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医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

悪玉コレステロール低下剤、ゼチーアの効果について

2009年09月10日 | 生活習慣病
ゼチーアが追加投与された群では、悪玉コレステロールはさらに20%下がったのですが(左図)、頸部の動脈の厚みは両群で2年間変化がありませんでした(右図)


悪玉コレステロールを低下させる薬剤には、悪玉コレステロールの合成を阻害するメバロチン、リポバス、リピトール、ローコール、クレストール、リバロなどのスタチンと呼ばれる薬剤と、悪玉コレステロールの吸収を阻害するゼチーアがあります。

ゼチーアに関しては以下のような有名な研究結果が、インパクトファクター50もある超優秀な医学雑誌で報告されています。

Simvastatin with or without Ezetimibe in Familial Hypercholesterolemia

N Engl J Med 2008;358:1431
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

この研究では、家族性高コレステロール血症という遺伝的に悪玉コレステロールが高い患者720人が対象とされました。家族性高コレステロール血症の患者を選んだのは、薬の効果が出やすいため薬の違いによる効果の差を明らかにしやすいからです。

720人はリポバスというスタチンを80mg内服する群と、リポバス80mgとゼチーア10mgの両方を内服する群に、無作為に割り付けられ、頸部の動脈の厚みに関して、超音波検査で2年間調査されました。

頸部の動脈の厚みが調べられたのは、これまでの多くの研究で、頸部の動脈の厚みが厚いほど、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡が多くなり、動脈硬化の程度の判定にとても有用だということが分かっているからです。

この研究は、ゼチーアを販売する「米国メルク社とシェリング・プラウ社がスポンサーになっている」と研究施行前に明らかにしている点でも、画期的だとして注目されました。米国メルク社とシェリング・プラウ社は、よほど研究結果に自信があったのでしょう。

しかし、結果はその予想に反して、頸部の動脈の厚みは2年間で両群に差が認められませんでした。つまり、ゼチーアをスタチンに追加投与しても、効果は追加しない場合と同じことが明らかになったのです。

この結果は間接的に、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡のリスクを軽減しないということを意味しています。

さらに衝撃的だったのは、薬の差が出やすい家族性高コレステロール血症の患者で差がなかったということは、通常の高コレステロール血症の患者ではさらに効果が出にくいということを意味したことです。

「米国メルク社とシェーリング社はこの結果を公表することを意図的に遅らせた」という疑惑まで浮上しました。

この結果からは、スタチンをすでに内服している患者は、ゼチーアを追加して内服しても恩恵は得られないといえます。

ここで1つの疑問が生まれます。それでは、何も内服していない高コレステロール血症患者と、ゼチーアだけを内服する患者を比べたら、ゼチーアを内服する意義を証明できるのではないか?

ところが、こういった研究を行うのは難しいのです。なぜなら、これまでスタチンの効果が十分に確立されているので、悪玉コレステロールが例えば160mg/dl以上の患者に何も内服させないという群を研究で設定することが倫理的に難しいからです。


それに加えて、倫理的な条件を満たしていないと、以前お伝えしたように、優れた医学雑誌には受け入れてもらえないため、論文の著者たちが躊躇してしまうのです。でも、全く不可能というわけではありません。


しかし、最近、我が国において「ユートピア75」という研究がスタートしました。

↓研究の概略はこちらです。
「ユートピア75」

↓パワーポイントをお持ちの方はこちらがわかりやすいです
「ユートピア75」

これは、75歳以上で悪玉コレステロールが140mg/dl以上の患者を、食事指導だけでゼチーアを内服しない群と、ゼチーアを内服する群に分けて、心筋梗塞の発症やそれによる死亡、脳梗塞の発症やそれによる死亡を3年間観察し、両群の差を調べるものです。

75歳以上を研究対象としている理由は、高齢者の方が心筋梗塞や脳梗塞の発症は多く、効果の差が出やすいからです。

この研究の成果が明らかになるまでは、ゼチーアの効果は憶測以外の何ものでもないことになります。

しかし、(1)スタチンを使用しないため倫理的な問題のクリアーが困難でも、(2)研究成果を掲載する医学論文の知名度が低くても、ゼチーアの効果を証明したいという主催者たちの意気込みが感じられる研究だと思います。


ただし、少し懸念されるのは、この研究でゼチーアの効果が証明されても、それは75歳以上の方に限った効果であり、それ以下の年齢層の場合はどうなのかが証明できないことです。


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5 コメント

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75歳以上 (kresnik)
2009-09-12 20:53:38
 75歳以上だと、降圧によって脳卒中を減らせるかどうかのエビデンスですら乏しいでしょう。有意差が出にくい年齢層だと思います。何か意図があるのでしょうか。この世代を対象とした研究でどっちの結果が出ても、あまりインパクトを受けませんね。ただ、有意差なしに一票。

 ゼチーアのスタディは、面倒くさいことに頸動脈エコーしてますが、直接的に脳卒中や心筋梗塞の発症率はどうだったのでしょう。

 脂質異常症については、スタディーが多すぎて良くわかりません。2005年に、MRさんに「スタチンのスタディーをまとめた冊子とかあったら頂戴?」って言ったらくれたのだけど、その時点で100以上ありました。都合の良いところを取って宣伝することが可能な反面、都合の悪いところを抜き出して逆の結論を言うこともたやすい。今は、もっとスタディがあるはず。それを評価するのは難しいですね。

 ただ、実際の診療は、臨床医のバランス感覚なんじゃないかと思っています。EBMって結構あやふやですよ。
返信する
スタチンには抗炎症・抗線維化効果がありますから (いち臨床医・研究家)
2010-02-26 17:21:07
スタチンはそのコレステロール降下作用よりも、それ自身が持つ、抗炎症・抗線維化作用などの方が、今は注目されています。
スタチン自体は安い薬であり、様々な動脈硬化の実験で用いられています。
EBMも大事ですが、動脈硬化は高コレステロールだけでなく、動脈への炎症がより大きな問題であることから、ゼチーアの抗動脈硬化作用は当然厳しいものと考えます。
返信する
糖尿病を完治させる (やまんば@糖尿病)
2011-05-10 08:57:59
「動脈硬化は高コレステロールだけでなく、動脈への炎症がより大きな問題である。」ということは、医療外野席の者は知らないでしょう。高コレステロールだっけが動脈硬化お起こすと思っている人が大部分でしょうね。
わたくしも始めてききました。動脈の炎症はどのようにおきるのか知りたいものです。 
返信する
狭心症 (疾患者)
2012-12-20 13:39:06
11年前に狭心症を発症して、これまで3度のステント留置
で計6本入りです。リピトールを飲んでおりますが、
HDL78、LDL120代で主治医から(100以下)ゼチーアを追加推奨されてますが
飲んでいません。ここを読む限りでは飲まなくて良いですね?
返信する
ゼチーアを呑む必要はありません (secondopinion)
2012-12-21 16:28:39
リピトールを飲んでいればゼチーアを呑む必要はありません。リピトールの内服は必要です。
返信する

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