下町大空襲直後、父に連れられ東京へ、
思わず息をのんだ、町がない。建物の姿がすっかり消えている。地の果てを思わせる砂漠のような荒涼とした平地が、視界の届く限り広がっていた。
地上の底、ここに、かろうじて原型をとどめているのは、焼け焦げた傾いたビルと何本かの煙突のみ、
いくつかのビルからは、まだ、黒煙が立ち上っている。
地上にある焼け得るものすべてが焼き尽くされたのだ。
正面の平地の中に、大きな川が横走しているのが見え、川面が銀色に輝いていた。
父は、「隅田川だよ。まさか、ここから見えるとは、東京のこのあたりを流れているんだな、川の中は、死体で一杯だろう。
関東大震災よりはるかにひどい。たった2日の留守の間に、なんというありさまだ、
お前達のところへ行かなければ、死んでいたかも判らん、
この分だと橋も爆弾でやられているだろう、、、」父は曇った表情で、つぶやいた。
阿鼻叫喚の地獄図の一部始終が、まざまざと目の前に浮かんできた。
年寄りも子供も男も女も焼かれていく、その無残な断末魔の様子は父・兄と重なる。
もだえ苦しむ少年の姿は、まぎれもない兄弟自身のものだ。
日本人を一人残らず抹殺せずにはおかないという、敵の邪悪な、しかも頑として固い意志がひしひしと伝わて来る。
「こんなひどい所業が許されると思うか・負けないぞ・鬼どもめ・日本はこんなことぐらいでへこたれるほど、弱くはないんだ、負けないぞ
絶対に勝つ、必ず勝つ、憎しみと怒りの感情がじわじわ湧き上がっていた。
父が、これから落ち着くはずの家、果たして無事に存在しているか心配そうであった。
父は「急ごう」大股で歩き出した。その一角は、爆撃から逃れ無事であった。
その家が、終戦後われわれ全員が帰る、桜木町谷中の借家である。
思わず息をのんだ、町がない。建物の姿がすっかり消えている。地の果てを思わせる砂漠のような荒涼とした平地が、視界の届く限り広がっていた。
地上の底、ここに、かろうじて原型をとどめているのは、焼け焦げた傾いたビルと何本かの煙突のみ、
いくつかのビルからは、まだ、黒煙が立ち上っている。
地上にある焼け得るものすべてが焼き尽くされたのだ。
正面の平地の中に、大きな川が横走しているのが見え、川面が銀色に輝いていた。
父は、「隅田川だよ。まさか、ここから見えるとは、東京のこのあたりを流れているんだな、川の中は、死体で一杯だろう。
関東大震災よりはるかにひどい。たった2日の留守の間に、なんというありさまだ、
お前達のところへ行かなければ、死んでいたかも判らん、
この分だと橋も爆弾でやられているだろう、、、」父は曇った表情で、つぶやいた。
阿鼻叫喚の地獄図の一部始終が、まざまざと目の前に浮かんできた。
年寄りも子供も男も女も焼かれていく、その無残な断末魔の様子は父・兄と重なる。
もだえ苦しむ少年の姿は、まぎれもない兄弟自身のものだ。
日本人を一人残らず抹殺せずにはおかないという、敵の邪悪な、しかも頑として固い意志がひしひしと伝わて来る。
「こんなひどい所業が許されると思うか・負けないぞ・鬼どもめ・日本はこんなことぐらいでへこたれるほど、弱くはないんだ、負けないぞ
絶対に勝つ、必ず勝つ、憎しみと怒りの感情がじわじわ湧き上がっていた。
父が、これから落ち着くはずの家、果たして無事に存在しているか心配そうであった。
父は「急ごう」大股で歩き出した。その一角は、爆撃から逃れ無事であった。
その家が、終戦後われわれ全員が帰る、桜木町谷中の借家である。