忠治が愛した4人の女 (34)
第三章 ふたたびの旅 ②
次の日の朝。幼なじみの富五郎と清五郎がやって来た。
長脇差こそ差していないがどこからどう見ても2人とも、遊び人の風体をしている。
派手すぎる着流しを見て、忠治が眉をひそめる。
「なんでぇお前ら。
いまだに足も洗わず、まだ、勘助一家の子分をやっているのかよ。
俺は博徒になるのはやめた。
ゆうべお鶴と約束した。
本間道場へ通い、道場をひらくため、また頑張ることにした」
「ふぅ~ん。やっぱりお前は、道場主を目指すのか。
お鶴さんをさんざん泣かせんだ、それもいいだろうぜ。
だがよ。俺らはもう勘助一家の子分じゃねぇ」
「子分じゃねぇ?。なんだ、それは、いってぇどういう意味だ。
俺がいない間に、勘助親分になにか有ったのか?」
「大ありよ。
それも情けねぇくれえの、呆れた話だ」
富五郎の鼻の穴が大きくふくらむ。鼻息が荒くなる。
この男は怒ると鼻の穴が膨らむ。
それほどまで喜怒哀楽が、はっきりしている。
「おめえが居なくなって、すぐのことだ。
久宮一家の連中が、おおぜいして田部井と国定村へ押しかけて来た。
仇をとるため、おめえを探し回ったんだ。
そいつを見て、勘助が震えあがった。
もとはといえば、実から出た錆びだ。
勝手に賭場をひらいていた勘助のもとへ、久宮一家の客人が難癖をつけに来た。
留守にしていたため助かったが、あとが悪かった。
名主の家まで乗り込んで、脅しにかかった無宿者をおめえが一刀のもとに斬り捨てた。
感謝していいものを、勘助の野郎ときたら、俺たちを見捨てた。
自分の身が危なくなったもんで、一家を見捨ててさっさと三室へ帰っちまった。
いまじゃ代官所の役人におさまっているそうだ。
それどころか、あたらしい嫁さんまでもらったという噂だ」
「ほう、勘助ってのは、ずいぶんと変わり身の早い男だな。
2足のワラジなら聞いたことは有る。
だが、博徒が役人になっちまうとは初めて聞いた。
そういえば勘助のところに、10歳くらいのガキが居たはずだ。
勘助のことを叔父貴と呼んでいた、竹やりを持った、小生意気なガキが?」
「浅のことか。そいつなら勘助と一緒に三室へ帰っていった。
とはいえ、あの野郎のことだ。
ホントウの父親の元へは戻らねぇだろう。
あの野郎ときたら、女のいう事なんかまったくきかねぇ、跳ねっ返りだからな。
どうせまた勘助のあたらしい嫁の下で、苦労をしていることだろう」
忠治が、竹やりを振り回していた浅の姿を思いだす。
小生意気なガキだったが、母親に恵まれていない境遇が不憫だった。
(そうか。浅のガキも勘助といっしょに三室へ帰ったのか・・・
となると、いま田部井村をおさめているのは、いったいどこの誰でェ?)
忠治の疑問に、清五郎が答える。
この男は、昔から機転が利く。
忠治の疑問を瞬時で見抜く、独特の嗅覚をもっている。
「国定も田部井も、いまは完全に久宮一家の縄張りになっちまった」
「どういう意味だ。
前からこのあたりは、久宮一家の縄張りだったはずだろう?」
「そうじゃねぇ。
久宮一家が出張って来るのは、祭りのときだけだ。
それが今じゃ月に三、四回、堂々と賭場を開いていやがる。
久宮一家の若い連中が我がもの顔で、一日中、村の中をウロウロしていやがる」
「なんでまた、そんな風になっちまったんだ」
「おめえのせいだ。忠治。
おめえを助けるため、名主さんや玉村の親分が動いたことは知っているだろう。
久宮一家と話をつけたとき、賭場を見逃すという条件が含まれていたんだ」
「なんてこったい。
俺のせいで久宮一家がのさばる結果になったのか・・・
そりゃすまねぇ。こんなことになっているとは、夢にも思っていなかった」
「いいってことよ。全部がおめえのせいじゃねぇ。
だがよ。これ以上、久宮一家に好き勝手させておくのは俺たちも面白くねぇ。
どうだ、忠治。
おめえが親分になって、一家をたちあげねぇか。
そうすりゃ久宮一家に対抗できる、あたらしい一家が国定村に誕生する」
「俺が親分になって国定村に、あたらしい一家を立ち上げる?
本気なのかよ、おまえら・・・」
(35)へつづく
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第三章 ふたたびの旅 ②
次の日の朝。幼なじみの富五郎と清五郎がやって来た。
長脇差こそ差していないがどこからどう見ても2人とも、遊び人の風体をしている。
派手すぎる着流しを見て、忠治が眉をひそめる。
「なんでぇお前ら。
いまだに足も洗わず、まだ、勘助一家の子分をやっているのかよ。
俺は博徒になるのはやめた。
ゆうべお鶴と約束した。
本間道場へ通い、道場をひらくため、また頑張ることにした」
「ふぅ~ん。やっぱりお前は、道場主を目指すのか。
お鶴さんをさんざん泣かせんだ、それもいいだろうぜ。
だがよ。俺らはもう勘助一家の子分じゃねぇ」
「子分じゃねぇ?。なんだ、それは、いってぇどういう意味だ。
俺がいない間に、勘助親分になにか有ったのか?」
「大ありよ。
それも情けねぇくれえの、呆れた話だ」
富五郎の鼻の穴が大きくふくらむ。鼻息が荒くなる。
この男は怒ると鼻の穴が膨らむ。
それほどまで喜怒哀楽が、はっきりしている。
「おめえが居なくなって、すぐのことだ。
久宮一家の連中が、おおぜいして田部井と国定村へ押しかけて来た。
仇をとるため、おめえを探し回ったんだ。
そいつを見て、勘助が震えあがった。
もとはといえば、実から出た錆びだ。
勝手に賭場をひらいていた勘助のもとへ、久宮一家の客人が難癖をつけに来た。
留守にしていたため助かったが、あとが悪かった。
名主の家まで乗り込んで、脅しにかかった無宿者をおめえが一刀のもとに斬り捨てた。
感謝していいものを、勘助の野郎ときたら、俺たちを見捨てた。
自分の身が危なくなったもんで、一家を見捨ててさっさと三室へ帰っちまった。
いまじゃ代官所の役人におさまっているそうだ。
それどころか、あたらしい嫁さんまでもらったという噂だ」
「ほう、勘助ってのは、ずいぶんと変わり身の早い男だな。
2足のワラジなら聞いたことは有る。
だが、博徒が役人になっちまうとは初めて聞いた。
そういえば勘助のところに、10歳くらいのガキが居たはずだ。
勘助のことを叔父貴と呼んでいた、竹やりを持った、小生意気なガキが?」
「浅のことか。そいつなら勘助と一緒に三室へ帰っていった。
とはいえ、あの野郎のことだ。
ホントウの父親の元へは戻らねぇだろう。
あの野郎ときたら、女のいう事なんかまったくきかねぇ、跳ねっ返りだからな。
どうせまた勘助のあたらしい嫁の下で、苦労をしていることだろう」
忠治が、竹やりを振り回していた浅の姿を思いだす。
小生意気なガキだったが、母親に恵まれていない境遇が不憫だった。
(そうか。浅のガキも勘助といっしょに三室へ帰ったのか・・・
となると、いま田部井村をおさめているのは、いったいどこの誰でェ?)
忠治の疑問に、清五郎が答える。
この男は、昔から機転が利く。
忠治の疑問を瞬時で見抜く、独特の嗅覚をもっている。
「国定も田部井も、いまは完全に久宮一家の縄張りになっちまった」
「どういう意味だ。
前からこのあたりは、久宮一家の縄張りだったはずだろう?」
「そうじゃねぇ。
久宮一家が出張って来るのは、祭りのときだけだ。
それが今じゃ月に三、四回、堂々と賭場を開いていやがる。
久宮一家の若い連中が我がもの顔で、一日中、村の中をウロウロしていやがる」
「なんでまた、そんな風になっちまったんだ」
「おめえのせいだ。忠治。
おめえを助けるため、名主さんや玉村の親分が動いたことは知っているだろう。
久宮一家と話をつけたとき、賭場を見逃すという条件が含まれていたんだ」
「なんてこったい。
俺のせいで久宮一家がのさばる結果になったのか・・・
そりゃすまねぇ。こんなことになっているとは、夢にも思っていなかった」
「いいってことよ。全部がおめえのせいじゃねぇ。
だがよ。これ以上、久宮一家に好き勝手させておくのは俺たちも面白くねぇ。
どうだ、忠治。
おめえが親分になって、一家をたちあげねぇか。
そうすりゃ久宮一家に対抗できる、あたらしい一家が国定村に誕生する」
「俺が親分になって国定村に、あたらしい一家を立ち上げる?
本気なのかよ、おまえら・・・」
(35)へつづく
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