日米両政府は、米国が核兵器を含む戦力で日本の防衛に寄与する「拡大抑止」に関する初めての閣僚会合を東京都内で開いた。米国の「核の傘」を誇示し、日本周辺の核の脅威に対抗する狙いだ。ただ、日本政府が唯一の戦争被爆国として核兵器の廃絶を掲げながら、核抑止力への依存を強めることは矛盾ではないのか。地域の緊張を高め、核軍拡競争をあおるのではないかと憂慮する。
閣僚会合は28日、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の直後に開いた。日米の閣僚が拡大抑止を協議する形にしたのは核戦力を増強する中国、北朝鮮、ロシアをけん制するためにほかならない。
拡大抑止を巡る協議は2010年、当時のオバマ米大統領が「核なき世界」を掲げたことを受け、米国の核抑止力の低下を危惧した日本側が持ちかけ、実務者間で始まった。近年は首脳会談でも、米側が核戦力を含む拡大抑止に言及するようになった。
しかし、中朝ロに核戦力強化を思いとどまらせるどころか、増強を招いているのが実態だ。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計では今年1月時点で中国が保有する核弾頭は500発、北朝鮮は50発に増えた。ウクライナに侵攻しているロシアは5千発以上を有し、核使用の脅しを繰り返す。
核兵器の脅威を減らすには、核保有国同士はもちろん、保有国と非保有国が協議して核の削減や廃絶に向けた機運を高めるしかないが、米中、米朝、米ロの協議は中断したままだ。
核軍縮を主導すべき日本政府は核拡散防止条約(NPT)再検討会議で成果を出せず、核兵器禁止条約にも背を向ける。今回の閣僚会合で、日本の核抑止力頼みが鮮明になったことで、中朝ロもさらに核戦力を強化する「安全保障のジレンマ」に陥り、地域情勢はさらに不安定化しかねない。
広島・長崎への原爆投下から79年。米国の核抑止力に依存する日本の安全保障は、唯一の戦争被爆国としての道を外れていないか。厳しく問われなければならない。
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