『7月の足かせ』
すこし…寒い…
あたしがこのダムに沈んでからもう4日とちょっとになる。
少し冷えた。視界につま先がむらさきなのがわかった。
そもそもあれは誰がいけなかったのか、今になって少し冷静な頭で考えた。
みんなに好かれたいと思って何が悪かったのか…
誰だって角を立てるよりはうまく済ましたいと思うだろう…
少なくとも私はそうだった。
好きな花は?と聞かれたときに、『おだまき』と答えた。
おだまき、を知る人はそんなに多くないだろう。
そのレアな感じも少し気に入っていたけど、おだまきの表情の多さが好きだった。
種類がとても多くて、一重なんかは純粋そうな感じだけど、八重なんかはしゃべりすぎの女みたいだ。
普段、平凡だと思われることが多いだけに、おだまきにあこがれたのかもしれない…。
ほわほわした鶯色の水蘚が身体を包み始めた…
それはそれで気に入っていた羽毛布団より心地よかった。
今日は晴れなのかな、水面から一本滴り落ちるように光が差し込んでいた。
今度あっちの世界に戻れたら、やってみたいな、光の方に歩いて行くこと。
************************
『ねこ』
我輩はねこだよ。
名前は一生ないよ。
いいよ、名前は。
名前はだれかほかの猫といるときは必要だけど、自分ひとりだったら別にいらないし…。
でも時々名前に憧れるよ。
たぶんだれかとほかの猫とも話したりしてみたいんだと少し思うよ。
我輩は穴という穴は全部のぞいて歩ってるよ。
いつもこの穴こそは特別じゃないかな、って思うんだ。
でも、のぞく穴、のぞく穴、たいしたものはなくて、弁当の食べ残しだったり、宝くじの切れ端だったり。
でも、全部のぞいて歩くんだ。
次の穴には友達の猫がはいってる可能性だってあるし、時間は腐るほど持てあましているから。
もし、友達の猫がはいっていたらね、こう言おうって決めているんだ。
『こんにちは、やっと友達をみつけたよ。いっしょに穴をのぞきに行かないかい?』
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すこし…寒い…
あたしがこのダムに沈んでからもう4日とちょっとになる。
少し冷えた。視界につま先がむらさきなのがわかった。
そもそもあれは誰がいけなかったのか、今になって少し冷静な頭で考えた。
みんなに好かれたいと思って何が悪かったのか…
誰だって角を立てるよりはうまく済ましたいと思うだろう…
少なくとも私はそうだった。
好きな花は?と聞かれたときに、『おだまき』と答えた。
おだまき、を知る人はそんなに多くないだろう。
そのレアな感じも少し気に入っていたけど、おだまきの表情の多さが好きだった。
種類がとても多くて、一重なんかは純粋そうな感じだけど、八重なんかはしゃべりすぎの女みたいだ。
普段、平凡だと思われることが多いだけに、おだまきにあこがれたのかもしれない…。
ほわほわした鶯色の水蘚が身体を包み始めた…
それはそれで気に入っていた羽毛布団より心地よかった。
今日は晴れなのかな、水面から一本滴り落ちるように光が差し込んでいた。
今度あっちの世界に戻れたら、やってみたいな、光の方に歩いて行くこと。
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『ねこ』
我輩はねこだよ。
名前は一生ないよ。
いいよ、名前は。
名前はだれかほかの猫といるときは必要だけど、自分ひとりだったら別にいらないし…。
でも時々名前に憧れるよ。
たぶんだれかとほかの猫とも話したりしてみたいんだと少し思うよ。
我輩は穴という穴は全部のぞいて歩ってるよ。
いつもこの穴こそは特別じゃないかな、って思うんだ。
でも、のぞく穴、のぞく穴、たいしたものはなくて、弁当の食べ残しだったり、宝くじの切れ端だったり。
でも、全部のぞいて歩くんだ。
次の穴には友達の猫がはいってる可能性だってあるし、時間は腐るほど持てあましているから。
もし、友達の猫がはいっていたらね、こう言おうって決めているんだ。
『こんにちは、やっと友達をみつけたよ。いっしょに穴をのぞきに行かないかい?』
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