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壮絶な将棋人生と様々な愛『聖の青春』by大崎善生

2016年08月31日 | 小説レビュー
~純粋さの塊のような生き方と、ありあまる将棋への情熱―重い腎臓病を抱えながら将棋界に入門、名人を目指し最高峰のリーグ「A級」での奮闘のさなか、29年の生涯を終えた天才棋士村山聖。名人への夢に手をかけ、果たせず倒れた“怪童”の歩んだ道を、師匠森信雄七段との師弟愛、羽生善治名人らライバルたちとの友情、そして一番近くから彼を支えた家族を通して描く、哀哭のノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞。「BOOK」データベースより


壮絶な将棋人生を生き抜いた「伝説の天才棋士・村山聖九段」の29年間の人生をノンフィクションで綴った作品です。松山ケンイチが主演で、まもなく映画「聖の青春」が封切られます。どんな感じになるのか観てみたい気もします。

漫画の「ハチワンダイバー」を読んで、将棋の世界での「奨励会員」と「プロ棋士」の違いの大きさを知りました。「棋士の人って凄いんやなぁ~、ましてや名人ともなれば、まさに『神』なんやなぁ」って、漠然と思っていました。

そして、この本を読んで、さらに将棋の世界の厳しさを知りました。

よく町には、大人顔負けの天才少年というのがいますよね?そういう少年が、奨励会員(日本将棋連盟のプロ養成機関)となり、年齢制限(26歳の誕生日までにプロになる)がある中で、毎年厳しい対局を繰り返して、勝ち残った4名(半年に2名ずつ)しかプロ棋士になれません。

その厳しい戦いを勝ち抜いて、やっとプロになった棋士約160名(四段以上の棋士、相撲でいうなら十両以上というところか?)が、さらなる猛者たちと対局を繰り返し、一つ一つ勝ち星を重ね、気の遠くなるような階段を一段一段昇って、やっとたどりつくことができるのが、名人を含む11名しか在籍できない「A級リーグ(相撲でいうと三役クラス?もちろん戦績で入れ替えあり)」なんです。 もうここまできたら、「雲上人」ですよね。

小さい頃に腎臓の病気ネフローゼを患い、入院中に父が買ってきてくれた将棋盤で初めて打った将棋に魅せられて、「いつか名人になる!」と誓った、村山聖少年が、将棋一筋の道をまさに死ぬ気で昇っていき、「A級リーグ」に辿りつき、「名人戦まであと一歩」のところで、病には打ち勝てず、夭折してしまった「怪童・村山聖九段」のノンフィクションストーリーです。

1995年に史上初のタイトル棋戦全七冠(竜王・名人・棋聖・王位・王座・棋王・王将)独占を達成した、現役最強棋士との呼び声高い羽生善治(現在も王位・王座・棋聖の三冠)という名前は、将棋を知らない人でも知っていると思いますが、その羽生善治と同年代で、「東の羽生、西の村山」と言われ、生涯対戦成績は、村山聖の6勝8敗(うち1敗は村山の不戦敗)ですので、実際に五分の力を持っていたんですね。

もし、村山聖九段が、あと5年生き続けていれば、羽生と並ぶ将棋界の双璧として、「柏鵬時代(柏戸と大鵬)」のような「善聖時代」が訪れていたことでしょう!

村山聖棋士を支える家族、師匠の森信雄氏、同年代、先輩、後輩たちなどの温かい愛情につつまれながら、生き抜かれた人生やったと思います。

生きるということ、死ぬということに真正面から向き合って、最期の最期まで戦い抜いた村山聖という棋士の生き様、死に様に感涙せずにはいられない本でした。

しかしながら、このノンフィクションを書いた作家が『パイロットフィッシュ』や『アジアンタムブルー』を書いた人とは中々思えませんね(^_^;)

★★★☆3.5です。