政府は28日、新型コロナウイルス緊急事態宣言とまん延防止等重点措置を30日の期限で全面解除すると決めた。菅義偉首相は国会報告の場や記者会見で、自らが旗を振ったワクチン接種の進展などの成果を誇ったが、冬に向けて「第6波」を警戒する声は強い。(村上一樹)
◆誇示
「(ワクチンは)米国の接種率を抜いた。『明かりが見えてきている』という(自らの)言葉に批判はあったが、効果は明らかであり、明かりは日々、輝きを増している」
首相は28日の記者会見で、ワクチン接種の実績と効果に繰り返し言及。「一定のけじめがつく大きな節目」(自民党幹部)と半年ぶりに衆参両院の議院運営委員会にも出席した。
感染の減少傾向が顕著になり、首相は自信を深めている。周辺に「ワクチンはすごい。減少要因として他に何があるのか」と語り、強力に推進したことが奏功したと胸を張る。自らの政権での全面解除にこだわっていたとみられ、28日の自民党役員会では「私の任期中に解除できるめどが立った」と述べた。
◆要因
だが、感染者の減少はワクチンだけでなく、人出の減少など「さまざまな要因が重なり合っている」というのが専門家の見方だ。
首相のコロナ対応は「楽観的過ぎる」と批判を浴びたが、この日の発言にもにじんだ。会見の冒頭では、累積の感染者数に対する死者数の割合が1~3月は2.4%、4~6月は1.7%、7~9月の第5波は0.3%に減ったと改善の数字を挙げた一方、第5波で医療逼迫が深刻化し、希望しても入院できない患者が自宅で死亡するケースが相次いだことには触れなかった。自宅療養者は一時10万人を超え、今も約3万人に上るが「なお減り続けている」と成果に位置づけた。
◆懸念
宣言の全面解除に伴ってリバウンド(感染再拡大)が起き、第6波が来るとの懸念は根強い。
東京都では、3月の宣言解除時には約1カ月後に、6月の解除時には約3週間後に再拡大によって次の宣言発令を余儀なくされた。都内の「病床使用率」と「重症病床使用率」は現在、下降傾向とはいえ、6月の解除時より数字は悪い。
第6波に備えた病床確保は大きな課題だ。厚生労働省は今年3月、冬の第3波の教訓を踏まえ、病床や療養計画の見直しを都道府県に要請。全国で病床を増やしたが、第5波で想定を超えて感染が拡大し、追い付かなかった。新たにデルタ株より強力な変異株が出現すれば、同様の事態に陥りかねず、またも対応が後手に回る可能性もある。
専門家らによる28日の政府の基本的対処方針分科会では、東京、大阪、沖縄などは事業者への強制力がある重点措置に移行させるべきだとの意見が噴出。飲食店の酒類提供制限やイベントの人数制限などが段階的に緩和されることもあり、尾身茂会長は記者団に「解除でみな元に戻ろうとなると、リバウンドが起こる蓋然性が高い。『少しずつやってください』と国、自治体、専門家が一致して発信することが重要だ」と訴えた。
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