、さらにリメイクした作品。ややこしい
 ※本来、乱歩による原作小説『幽霊塔』に明智小五郎は登場しないのだが、1959年8月に作家・氷川瓏(ひかわ ろう 1913~89)によって子ども向け作品にリライトされた長編小説『時計塔の秘密』では、探偵になる以前の青年時代の明智小五郎が活躍している
 ※乱歩の『幽霊塔』(と、おそらくは『時計塔の秘密』も)の時間設定は、連載時よりもひと昔前の大正時代「1914年4月」になっている
 ※天知小五郎シリーズを通して時代設定は「1970~80年代現在」にされており、明智小五郎は東京都心で2人の成人した助手(小林と文代)のいる探偵事務所を運営している。文代は原作の設定である明智小五郎の妻ではなく、名字も明らかにされていない
 ※現在、小学館の隔週刊マンガ雑誌『ビッグコミックスペリオール』で連載されている乃木坂太郎の『幽麗塔』(2011年6月から連載中・コミックス既刊3巻)は「黒岩涙香の『幽霊塔』をリメイクした作品」であり、乱歩の『幽霊塔』と直接のかかわりはないが、同じ原点を持つ兄弟のような関係にある



 う~ん、やっぱり天知小五郎、まだまだ観飽きないなぁ~!!

 我が『長岡京エイリアン』では、予算の都合からこの天知小五郎シリーズをランダムに購入して観ているため、今回の第10作は3回目のレビューということになりますね。
 いよいよ、当時の『土曜ワイド劇場』のまごうことなき看板シリーズとなっていたこのシリーズも3年目に入り、記念すべき10作目の登場とあいなりました。天知茂サマの眉間のしわももう絶好調です!

 ちょっと視点を当時の日本の「名探偵事情」に広げてみますと、この『大時計の美女』が放送された1979年は明智小五郎の後輩にあたる、あの金田一耕助の映像化ブームが最後の大爆発をとげた年でもありまして、1月には西田敏行金田一の『悪魔が来りて笛を吹く』(東映)、5月には石坂浩二金田一の「いったんの」最終作となる『病院坂の首縊りの家』(東宝)、そして7月には古谷一行金田一が唯一スクリーンで活躍した、あんまり笑えないけどやたらキャスティングが豪華なパロディ作の『金田一耕助の冒険』(東映)が公開されるというロマンティック狂い咲きモードとなっていました。正確に言うと昭和の金田一ブームの最後の作品は1981年10月公開の鹿賀丈史金田一による『悪霊島』(東映)であるわけなのですが、やっぱりブームの熱のようなものは『病院坂の首縊り』のあたりでひと段落ついたと言えるでしょう。

 こんな感じでしたので、ついに約4年続いた金田一ブームが夏をもっていったん落ち着き、「日本の名探偵といえば?」といったお鉢が、ただひとり TVの世界でバリバリ現役を続けている天知小五郎にまわってきたというわけだったのです! 先輩はやっぱり強かった……
 ちなみに、古谷金田一が TBSのサスペンス劇場での不定期シリーズを開始するのは1983年からでしたので、そこまでは天知小五郎の「ひとり天下」が3年ちょい続いていたというわけだったんですね。そしてこの時期は、主演・天知茂と監督・井上梅次という黄金タッグがガッチリ組まれていた、向かうところ敵なしの「キラキラマリオ状態」でもあったのです! 働きまくる名探偵!!

 さて、このような活況を迎えることとなった天知小五郎シリーズの、記念すべき10作目を飾る今回の『大時計の美女』だったわけなのですが、実はこの作品、ちょ~っと他のシリーズ作品とはおもむきの異なる不思議な味わいの物語になっていました。

 他の作品との違い、それは、天知茂演じる明智小五郎の「超人性」が、本作ではだいぶおとなしくなっているという点なんです! あらら、これはけっこう、『土曜ワイド劇場』の天知小五郎シリーズでは大きな冒険なんじゃないですか!?

 天知小五郎シリーズといえば、クライマックスでの定番の「中にバッチリ決まったスーツを着ているはずなのにまったく着ぶくれしていない天才的変装術」に代表されるように、もうマンガのレベルにまでディフォルメされた明智小五郎の無敵さが無視できないポイントとなっているはずです。ここがしばしば批判点になったりツッコミどころにも挙げられてしまうわけなのですが、そこに強力な説得力を持たせるのが、あの不世出の名優・天知茂のダンディズムだだもれの身のこなしであったのでした。

 ところが! ど~にもこの『大時計の美女』の中での明智小五郎は、決して無能ではないのですが、そのいつもの「ヒーローっぷり」がクライマックスにまでお預けになっている感が強いのです。終盤になってやっとそのへんにエンジンがかかり、なんとか本シリーズ名物の「身長も声色も変わってしまう超絶変装」も披露されることとなるのですが、物語の大半で、明智は奇怪な事件を手をこまねいて傍観するだけだったり、舞台となった三浦半島の古びた洋館にそびえ立つ時計塔の謎に立ち往生してしまったり、謎の敵の放った毒吹き矢を首筋に受けて昏倒してしまったりというていたらくになっているのです。あの天知小五郎が神じゃない!? まぁそれでも、異常に頼りになりそうな外見であることに変わりはないんですけどね。

 どうして、この『大時計の美女』にかぎってこんな事態におちいってしまったのか?
 この問題の原因はどうやら、作品の原作が江戸川乱歩の「本来ならば明智小五郎の登場しない小説である」あたりにあるらしいのです。
 要するにこの『大時計の美女』は、明智小五郎のような「ヒーロー」がいないはずの大筋にドラマ独自のアレンジを加えて明智を差し込んだ作品であり、それがために、どこかしら明智小五郎の活躍の割合がいつもよりも窮屈な感じになっているらしいんですね。

 ところが!! ここがこの『大時計の美女』の素晴らしいところなんですが、上のようなちょっと危なっかしい状況下で作り出された物語であったのにもかかわらず、この作品はそのアレンジっぷりが非常に的確に奏功して、天知小五郎シリーズ、いやさ、その放送枠の母胎でもある『土曜ワイド劇場』の中でも、おそらくは屈指の大傑作になりおおせているのです! えっ、明智がパッとしないのに、なぜ!?

 これはもう、本作のメインゲストキャラクターである横内正演じる「児玉丈太郎」のおもしろすぎるキャラクター造形に代表されるように、ちゃんと原作『幽霊塔』に敬意を表しつつも大胆に創意工夫を凝らしていく、脚本のエンタテインメント性のおかげだとしか言いようがありません。

 ということで、本作で「明智小五郎がいまいち活躍しない」という問題点なのですが、これは江戸川乱歩のノン明智な原作の語り口と脚本のアレンジポイント、その双方に理由があるようです。

 原作の『幽霊塔』に起因する理由からいきますと、まず出発点として、この江戸川乱歩の小説が乱歩本人のオリジナル小説なのではなく、もとをただせば19世紀末につくられた探偵冒険小説を素体としている、ということですね。江戸川乱歩が「日本探偵小説界の祖」である黒岩涙香を少年時代から強くリスペクトしていたことは非常に有名な話です。
 つまりこの『幽霊塔』は、まだ「大事件を神がかった推理で解決する名探偵!」という設定がそれほど確立されていなかった時期に誕生した物語だったのであり、どちらかというとアレクサンドル=デュマ(親父)の伝奇小説に近いような、「主人公が体当たりで怪奇な事件にぶち当たっていって解決する」実に肉体派な作品だったのです。

 実際に、乱歩の『幽霊塔』は執筆時期よりも約20年さかのぼった大正時代の長崎県で、まだ若かった主人公・北川光雄が叔父で養父の児玉丈太郎の買い取った山間部の古びた時計屋敷で発生する怪事件に挑んでいくという内容になっていて、いちおう「長崎県警きっての名刑事」とたたえられる森村刑事という人物も途中から参加はするのですが、事件の大部分は光雄と、彼がゾッコンに惚れこんでしまう、ミステリアスな雰囲気をおびた謎の美女・野末秋子の活躍によって解決されてゆくのです。
 この原作『幽霊塔』はもうホントにめっちゃくちゃおもしろい小説なのですが、どこがいいのかと言いますと、主な交通手段が「人力車」であるというクラシックな時代設定も最高なのですが、主人公の光雄が大金持ちの叔父・丈太郎の養子で、そこそこ美人ないいなずけ・三浦栄子がいながらも別の野末秋子に猛アタックをしかけるという、時計塔の謎もへったくれもない「リア充」ぶりにあります。だってこの光雄、事件のどさくさにまぎれて秋子さんに告白してんだぜ!? 乱歩の筆が大暴発!!

 そんな光雄の乱行ぶりにかぎらず、この原作『幽霊塔』は「サーカスから逃げだしたトラが時計屋敷に乱入!」「乗った列車が唐突すぎる脱線事故!」「壁いちめん床いちめん家具いちめんにクモがウジャウジャうごめいている部屋に潜入!」といったアホみたいな大ハプニングが連続して巻き起こっており、もうこうなったら光雄を演じるのは『ダイ・ハード』シリーズのブルース=ウィリスでいいんじゃないかというまでの肉体派アクション映画の様相を呈しているのです。それで終盤には、莫大な財宝をめざして時計塔の内部にある広大な迷宮空間に飛び込んでいくダンジョン展開もあるっていうんですから、もう大盤振る舞いもいいところ!!

 こんな感じですので、原作の『幽霊塔』には、はっきり言って知性派のドライな名探偵が入り込む余地はなかったわけなのです。だって、物語の進行は「正義」と「恋愛感情」を気持ちいいくらいに混同した主人公の光雄がバリバリこなしていきますし、あろうことか、森村刑事はそんな光雄の勘違いによってクライマックス直前にコテンパンにのされて監禁されてしまうのです。光雄くん、それカンペキな犯罪よ!? ムチャしよるわ……
 そして極めつけは、この物語で発生した一連の事件の真犯人が、光雄の行動とはまぁ~ったく関係のないタイミングで都合よく「あんな最期」をとげてしまうこと! 財宝は見つかるわ真犯人は自滅してくれるわ、おまけに夢中になったヒロインの秋子さんはゲットできるわで、ちょっと理不尽なくらいにハッピーエンドを満喫してしまう光雄なのでした……どこで死んでもおかしくないイベントが目白押しだったのに、なんという豪運☆

 このように、ハリウッド映画なみにアドベンチャーがたっぷりな原作『幽霊塔』だったわけなのですが、さぁこれを一体どうやって明智小五郎が活躍する『土曜ワイド劇場』にもってくるべきなのか!? ここで製作スタッフ、特に脚本担当の大ベテラン、長谷川公之(1925~2003)が駆使したテクニックは実に簡潔で、ベストなものでした。

 すなはち、大作映画が作れるほどにゴチャゴチャした原作『幽霊塔』の「分解」と、そこからつまんできた要素を TVの『土曜ワイド劇場』のサイズの枠に組み立てなおした「リ・ビルド( re-build)」!!
 つまり、もともとお城ができていたレゴブロックをバラバラにして、そのいい部分だけをピックアップしてこぢんまりした、けれども非常によくできた家を作ったというのが、原作『幽霊塔』とドラマ『大時計の美女』の関係なんじゃないかと思うんですね。


 まず、『大時計の美女』は、なるたけ物語の謎のメインとなる古びた時計屋敷だけに焦点をしぼって、トラだ列車事故だクモだらけだというそれ以外のギミック要素を惜しげもなくカットしています。
 ちなみに、原作『幽霊塔』では、後半に重要なキーマンとしていかにも乱歩ワールドの住人らしい恐るべき「特殊技能」を持った芦屋暁斎(あしや ぎょうさい 名前からして妖しすぎ!)という怪老人が登場するのですが、『大時計の美女』はここのくだりもばっさり省略しています。芦屋暁斎の語る異常なサイドストーリーは、同じ乱歩の小説である『猟奇の果(はて)』や遺作『黄金の怪獣』にも通じる魅力に満ちているのですが、まぁ、『土曜ワイド劇場』という枠でここをカットしたのは正解だったと思います。2時間ドラマじゃおさまりきらねぇ!

 その代わりに何をフィーチャーしたのかといいますと、それはもう「時計屋敷を取り巻くあやしすぎる面々」! ここですよねぇ~。

 そう、ここなんです。時計屋敷に長年伝わる「隠し財宝」の言い伝えを知ってか知らずか、いかにも欲の皮のつっぱっていそうな野心家から謎に包まれた美女まで、クセのある登場人物だけしか集合していない(もちろん、明智小五郎も含む)という圧巻のうさんくささこそが、観る者に猛烈に「あぁ~、これ、『土曜ワイド劇場』だわぁ。」というカタルシスを味あわせてくれるのです。最高だ!!
 赤座美代子、根上淳、そして天知小五郎シリーズの記念すべき第1作『氷柱の美女』でのインパクトも記憶に新しい松橋登! いいですね~、これで何も起こらないほうがおかしいですね~。

 もちろん、この『大時計の美女』に登場する人物は全員、キャラクターを原作の『幽霊塔』に登場する誰かから受け継いでいるわけなのですが、その一方で、原作の人物を100%忠実に映像化したキャラも1人もいないという不思議な関係になっています。

 そして、その最たる例となっていたのが、原作の主人公・北川光雄とその叔父を足したような役割になっている「児玉丈太郎」役の横内正さんでした。
 児玉丈太郎という名前は原作の光雄の叔父とまったく同じなのですが、『大時計の美女』の丈太郎は40手前の中年男性ということで、長崎地方裁判所の判事職を定年退職した原作の丈太郎とも、「26歳」と設定されている光雄ともまったく違ったキャラクターになっています。
 さらに、ここで無視できないのは、このドラマ版の丈太郎という人物が、時計屋敷の謎にチャレンジするというポジションこそ光雄と同じではあるものの、東京で何かしらの事業に失敗していたり、妻のある身でありながら時計屋敷のある三浦半島の地元にも愛人がいたり、なおかつ財宝の秘密のカギをにぎっている様子の美女・野末秋子にも手をつけようとするなど、原作の光雄ともまるで違うオッサンな感じの「リア充」ぶりを発揮しているということなのです。いかにも『土ワイ』ですね~。また、演じる横内さんの、あの天知小五郎さえもがかすんでしまう「うさんくささ」がたまりません。あの低音の美声、サングラス、趣味の悪い柄のシャツ~!!

 実のところ、『大時計の美女』の側に起因する「明智小五郎のいまいちさ」というのも、その大きな原因は横内さん演じる児玉丈太郎によるところが大きく、それは、この事件の依頼人が他ならぬ丈太郎さんだったからなのです。

 結局、神のごとき推理力を兼ね備えた明智小五郎も、事件の依頼人がちゃんとホントのことを打ち明けてくれなければ正しい真実にたどり着くことはできません。案の定、時計屋敷にやって来た時点で丈太郎が「何か」を隠していると看破した明智は事件解決に対する熱意を失ってしまったかのようにどこか冷めた感じになってしまい、あっという間に謎の美女・秋子にゾッコンになってしまうのでした。明智先生、それ仕事の出張じゃなくて、ただの恋人探しの三浦半島旅行ォオ~!!

 こういった、謎はいたるところにゴロゴロしてるけどなんだか解決する気にならないというグダグダの中で、深夜の屋敷に現れる老婆の幽霊、財宝の秘密と関係があるとしか思えない暗号文書などといった見どころが小出しにでた上での、「恒例の」意味なく女性がハダカになる殺人事件が発生するわけです。
 ところが、今回の事件は以前にレビューした『氷柱の美女』事件や『化粧台の美女』事件に見られたような用意周到な犯罪計画といったものはいっさいなく、時計屋敷の財宝が見つからないというプレッシャーにあせった真犯人が暴走するかたちで殺人が起きてしまったという、いかにも『大時計の美女』らしいショボさがあるのです。でも、ここがいいんだなぁ~! 原作の真犯人とはまったく違う人物がドラマの真犯人となるわけなのですが、この人の最期も原作なみに情けないです!


 結論から言いますと、この『大時計の美女』は天知小五郎シリーズの中でもミョ~にスケールの小さい事件として目立つ不思議な作品なのですが、この意図的なコンパクトさがむしろ欲に目のくらんだ人間のぶざまさやかわいらしさをきわだたせており、その背伸びのしていなさが非常に『土曜ワイド劇場』らしい安心のクオリティを発揮しているのです!
 明智小五郎が「超人じゃない」からこそムチャクチャおもしろい。この逆転現象がほんとにいいんですよ。

 もっと多くの人に観てほしい快作です。でも、DVD を買うしか手はないか……ほんとにおもしろいから、観られる人は観てみて~!!

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