え~、そんでま、前回に引き続きまして『黒蜥蜴』2024エディションの感想なんですけれども。
私、けっこう楽しめました! 実は、視聴するまでは個人的に不安要素が多いなと感じていて、かなり懐疑的なまなざしで画面とにらめっこしていたのですが、だんだんとこの作品の「方向性」みたいなものがわかってくると、あぁそういう楽しみ方をすればいいのねといった感じに肩の力がぬけて、どんどん面白くなってきたんですよね。正直、最初の心の中でのハードルがかなり低かったから後は上がるだけという好条件もあったのでしょうが、観終わった後は「船越小五郎の第2作があってもいいじゃないか!」という気分にまで上昇していたのです。ほんと、この明智探偵事務所チームが1作だけで解散しちゃうのは実にもったいない!
まず、2024エディションに入る前に前提としておさえておきたいのですが、今回の船越小五郎 VS 黒木蜥蜴のバージョンをもってなんと11度目の映像化になるという、江戸川乱歩作品の中でも随一の映像化頻度の高さを誇る『黒蜥蜴』において、言うまでもなくその現時点での最新バージョンがこの2024エディションであることはもちろんなのですが、これが「令和最初の『黒蜥蜴』」ではぜっっっったいにないことは!ここでしっかりと断言させていただきたいと思います。なんか、一部媒体でそんな妄言をぬかしてる文章なんか、ありませんこと!? なんと無礼な!!
令和最初の『黒蜥蜴』は、この1コ前の『黒蜥蜴 BLACK LIZARD』(2019年12月放送 監督・林海象 NHK BSプレミアム)ですから!!
いくら、明智小五郎役の俳優さんの不祥事で再放送やソフト化に暗雲が立ち込めているとはいえ、この作品を無視するなんて許しませんぞ! 歴代、いくたの美人女優さんがたが演じてきた(丸山さんも女優だ!!)女賊・黒蜥蜴の中でも、「爬虫類っぽさ」部門と「アクション」部門でぶっちぎりの一位を獲得している、りょうさんによる黒蜥蜴……ほんとに最高でしたよね。あとは、岩瀬庄兵衛役の中村梅雀さんの、岩瀬早苗を押しのけるプリティさが際立った異色の逸品でした。ほんと、クライマックスで黒い特高警察みたいな悪ぶった衣装に身を固めてた姿が最高に似合ってなくてかわいい♡
ともかく、そっちの2019エディションの感想は過去記事にあるので深くは立ち入らないのですが、そちらは何といっても黒蜥蜴役のりょうさんの超人的なビジュアルが世界観全体を併呑したかのように、時代設定を思いッきり SFな「架空の近未来」にして、もはや江戸川乱歩作品なんだか手塚治虫作品なんだか『攻殻機動隊』(アニメ版のほう)なんだかよくわかんない作品に仕上がっていたので、りょうさんが大好きな私としては異存なぞあろうはずもないのですが、『黒蜥蜴』の映像化作品としては、いささか冒険が過ぎるような異端の一作となっておりました。ほんと、再放送の機会が絶望的なのがまことにもったいない!!
そんな2019エディションのわずか5年後に、今度は BS-TBSに場を移して映像化されることとなった今回の2024エディションなのですが、まず放送前に発表されたアナウンスをチェックしたとき、私は正直言いまして「ふ~ん、がんばってね。」的な、何とも言いようのないテンションの低下をもよおさずにはいられなかったのでありました。
いわく、「サスペンスドラマの帝王」こと船越英一郎の明智小五郎、いわく、もはや大御所女優となった黒木瞳ふんする黒蜥蜴、いわく、作品の時代設定は「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」……
私の主観的な印象ではあるのですが、どうもこの2024エディションは新味に欠けると言いますか、TV的なアイコンにまみれている感じで、少なくとも原作小説の『黒蜥蜴』の味わいをどうこうしようとかいう意思は薄いような気がしたのです。
だって、「昭和四十年頃」って1965年ってことでしょ? 原作の『黒蜥蜴』の時代設定はその約30年も前の昭和九(1934)年の物語なんですから、なんで21世紀現代でもなく原作リスペクトでもない、そんな中途半端な時代になってるのかって話なんですよ。しかもそれを踏まえた上での「架空の時代」……?
ちなみに、おそらく映像化された『黒蜥蜴』の中で特に有名なのは1962年大映映画版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は京マチ子)と1968年松竹映画版(監督・深作欣二 黒蜥蜴は丸山明宏)、そして言わずと知れた天知小五郎シリーズの中での1979年ドラマ版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は小川真由美)の3バージョンなのではないかとおもわれます。ヒエ~どの黒蜥蜴もクセがすごい!
こう見てみると、今回の2024エディションが標榜している「昭和四十年」というキーワードは、本来 TVドラマを主戦場としている船越英一郎さんのテイストからすれば一番意識するはずの天知小五郎シリーズからはややずれた、そこからさらにひと昔前の設定になっているという違和感が残ります。実際に見比べてみても、天知小五郎シリーズは実質的に「1980年代」の雰囲気をすでに先取りしている印象が強く、やけにとんがったデザインの最新車種を乗りこなす明智や大爆破あったり前のカーアクション、ワープロや「禁煙」といった小道具・言葉が出てくる作品の雰囲気は、明らかに先行する2バージョンの映画版とはまるで違った、いかにも TVっぽいにぎやかさに満ちたものとなっています。同じ「昭和」でも、中身は結構違うのね。
そもそも昭和四十(1965)年というのは、大乱歩の原作小説よりも、それを元にした三島由紀夫の戯曲版『黒蜥蜴』(1961年発表、62年初演)のほうがよっぽど近いわけで、2024エディションは乱歩と三島のどっちの映像化なんだというどっちつかず感が目立ってしまいます。いや、これは今回に限らず、どの映像化作品でもそうなんですけどね……全バージョン、三島戯曲が世に出て以後の作品なんだもんなぁ。
原作小説が大好きな私としては、現在の二代目とはだいぶ外観の違う初代・通天閣(高さ75m、1943年に焼亡)が登場する戦前の商都・大阪を CGかなんかで完全再現した、昭和九年の小説版のみを原作とする『黒蜥蜴 THE ORIGIN 』を死ぬまでに一度でいいから観たい気もするんですけどね~。時代設定的に原作小説に最も近い黒蜥蜴が登場するのはマンガ『二十面相の娘』(2003~07年連載)なんですけど、あれも刺青の位置が違うからなぁ。
ま、そんなこんなで乱歩的でもなく天知小五郎的でもなく現代的でもないらしいという前情報にモヤモヤした感情を抱えてしまった私は、あの白本彩奈さんが岩瀬早苗役で出るヨという朗報を得てもなお、「大丈夫かぁ!?」という疑念が晴れずにいたのでした。いいとこどりすぎて薄っぺらい TVドラマになるんじゃないかという危惧ですよね。
それでいよいよ、おっかなびっくりで録画した本編を観てみたわけなのですが、2024エディションは原作小説および戯曲版の味わいを可能な限り物語に落とし込みつつも、天知小五郎シリーズに寄せすぎず「船越さんと黒木さんなりの TVドラマっぽさ」を上品に反映させた良作になっていると感じました。おふざけがありつつも、面白いエンタメ作品になってましたよ!
TVドラマっぽい。そうなんです、この作品は、映画になるには作りが軽すぎます。前回の視聴メモでも言及しましたが、この2024エディションにおける黒木蜥蜴は、明智の捜査によって原作ではついぞ語られることの無かった「過去」を暴かれ、犯罪の道にはしる以前の少女時代のトラウマをさらけ出して一人の人間の女性に戻った上で退場するのです。そこに過去バージョンの多くで女賊・黒蜥蜴が守っていたミステリアスな雰囲気やプライドの壁は無く、そもそも黒木蜥蜴のふるまいには、明智の若干サイコな探偵論の披歴に素でひいてしまうような人間っぽさも常に漂っていたのです。直近のサイボーグみたいなりょう蜥蜴とはえらい違いでんな!
その一方で、黒木蜥蜴に対抗する船越小五郎はどうかと言いますと、こんなこと言ったってどうしようもないのですが、外見がどこからどう見ても「船越英一郎」なんですよね、どうしようもなく……ンやわたっっ!!
これ、冗談で言ってるんじゃなくて、本当に船越さんくらいにサブリミナルレベルで TVに露出している俳優さんだからこその業病と言いますか、「何をやってもぜんぜん明智小五郎に見えない」という足かせがかなり強く働いているんですよね。これが実にしつこく、作品全体の重力が、その主人公を務めている船越さんのまとう、「そんなカッコつけても船越英一郎さんなんでしょ」という視聴者側のぬぐいきれないメタ視点によって軽くなってしまうのです。
その上さらに、BS-TBS での本放送では、CM にその船越さんと黒木さんがまんま刑事と犯人役で登場するにしたんクリニックのサスペンスドラマ風コマーシャルが流れちゃうもんなのですから、もはや狙ってやってるというか、「おれ達も今さら THE MOVIE 気取りでしゃっちょこばってやるつもりなんてさらさらねぇゼ!」みたいな覚悟を見せつけられてしまうのでした。腹くくってんなぁ!
ただ、ここまでくると「そんなに TVっぽいなら見たくないな」と思われる向きもあるかも知れないのですが、本バージョンのいちばん目覚ましいポイントは、主演の船越さんがそうとうな力の入れようで明智小五郎という人物の造形にこだわっているところなのです。この一点! この一点のみがブラックホールのように深く暗い「おもし」となっているので、ともすれば軽すぎてひらひら~っと飛んで行ってしまいそうな作品の存在感をかろうじてつなぎとめるアクセントになっているのです。主人公に特異な色味があるのは大事ですね~、ほんと!
これはつまり、船越さんが俳優としての自分自身の「主戦場(TVドラマ)」と「弱点(軽さ)」を充分に自覚分析したうえで明智小五郎となる仕事を引き受けたという事実の証左なのです。相手を知り、己を知れば百戦危うからず……遅ればせながら、私は船越さんが素晴らしい名優であることを本作で確信いたしました。まさに帝王!
そして、ここで船越さんが範としたであろう「陽キャヒーローなばかりでもない明智小五郎」の原形が、まさしく江戸川乱歩が初期の小説世界で描いていた大正時代の書生ふうの青年明智、すなはち「犯罪者すれすれのダークな異常才能者」としての明智小五郎だったことは疑いようがなく、こういう明智が映像作品の中で描かれるのはけっこう久しぶりなことなのではなかろうかと私は感服してしまったのでした。これは偉業だ!
「大正時代のヤング明智」の映像作品における活躍といえば、何はなくとも NHK BS プレミアムで放送されていた『シリーズ・江戸川乱歩短編集』(2016~21年放送)が挙げられるわけですが、あそこでは明智小五郎を女優の満島ひかりさんが演じるということで、明智のヤバい部分、異端性がポップになるという効果がありました。ですので今回の「ほんとはこわい」船越小五郎に、過去に明智を演じた綺羅星の如き俳優さんがたの中で誰がいちばん近いのかと考えてみますと、それはやはり、あの実相寺昭雄監督の映画2作(映画『屋根裏の散歩者』と『 D坂の殺人事件』 真田広之~!!)で明智を演じた嶋田久作さんなのではないでしょうか。すごいとこと繋がったな~!
船越小五郎、いいですよ~。その発言については前回の視聴メモでふれているので繰り返しませんが、1作のみで終わらせるには惜しすぎる暗黒面を抱えたキャラクターになっています。船越小五郎と吉岡秀隆の金田一耕助によるダースベイダー卿 VS 銀河皇帝パルパティーンみたいな暗黒面対決、観てみたい~!!
ま、外見はどうしても陽気な船越さんなんですけどね……でも、あの天知茂さんだって、美女シリーズが始まった当初は「どこからどう見ても天知茂じゃないか」と揶揄されていたのではないでしょうか。顔の知れた大スターはつらいものですよ。船越さんも、どんどん作品を重ねて明智小五郎の新しい顔になって欲しいと切に願います。
「1回こっきりにしておくのは惜しい」と言うのならば、やはり本作の明智探偵事務所、特に船越小五郎と樋口小林青年との「長いつきあい」についても、ちょっと触れるだけで終わってしまったので、次回作にて是非とも具体的に明らかにして欲しいところであります。本作だけを観ると、もっぱら手柄があったのはアクション担当の文代さんだけで、小林青年はせいぜい陽動作戦でおとりになってくれた程度といった感じで、文代さんよりも助手歴が長い理由がはっきりしないコメディリリーフ要員でしかなかったですよね。そこらへんを、もっと詳しく教えて! 「ボクは頭脳専門でね……」と豪語していた小林青年の本領発揮を、次の事件簿で見せてくれ~。
そして、あの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022~23年放送)で一年間堂々と赤センターのドンモモタロウを務めあげた樋口さんなのですから、単に助手と言うだけでなく「明智の後継者」という将来も視野に入れた人選となっているのではないかと、私は睨んでおります。そうなると即座に脳裏にひらめくのは、あの佐藤嗣麻子監督によって映画化もされた、劇作家・北村想の小説『怪人二十面相・伝』二部作(1988~91年)における明智と小林に関する実に興味深い新解釈であります。1925~62年という長期にわたって、明智小五郎はどうしてずっと「若き天才探偵」のスタイルを変えずにいられたのか……主人公を十二分に演じられるポテンシャルを持っている樋口さんだからこそ、船越小五郎との力関係に非常にふくみがあるようで、興味は尽きませんね~!!
さて、主人公サイドの船越小五郎チームに続いて振り返ってみたいのは、本作の影の主役となる「黒蜥蜴一味」なのですが、今回はとにもかくにも、「やけに人間くささと弱さを持った黒蜥蜴」が目立ったキャラ造形だったなと感じました。確かに、直近のりょう蜥蜴がダイヤモンド並みの硬度を持った造形だったので、その逆をゆくという判断は非常に的確だったと膝を打ちました。そうきたか~!
この、思い切って黒蜥蜴をデバフさせるという奇手は、対する明智がまさに演じる船越さんのサスペンスドラマにおける「捜査法」を踏襲するかのように、「黒蜥蜴の前半生を掘り起こして人間としての彼女の犯行動機をさぐる」戦法を採っていたがために、重いトラウマを抱えた少女の記憶を取り戻し悔恨するひとりの女性を演じるためにも、黒木さんにとって最適の選択だったのではないでしょうか。
そうなのです、本作の明智と黒蜥蜴は、そのキャラクターこそ乱歩ワールドの住人であっても、物語の進み方は限りなく往年の旅情サスペンスドラマの骨格を継承しているのです。ま、「旅情」というほど明智が旅をしていたわけでもないのですが、黒蜥蜴=緑川夫人が着ていた和服の帯から群馬県桐生市に飛ぶという、原作小説のどこを見ても明智がやったことのないアプローチをたどった船越さんの捜査は、ベッタベタなのに絶対に船越さんでしか実行しえない、乱歩ワールドの中ではきわめて新鮮な展開だったのではないでしょうか。その手法を受け入れるためにも、今作の黒木蜥蜴は「人間的で弱く」ならなければならなかったのです。
……とは言いましても、黒木さんは本作の出演者陣の中では比較的小柄だし、おまけにホテルニューアカオから逃走する時に変装した老紳士の姿を見てもわかる通りに枝みたいにスリムすぎる体型なので、内面だけでなく外見も、世界の大富豪たちをおびやかす強盗グループの首領としてはだいぶ心もとない印象になってしまいましたね。ほんと、さらわれて緊縛されてる白本さんの方がどう見ても強そうなんだもんなぁ。まぁ、それは黒木蜥蜴ご本人も先刻承知のようで、峰不二子よろしくふとももにデリンジャーを隠し持っていたわけですが。
あと、これだけは必ず触れなければならないのですが、本作の隠れた MVPは、やはり黒蜥蜴の過去を知る唯一の側近・松吉を演じた諏訪太朗さんと言うしかないのではないでしょうか。顔半分のやけど跡に眼帯、回想シーンではヅラ! もうフルスロットルの大活躍でしたね。演出の本田隆一監督は、わかってらっしゃる!!
本編を観ても分かる通り、映像化された『黒蜥蜴』において松吉(松公)を演じる俳優さんは後半に大事な役目があるので、それをちゃんとやり切ることのできる実力のある方でなければなりません。
ですので、2024エディションでは諏訪太朗さん、そして2019エディションではなんとあの堀内正美さんが演じていたということで、『黒蜥蜴』を楽しむ上での隠れたお楽しみトピックとなっています。
うをを、諏訪太朗 VS 堀内正美!! この、実相寺昭雄監督ファンならば血圧が200あたりを超えること必至な名バイプレイヤー対決は、この『黒蜥蜴』でも繰り広げられていたというわけなのですか。りょう蜥蜴に寡黙につき従う堀内さんと黒木蜥蜴に親のように寄り添う諏訪さん、あなたはどっちがお好き!?
乱歩ワールドにおけるこのお2方の対決といえば、どうしてもあのテレ東「ガールズ×戦士」シリーズにおける『ひみつ×戦士ファントミラージュ!』第15話(2019年7月放送)での、堀内さん演じる名探偵「明土(あけっち)小五郎」と諏訪さん演じる「怪盗二十面相」との宿命の対決構造を思い出さずにはいられません。たまんねぇキャスティングだ~!! このエピソードについては、我が『長岡京エイリアン』でもかなり前に記事にしたのですが、まだ本文完成してないのよね……この不調法者が!! ヒエ~変態けろっぴおやじ神さま、おゆるしを。
あと、黒木蜥蜴一味といえば、やはり今回でも明智と黒蜥蜴の愛憎関係にだいぶ時間を割いてしまったために、黒蜥蜴にゆがんだ恋慕の情を寄せる雨宮のポジションが小さくなってしまったのは残念でしたね。いや、これは意図的に明智の存在を薄くしないと前に出てくる余地が作られない立場なので仕方ないのですが、本作でも雨宮なりの物語のしめ方が語られなかったのはもったいなかったなぁ。文代さんにコテンパンにのされるだけでしたからね。
最後に、本作の「にぎやかで軽い TVドラマのノリ」を体現するかのように、オーバーすぎるほどに肩をビクッと震わせて目を見開くリアクションを見せてくれた早苗役の白本さんもすばらしかったと触れずにはいられません。あんな顔、驚かす側のほうがびっくりするわ!
いや~、白本さんは今回もよかったなぁ。作品ごとでの自分の役割をわかってらっしゃるクレバーな女優さんですよ。金持ちのお嬢様らしく甘ったれた話でもあるのですが、父の愛情に飢える令嬢の苦悩をセリフでなく、その特徴的な「ハ」の字まゆで見事に表しきっていた演技力は見事でした。ほんと、こうなるとごくごくフツーの役を演じる白本さんの引き出しも他の色々な作品で観てみたいですね。ここ最近の他のドラマ作品での白本さんの仕事に関しましては、本記事最後のおまけコーナーにて!
でも、明らかに黒蜥蜴よりもガタイの良い早苗という絵面はかなり新鮮で、そういえば黒蜥蜴が先に作った「をとこの剥製」もけっこうマッチョな感じだったので、本作の黒蜥蜴は男女に関わらず、自分に無いマッシブな肉体に渇望していたのかも知れませんね。だとしたら黒蜥蜴は、あの『盲獣』のようなむちむちぶりんぶりんの曲線に包み込まれるエル・ドラドオを脳裏の地平線に追い求める想いがあったのかも知れず……彼女の心の闇は、深い!!
こんなわけでありまして、『黒蜥蜴』2024エディションは、自分たちの身の丈に合ったサイズを熟知した上で、いちばん得意とする主戦場「サスペンスドラマ的文法ゾ~ン」に、畏れ多くも乱歩ワールドを無理くり引き込むという奇策に出た、非常に野心的な作品であると感じました。江戸川乱歩の世界に忠実かというとそうでもないのですが、とにかく俺たち、私たちでしかできないエンタメを作ってやろうぜというプロ意識はひしひしと感じられる良作だったと思います。2019エディションのようなひたすら世界観の硬度にこだわる作り方もあるわけなのですが、今回の2024エディションは「お茶の間の人気者」としてのコンプライアンスを順守した上で、令和の御世にどこまで王道な娯楽作を作り上げることができるのかという課題に、船越英一郎と黒木瞳という W座長公演のスタイルで挑んだわけなのです。ナンパでほんわかした勧善懲悪の世界を、真剣勝負で作る! TVドラマの本気を観た思いでしたね。
ただし、ここで注意しておかなければならないのは、今回再現された TVドラマの世界は、あくまで平成と令和の時代を生き抜いた船越さんと黒木さんの経験則に基づくものなのであって、もっと乱雑で刺激的だった「天知小五郎シリーズ」もいた昭和の世界とは全く別物だということです。つまり、今作の世界はやっぱりどこまでも「架空の時代」のお話なのであり、天知小五郎の世界の復活を期待するのは筋違いなんですね。実際、車の一台も爆破炎上しないし、21:55~22:05くらいのきわどい時間帯に被害者となる女性のおっぱいだってまろび出ない今作の世界は、ある意味でヌルいことこの上ない、上っ面だけを天知小五郎シリーズから拝借した「カレーの王子さま」にしか見えないという方もおられるかも知れません。
ただ、作品が万人ウケする視聴率重視のドラマ作品であるという宿命から、「全く動機不明だが美にこだわりまくる狂人」だの、「無差別殺人にしか快楽を見いださないサイコ連続殺人鬼」だのがポンポン出てくる江戸川乱歩の世界を TVという媒体で忠実に映像化することができないのは、今回の2024エディションもかつての天知小五郎シリーズも同じことで、今作での黒木蜥蜴が地に足の着いた人間になったように、例えばあの超絶サイコな虐殺グランギニョル作『蜘蛛男』(1929~30年連載)を原作とする天知小五郎の『化粧台の美女』(1982年)もまた、「犯人にはそれなりの哀しい事情がある。」というきわめて俗っぽいお涙ちょうだいな言い訳を加えていたのです。ただ盗みたいから盗む、殺したいから殺すというカオスなキャラが出てきたって、視聴者は納得しないだろうと見ているわけですね。
そういう意味では、日本の TVドラマは、まだまだ約100年近く前の江戸川乱歩の世界に追いついていないということになるのでしょうか。海外の映画界に目を向ければ、『羊たちの沈黙』(1991年)とか『ノーカントリー』(2007年)とか『ダークナイト』(2008年)とか、もはや自然災害かなんかとしか言いようのない説明不能の異常犯罪者は枚挙にいとまがない程いるのですが、乱歩の明智もの長編に出てくる犯罪者なんて、だいたいこっちの世界の奴ばっかですからね! 魔術師とか蜘蛛男とか、黒蜥蜴とか吸血鬼とか……もう、ゴッサムシティで大笑いしながらサブマシンガンをぶっぱなしてても違和感ないキャラばっか!
いろいろ申しましたが、今回の船越小五郎のチャレンジは、船越さんらしさの総決算的作品ではあるものの、まだまだ過去作品に伍して闘うことのできる、この作品だけのオリジナリティというものが出ているとは言い難い中途半端さがあります。CG で明智と黒蜥蜴の双方の変装術を表現するというのも、天知小五郎シリーズのブラッシュアップの範疇ですからね……
だからこそ! 船越小五郎シリーズは必ず、後続する第2弾を作って、ほんとうの独自性を創出していかねばならない義務があると思うのですよ。
船越小五郎と樋口小林くん、ほんとに頑張れ! 再び立ち上がれ!! 私は待ちますよ、いつまでも。
諏訪太朗さん、またなんか別の役で出てくんないかな。荒唐無稽な乱歩ワールドへと続く扉の鍵を握るのは、やっぱり諏訪さんと、諏訪さんのヅラだ!! いつまでも、元気でいてくださいね♡
≪乱歩とまるで関係のないおまけコーナー:白本彩奈さんのドラマ出演作観察日記・秋の陣≫
〇TVドラマ『GO HOME 警視庁身元不明人相談室』第6話『トー横キッズに挑む地雷系バディ!』(2024年8月24日放送 日本テレビ 脚本・八津弘幸&佐藤友治、演出・本多繁勝&山田信義)自殺したトー横キッズ・キイちゃん(奈良岡紗季)役
白本さんが目当てで観たのですが、ドラマのコンセプトとしてまず白本さん演じるキイちゃんが死んでから話が始まるので、白本さん自身はほとんど登場しませんでした……エピソードとしては、主演の小芝風花さんとゲストの莉子さんがメインで活躍する物語でしたね。
45分間の中に、かなりたくさんの要素をオーバーフロー気味に詰め込んだ意欲作だと感じたのですが、やはり「親友の自殺」という、かなり重い問題をテーマとしていたために、逆に触れ方がナーバスになって白本さん演じるキイちゃんの明るいふるまいのみが語られる印象になっていましたね。そりゃまぁ、それを語る莉子さん演じるはるぴちゃんがそこのみを選んで回想していたから仕方ないのですが。でも、いちおう前向きエンドなしめ方にするためには、キイちゃんの継父(演・和田聰宏)の DVを詳細に掘り返すわけにはいかなかったのでしょう。実態を観たわけではないので私もはっきりとは言えないのですが、トー横キッズやネカフェ難民の描写も、お茶の間の視聴者層を意識してかなりマイルドになっていたかと思います。
はるぴちゃんとキイちゃん、どっちもそうなんですが、なんかこう生活臭がしないというか、ジャンクな食べ物で飢えをしのいで、変な場所で寝てるから姿勢が悪くて、髪の毛を洗ってなくて服もあんまり洗濯してないかもみたいな雰囲気が無いような気がするんです。ふつうにきれいな衣装を着てヘアスタイルもいつも整ってるので、金銭的に困っていない女優さんが多少奇抜なメイクとファッションをしているようにしか見えないんだよなぁ。それで「今話題のトー横キッズです」と言われましても……当然、性的な暗部もきれいに取り除かれてたし。
そもそも、白本さんはああいったお顔立ちの方なので、すっぴんと地雷メイク後のお顔とでほぼ違いがないから、別々の似顔絵を用意して聞き込みに手間がかかるみたいな過程が「そんなに苦労する?」という気がして、この点、白本さんをこの役に当てはめるのはやや難があるような気もしました。もっと、メイクしたらほぼ別人のようなうす~いお顔の女優さんの方がよろしかったかと……いや白本さんでいいです!
短い出演時間ではありましたが、ゴスロリ系の衣装を着たりスマホの写真で変顔を見せたり、「にゃーにゃーにゃー♪」と唄ったりする白本さんが拝見できたのは僥倖でした。ほんとにちょっとだけでしたが。
余談ですが、作中で私がいちばん気にかかったのは、地元の静岡県御殿場市で女子高生時代のキイちゃんを通学バスでよく見ていたという証言をしていた酒井という青年(演・ダウ90000上原佑太)でした。あの、刑事(小芝さん)に全く視線を合わせずにおずおずと語るしぐさ……絶対に当時、キイちゃんに対してはかなき好意を抱いていたな!? わかるぞ! でも、4、5年ぶりに似顔絵でその顔を見せられたかと思ったら、キイちゃんはすでにこの世にいないという衝撃の事実……泣ける! そこだけで2時間ドラマにできるわ!!
〇TVドラマ『ザ・トラベルナース』第2シーズン第4話『仕組まれた医療ミス!VS モンスター患者』(2024年11月7日放送 テレビ朝日 脚本・香坂隆史、演出・片山修)潰瘍性大腸炎の患者・四宮咲良役
『GO HOME 』もそうだったのですが、このエピソードも病院という空間で発生するモンペ(モンスターペイシェント)問題にアレルギー対応食の誤配事故、そして医療者側からの「がんばりましょう」発言が受けた患者によっては重い負担となるのではないかという大問題と、たった45分の中に様々なテーマをモリモリに盛り込んだ充実の内容でした。ただ、こちらの方は全ての問題が一人の患者の過去に集束していくというきれいな作りの構成になっていたので消化不良感はなく、よくできたお話だなぁと感じ入りました。脚本がうまいな!
ただ、その……肝心カナメの我らが白本さんの役割がせっかくのゲストなのに小さめというか、膵臓がんステージ3の入院患者の斉藤四織(演・仙道敦子)とモンスターペイシェントの四谷純子(演・西尾まり)の2人が本エピソードのメインゲストといった感じなので、役割としてはかなり軽く。白本さんの演じていた患者は、こう言っては実もフタもないのですが本エピソード内での犯人候補のひとりとしてと、重めなお話を明るくするご陽気キャラとしての隠し味的配置でしたので、キャスティングとしてはかなり贅沢な采配だと感じました。正直、能天気な韓流アイドルファンの女の子という役柄なので、白本さんでなくともそこらへんのグループアイドルの女の子にやらせてもいいようなポジションで、私としては、何といっても白本さんとかなり縁のある中井貴一さんとの久々の共演なのでもっと大きな立ち位置なのかなと思っていたのですが、そんなことなかったですね。白本さんのいる病室に中井さんが来ても、セリフのやり取りも全然なかったし。
でもなんか、死の運命とかサスペンスの被害者とかいう重苦しい展開とはまるで無縁で、とにかく陽気に笑う白本さんを観るのもかなり珍しく、ヘアスタイルもベリーショートだし、いろいろレアな白本さんが観られるので、出演時間が短いわりに非常にお得なエピソードかと感じました。第一、お話が面白いのでいいですよ! 出演陣がみんな達者ですよね。野呂佳代さんのナースチュニックのぱっつぱつ感、リアル~!!
ほんと、患者役の白本さんがベリーショートって写真をまず観たので、こりゃ九分九厘、不治の病のやつだなと思って身構えてたんですが、そんなこと全然なくてホッとしたというか肩透かしというか……むしろ、天野はなさんが演じてた役の方が白本さんらしかったのですが、そんなんばっかやってても楽しくないでしょうしね~。口を思いきりバカっと開けて笑う白本さんも、やっぱり最高だ!! これからも、とこしえに応援し続けま~っす♡
私、けっこう楽しめました! 実は、視聴するまでは個人的に不安要素が多いなと感じていて、かなり懐疑的なまなざしで画面とにらめっこしていたのですが、だんだんとこの作品の「方向性」みたいなものがわかってくると、あぁそういう楽しみ方をすればいいのねといった感じに肩の力がぬけて、どんどん面白くなってきたんですよね。正直、最初の心の中でのハードルがかなり低かったから後は上がるだけという好条件もあったのでしょうが、観終わった後は「船越小五郎の第2作があってもいいじゃないか!」という気分にまで上昇していたのです。ほんと、この明智探偵事務所チームが1作だけで解散しちゃうのは実にもったいない!
まず、2024エディションに入る前に前提としておさえておきたいのですが、今回の船越小五郎 VS 黒木蜥蜴のバージョンをもってなんと11度目の映像化になるという、江戸川乱歩作品の中でも随一の映像化頻度の高さを誇る『黒蜥蜴』において、言うまでもなくその現時点での最新バージョンがこの2024エディションであることはもちろんなのですが、これが「令和最初の『黒蜥蜴』」ではぜっっっったいにないことは!ここでしっかりと断言させていただきたいと思います。なんか、一部媒体でそんな妄言をぬかしてる文章なんか、ありませんこと!? なんと無礼な!!
令和最初の『黒蜥蜴』は、この1コ前の『黒蜥蜴 BLACK LIZARD』(2019年12月放送 監督・林海象 NHK BSプレミアム)ですから!!
いくら、明智小五郎役の俳優さんの不祥事で再放送やソフト化に暗雲が立ち込めているとはいえ、この作品を無視するなんて許しませんぞ! 歴代、いくたの美人女優さんがたが演じてきた(丸山さんも女優だ!!)女賊・黒蜥蜴の中でも、「爬虫類っぽさ」部門と「アクション」部門でぶっちぎりの一位を獲得している、りょうさんによる黒蜥蜴……ほんとに最高でしたよね。あとは、岩瀬庄兵衛役の中村梅雀さんの、岩瀬早苗を押しのけるプリティさが際立った異色の逸品でした。ほんと、クライマックスで黒い特高警察みたいな悪ぶった衣装に身を固めてた姿が最高に似合ってなくてかわいい♡
ともかく、そっちの2019エディションの感想は過去記事にあるので深くは立ち入らないのですが、そちらは何といっても黒蜥蜴役のりょうさんの超人的なビジュアルが世界観全体を併呑したかのように、時代設定を思いッきり SFな「架空の近未来」にして、もはや江戸川乱歩作品なんだか手塚治虫作品なんだか『攻殻機動隊』(アニメ版のほう)なんだかよくわかんない作品に仕上がっていたので、りょうさんが大好きな私としては異存なぞあろうはずもないのですが、『黒蜥蜴』の映像化作品としては、いささか冒険が過ぎるような異端の一作となっておりました。ほんと、再放送の機会が絶望的なのがまことにもったいない!!
そんな2019エディションのわずか5年後に、今度は BS-TBSに場を移して映像化されることとなった今回の2024エディションなのですが、まず放送前に発表されたアナウンスをチェックしたとき、私は正直言いまして「ふ~ん、がんばってね。」的な、何とも言いようのないテンションの低下をもよおさずにはいられなかったのでありました。
いわく、「サスペンスドラマの帝王」こと船越英一郎の明智小五郎、いわく、もはや大御所女優となった黒木瞳ふんする黒蜥蜴、いわく、作品の時代設定は「昭和四十年頃の雰囲気と現代を織り交ぜた架空の時代」……
私の主観的な印象ではあるのですが、どうもこの2024エディションは新味に欠けると言いますか、TV的なアイコンにまみれている感じで、少なくとも原作小説の『黒蜥蜴』の味わいをどうこうしようとかいう意思は薄いような気がしたのです。
だって、「昭和四十年頃」って1965年ってことでしょ? 原作の『黒蜥蜴』の時代設定はその約30年も前の昭和九(1934)年の物語なんですから、なんで21世紀現代でもなく原作リスペクトでもない、そんな中途半端な時代になってるのかって話なんですよ。しかもそれを踏まえた上での「架空の時代」……?
ちなみに、おそらく映像化された『黒蜥蜴』の中で特に有名なのは1962年大映映画版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は京マチ子)と1968年松竹映画版(監督・深作欣二 黒蜥蜴は丸山明宏)、そして言わずと知れた天知小五郎シリーズの中での1979年ドラマ版(監督・井上梅次 黒蜥蜴は小川真由美)の3バージョンなのではないかとおもわれます。ヒエ~どの黒蜥蜴もクセがすごい!
こう見てみると、今回の2024エディションが標榜している「昭和四十年」というキーワードは、本来 TVドラマを主戦場としている船越英一郎さんのテイストからすれば一番意識するはずの天知小五郎シリーズからはややずれた、そこからさらにひと昔前の設定になっているという違和感が残ります。実際に見比べてみても、天知小五郎シリーズは実質的に「1980年代」の雰囲気をすでに先取りしている印象が強く、やけにとんがったデザインの最新車種を乗りこなす明智や大爆破あったり前のカーアクション、ワープロや「禁煙」といった小道具・言葉が出てくる作品の雰囲気は、明らかに先行する2バージョンの映画版とはまるで違った、いかにも TVっぽいにぎやかさに満ちたものとなっています。同じ「昭和」でも、中身は結構違うのね。
そもそも昭和四十(1965)年というのは、大乱歩の原作小説よりも、それを元にした三島由紀夫の戯曲版『黒蜥蜴』(1961年発表、62年初演)のほうがよっぽど近いわけで、2024エディションは乱歩と三島のどっちの映像化なんだというどっちつかず感が目立ってしまいます。いや、これは今回に限らず、どの映像化作品でもそうなんですけどね……全バージョン、三島戯曲が世に出て以後の作品なんだもんなぁ。
原作小説が大好きな私としては、現在の二代目とはだいぶ外観の違う初代・通天閣(高さ75m、1943年に焼亡)が登場する戦前の商都・大阪を CGかなんかで完全再現した、昭和九年の小説版のみを原作とする『黒蜥蜴 THE ORIGIN 』を死ぬまでに一度でいいから観たい気もするんですけどね~。時代設定的に原作小説に最も近い黒蜥蜴が登場するのはマンガ『二十面相の娘』(2003~07年連載)なんですけど、あれも刺青の位置が違うからなぁ。
ま、そんなこんなで乱歩的でもなく天知小五郎的でもなく現代的でもないらしいという前情報にモヤモヤした感情を抱えてしまった私は、あの白本彩奈さんが岩瀬早苗役で出るヨという朗報を得てもなお、「大丈夫かぁ!?」という疑念が晴れずにいたのでした。いいとこどりすぎて薄っぺらい TVドラマになるんじゃないかという危惧ですよね。
それでいよいよ、おっかなびっくりで録画した本編を観てみたわけなのですが、2024エディションは原作小説および戯曲版の味わいを可能な限り物語に落とし込みつつも、天知小五郎シリーズに寄せすぎず「船越さんと黒木さんなりの TVドラマっぽさ」を上品に反映させた良作になっていると感じました。おふざけがありつつも、面白いエンタメ作品になってましたよ!
TVドラマっぽい。そうなんです、この作品は、映画になるには作りが軽すぎます。前回の視聴メモでも言及しましたが、この2024エディションにおける黒木蜥蜴は、明智の捜査によって原作ではついぞ語られることの無かった「過去」を暴かれ、犯罪の道にはしる以前の少女時代のトラウマをさらけ出して一人の人間の女性に戻った上で退場するのです。そこに過去バージョンの多くで女賊・黒蜥蜴が守っていたミステリアスな雰囲気やプライドの壁は無く、そもそも黒木蜥蜴のふるまいには、明智の若干サイコな探偵論の披歴に素でひいてしまうような人間っぽさも常に漂っていたのです。直近のサイボーグみたいなりょう蜥蜴とはえらい違いでんな!
その一方で、黒木蜥蜴に対抗する船越小五郎はどうかと言いますと、こんなこと言ったってどうしようもないのですが、外見がどこからどう見ても「船越英一郎」なんですよね、どうしようもなく……ンやわたっっ!!
これ、冗談で言ってるんじゃなくて、本当に船越さんくらいにサブリミナルレベルで TVに露出している俳優さんだからこその業病と言いますか、「何をやってもぜんぜん明智小五郎に見えない」という足かせがかなり強く働いているんですよね。これが実にしつこく、作品全体の重力が、その主人公を務めている船越さんのまとう、「そんなカッコつけても船越英一郎さんなんでしょ」という視聴者側のぬぐいきれないメタ視点によって軽くなってしまうのです。
その上さらに、BS-TBS での本放送では、CM にその船越さんと黒木さんがまんま刑事と犯人役で登場するにしたんクリニックのサスペンスドラマ風コマーシャルが流れちゃうもんなのですから、もはや狙ってやってるというか、「おれ達も今さら THE MOVIE 気取りでしゃっちょこばってやるつもりなんてさらさらねぇゼ!」みたいな覚悟を見せつけられてしまうのでした。腹くくってんなぁ!
ただ、ここまでくると「そんなに TVっぽいなら見たくないな」と思われる向きもあるかも知れないのですが、本バージョンのいちばん目覚ましいポイントは、主演の船越さんがそうとうな力の入れようで明智小五郎という人物の造形にこだわっているところなのです。この一点! この一点のみがブラックホールのように深く暗い「おもし」となっているので、ともすれば軽すぎてひらひら~っと飛んで行ってしまいそうな作品の存在感をかろうじてつなぎとめるアクセントになっているのです。主人公に特異な色味があるのは大事ですね~、ほんと!
これはつまり、船越さんが俳優としての自分自身の「主戦場(TVドラマ)」と「弱点(軽さ)」を充分に自覚分析したうえで明智小五郎となる仕事を引き受けたという事実の証左なのです。相手を知り、己を知れば百戦危うからず……遅ればせながら、私は船越さんが素晴らしい名優であることを本作で確信いたしました。まさに帝王!
そして、ここで船越さんが範としたであろう「陽キャヒーローなばかりでもない明智小五郎」の原形が、まさしく江戸川乱歩が初期の小説世界で描いていた大正時代の書生ふうの青年明智、すなはち「犯罪者すれすれのダークな異常才能者」としての明智小五郎だったことは疑いようがなく、こういう明智が映像作品の中で描かれるのはけっこう久しぶりなことなのではなかろうかと私は感服してしまったのでした。これは偉業だ!
「大正時代のヤング明智」の映像作品における活躍といえば、何はなくとも NHK BS プレミアムで放送されていた『シリーズ・江戸川乱歩短編集』(2016~21年放送)が挙げられるわけですが、あそこでは明智小五郎を女優の満島ひかりさんが演じるということで、明智のヤバい部分、異端性がポップになるという効果がありました。ですので今回の「ほんとはこわい」船越小五郎に、過去に明智を演じた綺羅星の如き俳優さんがたの中で誰がいちばん近いのかと考えてみますと、それはやはり、あの実相寺昭雄監督の映画2作(映画『屋根裏の散歩者』と『 D坂の殺人事件』 真田広之~!!)で明智を演じた嶋田久作さんなのではないでしょうか。すごいとこと繋がったな~!
船越小五郎、いいですよ~。その発言については前回の視聴メモでふれているので繰り返しませんが、1作のみで終わらせるには惜しすぎる暗黒面を抱えたキャラクターになっています。船越小五郎と吉岡秀隆の金田一耕助によるダースベイダー卿 VS 銀河皇帝パルパティーンみたいな暗黒面対決、観てみたい~!!
ま、外見はどうしても陽気な船越さんなんですけどね……でも、あの天知茂さんだって、美女シリーズが始まった当初は「どこからどう見ても天知茂じゃないか」と揶揄されていたのではないでしょうか。顔の知れた大スターはつらいものですよ。船越さんも、どんどん作品を重ねて明智小五郎の新しい顔になって欲しいと切に願います。
「1回こっきりにしておくのは惜しい」と言うのならば、やはり本作の明智探偵事務所、特に船越小五郎と樋口小林青年との「長いつきあい」についても、ちょっと触れるだけで終わってしまったので、次回作にて是非とも具体的に明らかにして欲しいところであります。本作だけを観ると、もっぱら手柄があったのはアクション担当の文代さんだけで、小林青年はせいぜい陽動作戦でおとりになってくれた程度といった感じで、文代さんよりも助手歴が長い理由がはっきりしないコメディリリーフ要員でしかなかったですよね。そこらへんを、もっと詳しく教えて! 「ボクは頭脳専門でね……」と豪語していた小林青年の本領発揮を、次の事件簿で見せてくれ~。
そして、あの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022~23年放送)で一年間堂々と赤センターのドンモモタロウを務めあげた樋口さんなのですから、単に助手と言うだけでなく「明智の後継者」という将来も視野に入れた人選となっているのではないかと、私は睨んでおります。そうなると即座に脳裏にひらめくのは、あの佐藤嗣麻子監督によって映画化もされた、劇作家・北村想の小説『怪人二十面相・伝』二部作(1988~91年)における明智と小林に関する実に興味深い新解釈であります。1925~62年という長期にわたって、明智小五郎はどうしてずっと「若き天才探偵」のスタイルを変えずにいられたのか……主人公を十二分に演じられるポテンシャルを持っている樋口さんだからこそ、船越小五郎との力関係に非常にふくみがあるようで、興味は尽きませんね~!!
さて、主人公サイドの船越小五郎チームに続いて振り返ってみたいのは、本作の影の主役となる「黒蜥蜴一味」なのですが、今回はとにもかくにも、「やけに人間くささと弱さを持った黒蜥蜴」が目立ったキャラ造形だったなと感じました。確かに、直近のりょう蜥蜴がダイヤモンド並みの硬度を持った造形だったので、その逆をゆくという判断は非常に的確だったと膝を打ちました。そうきたか~!
この、思い切って黒蜥蜴をデバフさせるという奇手は、対する明智がまさに演じる船越さんのサスペンスドラマにおける「捜査法」を踏襲するかのように、「黒蜥蜴の前半生を掘り起こして人間としての彼女の犯行動機をさぐる」戦法を採っていたがために、重いトラウマを抱えた少女の記憶を取り戻し悔恨するひとりの女性を演じるためにも、黒木さんにとって最適の選択だったのではないでしょうか。
そうなのです、本作の明智と黒蜥蜴は、そのキャラクターこそ乱歩ワールドの住人であっても、物語の進み方は限りなく往年の旅情サスペンスドラマの骨格を継承しているのです。ま、「旅情」というほど明智が旅をしていたわけでもないのですが、黒蜥蜴=緑川夫人が着ていた和服の帯から群馬県桐生市に飛ぶという、原作小説のどこを見ても明智がやったことのないアプローチをたどった船越さんの捜査は、ベッタベタなのに絶対に船越さんでしか実行しえない、乱歩ワールドの中ではきわめて新鮮な展開だったのではないでしょうか。その手法を受け入れるためにも、今作の黒木蜥蜴は「人間的で弱く」ならなければならなかったのです。
……とは言いましても、黒木さんは本作の出演者陣の中では比較的小柄だし、おまけにホテルニューアカオから逃走する時に変装した老紳士の姿を見てもわかる通りに枝みたいにスリムすぎる体型なので、内面だけでなく外見も、世界の大富豪たちをおびやかす強盗グループの首領としてはだいぶ心もとない印象になってしまいましたね。ほんと、さらわれて緊縛されてる白本さんの方がどう見ても強そうなんだもんなぁ。まぁ、それは黒木蜥蜴ご本人も先刻承知のようで、峰不二子よろしくふとももにデリンジャーを隠し持っていたわけですが。
あと、これだけは必ず触れなければならないのですが、本作の隠れた MVPは、やはり黒蜥蜴の過去を知る唯一の側近・松吉を演じた諏訪太朗さんと言うしかないのではないでしょうか。顔半分のやけど跡に眼帯、回想シーンではヅラ! もうフルスロットルの大活躍でしたね。演出の本田隆一監督は、わかってらっしゃる!!
本編を観ても分かる通り、映像化された『黒蜥蜴』において松吉(松公)を演じる俳優さんは後半に大事な役目があるので、それをちゃんとやり切ることのできる実力のある方でなければなりません。
ですので、2024エディションでは諏訪太朗さん、そして2019エディションではなんとあの堀内正美さんが演じていたということで、『黒蜥蜴』を楽しむ上での隠れたお楽しみトピックとなっています。
うをを、諏訪太朗 VS 堀内正美!! この、実相寺昭雄監督ファンならば血圧が200あたりを超えること必至な名バイプレイヤー対決は、この『黒蜥蜴』でも繰り広げられていたというわけなのですか。りょう蜥蜴に寡黙につき従う堀内さんと黒木蜥蜴に親のように寄り添う諏訪さん、あなたはどっちがお好き!?
乱歩ワールドにおけるこのお2方の対決といえば、どうしてもあのテレ東「ガールズ×戦士」シリーズにおける『ひみつ×戦士ファントミラージュ!』第15話(2019年7月放送)での、堀内さん演じる名探偵「明土(あけっち)小五郎」と諏訪さん演じる「怪盗二十面相」との宿命の対決構造を思い出さずにはいられません。たまんねぇキャスティングだ~!! このエピソードについては、我が『長岡京エイリアン』でもかなり前に記事にしたのですが、まだ本文完成してないのよね……この不調法者が!! ヒエ~変態けろっぴおやじ神さま、おゆるしを。
あと、黒木蜥蜴一味といえば、やはり今回でも明智と黒蜥蜴の愛憎関係にだいぶ時間を割いてしまったために、黒蜥蜴にゆがんだ恋慕の情を寄せる雨宮のポジションが小さくなってしまったのは残念でしたね。いや、これは意図的に明智の存在を薄くしないと前に出てくる余地が作られない立場なので仕方ないのですが、本作でも雨宮なりの物語のしめ方が語られなかったのはもったいなかったなぁ。文代さんにコテンパンにのされるだけでしたからね。
最後に、本作の「にぎやかで軽い TVドラマのノリ」を体現するかのように、オーバーすぎるほどに肩をビクッと震わせて目を見開くリアクションを見せてくれた早苗役の白本さんもすばらしかったと触れずにはいられません。あんな顔、驚かす側のほうがびっくりするわ!
いや~、白本さんは今回もよかったなぁ。作品ごとでの自分の役割をわかってらっしゃるクレバーな女優さんですよ。金持ちのお嬢様らしく甘ったれた話でもあるのですが、父の愛情に飢える令嬢の苦悩をセリフでなく、その特徴的な「ハ」の字まゆで見事に表しきっていた演技力は見事でした。ほんと、こうなるとごくごくフツーの役を演じる白本さんの引き出しも他の色々な作品で観てみたいですね。ここ最近の他のドラマ作品での白本さんの仕事に関しましては、本記事最後のおまけコーナーにて!
でも、明らかに黒蜥蜴よりもガタイの良い早苗という絵面はかなり新鮮で、そういえば黒蜥蜴が先に作った「をとこの剥製」もけっこうマッチョな感じだったので、本作の黒蜥蜴は男女に関わらず、自分に無いマッシブな肉体に渇望していたのかも知れませんね。だとしたら黒蜥蜴は、あの『盲獣』のようなむちむちぶりんぶりんの曲線に包み込まれるエル・ドラドオを脳裏の地平線に追い求める想いがあったのかも知れず……彼女の心の闇は、深い!!
こんなわけでありまして、『黒蜥蜴』2024エディションは、自分たちの身の丈に合ったサイズを熟知した上で、いちばん得意とする主戦場「サスペンスドラマ的文法ゾ~ン」に、畏れ多くも乱歩ワールドを無理くり引き込むという奇策に出た、非常に野心的な作品であると感じました。江戸川乱歩の世界に忠実かというとそうでもないのですが、とにかく俺たち、私たちでしかできないエンタメを作ってやろうぜというプロ意識はひしひしと感じられる良作だったと思います。2019エディションのようなひたすら世界観の硬度にこだわる作り方もあるわけなのですが、今回の2024エディションは「お茶の間の人気者」としてのコンプライアンスを順守した上で、令和の御世にどこまで王道な娯楽作を作り上げることができるのかという課題に、船越英一郎と黒木瞳という W座長公演のスタイルで挑んだわけなのです。ナンパでほんわかした勧善懲悪の世界を、真剣勝負で作る! TVドラマの本気を観た思いでしたね。
ただし、ここで注意しておかなければならないのは、今回再現された TVドラマの世界は、あくまで平成と令和の時代を生き抜いた船越さんと黒木さんの経験則に基づくものなのであって、もっと乱雑で刺激的だった「天知小五郎シリーズ」もいた昭和の世界とは全く別物だということです。つまり、今作の世界はやっぱりどこまでも「架空の時代」のお話なのであり、天知小五郎の世界の復活を期待するのは筋違いなんですね。実際、車の一台も爆破炎上しないし、21:55~22:05くらいのきわどい時間帯に被害者となる女性のおっぱいだってまろび出ない今作の世界は、ある意味でヌルいことこの上ない、上っ面だけを天知小五郎シリーズから拝借した「カレーの王子さま」にしか見えないという方もおられるかも知れません。
ただ、作品が万人ウケする視聴率重視のドラマ作品であるという宿命から、「全く動機不明だが美にこだわりまくる狂人」だの、「無差別殺人にしか快楽を見いださないサイコ連続殺人鬼」だのがポンポン出てくる江戸川乱歩の世界を TVという媒体で忠実に映像化することができないのは、今回の2024エディションもかつての天知小五郎シリーズも同じことで、今作での黒木蜥蜴が地に足の着いた人間になったように、例えばあの超絶サイコな虐殺グランギニョル作『蜘蛛男』(1929~30年連載)を原作とする天知小五郎の『化粧台の美女』(1982年)もまた、「犯人にはそれなりの哀しい事情がある。」というきわめて俗っぽいお涙ちょうだいな言い訳を加えていたのです。ただ盗みたいから盗む、殺したいから殺すというカオスなキャラが出てきたって、視聴者は納得しないだろうと見ているわけですね。
そういう意味では、日本の TVドラマは、まだまだ約100年近く前の江戸川乱歩の世界に追いついていないということになるのでしょうか。海外の映画界に目を向ければ、『羊たちの沈黙』(1991年)とか『ノーカントリー』(2007年)とか『ダークナイト』(2008年)とか、もはや自然災害かなんかとしか言いようのない説明不能の異常犯罪者は枚挙にいとまがない程いるのですが、乱歩の明智もの長編に出てくる犯罪者なんて、だいたいこっちの世界の奴ばっかですからね! 魔術師とか蜘蛛男とか、黒蜥蜴とか吸血鬼とか……もう、ゴッサムシティで大笑いしながらサブマシンガンをぶっぱなしてても違和感ないキャラばっか!
いろいろ申しましたが、今回の船越小五郎のチャレンジは、船越さんらしさの総決算的作品ではあるものの、まだまだ過去作品に伍して闘うことのできる、この作品だけのオリジナリティというものが出ているとは言い難い中途半端さがあります。CG で明智と黒蜥蜴の双方の変装術を表現するというのも、天知小五郎シリーズのブラッシュアップの範疇ですからね……
だからこそ! 船越小五郎シリーズは必ず、後続する第2弾を作って、ほんとうの独自性を創出していかねばならない義務があると思うのですよ。
船越小五郎と樋口小林くん、ほんとに頑張れ! 再び立ち上がれ!! 私は待ちますよ、いつまでも。
諏訪太朗さん、またなんか別の役で出てくんないかな。荒唐無稽な乱歩ワールドへと続く扉の鍵を握るのは、やっぱり諏訪さんと、諏訪さんのヅラだ!! いつまでも、元気でいてくださいね♡
≪乱歩とまるで関係のないおまけコーナー:白本彩奈さんのドラマ出演作観察日記・秋の陣≫
〇TVドラマ『GO HOME 警視庁身元不明人相談室』第6話『トー横キッズに挑む地雷系バディ!』(2024年8月24日放送 日本テレビ 脚本・八津弘幸&佐藤友治、演出・本多繁勝&山田信義)自殺したトー横キッズ・キイちゃん(奈良岡紗季)役
白本さんが目当てで観たのですが、ドラマのコンセプトとしてまず白本さん演じるキイちゃんが死んでから話が始まるので、白本さん自身はほとんど登場しませんでした……エピソードとしては、主演の小芝風花さんとゲストの莉子さんがメインで活躍する物語でしたね。
45分間の中に、かなりたくさんの要素をオーバーフロー気味に詰め込んだ意欲作だと感じたのですが、やはり「親友の自殺」という、かなり重い問題をテーマとしていたために、逆に触れ方がナーバスになって白本さん演じるキイちゃんの明るいふるまいのみが語られる印象になっていましたね。そりゃまぁ、それを語る莉子さん演じるはるぴちゃんがそこのみを選んで回想していたから仕方ないのですが。でも、いちおう前向きエンドなしめ方にするためには、キイちゃんの継父(演・和田聰宏)の DVを詳細に掘り返すわけにはいかなかったのでしょう。実態を観たわけではないので私もはっきりとは言えないのですが、トー横キッズやネカフェ難民の描写も、お茶の間の視聴者層を意識してかなりマイルドになっていたかと思います。
はるぴちゃんとキイちゃん、どっちもそうなんですが、なんかこう生活臭がしないというか、ジャンクな食べ物で飢えをしのいで、変な場所で寝てるから姿勢が悪くて、髪の毛を洗ってなくて服もあんまり洗濯してないかもみたいな雰囲気が無いような気がするんです。ふつうにきれいな衣装を着てヘアスタイルもいつも整ってるので、金銭的に困っていない女優さんが多少奇抜なメイクとファッションをしているようにしか見えないんだよなぁ。それで「今話題のトー横キッズです」と言われましても……当然、性的な暗部もきれいに取り除かれてたし。
そもそも、白本さんはああいったお顔立ちの方なので、すっぴんと地雷メイク後のお顔とでほぼ違いがないから、別々の似顔絵を用意して聞き込みに手間がかかるみたいな過程が「そんなに苦労する?」という気がして、この点、白本さんをこの役に当てはめるのはやや難があるような気もしました。もっと、メイクしたらほぼ別人のようなうす~いお顔の女優さんの方がよろしかったかと……いや白本さんでいいです!
短い出演時間ではありましたが、ゴスロリ系の衣装を着たりスマホの写真で変顔を見せたり、「にゃーにゃーにゃー♪」と唄ったりする白本さんが拝見できたのは僥倖でした。ほんとにちょっとだけでしたが。
余談ですが、作中で私がいちばん気にかかったのは、地元の静岡県御殿場市で女子高生時代のキイちゃんを通学バスでよく見ていたという証言をしていた酒井という青年(演・ダウ90000上原佑太)でした。あの、刑事(小芝さん)に全く視線を合わせずにおずおずと語るしぐさ……絶対に当時、キイちゃんに対してはかなき好意を抱いていたな!? わかるぞ! でも、4、5年ぶりに似顔絵でその顔を見せられたかと思ったら、キイちゃんはすでにこの世にいないという衝撃の事実……泣ける! そこだけで2時間ドラマにできるわ!!
〇TVドラマ『ザ・トラベルナース』第2シーズン第4話『仕組まれた医療ミス!VS モンスター患者』(2024年11月7日放送 テレビ朝日 脚本・香坂隆史、演出・片山修)潰瘍性大腸炎の患者・四宮咲良役
『GO HOME 』もそうだったのですが、このエピソードも病院という空間で発生するモンペ(モンスターペイシェント)問題にアレルギー対応食の誤配事故、そして医療者側からの「がんばりましょう」発言が受けた患者によっては重い負担となるのではないかという大問題と、たった45分の中に様々なテーマをモリモリに盛り込んだ充実の内容でした。ただ、こちらの方は全ての問題が一人の患者の過去に集束していくというきれいな作りの構成になっていたので消化不良感はなく、よくできたお話だなぁと感じ入りました。脚本がうまいな!
ただ、その……肝心カナメの我らが白本さんの役割がせっかくのゲストなのに小さめというか、膵臓がんステージ3の入院患者の斉藤四織(演・仙道敦子)とモンスターペイシェントの四谷純子(演・西尾まり)の2人が本エピソードのメインゲストといった感じなので、役割としてはかなり軽く。白本さんの演じていた患者は、こう言っては実もフタもないのですが本エピソード内での犯人候補のひとりとしてと、重めなお話を明るくするご陽気キャラとしての隠し味的配置でしたので、キャスティングとしてはかなり贅沢な采配だと感じました。正直、能天気な韓流アイドルファンの女の子という役柄なので、白本さんでなくともそこらへんのグループアイドルの女の子にやらせてもいいようなポジションで、私としては、何といっても白本さんとかなり縁のある中井貴一さんとの久々の共演なのでもっと大きな立ち位置なのかなと思っていたのですが、そんなことなかったですね。白本さんのいる病室に中井さんが来ても、セリフのやり取りも全然なかったし。
でもなんか、死の運命とかサスペンスの被害者とかいう重苦しい展開とはまるで無縁で、とにかく陽気に笑う白本さんを観るのもかなり珍しく、ヘアスタイルもベリーショートだし、いろいろレアな白本さんが観られるので、出演時間が短いわりに非常にお得なエピソードかと感じました。第一、お話が面白いのでいいですよ! 出演陣がみんな達者ですよね。野呂佳代さんのナースチュニックのぱっつぱつ感、リアル~!!
ほんと、患者役の白本さんがベリーショートって写真をまず観たので、こりゃ九分九厘、不治の病のやつだなと思って身構えてたんですが、そんなこと全然なくてホッとしたというか肩透かしというか……むしろ、天野はなさんが演じてた役の方が白本さんらしかったのですが、そんなんばっかやってても楽しくないでしょうしね~。口を思いきりバカっと開けて笑う白本さんも、やっぱり最高だ!! これからも、とこしえに応援し続けま~っす♡
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