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巧みな円環『光媒の花』by道尾秀介

2016年08月26日 | 小説レビュー
~一匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界―。
認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。
心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束…。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。
すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。第23回山本周五郎賞受賞作。「BOOK」データベースより


大好きな道尾秀介さんの作品です。6編からなる短編集なのですが、あとがきで玄侑宗久氏が「円環」と解説してくれているように、それぞれの物語が一つの環で繋がっています。

前半の3つの作品は、いかにも道尾秀介さんらしい物語で、ひりつく様な緊張感があり、「やはり、こういうシチュエーションでくるよね(^_^;)」と、道尾ワールドに引き込まれます。

打って変わって、後半の3編は、とても優しく、清々しく、まさに「木もれ陽が差し込むような」暖かく穏やかな空気感が漂っています。

どの作品も登場人物の深層心理を見事に描写してあり、道尾さんならではの筆力に感嘆させられます。

しかし、最後の「遠い光」は、若干間延びしたような物語となっていますので、僕個人的には第5章の「風媒花」までで終わっても良かったかも知れんなぁと思います。

いずれにしても、短編集の形態をとっていますので、スラスラと読みやすく、どなたにも受け入れられる良作だと思います。

★★★☆3.5です。