岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が衆院で始まった。安全保障や原発を巡る政策転換に加え、物価高や賃上げ、少子高齢化など議論すべき課題は多岐にわたる。国民の苦境に寄り添い、命と暮らしを守るための建設的な論戦を望みたい。冒頭質問に立った立憲民主党の泉健太代表=写真=は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費増額を盛り込んだ国家安保戦略について、価値観の違う国とも相互理解を育む外交の姿が見えないと指摘し、修正を促した。
これに対し、首相は「現実的な外交を行う」と修正を拒否。泉氏は防衛増税を行う前に、衆院解散・総選挙で国民に信を問うことも求めたが、首相は「適切に判断する」と取り合わなかった。
敵基地攻撃は国際法違反の先制攻撃につながるとの懸念にも、首相は「国際法の順守は当然の前提だ」と述べるにとどめた。
安保を巡る昨年十二月の政策転換は、国会審議や国民の間での幅広い議論を経ず、首相の意向で短期間で決めたものだ。「聞く力」を掲げながら、野党の提案や主張を一顧だにしないとは、とても誠実な政治姿勢とは言えない。
賃上げを巡って、泉氏は中小企業の七割以上が「賃上げの予定なし」と答えた城南信用金庫(東京都品川区)と東京新聞(中日新聞東京本社)のアンケートに触れ、価格転嫁への支援強化を求めた。
しかし、首相は現在の取り組みを列挙するだけで、材料費や人件費の上昇分を価格に上乗せできない中小企業の苦境を理解しているのか疑わしい。
少子化対策も同様だった。
泉氏だけでなく、自民党の茂木敏充幹事長も児童手当の所得制限撤廃を提言したが、首相は答弁を避けた。子ども予算倍増に向けた大枠を六月までに提示する方針を繰り返すにとどめ、具体策や財源には言及しなかった。
国会論戦を経て政策を磨くのが議会制民主主義のあるべき姿だ。首相をはじめ政府側は、国民にとってより良い政策となるよう、厳しい質問や指摘、提言にも謙虚に耳を傾けるべきである。
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