8日、首都圏での無観客開催が決定した東京五輪だが、それでも、国民の批判は一向に収まる気配はない。むしろ、同日、菅首相が五輪強行のために緊急事態宣言発出を発表したことで、庶民には我慢をしいてなぜ五輪をやるのか? という怒りの声が大きくなっている。
もちろん、抗議の声は、芸能人やアーティスト、作家からもあがっている。しかも、今回は、ふだん政権に対して批判的な発言をしない人も開催に疑義を呈したり、本質的な五輪批判に踏み込んでいるケースが少なくない。
たとえば、8日には、きゃりーぱみゅぱみゅが〈緊急事態宣言中のオリンピック とは〉と、開催に疑問を投げかけるツイートをした。きゃりーは、昨年アメリカ最大級の野外フェス「コーチュラ」に出演が決定していたが、2年連続でコーチュラは中止に。しかも、前日には、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021」中止の報を受け、泣き顔の絵文字とともに〈ロッキン〉と投稿したばかり。なぜ、音楽フェスが中止になっているのに、五輪は強行するのかと訴えたかったのだろう。
いつもは“どっちもどっち”的な姿勢を取ることが多いロンブー田村淳も7月11日、マスコミが無観客を煽ったというリプに応じるかたちで、こんな本質を突く投稿をしていた。
〈無観客になった件について、メディアが扇動したと責任を押し付けるのはどうかと思いますね…そして僕はずっと延期派です。ずっと主張は変わってないですよ…最低でも2年延期にしていたらその間のコストはかかるかも知れないが、今みたいな状況は避けられたかと…当時安倍さんが1年延期を決めたのでは?〉
淳は安倍前首相が「反日的な人たちが五輪開催に反対している」と発言した直後の7月3日に、〈反日だから五輪開催に反対とな?…自分の意見と合わない人を反日だからと簡単に片付けてしまうのって悲しすぎる…開催への情報が少なくて日本を憂いて反対の声を上げている人もいる…こうやって分断煽る手法の政治家はいらないと思う…山口4区の皆さんしっかりと考えて投票へ…明日都民の方は都議選へ〉と安倍前首相の名前をあげずに批判していたが、今回は、混乱を引き起こした責任者として、安倍前首相をはっきりと名指ししたのだ。
淳は安倍前首相の地元・山口県出身で安倍昭恵氏と交流があるためか、安倍前首相に対しては及び腰が目立っていたが、この間の五輪をめぐる無責任な姿勢を目のあたりにして、ようやく目が覚めたということだろうか。
フットボール岩尾は「五輪、スポーツの力で元気になる」の押し付けを批判
もうひとり、芸人で本質的な指摘をしていたのは、フットボールアワーの岩尾望だ。7月8日『バイキングMORE』(フジテレビ)に日本オリンピック委員会(JOC)元参事の春日良一氏が出演。「ひと言言いたいのは、五輪はやっぱり特別なものなんです。普通のイベントとは違うんです。そこは理解してもらわないと始まらない」と発言したときのこと。
この発言については、司会の坂上忍も「特別を理解しろと?」「この状況で『特別』は受け入れられるのか?」と激怒していたが、岩尾は春日氏への反論のなかで、スポーツやオリンピック絶対主義の欺瞞性にまで踏み込んだ。
「僕個人で言うと、『オリンピックのスポーツの力でみんなを元気に』とか『乗り越えよう』みたいなことを言いますけど、それもわかるんですけど、僕個人としては、こういうフェスとか音楽の力で元気になることのほうが今まで圧倒的に多かった」
「オリンピックに関わるような人間が『オリンピックは特別なんです!』って言ったときに、ライブ楽しみにしてた人やミュージシャン、文化祭中止になった人が、誰が応援すんねん」
「『見てみ、スポーツの力で元気になるから』って押し付けられても……」
「いや、オリンピックも大事だし、文化祭も大きなフェスも全部大事です。だから、本当に感染拡大したときは泣く泣く中止やけれども、みんなできる範囲で、オリンピックの犠牲として中止じゃなくて、できるときはみんなできる範囲でやりましょうってせんと。みんなオリンピック、しかめっ面で見るんじゃないかな」
芸能人だけではない。星野源と新垣結衣主演のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』などで知られる脚本家・野木亜紀子も、7月8日、こうつぶやいた。
〈オリンピックとは何であるか。今こそ『いだてん』の再放送が必要なんじゃないか。と思うけれどもオリンピックはすでに二週間後なので放送しても間に合わない。つか、マジでオリンピックやるの?その引き換えに飲食店や酒類販売業者を悪者にするの無理がない?感染の原因は本当にそこだけなの?〉
しかも、このツイートにユーザーから「新しいドラマのテーマ、決まったみたいです」というリプがくると、〈それがねえ、義がない上にクソって、薄っぺらい敵になってしまうのでドラマにならないんですよねー。困った。〉と鮮やかな返しをしていた。
奈良美智は五輪の裏にある“大きな会社や組織や権威に搾取される仕組み”に今頃気づいた、と
アーティストの奈良美智も、7月10日、オリンピックをめぐる政府の姿勢、さらにはオリンピックの本質に疑いの目を向けるツイートを連投している。
〈オリンピック!今まで世界中のほとんどの人々はテレビで観てきた。競技場の定員って決まってるし、ごく一部の幸運にもチケットを手にした人しか生で観れない。誰でもが観れるわけないのに、なぜなぜなぜ観客入れることにこだわってたのか?そういうのと無縁に暮らしてる人たちがほとんどだよ・・・〉
〈復興五輪とか言ってたのにいつの間にかコロナを克服した大会みたいなこと言い出してこれだもんな。愚痴は言いたい。空港だって(たとえば)福島空港は震災以降、国際線、税関は使われていないし、国内線も2便だけ。五輪関係者は福島空港に降りてもらうとか。混んでない地方空港いっぱい作ったでしょ。〉
〈今までオリンピックの仕組みとか全く考えたことも無かったけど、今回の騒動でそれが解ってきて、すごい虚無感に襲われている。なんか大きな会社や組織や権威に搾取される自分も含む人々と、スポーツ選手がダブって見えたりする時もある。○○界とか言われるとこはそういう仕組みなんだ(今頃気付く〉
奈良は「今頃気づいた」と言っているが、実際、今回のオリンピックを強行しようとする政府や組織委の姿勢を見て、政府が実際は国民の健康や命のことなど一つも考えていないこと、ただ、国民をお祭り騒ぎに踊らせて搾取しようとしていることに気づいた人も多かったのではないか。
一方では、「もう何を言っても五輪は開催される」というあきらめムードも漂っているが、しかし、批判の広がりによってはまだ開催中止の可能性だってゼロではないし、開催が強行されたとしても、今より少しでもきちんとした感染対策を要求することができる。そのためにも、こうした発信力のある芸能人やアーティスト、作家にはもっとももっと声をあげていってほしい。(伊勢崎馨)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます