医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

「囚人のジレンマ」=「教授のジレンマ」

2009年11月16日 | 雑感
米国心臓病学会での発表のためにフロリダ州に来ています。アメリカでも相変わらず製薬会社が出資する自分勝手な研究が進んでいます。そういう会場には新聞記者や株屋さんも来ていて、結果が発表されると、一目散に会場を後にして会社に電話をかけています。さて、この製薬会社の株は買いかな?売りかな?

皆さんは「囚人のジレンマ」という言葉を聞いたことがありますか?経済学を勉強したことのある人には聞き慣れた言葉だと思います。

「囚人のジレンマ」とは、個々にとって最良の選択が、全体にとって最良の選択とはならない状況のことです。

ある事件の容疑者として共謀したAとBが逮捕され、別々の部屋で検事の取り調べを受けています。

「自白しろ。おまえが自白してあいつが自白しなかったら、おまえが捜査に協力したのだから、おまえは釈放、あいつは懲役8年だ。おまえが黙秘してあいつが自白したら、その逆。二人とも黙秘をしたら、別の微罪で二人とも懲役2年。ただし、二人とも自白したら、反省しているものとして懲役8年を減じて懲役4年だ。」

さて、この容疑者AとBはどうすればいいか、というジレンマです。

まずAの立場で考えると、Bが黙秘する場合、自分が自白すれば釈放、自分が黙秘すれば懲役2年ですから、自白を選ぶ方が有利です。Bが自白する場合、自分が自白すれば懲役4年、自分が黙秘すれば懲役8年ですから、自白を選ぶ方が有利です。

Bの立場でも状況は同じですから、Bも自白を選びます。そうすると結局二人とも自白して懲役4年です。

しかし、最初の合理性で推論するのではでなく、さらに踏み込んで合理的に考え、二人とも黙秘を選んでいれば懲役2年で済んだのです。

以前、研究会って、誰のためをお伝えしましたが、このような囚人のジレンマを、学術的根拠もあいまいなのに製薬会社の都合のいい事だけをいいその会社の広告塔になっている教授たちに当てはめてみます。

「うちの製薬会社の薬に関して良い点だけを講演して下さい」と依頼され、

A教授が製薬会社に言われるままに講演し、他の大学のB教授が「悪い点を無視して講演はできない」と講演を断る場合、製薬会社は「今後全ての講演をお任せします。これまでB教授に依頼していた講演も全てA教授にシフトさせます」とA教授の講演料や(みせかけの)名声はアップします。

その逆の場合は、A教授の講演はB教授にシフトしてしまいます。二人とも講演を引き受ければ、これまでどおり二人に均等に講演が依頼されます。二人とも「悪い点を無視して講演はできない」と断る場合、その製薬会社からの講演の依頼は二人とも減ります。

囚人のジレンマのごとく、この状況ではどちらの教授も講演を引き受けるでしょう。でもその内容のねつ造性は私のような者に見破られ、結局真の名声は得られないままです。また、間違った情報が流されることで、社会的にも損失があります。

ここで、全ての教授が講演を断ったらどうか。製薬会社は「都合のいい事だけを講演する」内容では講演を引き受ける相手がいないため、「悪い点を無視して講演はしない」という依頼に変更せざるを得ないでしょう。つまり相手の教授(製薬会社に対しても)に対する「しっぺ返し戦略」です。「しっぺ返し戦略」とは、最初は「協調」し、以降は、前回相手の出した手をそのまま出す戦略です。

講演の機会は何度もあるので、これは「繰り返し型の囚人のジレンマ」なのです。

日本全国の教授や講師に言いたいです、一度一斉に製薬会社からの講演を断ってはどうかと。個々にとって最良の選択が、全体にとって最良の選択とはならないのですよ。

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