え~、どもども! そうだいでございます。いよいよ秋めいてきましたね~。
あのですね~、先日ついに、我が『長岡京エイリアン』でもこの秋注目大本命と目していた『黒蜥蜴』2024エディションが堂々放送されたわけなのでございますが……
すんません、録画した作品を本腰すえてチェックするまでに、え~らい時間かかっちゃった!
いやあの、今年に限った話でもないのですが、秋はいろいろ忙しいのよ! その上、週末は必ず映画館に行ってる感じでなんかしらの新作品を観てるし、『黒蜥蜴』の感想をぐだぐだ言ってる余裕はなかったんですよね……
でもまぁ、だからと言って記事にもせずにスルーするなんていう選択肢などあるわけもないですし、しかも今回の2024エディションは、あの白本彩奈さんがヒロイン枠で出演しているということですので、だいぶ放送から遅れてはしまいましたが、覚悟を決めて感想を述べる記事を作らせていただきたいと思います! ま、遅れたって誰も待ってないから問題ないだろうし☆
ドラマ『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』(2024年9月29日放送 92分 BS-TBS)
『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』は、『黒蜥蜴』の11度目の映像化作品(三島由紀夫による戯曲版の映像化も含める)。
本作は、昭和四十年(1965年)頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代を舞台に設定している。
『黒蜥蜴(くろとかげ)』は、江戸川乱歩の長編探偵小説。「明智小五郎シリーズ」の第7長編で、1934年1月~12月に連載された。
本作、もしくは本作を原作とする三島由紀夫による戯曲(1961年発表)を原作として、これまで映画2本・TVドラマ9本(2024年版を含む)・ラジオドラマ2本が制作された。なお、コミカライズも4回されている(舞台化作品に関しては、多すぎてカウントできず)。
あらすじ
大富豪で宝石商の岩瀬庄兵衛のもとに、一人娘・早苗の誘拐と、大宝玉「エジプトの星」の強奪をほのめかす予告状が届き、岩瀬は名探偵・明智小五郎に警護を依頼する。明智は、部下である小林芳雄と木内文代と、警視庁捜査一課の浪越警部と共に警備にあたるが、混乱のなか早苗が誘拐されてしまう。
明智は、岩瀬宝飾店の常連客でもある緑川夫人が犯人の女賊・黒蜥蜴であると確信し追い詰めていくが、互いに心の内を探るうちに二人は惹かれあっていく……
おもなキャスティング
21代目・女賊黒蜥蜴 …… 黒木 瞳(63歳)
84代目・明智小五郎 …… 船越 英一郎(64歳)
42代目・小林芳雄 …… 樋口 幸平(23歳)
19代目・浪越警部 …… 池田 鉄洋(53歳)
14代目・木内文代 …… 唯月 ふうか(28歳)
岩瀬 早苗 …… 白本 彩奈(22歳)
岩瀬 庄兵衛 …… 大河内 浩(68歳)
雨宮 潤一 …… 古屋 呂敏(34歳)
松吉 …… 諏訪 太朗(70歳)
黒蜥蜴の手下(年長)…… 渡辺 隆二郎(56歳)
黒蜥蜴の手下(調理)…… 五明 紀之(52歳)
黒蜥蜴の手下(新人)…… 工藤 秀洋(48歳)
浪越警部の部下 …… 川手 祥太(33歳)
岩瀬家の家政婦 …… 小柳 友貴美(66歳)
遊覧船乗り場の受付 …… 山野 海(59歳)
美青年の剥製 …… 志生(じお 32歳)
※浪越警部は原作小説における「波越警部」、木内文代は原作小説における「明智文代」としてカウントしています。
おもなスタッフ
演出 …… 本田 隆一(50歳)
脚本 …… 入江 信吾(48歳)
制作 …… ホリプロ
と、まぁそう思いまして、ついにリビングでハリボーグミをかじりながら本作を観てみましたのですが、視聴中に気になったポイントをちょいちょいメモしていきましたらば、なんと以下のように即時的なつぶやきだけでけっこうな文量になってしまいましたので、全体を見通した上での感想文は、また次回にちゃちゃっとまとめようかと思います。長くなって申し訳ない!って、いつものことですか。
いや、この作品はテイストから言いましても、そんなに長く引っ張ってくどくど申し立てるようなものでもないと思うんですけど……頭をからっぽにして楽しんで、面白ければそれでいいじゃないかという娯楽作ですよね。
≪毎度おなじみ視聴メモでございやす≫
・冒頭から、小林少年との息の合った連係プレイで、なんか死体の上にバラの花びらを散らばす連続殺人犯の逮捕に貢献する明智探偵。定番の滑り出しだが、渋い黒コートに身を固めた船越さんと、ひょろっとしてどことなく頼りない幼さのある樋口くんとの対比がなかなか面白い。がんばれ、ドンモモタロウ!
・事件解決後、探偵事務所のある建物の中でタモさんか古畑任三郎のように視聴者に直接語りかけてくる明智探偵。これはおそらく、あのレジェンド天知小五郎の「あけましておめでとうございます、明智小五郎です。」(『天国と地獄の美女』より)を意識した演出かと思われるのだが、「善悪」と「美醜」を別の問題としてとらえているという視点が、けっこう明智っぽくて興味深い。顔は船越さんなんだけどね……
・宝石商の岩瀬庄兵衛が読む犯行予告状の、「黒蜥蜴」という署名と紋章が画面に映るときに、今どきギャグアニメでも聴かないような中華ドラの「ぼわ~ん!!」という効果音が鳴り響くのが、視聴者の不安感をいやがおうにも高ぶらせてくれる。真剣に演じている大河内さんと白本さんの立場が……
・タイトルロールの前に、ステンドグラスから光の射しこむ教会の礼拝堂のような場所で、金銀財宝や動物の剥製、いかにもな球体関節人形たちに囲まれ、原作通りの「美青年の剥製」を見上げて恍惚とした笑みを浮かべる女賊・黒蜥蜴がさっそく登場! さすが、演じる黒木さんは還暦を超えているとは思えない美貌なのだが、同時に自分の愛するものに夢中になる幼さも持っている、ちょっと脇の甘そうな黒蜥蜴である。
・軽快なジャズのリズムに乗って始まる本作のタイトルロールなのだが、眼帯をしてナイフを持つ諏訪太朗さんがクレジットされた時点で、「あぁ、そういうドラマなのね。」と腹をくくらせてくれる親切設計なのがうれしい。肩の力ぬいて観ようか!
・本作のタイトルの字体が、ハサミで切り取ったようなおどろおどろしい形になっているのが、明らかに天知小五郎の「美女シリーズ」を意識しているようで面白い。調べてみたら、1962年の京マチ子版も、68年の丸山明宏版もタイトルの字体は違うんですよね。どれも違ってどれもいい!
・タイトルロールの終わった瞬間に見えるのが、「東洋のモナコ」こと静岡県熱海市に実在するホテル・ニューアカオなのが素晴らしい。タイアップロケ全盛の TVサスペンスドラマへのハンパないリスペクトがあふれてるぞ! でも……「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」っていうか、もろリアルタイムの今なんじゃないの? ニューアカオは昭和四十八(1973)年開業なので四十年ごろにはないし……
・なんで庄兵衛の大事な仕事の商談に娘の早苗がいるんだ……と思ってたら、宝石を着けるモデルとして連れてきてんのか! 単なる親バカではなく、モデル社員を雇わずに家族で代用している庄兵衛のケチ臭い商魂が垣間見える。ま、そんなに美女だったら使いたくもなるでようけどね。
・細かいことを言うようで申し訳ないのだが、黒蜥蜴こと「緑川」夫人が紫色の着物を着ていて、対する早苗が「緑色」のワンピースを着ているという構図がなんだか非常に気になる。いや、別に意味はない偶然なのだろうが、せっかくどっちもステキな衣装なのだから、役の名前にも配慮した配色にしてほしいのですが……
・早い段階で明智探偵と対面する緑川夫人なのだが、本作では船越さんが意外と長身(181cm )だし、居合わせている大河内さん(178cm )と白本さん(170cm )よりも小柄な黒木さん(163cm )のこぢんまり感がチャーミングな方にはたらいている。この時点で出す必要はないのでいいのだが、大犯罪者らしいすごみが全然ないんですよね。ま、仮の姿なんだからまだいいけど。
・まともなセリフなど一言も発していないのだが、父親である庄兵衛にいいようにこき使われて「私(庄兵衛)の命の次に大事なもの」の座も大宝玉「エジプトの星」に奪われてしまっている早苗を演じる、白本さんの表情のかげりの演技がさすがである。いや~、今作でも嘆きの「ハ」の字まゆがいい味だしてるねぇ!! 22歳のみそらででっかい水玉のリボンをつけても許されるのは、白本さん級の美女の特権ですな!
・庄兵衛を囲む食後のコーヒーの席で、なにげなく出したアレキサンドライト「白夜の森」の話をエサに見事に緑川夫人にかまをかける明智探偵! この小ズルいやり口が実に明智らしい。こいつ、出会った瞬間に犯人の目星をつけやがったな!
・白本さんが美人であることには異議の申し立てようもないのだが、やはり物語の流れ上、黒蜥蜴にとりこにされる令嬢が黒蜥蜴よりも大柄というのは、ちと不思議な感じもする。黒木さんもそんなに小さいわけでもないはずなんですけどね……
・これは本作の内容自体からは切り離すべき話なのだが、本放送時にひっきりなしに流れる石破内閣の組閣人事のニュース速報と、CM でバンバン流れる船越さんと黒木さんが共演する本作向け特別仕様の「にしたんクリニック」コマーシャルがものすんごく気にさわる。まぁ、にしたんさんは「このドラマはこういう楽しみ方をしてください」というガイドなので甘受するしかないのだが……TV ドラマって、こういう雑味が入るもんなのよねぇ。のちにソフト商品で観るのとは全然違う印象になりますね。
・犯行予告時刻までサシで酒を飲む明智探偵と緑川夫人との会話が、いかにも同世代の名優同士の演技合戦という感じで魅せるものがある。距離感ちかいな~!
・「人間の闇です……僕は、その闇を暴くことに、たまらない愉悦を感じるんですよ。」という明智探偵のアブない告白に、「はぁ……」と眉をひそめて本気でドン引きする緑川夫人。いや~、本作の黒蜥蜴はほんとに等身大というか、かわいらしいですね。乱歩キャラらしくないな~。
・「僕に言わせれば、黒蜥蜴のやっていることなど、もう滑稽でしかない。どんなに美しいものを集めても、どんなに美しいものに囲まれても……人間本来のドス黒さは薄まりません。そうでしょう?」と、緑川夫人をあおりにあおりまくる明智探偵! う~む、今回の明智小五郎は、見た目は完全に船越さんなんだけど、中身はかなり仕上がってるぞ。いいね!
・寝ているはずの早苗がクッションとマネキン人形の首にすり替えられているというのも、天知小五郎シリーズへのオマージュだと思われる。ベタだな~! でも、そこがいい。でも、エジプトの星を守る庄兵衛はしょうがないとしても、犯罪者の一団が襲撃してくるかもしれない部屋で早苗がグースカ寝ているというのは、どんなもんなのだろうか。余裕ありすぎじゃありませんこと?
・黒蜥蜴のさしがねで早苗を誘拐しようとする雨宮をなんとか阻止する小林と文代の助手コンビだが、本作ではちょっとまぬけな小林と気丈で格闘術にも長けた文代という感じにキャラ分けがはっきりしているのが面白い。小林の方は天知小五郎シリーズでもコメディ要員な感じだったので伝統なのだが、文代がパワー系になっているのは、いかにも令和っぽいアレンジである。
・早苗に変装する黒蜥蜴の描写が精密な CG処理になっているのも令和っぽいのだが、だとすると、明智探偵は黒蜥蜴の変装を見抜けなかったということになってしまう。まぁ、あえて泳がせていたと言われればそこまでなのだが……あと、明智の前に現れた時に早苗(に変装した黒蜥蜴)がエロいバスローブを着ていたのも、紳士たる明智にガン見させず目をそらさせるための作戦だったのかもしれない。やるな黒蜥蜴! 男心をよくわかっとる。
・サスペンスドラマあるあるだと思うのだが、女優さんが男装すると体型がめちゃくちゃ貧相に見えることが多く、今回も黒木さんが扮する老紳士が枝みたいな手足の細さで思わず心配になってしまう。女優さんって大変なんだな!
・黒蜥蜴一味による岩瀬早苗誘拐未遂事件から一夜明けた、明智探偵事務所での明智・小林・文代の天知小五郎シリーズいらい伝統のダベりシーンなのだが、事務所の入っているビルの外観が、まんま東京都中央区日本橋茅場町にある実在の「第2井上ビル」である。このビルは関東大震災からの帝都復興計画の最中、昭和二(1927)年に建設されたコンクリート建築で、非常に貴重な歴史的建造物なのである。いかにも明智探偵事務所がありそうなビルでけっこうなのだが、「架空の時代」とかいう設定はどこへ……?
・黒蜥蜴の異常なまでの美術品収集への執着に興味を深めた明智は、小林助手に過去の黒蜥蜴の被害に遭った強奪品のリストアップを命じる。ここらへんから、明智が原作小説とは全く違うアプローチで黒蜥蜴の正体に迫ろうとする本作オリジナルの展開が始まってきて面白い。緑川夫人が来ていた和服の帯の産地(群馬の桐生織)から、黒蜥蜴のルーツを探ろうとするとは……いかにも、日本全国を駆け巡る旅情サスペンスドラマでキャリアを積んできた船越さんらしい捜査法である。やっるぅ!
・明智のいじわるなディスり発言が確実にボディにきいてきて、ついには自分のこしらえた美青年の剥製が動き出してののしってくるという幻覚にすら悩まされる黒蜥蜴。メンタル弱すぎでしょ!
・いや~、諏訪太朗さんが出てくるとほんとに安心するなぁ。しかも今回は、せむしでびっこをひいて顔半分はやけどで眼帯という、そうとうにデンジャラスなよくばりスタイルだ! バカバカしいな~、だが、そこがイイ!!
・人前では平静な様子を装っているが、明らかに常軌を逸した執念で明智への復讐計画を練る黒蜥蜴に、今までの彼女らしからぬ乱心を感じ取って浮かない顔をする松吉。ここらへんから、松吉が他の雨宮などの手下たちとは全く違う、黒蜥蜴にもっと親密な関係にある人物であることが垣間見えてくる。こういったあたりをセリフでなく諏訪太朗さんの無言の表情で暗示してくる演出が非常に素晴らしい。諏訪さんのポテンシャルをわかってる采配だね~!
・本作は船越&樋口ペアが初めてタッグを組む作品なので仕方がないのかも知れないが、明智と小林の会話がやや堅く、若干パワハラ気味のきつい口調で明智が小林に接しているのが気になる。ここはもうちょとコミカルな感じでもいいと思うのだが……少なくとも今作では、原作小説でただよってくるような倒錯気味なただれた関係なぞ微塵も感じられない、極めてドライな上司と部下の関係である。小林君、辞めないといいんだけど……
・黒蜥蜴に誘拐されかけたあたりから早苗を演じる白本さんの演技が徐々にオーバーになってきて、父・庄兵衛への屈折した感情もあいまって楳図かずおのマンガみたいな顔になっておびえるのが大げさすぎて面白い。白本さんも、わかってんね! それにしても、早苗(22歳)はでっかいリボン好きだな~!!
・ピアノを演奏するタッチが違うことに気づき、早苗の得意だったテニスの話題をエサに黒蜥蜴の変装を見破る明智。いやいや黒蜥蜴さん、また明智の口車に乗って正体ばれちゃってるよ……バカなの? それにしても早苗さん、もしかして通ってた中学校は「ゆめの風中学校」で、そこのテニス部で「お蝶夫人」とか呼ばれてブイブイ言わしてたときに、遠藤憲一さん率いる邪魔邪魔団の魔手に堕ちて怪人になってませんでした? あれからもう6年が経つのか……人に歴史あり!
・二度目の挑戦にしてついに早苗誘拐に成功した黒蜥蜴が、エジプトの星との交換に選んだ場所は、作中では「あおば湖西公園」と指定されているのだが、景観はまんま、神奈川県相模原市の相模湖である。熱海に相模湖と、本作はロケーションもなかなかレトロですばらしい。このこぢんまり感、あぁサスペンスドラマだな~って感じですね。
・唐突に挿入される、謎の少女が児童養護施設の前で同年代の子ども達に「トカゲ!トカゲ!」と呼ばれ忌み嫌われるセピア色の記憶。本作で最も独自力の強い「黒蜥蜴の過去」を象徴するシーンなのだが、少女を罵倒する3人の昭和っぽい恰好をした子ども達のうち、2人目のセーラーの冬服を着た女の子のはやし方が、両手を片方ずつテンポよく「 Yo!Yo!」みたいに突き出して指さすスタイルなので、戦後間もない日本の子どもにしておくには惜しすぎるリズム感覚の持ち主である。生まれるのが年号1、2コぶん早い!!
・ちなみに、現実世界の日本で保護者のいない子どもを主に擁護する施設に「児童養護施設」という名称が使われるようになったのは1998年の改正児童福祉法の施行からであり、それまでは戦前は「孤児院」、戦後は「養護施設」という名称が一般的であった。でもま、架空の時代なんだから、いっか。
・『黒蜥蜴』の映像化作品のご多分に漏れず、紫の着物、どピンクのワンピース、全身黄色コーデのセットアップ、純白のネグリジェと華麗な衣装の七変化を見せてくれる黒木蜥蜴なのだが、明智をとっつかまえたと勝ち誇るアジトでの気合の入った衣装がヒョウ柄のコート風シースルーワンピースなのは、トカゲとしてさていかがなものか。それともこれは、登場する連続殺人鬼の名前が「青蜥蜴」なのに作品のタイトルが思いッきり『夜の黒豹』になっている横溝正史先生へのオマージュなのか? 乱歩なのに!? いや、ここは私としては、船越小五郎シリーズの第2弾が、今まで一度も映像化されたことのない(舞台化はあるけど)、乱歩作品でもとびっきり不遇なあの異色すぎる長編になるゾという隠し予告メッセージであるという説を採りたい! 期待してますぞ!! 文代さん大活躍!!
・「人間ソファ」の中から聞こえる明智の声に勝利を確信し、ソファの上でキャハキャハいってはねたり、恍惚とした表情でソファにしなだれかかり「ねぇ、今どんな気分~?」と問いかけて悦に入る黒木蜥蜴還暦オーバー! この様子を早苗がどんな表情で観ていたのかが非常に気になる。なにやってんだ、こいつ……
・原作通りの展開で、ソファは黒蜥蜴団の手により海へと投棄される。でもシチュエーションが原作とは違うので、ピーカンの陽気の中でおだやかな波間にソファがぷかぷか浮かんでいる画がマヌケである。いや、そりゃ中に人がいたらほっときゃ死ぬんだろうけどさ、投げる前後にとどめとか刺さないの? 相手は明智だよ!? 優しいんだがずぼらなんだか……
・ソファを海に捨てた黒蜥蜴は、自分の心を見透かした唯一の男である明智を失った絶望感から自室で落涙する。そんな彼女に寄り添う松吉は優しくハンカチを渡すのだったが、そのとき屋敷中に鳴り響く非常ベルの音が。このシーンで、気を取り直して自室を出る黒蜥蜴の後に付き従う松吉が、一瞬背筋をぴんと伸ばして立ち上がりかけてから思い出したようにいつものせむしに戻る。ここの細かい仕草、遊び心がたっぷりでいいですね~! 原作を読んだことのある人だったらニヤリとする演出。いいぞ、諏訪太朗さん!
・本作の黒蜥蜴一味の構成は、黒蜥蜴、松吉、雨宮、手下3名(年長、新入り、料理番)の全6名のようである。あくまで黒蜥蜴のアジトに同居している人間の人数ではあるのだが、屋敷のデカさに対してかなり少ない違和感は残る。
・非常ベルを鳴らした犯人を捜して屋敷中を探し回る一味の中で、なぜかひとり早苗を開放して連れ出そうとする松吉。その正体は……? という展開が、まさしく天知小五郎シリーズの衣鉢を継ぐ本作の真骨頂といった感じなのだが、船越さんがつなぎを脱いで黒ずくめのスーツ姿に戻るとき、ちょっとだけ、つなぎが足元にまとわりついて時間がかかっているのが初々しい。まだまだだな~!
・あと、天知小五郎シリーズのテイストの復活を狙っているのならば、やはり「明智死亡!?」のくだりが、車の一台も爆発せずに悲しむ人間が出る暇もない忙しさでかなり淡白なのが、だいぶ物足りない。でも、「美女シリーズ」だって最初っからそういうパターンが定着していたわけでもないですからね。なんにしろ船越小五郎の第1作なんですから、寛大な心で楽しみましょう!
・ヅラだ! 諏訪太朗さんが回想シーンでヅラかぶってるぞ!! 加点6億点!!
・黒蜥蜴の美術品強盗の真の犯行目的は、黒蜥蜴の過去の秘密とともに本作オリジナルの新解釈なのだが、だとするのならば、礼拝堂の柱にこれ見よがしに貼り付けられていたちっちゃめのワニの剥製も、盗まれて心から悲しむ持ち主がいたのだろうか……いや、いても全然いいんだけどさ、もっと他になんかないの、命の次に大切な物がさ!?
・黒蜥蜴がふとももに隠し持っていたシルバーの上下二連装式小型拳銃は、あの峰不二子の愛銃のひとつとしても有名なレミントン・デリンジャーであると思われる。ベタだけど、そこはやっぱりデリンジャーですよね~。
・「すいません、抜いておきました……」も、明智小五郎を語る上で絶対にはずしてはならない特技中の特技である。ちゃんと映像化してますね、いいぞ~!
・クライマックスの大乱闘において、格闘能力のランクが明智・文代>雨宮>小林とはっきりしているのが面白い。文代さん強いな!
・エンドロール中の小林と文代との会話で、明智と小林は小林が少年だった頃からの付き合いであるが文代はその時期を知らないらしいということがわかる。少なくとも今回の黒蜥蜴事件ではほぼ手柄のない小林だったが、有能な文代よりも長く明智と組んでいる理由があるようだ……そこらへんは、是非とも第2作で明らかにしていただきたい! BS-TBS さま、なにとぞよろしくお願い致します!!
・ラストで明智が黒蜥蜴の幻影(?)とすれ違うのは、国重要文化財としても有名な神奈川県庁本庁舎の前である。昭和三(1928)年完成の、非常に画になる歴史的建造物なのだが、お役所の前で堂々と撮影できるなんて、やっぱ横浜はハイカラだずねぇ~。
細かいメモはこんな感じで。それでは、まとめはまた次回に!
あのですね~、先日ついに、我が『長岡京エイリアン』でもこの秋注目大本命と目していた『黒蜥蜴』2024エディションが堂々放送されたわけなのでございますが……
すんません、録画した作品を本腰すえてチェックするまでに、え~らい時間かかっちゃった!
いやあの、今年に限った話でもないのですが、秋はいろいろ忙しいのよ! その上、週末は必ず映画館に行ってる感じでなんかしらの新作品を観てるし、『黒蜥蜴』の感想をぐだぐだ言ってる余裕はなかったんですよね……
でもまぁ、だからと言って記事にもせずにスルーするなんていう選択肢などあるわけもないですし、しかも今回の2024エディションは、あの白本彩奈さんがヒロイン枠で出演しているということですので、だいぶ放送から遅れてはしまいましたが、覚悟を決めて感想を述べる記事を作らせていただきたいと思います! ま、遅れたって誰も待ってないから問題ないだろうし☆
ドラマ『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』(2024年9月29日放送 92分 BS-TBS)
『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎 黒蜥蜴』は、『黒蜥蜴』の11度目の映像化作品(三島由紀夫による戯曲版の映像化も含める)。
本作は、昭和四十年(1965年)頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代を舞台に設定している。
『黒蜥蜴(くろとかげ)』は、江戸川乱歩の長編探偵小説。「明智小五郎シリーズ」の第7長編で、1934年1月~12月に連載された。
本作、もしくは本作を原作とする三島由紀夫による戯曲(1961年発表)を原作として、これまで映画2本・TVドラマ9本(2024年版を含む)・ラジオドラマ2本が制作された。なお、コミカライズも4回されている(舞台化作品に関しては、多すぎてカウントできず)。
あらすじ
大富豪で宝石商の岩瀬庄兵衛のもとに、一人娘・早苗の誘拐と、大宝玉「エジプトの星」の強奪をほのめかす予告状が届き、岩瀬は名探偵・明智小五郎に警護を依頼する。明智は、部下である小林芳雄と木内文代と、警視庁捜査一課の浪越警部と共に警備にあたるが、混乱のなか早苗が誘拐されてしまう。
明智は、岩瀬宝飾店の常連客でもある緑川夫人が犯人の女賊・黒蜥蜴であると確信し追い詰めていくが、互いに心の内を探るうちに二人は惹かれあっていく……
おもなキャスティング
21代目・女賊黒蜥蜴 …… 黒木 瞳(63歳)
84代目・明智小五郎 …… 船越 英一郎(64歳)
42代目・小林芳雄 …… 樋口 幸平(23歳)
19代目・浪越警部 …… 池田 鉄洋(53歳)
14代目・木内文代 …… 唯月 ふうか(28歳)
岩瀬 早苗 …… 白本 彩奈(22歳)
岩瀬 庄兵衛 …… 大河内 浩(68歳)
雨宮 潤一 …… 古屋 呂敏(34歳)
松吉 …… 諏訪 太朗(70歳)
黒蜥蜴の手下(年長)…… 渡辺 隆二郎(56歳)
黒蜥蜴の手下(調理)…… 五明 紀之(52歳)
黒蜥蜴の手下(新人)…… 工藤 秀洋(48歳)
浪越警部の部下 …… 川手 祥太(33歳)
岩瀬家の家政婦 …… 小柳 友貴美(66歳)
遊覧船乗り場の受付 …… 山野 海(59歳)
美青年の剥製 …… 志生(じお 32歳)
※浪越警部は原作小説における「波越警部」、木内文代は原作小説における「明智文代」としてカウントしています。
おもなスタッフ
演出 …… 本田 隆一(50歳)
脚本 …… 入江 信吾(48歳)
制作 …… ホリプロ
と、まぁそう思いまして、ついにリビングでハリボーグミをかじりながら本作を観てみましたのですが、視聴中に気になったポイントをちょいちょいメモしていきましたらば、なんと以下のように即時的なつぶやきだけでけっこうな文量になってしまいましたので、全体を見通した上での感想文は、また次回にちゃちゃっとまとめようかと思います。長くなって申し訳ない!って、いつものことですか。
いや、この作品はテイストから言いましても、そんなに長く引っ張ってくどくど申し立てるようなものでもないと思うんですけど……頭をからっぽにして楽しんで、面白ければそれでいいじゃないかという娯楽作ですよね。
≪毎度おなじみ視聴メモでございやす≫
・冒頭から、小林少年との息の合った連係プレイで、なんか死体の上にバラの花びらを散らばす連続殺人犯の逮捕に貢献する明智探偵。定番の滑り出しだが、渋い黒コートに身を固めた船越さんと、ひょろっとしてどことなく頼りない幼さのある樋口くんとの対比がなかなか面白い。がんばれ、ドンモモタロウ!
・事件解決後、探偵事務所のある建物の中でタモさんか古畑任三郎のように視聴者に直接語りかけてくる明智探偵。これはおそらく、あのレジェンド天知小五郎の「あけましておめでとうございます、明智小五郎です。」(『天国と地獄の美女』より)を意識した演出かと思われるのだが、「善悪」と「美醜」を別の問題としてとらえているという視点が、けっこう明智っぽくて興味深い。顔は船越さんなんだけどね……
・宝石商の岩瀬庄兵衛が読む犯行予告状の、「黒蜥蜴」という署名と紋章が画面に映るときに、今どきギャグアニメでも聴かないような中華ドラの「ぼわ~ん!!」という効果音が鳴り響くのが、視聴者の不安感をいやがおうにも高ぶらせてくれる。真剣に演じている大河内さんと白本さんの立場が……
・タイトルロールの前に、ステンドグラスから光の射しこむ教会の礼拝堂のような場所で、金銀財宝や動物の剥製、いかにもな球体関節人形たちに囲まれ、原作通りの「美青年の剥製」を見上げて恍惚とした笑みを浮かべる女賊・黒蜥蜴がさっそく登場! さすが、演じる黒木さんは還暦を超えているとは思えない美貌なのだが、同時に自分の愛するものに夢中になる幼さも持っている、ちょっと脇の甘そうな黒蜥蜴である。
・軽快なジャズのリズムに乗って始まる本作のタイトルロールなのだが、眼帯をしてナイフを持つ諏訪太朗さんがクレジットされた時点で、「あぁ、そういうドラマなのね。」と腹をくくらせてくれる親切設計なのがうれしい。肩の力ぬいて観ようか!
・本作のタイトルの字体が、ハサミで切り取ったようなおどろおどろしい形になっているのが、明らかに天知小五郎の「美女シリーズ」を意識しているようで面白い。調べてみたら、1962年の京マチ子版も、68年の丸山明宏版もタイトルの字体は違うんですよね。どれも違ってどれもいい!
・タイトルロールの終わった瞬間に見えるのが、「東洋のモナコ」こと静岡県熱海市に実在するホテル・ニューアカオなのが素晴らしい。タイアップロケ全盛の TVサスペンスドラマへのハンパないリスペクトがあふれてるぞ! でも……「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」っていうか、もろリアルタイムの今なんじゃないの? ニューアカオは昭和四十八(1973)年開業なので四十年ごろにはないし……
・なんで庄兵衛の大事な仕事の商談に娘の早苗がいるんだ……と思ってたら、宝石を着けるモデルとして連れてきてんのか! 単なる親バカではなく、モデル社員を雇わずに家族で代用している庄兵衛のケチ臭い商魂が垣間見える。ま、そんなに美女だったら使いたくもなるでようけどね。
・細かいことを言うようで申し訳ないのだが、黒蜥蜴こと「緑川」夫人が紫色の着物を着ていて、対する早苗が「緑色」のワンピースを着ているという構図がなんだか非常に気になる。いや、別に意味はない偶然なのだろうが、せっかくどっちもステキな衣装なのだから、役の名前にも配慮した配色にしてほしいのですが……
・早い段階で明智探偵と対面する緑川夫人なのだが、本作では船越さんが意外と長身(181cm )だし、居合わせている大河内さん(178cm )と白本さん(170cm )よりも小柄な黒木さん(163cm )のこぢんまり感がチャーミングな方にはたらいている。この時点で出す必要はないのでいいのだが、大犯罪者らしいすごみが全然ないんですよね。ま、仮の姿なんだからまだいいけど。
・まともなセリフなど一言も発していないのだが、父親である庄兵衛にいいようにこき使われて「私(庄兵衛)の命の次に大事なもの」の座も大宝玉「エジプトの星」に奪われてしまっている早苗を演じる、白本さんの表情のかげりの演技がさすがである。いや~、今作でも嘆きの「ハ」の字まゆがいい味だしてるねぇ!! 22歳のみそらででっかい水玉のリボンをつけても許されるのは、白本さん級の美女の特権ですな!
・庄兵衛を囲む食後のコーヒーの席で、なにげなく出したアレキサンドライト「白夜の森」の話をエサに見事に緑川夫人にかまをかける明智探偵! この小ズルいやり口が実に明智らしい。こいつ、出会った瞬間に犯人の目星をつけやがったな!
・白本さんが美人であることには異議の申し立てようもないのだが、やはり物語の流れ上、黒蜥蜴にとりこにされる令嬢が黒蜥蜴よりも大柄というのは、ちと不思議な感じもする。黒木さんもそんなに小さいわけでもないはずなんですけどね……
・これは本作の内容自体からは切り離すべき話なのだが、本放送時にひっきりなしに流れる石破内閣の組閣人事のニュース速報と、CM でバンバン流れる船越さんと黒木さんが共演する本作向け特別仕様の「にしたんクリニック」コマーシャルがものすんごく気にさわる。まぁ、にしたんさんは「このドラマはこういう楽しみ方をしてください」というガイドなので甘受するしかないのだが……TV ドラマって、こういう雑味が入るもんなのよねぇ。のちにソフト商品で観るのとは全然違う印象になりますね。
・犯行予告時刻までサシで酒を飲む明智探偵と緑川夫人との会話が、いかにも同世代の名優同士の演技合戦という感じで魅せるものがある。距離感ちかいな~!
・「人間の闇です……僕は、その闇を暴くことに、たまらない愉悦を感じるんですよ。」という明智探偵のアブない告白に、「はぁ……」と眉をひそめて本気でドン引きする緑川夫人。いや~、本作の黒蜥蜴はほんとに等身大というか、かわいらしいですね。乱歩キャラらしくないな~。
・「僕に言わせれば、黒蜥蜴のやっていることなど、もう滑稽でしかない。どんなに美しいものを集めても、どんなに美しいものに囲まれても……人間本来のドス黒さは薄まりません。そうでしょう?」と、緑川夫人をあおりにあおりまくる明智探偵! う~む、今回の明智小五郎は、見た目は完全に船越さんなんだけど、中身はかなり仕上がってるぞ。いいね!
・寝ているはずの早苗がクッションとマネキン人形の首にすり替えられているというのも、天知小五郎シリーズへのオマージュだと思われる。ベタだな~! でも、そこがいい。でも、エジプトの星を守る庄兵衛はしょうがないとしても、犯罪者の一団が襲撃してくるかもしれない部屋で早苗がグースカ寝ているというのは、どんなもんなのだろうか。余裕ありすぎじゃありませんこと?
・黒蜥蜴のさしがねで早苗を誘拐しようとする雨宮をなんとか阻止する小林と文代の助手コンビだが、本作ではちょっとまぬけな小林と気丈で格闘術にも長けた文代という感じにキャラ分けがはっきりしているのが面白い。小林の方は天知小五郎シリーズでもコメディ要員な感じだったので伝統なのだが、文代がパワー系になっているのは、いかにも令和っぽいアレンジである。
・早苗に変装する黒蜥蜴の描写が精密な CG処理になっているのも令和っぽいのだが、だとすると、明智探偵は黒蜥蜴の変装を見抜けなかったということになってしまう。まぁ、あえて泳がせていたと言われればそこまでなのだが……あと、明智の前に現れた時に早苗(に変装した黒蜥蜴)がエロいバスローブを着ていたのも、紳士たる明智にガン見させず目をそらさせるための作戦だったのかもしれない。やるな黒蜥蜴! 男心をよくわかっとる。
・サスペンスドラマあるあるだと思うのだが、女優さんが男装すると体型がめちゃくちゃ貧相に見えることが多く、今回も黒木さんが扮する老紳士が枝みたいな手足の細さで思わず心配になってしまう。女優さんって大変なんだな!
・黒蜥蜴一味による岩瀬早苗誘拐未遂事件から一夜明けた、明智探偵事務所での明智・小林・文代の天知小五郎シリーズいらい伝統のダベりシーンなのだが、事務所の入っているビルの外観が、まんま東京都中央区日本橋茅場町にある実在の「第2井上ビル」である。このビルは関東大震災からの帝都復興計画の最中、昭和二(1927)年に建設されたコンクリート建築で、非常に貴重な歴史的建造物なのである。いかにも明智探偵事務所がありそうなビルでけっこうなのだが、「架空の時代」とかいう設定はどこへ……?
・黒蜥蜴の異常なまでの美術品収集への執着に興味を深めた明智は、小林助手に過去の黒蜥蜴の被害に遭った強奪品のリストアップを命じる。ここらへんから、明智が原作小説とは全く違うアプローチで黒蜥蜴の正体に迫ろうとする本作オリジナルの展開が始まってきて面白い。緑川夫人が来ていた和服の帯の産地(群馬の桐生織)から、黒蜥蜴のルーツを探ろうとするとは……いかにも、日本全国を駆け巡る旅情サスペンスドラマでキャリアを積んできた船越さんらしい捜査法である。やっるぅ!
・明智のいじわるなディスり発言が確実にボディにきいてきて、ついには自分のこしらえた美青年の剥製が動き出してののしってくるという幻覚にすら悩まされる黒蜥蜴。メンタル弱すぎでしょ!
・いや~、諏訪太朗さんが出てくるとほんとに安心するなぁ。しかも今回は、せむしでびっこをひいて顔半分はやけどで眼帯という、そうとうにデンジャラスなよくばりスタイルだ! バカバカしいな~、だが、そこがイイ!!
・人前では平静な様子を装っているが、明らかに常軌を逸した執念で明智への復讐計画を練る黒蜥蜴に、今までの彼女らしからぬ乱心を感じ取って浮かない顔をする松吉。ここらへんから、松吉が他の雨宮などの手下たちとは全く違う、黒蜥蜴にもっと親密な関係にある人物であることが垣間見えてくる。こういったあたりをセリフでなく諏訪太朗さんの無言の表情で暗示してくる演出が非常に素晴らしい。諏訪さんのポテンシャルをわかってる采配だね~!
・本作は船越&樋口ペアが初めてタッグを組む作品なので仕方がないのかも知れないが、明智と小林の会話がやや堅く、若干パワハラ気味のきつい口調で明智が小林に接しているのが気になる。ここはもうちょとコミカルな感じでもいいと思うのだが……少なくとも今作では、原作小説でただよってくるような倒錯気味なただれた関係なぞ微塵も感じられない、極めてドライな上司と部下の関係である。小林君、辞めないといいんだけど……
・黒蜥蜴に誘拐されかけたあたりから早苗を演じる白本さんの演技が徐々にオーバーになってきて、父・庄兵衛への屈折した感情もあいまって楳図かずおのマンガみたいな顔になっておびえるのが大げさすぎて面白い。白本さんも、わかってんね! それにしても、早苗(22歳)はでっかいリボン好きだな~!!
・ピアノを演奏するタッチが違うことに気づき、早苗の得意だったテニスの話題をエサに黒蜥蜴の変装を見破る明智。いやいや黒蜥蜴さん、また明智の口車に乗って正体ばれちゃってるよ……バカなの? それにしても早苗さん、もしかして通ってた中学校は「ゆめの風中学校」で、そこのテニス部で「お蝶夫人」とか呼ばれてブイブイ言わしてたときに、遠藤憲一さん率いる邪魔邪魔団の魔手に堕ちて怪人になってませんでした? あれからもう6年が経つのか……人に歴史あり!
・二度目の挑戦にしてついに早苗誘拐に成功した黒蜥蜴が、エジプトの星との交換に選んだ場所は、作中では「あおば湖西公園」と指定されているのだが、景観はまんま、神奈川県相模原市の相模湖である。熱海に相模湖と、本作はロケーションもなかなかレトロですばらしい。このこぢんまり感、あぁサスペンスドラマだな~って感じですね。
・唐突に挿入される、謎の少女が児童養護施設の前で同年代の子ども達に「トカゲ!トカゲ!」と呼ばれ忌み嫌われるセピア色の記憶。本作で最も独自力の強い「黒蜥蜴の過去」を象徴するシーンなのだが、少女を罵倒する3人の昭和っぽい恰好をした子ども達のうち、2人目のセーラーの冬服を着た女の子のはやし方が、両手を片方ずつテンポよく「 Yo!Yo!」みたいに突き出して指さすスタイルなので、戦後間もない日本の子どもにしておくには惜しすぎるリズム感覚の持ち主である。生まれるのが年号1、2コぶん早い!!
・ちなみに、現実世界の日本で保護者のいない子どもを主に擁護する施設に「児童養護施設」という名称が使われるようになったのは1998年の改正児童福祉法の施行からであり、それまでは戦前は「孤児院」、戦後は「養護施設」という名称が一般的であった。でもま、架空の時代なんだから、いっか。
・『黒蜥蜴』の映像化作品のご多分に漏れず、紫の着物、どピンクのワンピース、全身黄色コーデのセットアップ、純白のネグリジェと華麗な衣装の七変化を見せてくれる黒木蜥蜴なのだが、明智をとっつかまえたと勝ち誇るアジトでの気合の入った衣装がヒョウ柄のコート風シースルーワンピースなのは、トカゲとしてさていかがなものか。それともこれは、登場する連続殺人鬼の名前が「青蜥蜴」なのに作品のタイトルが思いッきり『夜の黒豹』になっている横溝正史先生へのオマージュなのか? 乱歩なのに!? いや、ここは私としては、船越小五郎シリーズの第2弾が、今まで一度も映像化されたことのない(舞台化はあるけど)、乱歩作品でもとびっきり不遇なあの異色すぎる長編になるゾという隠し予告メッセージであるという説を採りたい! 期待してますぞ!! 文代さん大活躍!!
・「人間ソファ」の中から聞こえる明智の声に勝利を確信し、ソファの上でキャハキャハいってはねたり、恍惚とした表情でソファにしなだれかかり「ねぇ、今どんな気分~?」と問いかけて悦に入る黒木蜥蜴還暦オーバー! この様子を早苗がどんな表情で観ていたのかが非常に気になる。なにやってんだ、こいつ……
・原作通りの展開で、ソファは黒蜥蜴団の手により海へと投棄される。でもシチュエーションが原作とは違うので、ピーカンの陽気の中でおだやかな波間にソファがぷかぷか浮かんでいる画がマヌケである。いや、そりゃ中に人がいたらほっときゃ死ぬんだろうけどさ、投げる前後にとどめとか刺さないの? 相手は明智だよ!? 優しいんだがずぼらなんだか……
・ソファを海に捨てた黒蜥蜴は、自分の心を見透かした唯一の男である明智を失った絶望感から自室で落涙する。そんな彼女に寄り添う松吉は優しくハンカチを渡すのだったが、そのとき屋敷中に鳴り響く非常ベルの音が。このシーンで、気を取り直して自室を出る黒蜥蜴の後に付き従う松吉が、一瞬背筋をぴんと伸ばして立ち上がりかけてから思い出したようにいつものせむしに戻る。ここの細かい仕草、遊び心がたっぷりでいいですね~! 原作を読んだことのある人だったらニヤリとする演出。いいぞ、諏訪太朗さん!
・本作の黒蜥蜴一味の構成は、黒蜥蜴、松吉、雨宮、手下3名(年長、新入り、料理番)の全6名のようである。あくまで黒蜥蜴のアジトに同居している人間の人数ではあるのだが、屋敷のデカさに対してかなり少ない違和感は残る。
・非常ベルを鳴らした犯人を捜して屋敷中を探し回る一味の中で、なぜかひとり早苗を開放して連れ出そうとする松吉。その正体は……? という展開が、まさしく天知小五郎シリーズの衣鉢を継ぐ本作の真骨頂といった感じなのだが、船越さんがつなぎを脱いで黒ずくめのスーツ姿に戻るとき、ちょっとだけ、つなぎが足元にまとわりついて時間がかかっているのが初々しい。まだまだだな~!
・あと、天知小五郎シリーズのテイストの復活を狙っているのならば、やはり「明智死亡!?」のくだりが、車の一台も爆発せずに悲しむ人間が出る暇もない忙しさでかなり淡白なのが、だいぶ物足りない。でも、「美女シリーズ」だって最初っからそういうパターンが定着していたわけでもないですからね。なんにしろ船越小五郎の第1作なんですから、寛大な心で楽しみましょう!
・ヅラだ! 諏訪太朗さんが回想シーンでヅラかぶってるぞ!! 加点6億点!!
・黒蜥蜴の美術品強盗の真の犯行目的は、黒蜥蜴の過去の秘密とともに本作オリジナルの新解釈なのだが、だとするのならば、礼拝堂の柱にこれ見よがしに貼り付けられていたちっちゃめのワニの剥製も、盗まれて心から悲しむ持ち主がいたのだろうか……いや、いても全然いいんだけどさ、もっと他になんかないの、命の次に大切な物がさ!?
・黒蜥蜴がふとももに隠し持っていたシルバーの上下二連装式小型拳銃は、あの峰不二子の愛銃のひとつとしても有名なレミントン・デリンジャーであると思われる。ベタだけど、そこはやっぱりデリンジャーですよね~。
・「すいません、抜いておきました……」も、明智小五郎を語る上で絶対にはずしてはならない特技中の特技である。ちゃんと映像化してますね、いいぞ~!
・クライマックスの大乱闘において、格闘能力のランクが明智・文代>雨宮>小林とはっきりしているのが面白い。文代さん強いな!
・エンドロール中の小林と文代との会話で、明智と小林は小林が少年だった頃からの付き合いであるが文代はその時期を知らないらしいということがわかる。少なくとも今回の黒蜥蜴事件ではほぼ手柄のない小林だったが、有能な文代よりも長く明智と組んでいる理由があるようだ……そこらへんは、是非とも第2作で明らかにしていただきたい! BS-TBS さま、なにとぞよろしくお願い致します!!
・ラストで明智が黒蜥蜴の幻影(?)とすれ違うのは、国重要文化財としても有名な神奈川県庁本庁舎の前である。昭和三(1928)年完成の、非常に画になる歴史的建造物なのだが、お役所の前で堂々と撮影できるなんて、やっぱ横浜はハイカラだずねぇ~。
細かいメモはこんな感じで。それでは、まとめはまた次回に!
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