北海道・知床半島沿岸で観光船が遭難し、犠牲者が相次いで確認された。不明者の救出を急ぐとともに、事故の再発防止に向けて、事故原因の究明と安全の再確認に努めてほしい。
世界自然遺産の知床半島は自然の宝庫。立ち入りが厳しく制限されているため、船上から断崖や滝の絶景、野生のヒグマなどを見学できる観光船は人気が高い。
ただ海岸線は暗礁などが多い磯が連なり、潮流も複雑で操船には経験と慎重さが必要とされる。
事故当日は午前中から波浪、強風両注意報が発表され、漁船も昼前には帰港していた。午後に向けて海況が悪化していく予報で、出航は常識的にはありえない。
遭難前、観光船から船首の浸水とエンジンが使えないとの救助要請があった。エンジンが動かなくなって操船不能に陥り、座礁したとすれば、出航前の整備点検が不十分だった可能性がある。
この船は昨年六月にも座礁事故を起こした。業者はその後、運輸局の指導に基づく改善報告書を提出し、船体検査も受けていた。
とはいえ出航判断には無理があり、出航前の点検整備を行っていたかも不明だ。関係機関は遭難の原因と出航に至った経緯を調べ、再発防止につなげてほしい。
この観光船の経営者は近年代わり、従業員も一新されたという。事故を起こした船長が就職したのも約二年前で、知床の海を熟知していたとは考えづらい。
事故当日が今年最初の営業日だった。他の観光船会社が運航を控える中、経験の浅い船長に厳しい状況下での出航を強いたのなら、「安全より収益」との姿勢がなかったとは言えまい。
当日の海水温は五度に満たなかった。救命胴衣を着用していても即座に救出されない限り、命に危険がある水温だ。寒冷地では単独で出航しないなど同業者間の取り決めや相互扶助が必要となる。
遊漁船などでも遠方からの客に求められ、無理な出航をして事故に遭う事案は絶えない。コロナ禍での観光不況を脱したい気持ちは分からないでもないが、無理をして、命を危険にさらすようなことは絶対にあってはならない。
間もなく大型連休を迎え、今年は各地の行楽地ににぎわいが戻りそうだ。船に限らない。交通機関や遊具なども含め、安全確認をいま一度、徹底すべきである。
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