熊谷三郎徒然日記(gooブログ版)

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与楽の飯

2018-11-28 08:01:19 | 読書
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 「源氏物語を楽しむ会」でご一緒しているTさんから勧められた本、澤田瞳子著「与楽の飯」―東大寺造仏所炊屋私記―をやっと読み終えました。澤田ふじ子さんの娘さんの作品ですと紹介されたのですが残念なことに、お二人とも存じ上げませんでした。
いざ読み始めると
普段見慣れない言葉や人名が次から次に登場し、最初読み始めても、なかなか物語に入り込めません。 労役に当たるため、故郷から造仏所に徴発されてきた、主人公の若者の名前は真楯(またて)また造仏所炊屋(かしきや)の炊男(かしきおとこ)は 宮麻呂(みやまろ)、他に登場する人物には、馬馗(うまくび)、鮠人(はやと)、舎薩(しゃさつ)、 乙虫(おとむし)、小刀良(ことら)、小槻(おづき)、猪養(いのかい)、牟須女(むすめ)、若狭売(わかさめ)、朱元珞(しゅのげんらく)、等々。
奈良も古い表記の寧楽が使われています。

寧楽に刺激されて、ここでちょっと脱線します。

東大寺の近くに寧楽美術館があり、その隣には依水園という庭園があります。
小生が最初に訪れたのは、16年前に奈良を一人旅した時でした。学生時代の友人達と吉野山の桜と飛鳥を巡り、その後、みんなと別れて一人旅を楽しみました。
たまたま訪れた日は休館日だったのですが、親切な学芸員さんから遠路はるばる見えたのだから、是非お庭だけでもご覧になって下さいとお声を掛けていただきました。ご厚意に甘えて素晴らしいお庭を拝見し、しばし雑談をさせていただきました。学芸員さんは芦屋に住んでいて、1995年の阪神淡路大震災の時に命からがら奈良に逃げて来たというようなお話をされました。大震災から7年経っていても、その記憶は鮮明に残っているんですね。
寧楽美術館と依水園のリンクを貼っておきます。
https://isuien.or.jp/museum

話を元に戻します。

読んでいて、最初はルビが振ってあって読めても、数ページ進んでから出てくると、何だっけなぁ?となってしまい、前に戻って確認する有様でした。これでは遅々として進みません。そのうちに何度も出てくる登場人物は章が変わると、新しくルビが振ってあることに気づきました。その後はそれ程気にしないで読み進むことが出来ました。
感銘を受けたのは終盤になって、
故郷で3年の年季明けを待っていた、仕丁の小刀良(ことら)の妻子が飢饉で飢え死にしてしまい、自棄になった小刀良が大仏を燃やしてしまおうとしたくだりです。
ここから引用します。
「そんな贋物、灰になっちまえばいいんだ。それに大仏が出来上がったって。喜ぶのは帝とお偉い貴族さまたちばかりじゃないか」
―中略―
「この世におるかおらぬか分からぬ仏が、わしらを救ってくれるわけがあるまい。わしら貧乏人は、あの大仏のために汗水垂らして作事場を這い回り、虫けらの如く死んで行くのよ」
―中略―
「されどあの巨仏は、わしらがくたばった後も、幾百、いや幾千年もの長きにわたって、この地に残り、貴賤のものより礼拝を受けよう。おぬしらは上つ方々のために大仏を造っておるのではない。後の世に生きるもののため、自らの身を削って仏に変えておるのじゃツ」

お勧めの一冊です。