政府が総額約二兆二千億円の追加物価対策を決定した。対策の財源には予備費を充てるという。国会審議を経ないまま支出できる予備費の乱用は、財政民主主義を無視する行為ではないのか。
対策は住民税非課税世帯への三万円と、低所得世帯の子ども一人当たり五万円の給付が軸である。これに電気の消費量が多い中小企業や、LPガスの利用世帯への支援策などが加わる。財源となる予備費の支出は二十八日の閣議で決定する。
食品を中心に生活必需品の値上げの勢いは衰えず、新たな物価対策の実施はやむを得ない。ただ予備費からの支出と対策の内容については強い疑問がある。
財政法は自然災害など不測の事態に対処するため各年度の予算編成で予備費の計上を認めている。素早い対応が必要とされるため国会に諮ることなく閣議決定のみで支出できる。
だが物価高騰は昨年から続いており不測の事態とは言い難い。新年度予算案に繰り入れて国会の場で徹底的に議論を行えば、対策の中身はより充実したはずだ。
予備費は昨年春の物価対応のための「総合緊急対策」や、安倍晋三元首相の国葬でも使われた。
憲法は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」としており、この規定が財政民主主義の根拠となっている。
予備費を常態的に使う政府の姿勢は財政民主主義の否定であり到底許されない。安易な予備費活用に歯止めをかけるよう求める。
対策の軸となる給付も納得できない。物価高騰の打撃は富裕層を除く大半の世帯に及んでいる。低所得者や一部の子育て世帯に絞った給付はその場しのぎにすぎず、対象外の世帯には不公平な対策に映る。資源高を引き起こしているロシアのウクライナ侵攻は終わる気配がなく、物価上昇は長期化する恐れもある。春闘では大企業を中心に賃上げの流れが出始めたが、雇用者の約七割を占める中小企業に波及するか予断を許さない。
暮らしを苦境から救うために必要なのは効果が幅広く行き渡る対策だ。政府は給付を軸とした対策を見直し、経済対策の常道ともいえる減税の実施を真剣に検討すべきである。
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