医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

今話題のMDCTの被ばく量は?

2005年09月03日 | 総合
CTはコンピューター断層撮影の略で、頭や体の輪切りになった写真を病院やテレビでご覧なったことがあると思います。1970年代に登場して以来、全国に普及しました。しかも世界にあるCT装置の半分は日本にあるそうです。しかしいずれもシングルスライスを基本とするものでした。シングルスライスとは検出器と呼ばれるX線を感知する装置が一列であり、一回の管球の回転により身体の断面の1スライスしか撮影できませんでした。

これに対してマルチディテクター(多列検出器)MDCTは検出器が複数列(8~64列が普及)設置されており、一度の管球の回転に対して複数のスライスが撮影できるようになりました。この技術の開発によりCT検査は過去にない革命的な進歩を遂げることができたのです。特に最近は拍動している心臓の血管までも映し出す事ができるようになりました。しかしCTのX線被ばく量は無視できません。今回はこの被ばくについてです。

放射線技師会雑誌No47 10号によると病院で行われる診断のための撮影1件当たりの被ばく量は、胸部レントゲン撮影1枚で0.065 mSv(ミリシーベルト)です。胃腸のバリウム透視は2.0mSv、注腸といっておしりからバリウムを入れて撮影するものは3.2mSvです。妊娠可能な女子の腹部には3カ月で13mSv以下にしなさいと医療法施行規則第30条の27(許容線量)で規定されています。また妊娠中の女子の腹部に対して妊娠と診断された日から出産までの間に対しては10mSv以下と規定されています。これは10mSvの被ばくで遺伝に対する障害が1万分の1の確率で発生するようになるからです。

私たちは通常、自然界から被爆しており、日本における自然放射線被曝は年間2.4mSvで、これを基準にしていただくと分かりやすいと思います。それではMDCTの場合はどうか。資料によってデータは異なっていますので、1つの資料のデータを紹介します。

それによると頭部で2.1mSv、胸部14mSv、腹部16mSv、骨盤部16mSvです。特に胸部、腹部、骨盤部では年間自然放射線被曝の10倍以上であり、遺伝に対する障害が1万分の1の確率で発生するレベルです。医療従事者はこういう事も考慮して、MDCTの有益性と天秤にかけて判断してもらいたいものです。意外に、医者でもX線撮影の具体的な被ばく量は知らないものなのです。

東日本大震災による被ばく問題については、こちらでお知らせしています。是非ご覧下さい

http://blog.goo.ne.jp/secondopinion/e/58d5dacd9a6ca20933cdd36abb5542b1
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朝寝坊は夜更かしよりも日内リズムに有意に大きな位相変位を起こさせる

2005年07月29日 | 総合
週末の休みの後、月曜日の出勤が辛いと感じていらっしゃる方は意外に多いのではないでしょうか。これに関して面白い報告がなされました。論文からではありませんが、今年の米国睡眠関連連合学会で発表された内容です。

被験者は健常成人14人(女性4例、男性10例;平均年齢29±5歳)で、まず始めに被験者の平日の平均起床時刻を基準として研究時の標準起床時間、就寝時間、睡眠時間を決めました。被験者を、標準の睡眠サイクルから3時間起床時間を遅くする群と、3時間就寝時間を遅くする群に分け2週間過ごしてもらい、その後に唾液からメラトニン(睡眠のリズムを司る物質です)量測定を行った後、睡眠サイクルを標準に戻して6日間後に両群の睡眠サイクル変化を逆にして同様に検査を行いました。もちろん部屋の明るさなどの条件は同じにしました。

その結果、起床・就寝時刻の変更により体内時計のリズムは変化しましたが、その変化は就寝時刻よりも起床時刻を変更した場合にずっと大きくなりました。すなわち、就寝時刻を3時間遅らせても体内時計のリズムは30分遅れただけでしたが、起床時間を3時間遅らせると体内時計のリズムは3時間遅れてしまいました。

これが週末の朝寝坊が体内時計のリズムを有意に遅らせ、月曜日に通常の起床時刻に戻るのを困難にする原因だったのです。本研究では、体内時計のリズムの後退は、明るい朝の光の欠如による可能性が最も高いと結論づけています。その他のコメントとして、「睡眠不足はますます増加している。この原因は一つには勤務時間の延長にあり、勤務時間は長くなるが余暇を断念したくないので就寝時刻を遅らせる」と示唆しています。夜型の私の場合などはまさにその典型です。

要は、どんなに夜更かしをしても起床時間を一定に保っていれば、体内時計のリズムの後退はある程度防げるという事と、大切なのはやはり早起きだという事ですね。
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他人を信頼する事に関係する物質

2005年06月03日 | 総合
今日付けのNatureに発表されました。(Nature. 2005;435:673)
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★☆☆☆☆)

オキシトシンという体内に通常存在する物質の鼻腔内噴霧をうけた29人に投資ゲームをしてもらったところ、噴霧をうけていない者に較べて匿名の委託人に預ける金額が多かったそうです。そして委託人を人ではなくコンピューターに変えた場合は預ける金額は噴霧をうけていない者と差はありませんでした。これらの結果から、オキシトシンという物質には人間関係における信頼を高める作用がある事がわかりました。そしてコンピューターが相手の場合には預ける金額が多くならない事は、単に危険に対する認識が甘くなったためではないとも結論しています。

オキシトシンは脳内の視床下部というところから分泌されるもので、母乳の分泌や分娩の際の子宮の収縮に関与していますが、同時に以前から動物におけるつがいや母子関係の形成、異性との結びつきに関与している事が指摘されていました。人間でそれらの社会的な行動に関与している事が認められたのはこの報告が初めてです。また、ウイリアムズ症候群とよばれる遺伝子疾患の子供たちが他人に恐れも抱かずに近づくのはオキシトシンの過剰分泌に関与しているのではないかとも推測しています。報告では、選挙の候補者の演説中に聴衆にオキシトシンを噴霧することなどの悪用例もあげています。

対象人数が29人で「Nature」に掲載されてしまうのは、研究の独創性とアイデアの勝利だという気がします。
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