トランプ米大統領が1期目に続いて2期目も、デンマークの自治領であるグリーンランドの購入に意欲を示している。北米大陸と欧州の中間に位置する戦略的要衝だとしても、経済力や軍事力で他国領土を手に入れようとすることが許されてはならない。
北極圏のグリーンランドは世界最大の島。レアアース(希土類)や石油、天然ガスなど豊富な鉱物資源が眠る。近年の温暖化で海氷が解け、新たな航路と資源の開発が加速している。
中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席は2017年、ロシアのプーチン大統領との会談で「氷上シルクロード」構想の推進で合意。昨秋には中国海警局とロシア国境警備隊の公船が合同で北太平洋を航行した後に相次いで北極海に入った。
北極海航路が利用できれば、東アジアと欧州とを結ぶ最短の海上ルートになり、南回りに比べ3割から4割の距離短縮になる。
トランプ氏が「国際的な安全保障のためにグリーンランドの所有が必要だ」と主張するのも、こうした北極圏での中ロの動きを警戒し、戦略的優位性を確保したいからだろう。
だからといって、自国の領土に編入しようとするのはあまりにも乱暴だ。そもそも米国は、同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークとは安全保障協定を結び、グリーンランドにはすでに米軍基地を置いている。
同盟国にも向けられた領土的野心が、中ロなど権威主義国と対峙(たいじ)する上で得策とは思えない。
北極圏での覇権争いの激化が、地球温暖化に拍車を掛けかねないことにも留意すべきだ。
「北極評議会」を構成する米ロと北欧など8カ国は気候変動研究で協力関係を築いてきたが、ロシアのウクライナ侵攻で機能不全に陥っている。温暖化対策を進めるにも評議会の再構築が急務だ。
英科学誌によると、北極海の氷は30年代には消滅する可能性があるという。責任を持つべき大国が温暖化対策に目もくれないなら、日本が先頭に立ち、国際協調の道を探るべきだ。北極圏を覇権争いの場にしてはならない。
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