異常(エルヴェ・ル・テリエ 早川書房)
2021年3月、エールフランスの旅客機がニューヨークに到着前に乱気流に巻き込まれるが、無事着陸する。ところがその3ヵ月後に、全く同じ旅客機がニューヨークに着陸し、3月と全く同じ人々が降りてくる。中には3ヵ月の間に病死したり、自殺したりした人もいたが、降り立った人は3月の状態で生きていた・・・という話。
ミステリのランキングで上位になっていることが多くて、ミステリだと思って読み始めた。同一人物が時を隔てて重複するという強烈な謎がどう解かれるのか?とワクワクしながら読み進んだのだが、解決はミステリというよりはSFだった。
本書のテーマは、このような不条理な状況(例えば、ほんの少し前に病死した夫に再会するが、その人は間もなく死ぬに違いないことがわかっている妻とか)に陥った人々の反応を想像することで、謎解きではなかった。
メジャーリーグで活躍する大谷選手を見ていると、そのあまりに非現実的な活躍ぶりに、もしかして私は大谷選手が寝ている間に見ている夢の中の登場人物なのではないか?と思うことがある。
自分は本当に存在しているのか?
現実とサーバ上の仮想現実に区別があるのか?
世界は自分が見ている通りの色、形なのか?
そんなことを考えさせてくれる作品だった。