外国人の収容・送還に関するルールを見直す入管難民法改正案の国会の衆院審議がヤマ場を迎えている。法案の柱は、難民認定を求める人の申請回数を原則2回に制限し、3回目以降は申請中でも強制送還できるようにする新ルールの導入。外国人支援団体などは「本来救済されるべき人が命の危険にさらされる」と危機感を強めている。(池尾伸一)
◆3回目以降で認定される人も
現行法では外国人が難民申請中は強制送還できない。出入国在留管理庁(入管庁)は、迫害された事実がないのに日本に住み続けるために申請を繰り返している疑いもあると主張。上限設定で送還を促進する考えだ。
ただ、入管庁が昨年に難民認定した202人の中にも「3回目以降」の人は3人いた。全国難民弁護団連絡会議によると、入管庁では不認定だったが裁判で判断が覆り、難民認定された例も過去25年間で約50件に上る。
難民認定ではないが、人道上の理由などで特別に日本滞在を認める「在留特別許可」を与えられたケースもある。2006年、ミャンマーから逃れた少数民族ロヒンギャのミョーチョーチョーさん(37)もそうだ。
ロヒンギャはミャンマー軍による武力弾圧などで迫害を受け、70万人以上が隣国バングラデシュに避難する。ミョーチョーチョーさんは難民申請を3回したが、いずれも不認定にされた。4回目を申請中の今春、在留特別許可が与えられた。「改正案のように3回目の申請中に送還されていたら自分はいま生きているか分からない」と話す。
◆厳しすぎる認定基準
トルコの少数民族クルド人を支援する大橋毅弁護士は「申請を繰り返さざるを得ないのは認定基準が厳しすぎるためだ」と語る。
国連統計によると11年以降の10年間で各国は約5万人のトルコからの難民(大半はクルド人)を受け入れた。だが、日本でクルド人が難民認定されたのは昨年の1人だけ。
同時期、ミャンマーからの難民を米国は938人(認定率60%)、英国は512人(同42%)を難民認定した。日本は42人と認定率は1%だ。難民問題に詳しい渡辺彰悟弁護士は「ミャンマーなど日本と親密な国から逃げてきた人は難民認定しないよう政治的な配慮から認定基準がゆがんでいるのではないか」と疑念を口にする。
クルド人のアリ・アイユルディズさん(47)は「トルコに強制送還されればすぐ逮捕されるだろう」とおびえる。日本でクルド人の親睦団体をつくったことがトルコ政府から反政府的行為に相当するとして逮捕状が出ているが、難民と認められず6回目の申請中だ。
◆専門家が国会で警告
国会では野党の立憲民主が改正案の修正を要求、共産はあくまで廃案を求める。一方、与党は骨格を維持して月内の衆院通過に持ち込みたい意向で、与野党間で大詰めの協議が続く。
21日の衆院法務委員会の参考人質疑では、入管庁出身の識者などから賛成する意見も出る中、一橋大大学院の橋本直子准教授は、難民認定基準を見直さないまま申請回数に上限を設けることの危険性を指摘。議員らにこう警告を発した。「このまま法案を通すのは、無辜の人に、間接的に死刑執行ボタンを押すということに等しい」
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